天然有機化合物討論会講演要旨集
Online ISSN : 2433-1856
第60回天然有機化合物討論会実行委員会
選択された号の論文の125件中51~100を表示しています
  • 穴吹 友亮, 伊藤 祐輔, 塚原 美宙, 高須賀 太一, 岡本 昌憲, 松浦 英幸, 高橋 公咲
    p. 295-300-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    1. 序論 生理活性化合物の作用機序を解明する上で、その標的タンパク質の同定は不可欠である。標的タンパク質の同定に広く用いられている手法として光親和性標識法1)が挙げられる(Figure 1)。この手法は、生理活性化合物に光親和性標識基および検出用官能基を導入した光親和性標識プローブという分子を用いる。光親和性標識基は特定の波長の光を照射すると隣接するタンパク質と共有結合を形成し、可逆的な標的タンパク質との相互作用を固定化する。光照射によって得られた複合物を検出用官能基の性質を利用して検出することで標的タンパク質を同定できる。光親和性標識法は有用であるが、以下の二つの問題が指摘されている。 ➀光親和性標識基および検出用官能基の生理活性化合物への導入により、生理活性化合物が本来有していた標的タンパク質との相互作用が損なわれる場合がある。 ➁光親和性標識基の反応性は数%以下であり、反応性が低い。 ➀の問題を解決するため、これまでの研究で、アジド基のみを導入した生理活性化合物(アジドプローブ)を標的タンパク質と相互作用させた後に、クリック反応2)により光親和性標識基および検出用官能基を導入するという標的タンパク質同定法の開発を行った3)。そこで、本発表では、➁の問題を解決する新規な標的タンパク質同定法および精製法について報告する。 Figure 1. 光親和性標識法 2. 新規な標的タンパク質同定法の設計 タンパク質架橋剤BS3(1)は両端に活性エステル構造を有しており、アミノ基同士の架橋反応に用いられる。発表者らはBS3の高い反応性に着目し、BS3によりクロスリンクを行う新規な標的タンパク質同定法を考案した(Figure 2)。新規手法の概要は以下の通りである。 (1)アジドプローブと粗タンパク質抽出液をインキュベートし、相互作用させる。 (2)アルキン、アミノ基およびビオチン(検出用官能基)を有するリンカー(2)を添加し、クリック反応であるヒュスゲン環化付加反応によりアジドプローブに結合させる。 (3)BS3によりアミノ基を介して標的タンパク質とリンカーを結合させる。 (4)本サンプルをSDS-PAGEに供した後、ウェスタンブロッティングにより検出する。
  • 佐藤 一, 福士 江里
    p. 301-306-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【緒言】 有機化合物の構造解析において核磁気共鳴(NMR)分光法は欠くことのできない分析手段である。NMR解析はまずシグナルを誤りなく帰属することから始まる。天然有機化合物のNMR解析では二次元(2D)の1H-1H COSYやTOCSYおよび2D 1H-13C HSQCやHMBCスペクトルを用いてシグナルの帰属と構造の推定を行う。 以上のような解析を進めるうえで、HMBCスペクトルは最も重要な役割を果たすが、場合によっては、2, 3または4結合離れた1Hと13Cの相関ピークが観測され、シグナルの帰属をあいまいにし、誤った構造を導く危険性を有している。この点を補うために、2結合離れた1H-13Cの相関ピークが得られるH2BC法1)または13C-13C相関法であるADEQUATE法2)が併用される。しかし、1Hの少ない化合物の場合や四級炭素が隣どうしにある場合、解析が困難となることがある。この場合、INADEQUATE法3)が用いられる。 INADEQUATE法は、天然存在比約1.1 %である13Cが二つ隣り合う13C-13Cのカップリング(1JC,C)を検出する測定法であり、13Cが隣り合う確率が非常に低い(約0.012 %)ことからNMR実験の中で最も低感度な実験と言われている。しかし、四級炭素どうしの場合でも相関ピークが得られるので、分子を構成する炭素骨格を誤りなく解析できる強力な測定法である。 INADEQUATEスペクトルの測定では、1JC,Cを用いて、ある13Cから隣の13Cへ磁化を移動させる。1JC,C値は脂肪族性、芳香族または官能基によるばらつきが2倍程度と大きいために、相関ピークの強度が小さかったり、検出されなかったりする。このような場合には、別の1JC,C値を用いてINADEQUATEスペクトルを再測定する必要が出てくる。この1JC,C値の設定には経験を必要とし、特に構造がまだ決まっていない段階では設定が難しい。
  • 日比 啓秀, 林 咲那, 柳瀬 笑子
    p. 307-312-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
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    【背景】  赤米とは古代米の1種であり、玄米の色が赤褐色で、果皮あるいは種皮にプロシアニジン類というタンニン系の赤色色素を含む有色米である。プロシアニジン類はポリフェノールの1種であり、カテキンやエピカテキン、ガロカテキン、エピカテキンのようなフラバン‐3‐オールを構成単位に持つ化合物である。また、赤米の色は収穫後の貯蔵期間の間により濃い赤褐色に変化することが知られており[1]、この濃色化現象は色素成分の化学的な変化によるものだと考えられている。しかしながら、この現象の化学的なメカニズムについては明らかとなっていない[2]。 先行研究において、貯蔵期間の短い赤米の光酸化実験を行ったところ、濃色化が確認され、さらにHPLC分析によりプロシアニジン類の減少が確認された。このことから赤米の濃色化現象はプロシアニジン類の空気酸化による化学的な変化に起因すると推測している[3]。そこで本研究では赤米中のプロシアニジン類のモデル化合物として(+)‐カテキンの2量体(1)と3量体(2)を合成しそれらを用いた酸化反応を行うことにより、赤米の濃色化現象を化学的なアプローチにより解明することを目的とした。 1.(+)‐カテキンの2量体 (1) と3量体 (2) の合成 赤米中のプロシアニジン類は(+)‐カテキンの9~10量体であるといわれている。そのモデル化合物としてカテキン2量体及び3量体を用いることにした。プロシアニジン類の合成法についてはJanらによりタキシフォリンの4位カルボニル基の還元反応とそれに続くカテキンA環部との縮合反応により合成できることが報告されている[4]。本研究ではこの方法を基に特に2量体を主成分として得るために反応条件を検討し、タキシフォリンに対しカテキン5当量用いることにより2量体を収率66%で得ることに成功した。さらに3量体についてはタキシフォリンと合成した2量体を用いて行うことにより61%の収率で得ることに成功した。 Fig.1 カテキン2量体及び3量体の合成
  • 杉山 龍介, 桑原 亜由子, 平井 優美
    p. 313-318-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【背景】 グルコシノレート(GLS)はアミノ酸由来の多様な側鎖を持つ含硫二次代謝産物であり,主にアブラナ科植物が生産する.モデル植物として広く用いられているシロイヌナズナにも,20~30種ほどの側鎖構造をもつGLSが含まれている.GLSの生理的役割は長年,外敵に対する化学的防御であると考えられてきた.すなわち,昆虫の食害などにより植物組織が破壊されると,別々の細胞に蓄えられたGLSと糖加水分解酵素(ミロシナーゼ)が混ざり合ってイソチオシアネート(ITC)などを生成し,忌避効果を発揮する(図1)1.一方で,組織破壊を伴わない環境変化もGLSの内生量を増減させることが知られており2,熱や乾燥などの環境ストレスに対して誘導される表現型がITCの添加によって軽減されるという報告もある3,4.これらの事実は,GLS及びその分解産物が生産植物自身の生命活動を制御するシグナルとしても機能する可能性を示唆している.実際に,古典的なミロシナーゼとは異なるクラスのβ-グルコシダーゼについても,in vitroのGLS分解活性が報告されつつあり5,6,従来の2コンパートメントモデルだけでは説明できない多様なGLS代謝システムの存在が指摘されている. 演者らはシグナル分子としてのGLSの生理機能に興味を持ち,アブラナ科のシロイヌナズナをモデルに,GLSを添加した植物の応答を解析してきた.その過程で,組織傷害が無くとも進行する新しいGLS分解経路を発見し,この経路が硫黄欠乏をはじめとする環境ストレスと密接に関連することを見出したため,本発表にて報告する.
  • 水野 瞳, 吉川 響, 臼杵 豊展
    p. 319-324-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    1.序論 Cynaropicrin (Figure 1)はアーティチョークより、cnicin (Figure 1)はサントリソウよりそれぞれ単離・構造決定されたセスキテルペンラクトン天然有機化合物である1,2)。CynaropicrinはNF-κBの転写活性抑制作用3)を有することから美白効果が期待でき、化粧品原料として利用されている。また、アフリカ睡眠病(HAT)の起因である寄生原虫Trypanosoma bruceiに対する増殖阻害活性をもつため、HATの治療候補薬としても期待されている4)。Cnicinも同様にT. bruceiに対する活性が確認されている5)。 一方、nobiletinおよびtangeretin (Figure 2)は、陳皮から単離されたポリメトキシフラボノイドの一種である6,7)。Nobiletinおよびtangeretinは、発がん抑制作用8)や抗炎症作用9)など多彩な薬理作用がある。そのため、生活習慣病の治療および予防薬として期待されている魅力的な天然有機化合物である。 イオン液体は、陽イオンと陰イオンからなる100 °C以下に融点をもつ塩である。不揮発性や高い熱安定性、電気安定性、再利用可能など、水や有機溶媒とは大きく異なる特徴的な性質を保有する。これらの性質は陽イオンと陰イオンの組み合わせによりデザイン可能であるため、反応溶媒や電池材料など様々な分野への応用展開が図られている。さらに、地球上に豊富に存在するセルロースからバイオエタノールを獲得する研究や、分離・抽出溶媒として用いることで天然物より有効成分を獲得する研究も注目されている。セルロースは分子間、分子内に多重の水素結合を形成し、水や有機溶媒には溶解しない非常に強固な構造をとる。しかしながら、1-ethyl-3-methylimidazolium methylphosphonate ([C2mim] [(MeO)(H)PO2]、ここでは“C2mim”と略す、Figure 3)10) は、温和な条件下で植物葉の細胞壁の構成成分であるセルロースを溶解可能である。 当研究室では、セルロース溶解性イオン液体を用い、種々の植物葉よりタミフル原料物質shikimic acid11)やポリフェノールcaffeoylquinic acids12)、レモン香気精油citral13,14)などの天然有機化合物の抽出・単離法の開発に成功している。本研究では、アーティチョーク有効成分cynaropicrinおよびサントリソウ有効成分cnicin、ポンカンおよびシークヮーサー有効成分nobiletinとtangeretinを抽出・単離の対象物質として、C2mimと遠心分離を用いた新規抽出・単離法の開発に着手した。
  • 大崎 愛弓, 川邉 浩史, 桑田 佳奈, 舟崎 真理子, 廣田 洋, 塚田 悠, 小宮山 哲平, 影近 弘之, 岡本 育子, 通 元夫, 齋 ...
    p. 325-330-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【目的】 中国雲南省北西部から四川省南西部にまたがる横断山脈地域は植物種の豊富な地域であり,高山と深い谷に隔てられた複雑な地域的特性から植物種の分化・多様化が進んでいると言われている。そのため,我々の研究グループでは,同地域に生息するキク科Ligularia 属植物の多様性に注目し,その化学的遺伝的調査を継続的に行ってきた1。さらに調査対象を広げることとし,横断山脈地域に幅広く分布するシソ科Salvia属(アキギリ属)植物に注目し,化学成分の調査を行った2-4。本属植物は,現在まで数多くの成分研究が行われてきたが5,種の区分に曖昧な部分や混乱していると考えられる点も見受けられる。また,未だ研究の行われていない種も多く存在する。そのため分類学的な研究が求められている。 一方,Salvia属植物には多様な活性成分があることが知られ,現在でも成分に関する研究が活発に行われている。例えば Salvia officinalisは香草‘セージ’として有名であり,中国原産のSalvia miltiorrhizaの根は民間薬‘丹参’として狭心症,心筋梗塞などに用いられている。本研究では中国横断地域の異なる場所で採取した6種のSalvia属植物種について,主としてテルペン成分を中心として成分の単離と構造解析を行い,含まれている成分やそれらの骨格の多様性についての検討を試みた。 【成分の単離と構造】 Salvia 試料の採取およびテルペノイド成分の単離方法 7月から8月の花の咲いている時期に雲南省,四川省各地の高度2000-4700 mの山岳地域において試料の採取を行った。 Salvia の根を粉砕後,メタノールもしくは酢酸エチルで抽出し,抽出物をカラムクロマトグラフィー(ODS, Si-gel)を用いて分離し,さらに HPLC を用いてジテルペンおよびトリテルペン化合物を単離精製した。本討論会では,テルペノイド成分に着目して報告を行う。 構造解析 単離した化合物については,各々1D NMR (1H NMR,13C NMR,DEPT),各種 2D NMR (1H-1H COSY,HSQC,HMBC,NOESY) およびHRMS のデータを用いて各々の化合物の相対立体構造を確定した。化合物21については単結晶X線構造解析を用いて構造の解析をおこなった。得られた化合物の新規化合物の絶対立体配置については,DFT法を用いて実測のECDのデータとの比較により絶対構造の推定を行った。
  • 野川 俊彦, 二村 友史, 岡野 亜紀子, 須藤 麻里, 中村 純也, 石原 克之, 長田 裕之
    p. 331-336-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    じゃがいも(Solanum tuberosum L.)は食用として世界中で栽培されている植物である。可食部である塊茎にはデンプンに加えビタミン類などの栄養素や、ナトリウム、カルシウムなどのミネラル、クロロゲン酸をはじめとするポリフェノール類などの機能性成分が含まれている1。その他、塊茎の皮や芽などの食用以外の部位には、solanineやchaconineといったポテトグリコアルカロイド類(potato glycoalkaloids: PGAs)などの二次代謝産物が含まれている2。成分研究としては、食用である塊茎について栄養面や安全性の面から行なわれているものが大半である。最近では塊茎皮のメタボローム解析より品種間差の成分研究が報告されている3。しかし、大量のサンプルを用いてじゃがいも特異的に含有されるような二次代謝産物の研究が本格的に行われた例はない。また、塊茎以外の葉や茎といった部位は有効に利用されておらず、それら未利用部位の成分等が詳細に検討されたことはない。一方、我々の研究室では微生物の生産する二次代謝産物に着目し有用代謝産物の探索を行ってきた。その方法として抽出物をHPLCなどにより粗分画したフラクションライブラリーを用いている。このライブラリーを活性評価や化合物探索に用いることにより多様な構造の二次代謝産物を単離・報告している4。今回、この方法をじゃがいもの機能性成分探索に応用することとした。 【実験】 試料と抽出物調製 じゃがいも試料は北海道で採集した8種(きたひめ、ピルカ、サクラフブキ、アトランチック、トヨシロ、スノーデン、きたむらさき、ノーザンルビー)と茨城で採集した1種(トヨシロ)の計9種を用いた。それぞれ、花、葉、茎、根、塊茎皮、塊茎に分けてサンプルとした(表1)。各サンプルは5倍量のMeOHで一週間抽出を行った。得られた抽出液を減圧下で濃縮した。同様の操作を3回繰り返しエキスの調製を行った。
  • 山田 剛司, 木村 寛之, 有光 健治, 梶本 哲也, 菊地 崇, 田中 麗子
    p. 337-342-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    海洋動物から分離された数種の生理活性物質が細菌起源であるとの報告を契機として、海洋生物由来菌類を抗腫瘍活性物質の探索対象とし、その代謝物の検討を行っている1,2)。本研究の一環として、海水魚ボラ (Mugil cephalus) より分離した真菌Aspergillus Fumigatusから4種の新規物質cephalimysins A–Dを単離し、報告している3,4)。今回、本菌の代謝産物について精査を行い、新たにspiro-heterocyclic-lactam骨格を有する8種の新規化合物cephalimysins E–L (1–8)を得た5)。各種スペクトルの解析によりこれらの化学構造を決定したところ、同一平面構造を有するジアステレオマーであることが判明した (Figure 1)。また、これらにメタノール中、触媒量の濃硫酸を作用させると8位が立体反転し、それぞれの鏡像異性体(1’–8’)を得ることに成功した。しかしながら、6個の不斉中心を分子中に有するにもかかわらず、この後の分離においても1–8以外のジアステレオマーを単離することはできなかった。そこで発表者らは、本菌の主代謝物であるpseurotin A (9)のようなアルケン側鎖を有する物質を前駆体として分子内閉環によってシクロペンタン環が形成されると仮説を立て、さらにZ配座アルケン側鎖を有する9に対し、cephalimysin A (10) 3)のようなE配座アルケン側鎖を有する物質が微量しか得られないことから9の12E異性体9’がこの閉環反応の前駆物質であると考えた。本発表では、これら代謝物の各種スペクトルによる絶対構造の決定及び分子軌道計算による絶対配置及び生合成経路の妥当性について報告する。また、これら16種の細胞増殖阻害活性の検討を行った。 Figure 1
  • 西村 慎一, 杉山 龍介, 仲谷 崇宏, 尾崎 太郎, 浅水 俊平, 尾仲 宏康, 掛谷 秀昭
    p. 343-347-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    これまでに多くの天然物が報告されており、その数は50万ともいわれる1。それらのうち、ごく一部の化合物については、特異的な生物活性を示すことから医薬や研究ツールとして実用化されてきた。その他の多くは、分子の機能が明らかでないことに起因して、有効に活用されている例が少ない。 演者らは生体膜攪乱の分子機能を有する天然物に注目して研究を展開している。例えば海綿に含有されるセオネラミドは、3β-ヒドロキシステロールに結合することで脂質膜の流動性と曲率を変え、膜タンパク質の活性化や細胞骨格の崩壊を誘導する2。あるいは、海底土壌から単離された放線菌が産生するヘロナミドは、飽和の炭化水素鎖を有するリン脂質に強い親和性を示し、強力な抗真菌活性と分裂酵母においては特徴的な細胞壁異常を示す3。これらの結果は、生体膜と相互作用する化合物は予想外に広いケミカルスペースを占有することを示唆している。そこでさらに探索したところ、二種の菌の複合培養により産生される5-alkyl-1,2,3,4- tetrahydroquinoline (5aTHQ) を見出した(図1)4。本発表では、5aTHQの膜親和性と脂質関連生物活性について報告する。 1,2,3,4-Tetrahydroquinoline (THQ) の5位がアルキル化された5aTHQは放線菌Streptomyces nigrescens HEK616とミコール酸含有細菌Tsukamurella pulmonis TP-B0596の複合培養により産生される。アルキル鎖の長さと末端構造に多様性がみられ、これまでに9種の5aTHQを天然から取得している(図1)。5aTHQの生物活性はアルキル鎖の構造の違いに
  • 君嶋 敦, 唐 睿, 石田 良典, 山口 亞由太, 荒井 雅吉
    p. 349-353-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    腫瘍内には、無秩序かつ脆弱な新生血管に起因する部分的な栄養飢餓環境が存在しており、このような環境に適応したがん細胞は、病態の悪化に大きく関与している。その一方で、このような栄養飢餓環境は正常組織には存在しないことから、栄養飢餓環境選択的にがん細胞の増殖を阻害する化合物は、新たな抗がん剤シードとして期待できる。我々はこれまで、グルコース除去培地で培養したヒト膵臓がん細胞PANC-1を栄養飢餓環境に適応したがん細胞のモデルとして、これに対して選択的に増殖阻害活性を示す化合物の探索を行ってきた。そして最近、インドネシア産海綿から分離した真菌15G49-1の培養抽出物にグルコース飢餓条件選択的な細胞増殖阻害活性を見出した。そこで、本抽出物を活性試験の結果を指標に液液分配、各種クロマトグラフィーを用いて精製した。その結果、主活性成分として、特異な cis-1,2-オキサアザデカリンおよびビシクロ[3,2,2]エピジチオジケトピペラジン骨格を有するDC1149B (1) 1) を単離・同定した (Figure 1)。本討論会では、真菌15G49-1の培養抽出物からの1の単離、その栄養飢餓環境選択的ながん細胞阻害活性および作用機序の解明研究について報告する。 分離・精製:海洋由来真菌15G49-1株を米培地で30 °C、10日間培養し、アセトンおよびアセトン-エタノール-酢酸エチルで抽出することで粗抽出物 (71.8 g) を得た。活性試験の結果を指標に、得られた粗抽出物を酢酸エチルと水とで分配し、さらに酢酸エチル可溶部をヘキサンと90%メタノールとで分配した。その後、活性が認められた90%メタノール画分 (5.6 g) をSiO2 (ヘキサン-酢酸エチル) およびODS (メタノール-水) カラムクロマトグラフィーを用いて精製することで、グルコース飢餓環境選択的ながん細胞増殖阻害活性を有する1 (58 mg) を単離・同定した。なお、本培養抽出物には1とは異なる活性成分も含有されており、現在、その構造解析も進めている。
  • 塚本 匡顕, 千葉 雪絵, 若森 実, 日高 將文, 山田 智士, 角替 俊輔, 長 由扶子, 榊原 良, 今津 拓也, 所 聖太, 佐竹 ...
    p. 355-360-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【背景・目的】電位依存性ナトリウムチャネル(Nav)は2,000以上のアミノ酸残基で構成される一本鎖ペプチドである1。6回膜貫通型の4つのドメインが中央に小孔を作るような4次構造を有するNavは、細胞膜の脱分極に伴い細胞外から細胞内へNa+イオンを選択的に流入させる。 Figure 1. 本研究に用いたTTX誘導体 Navには開閉のキネティクスや制御因子が異なる9つのサブタイプが存在し、テトロドトキシン(TTX, 1, Figure 1)に感受性を示すNav1.1, 1.2, 1.3, 1.4, 1.6, 1.7型とTTX耐性のNav1.5, 1.8, 1.9に大別される。脳、神経、心筋、骨格筋において活動電位の発生や持続に関与するNavは、そのアミノ酸残基の置換や欠損により種々疾患の原因となる。特に神経障害性疼痛は、
  • 鈴木 拓馬, Nanang Rudianto Ariefta, 小関 卓也, 木村 賢一, 塩野 義人
    p. 361-366-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    植物内生菌類は、豊富な天然生理活性物質の探索資源として注目されている。一般的に糸状菌は、様々な環境要因 (温度、pH、明暗、化学物質など) に応じて生育し、これらの環境要因が二次代謝産物の生産誘導の一つの引き金となっている。一方、目覚ましいゲノム解析技術により、菌類から単離される天然物は二次代謝産物をコードする遺伝子群から想定される数よりも少ないことが判明しており、通常の培養条件下では多くの二次代謝産物生合成遺伝子が未発現であることが示されている。このような発現していないクリプティックな遺伝子群へのアクセスが、新規な天然物を取得する近道として期待されている。これらのことを背景に、我々は菌類の持つ潜在的な二次代謝産物生産能力に期待し、それらを引き出す一つの方法として、生産培地成分の検討や複数の菌類を混合した共培養など、培養条件に工夫を加え、新たに誘導される二次代謝産物に着目した。すなわち、熱帯地域起源の植物内生糸状菌の培養培地に市販りんごジュースを添加することにより、二次代謝産物の生産パターンが変化する菌株および、共培養において、純粋培養では生産されなかった物質を生産する二種の菌類の組み合わせをスクリーニングした。本発表では、りんごジュース添加培地より 7 種の新規化合物、二種の菌類による共培養より 4 種の新規化合物を獲得することができたので、これらの構造解析と生理活性について報告する。 1) マングローブ植物由来糸状菌が生産するりんごジュース米培地により誘導される二次代謝産物について  微生物の分離源として、インドネシアのカリマンタン島およびスラウェシ島で採取したマングローブ植物より、約100 株の糸状菌類を分離した。これら糸状菌を蒸留水と玄米で作製した培地とりんごジュースと玄米で作製した二種類の培地で培養し、それぞれの培地において、二次代謝産物生産パターンを大きく変化させる菌株を TLC や HPLC により探索した。その結果、Bionectria ochroleuca B5-2 株と三種の未同定菌株 (M211 株、M188 株、M1912 株) の培養抽出物において、蒸留水では生産誘導されない二次代謝産物をりんごジュース玄米培地に見出した (Fig.1)。そこで、B5-2 株に着目し、それらの誘導物質を明らかにすることにした。B5-2 株をりんごジュースと玄米で作製した培地で 30 日間培養し、各種カラムクロマトグラフィーで精製し、化合物 1 - 7 (Fig. 2)を単離した。 1-1) 化合物1 - 7の構造解析 化合物 1 は高分解能マススペクトルにおいて、分子式を C14H18O4 と決定した。次に 1H、 13C-NMR、1H-1H COSYスペクトルデータより部分構造を明らかにし、1 の分子内には −ラクトンと共役したオクタジエノンを部分構造に有することがわかった。さらに HMBC の相関により、部分構造を結合させ、1 の平面構造を決定した(Fig. 3)。文献検索の結果、1 はtetronic acid 関連化合物として知られる既知
  • 呉 静, 内田 和輝, 石岡 達朗, 崔 宰熏, 平井 浩文, 河岸 洋和
    p. 367-372-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【背景・目的】 キノコ(子実体)を形成する高等菌類は,胞子から菌糸,菌糸から子実体,そして子実体から胞子という生活環を持っている(図1)。キノコ胞子に関する二次代謝産物の研究はほとんど行われていない。また,一般にキノコの発生時に菌糸体表面に液体が分泌される。我々は,これまで誰も注目していなかったこの液体が子実体形成に深く関与していると考え,fruiting liquid(FL)と命名した(図1)。そして,ヤマブシタケFLはエノキタケに対して子実体形成誘導活性あるいは子実体形成促進活性を示すことを発見した(図2)。本研究では,ヤマブシタケ生活環の各段階とFLから,主にキノコの成長に関わる生物活性物質の単離・精製,構造決定および活性発現機構の解明を目的とした。  ヤマブシタケ(Hericium erinaceus)は,サンゴハリタケ科サンゴハリタケ属の可食用キノコである。過去に当研究室は,認知症の予防や治療への有効性が指摘されている神経成長因子の合成を促す物質として,子実体からhericenone 類を,菌糸体からerinacine 類を発見している1-6)。また,菌糸体培養ろ液から,HeLa細胞に対して細胞毒性を有するerinapyrone類を報告している7, 8)。キノコ栽培後の廃菌床からは小胞体ストレス誘導神経細胞死抑制物質が得られている9)。 【化合物の単離・構造決定】 1. ヤマブシタケFL ヤマブシタケ栽培業者からの協力を得て,FLを大量(栽培ポット数千個分)に入手し(図3),菌糸体成長調節活性を指標に,FLから活性物質の探索を試みた。液-液分配することで,n-ヘキサン可溶部,ジクロロメタン可溶部,酢酸エチル可溶部を得,水層を乾固後,エタノール可溶部と水可溶部を得た。活性が確認された酢酸エチル可溶部を各種クロマトグラフィーに繰り返し供することによって,3種類の新規化合物(1–3)および1種類の既知化合物(4)の単離に成功した(図4, 5)。
  • 岩崎 有紘, 岡本 慎一朗, 藤村 遥, 工藤 隆文, 保科 静香, 澄本 慎平, 中野 由美子, 野崎 智義, 照屋 俊明, 末永 聖武
    p. 373-378-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【概要】  特異な構造と生物活性を有する新規天然物の発見を目的として、海洋シアノバクテリアの生産する二次代謝産物の探索研究を行った。その結果、沖縄県で採集した海洋シアノバクテリアより、新規鎖状リポペプチド jahanyne 類 (1~3) を単離し、その構造を決定し、全合成を達成した。Jahanyne 類 (1~3) の生物活性を評価したところ、ヒトがん細胞に対して増殖阻害活性を示すことと、活性の強さが脂肪酸鎖末端の不飽和度に影響されることがわかった。これらの知見をもとに、増殖阻害活性を保持したビオチンプローブを合成し、細胞破砕液に対するアフィニティ精製を行った。その結果、活性保持型プローブに特異的に結合するタンパク質として、アポトーシス誘導性タンパク質である Bax を同定した。 【Jahanyne (1) の単離・構造決定】1)  2013 年に沖縄県本部村謝花で、Lyngbya 属海洋シアノバクテリア (900 g) を採集した。このもののメタノール抽出物を作製し、HeLa 細胞に対する増殖阻害活性を指標に各種分配、クロマトグラフィー操作を繰り返して精製を行った。その結果、jahanyne (1, 18.5 mg) を単離した。  Jahanyne (1) の平面構造は、二次元 NMR を中心とする分光学的手法により決定した (Fig. 1)。
  • 田邉 元三, 萬瀬 貴昭, 福田 友紀, 福田 梨沙, 丸本 真輔, 石川 文洋, 二宮 清文, チャイペック・ サワニ, ポンピリヤダチャ ...
    p. 379-383-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    1.はじめに  メラニンは,皮膚の表皮基底層ならびに毛包に局在する色素細胞 (メラノサイト) の滑面小胞体由来のメラノソームと呼ばれる細胞内小器官で合成される色素で,紫外線を吸収するサンスクリーン物質としてはたらく.その生合成過程においては,紫外線刺激によりプロテインキナーゼ A (PKA) が活性化され,転写因子 MITF (microphthalmia associated with transcription factor) の発現が促進され,その下流にあるTYR (tyrosinase),TRP-1 (tyrosinase related protein 1) およびTRP-2 (tyrosinase related protein 2) 遺伝子の転写活性が増加する.これらの関連タンパクのうち,とりわけ,tyrosinase は律速酵素であり,L-tyrosine からL-3,4-dihydroxyphenylalanine (L-DOPA) への水酸化および L-DOPA から dopaquinone への酸化の 2 段階の反応を触媒する.メラニンの蓄積による皮膚の黒色化は,紫外線による皮膚障害を緩和する一方で,過剰な色素産生はしみやそばかすの原因ともなる.  我々は,マウス由来 B16 melanoma 4A5 細胞を用い,ホスホジエステラーゼ阻害剤である theophylline 添加により誘発される過剰なメラニン産生を抑制する天然由来シーズの探索研究を実施したところ,1–6) Melodorum fruticosum の花部抽出エキスに活性を見いだしたことから,その活性寄与成分を精査した. 2.含有成分の探索  バンレイシ科 (Annonaceae) 植物Melodorum fruticosum は,タイの北部および北東部に広く自生する灌木で, タイではLamduanと称され, シーサケート県の県木・県花に指定されている. その花部は古くから失神や目眩の改善に利用されているほか,アロマテラピーにも用いられている. タイ産M. fruticosum花部をMeOHにて還流抽出し,得られた抽出エキス (乾燥原料から 11.32%) についてメラニン産生抑制作用を検討したところ,IC50 値として 5.8 g/mL の活性が認められた.活性を指標に分画をすすめたところ,脂溶性分画である EtOAc 移行部 (IC50 = 2.1 g/mL) に活性の集約が認められた.そこで,順相および逆相 ODS カラムクロマトグラフィーおよび HPLC により分離,精製したところ,新規 ブテノリド isofruticosiol (1) を単離・構造決定するとともに,3 種の既知ブテノリドを単離・同定した (Figure 1).
  • 渡辺 陽光, 赤木 拓也, 佐藤 真伍, 川口 美欧子, 金山 拓郎, 肖 越云, 堤 美葵, 鈴木 敏之, 渡邊 龍一, 内田 肇, 佐竹 ...
    p. 385-390-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    アプリシアトキシン (1) ならびにデブロモアプリシアトキシン (2) は、当初アメフラシから有毒物質として単離・構造決定された1)。その後、swimmer’s itch と呼ばれる海水浴客らが皮膚炎を引き起こす原因物質としてラン藻Moorea producensから単離され、アプリシアトキシン類の真の生産者はラン藻であることが判明した2)。また、アプリシアトキシン類の海藻食中毒への関与なども報告されている3)。アプリシアトキシン類はプロテインキナーゼCの活性化によりフォルボールエステル型の強力な発ガンプロモーター作用を持つことが報告されている4)。近年、このアプリシアトキシンをモデル化合物として抗がん物質の開発を目指した研究も行われている5)。2010年7月沖縄県中城村海水浴場でラン藻 M. producens が大量発生したため、その場で自治体より注意喚起がなされた。我々はその時に沖縄県衛生環境研究所によって採取された M. producens (湿重量約4 kg) からアプリシアトキシン (1) 、デブロモアプリシアトキシン (2) を含む計12個のアプリシアトキシン関連化合物の単離に成功した(図1)。これらの内訳は、化合物1‐5, 7 の既知化合物1,6-8)に加え、化合物6, 8‐12の6つの新規アプリシアトキシン類縁体であった。なかでも化合物10は、新規骨格を有するアプリシアトキシン関連化合物であった。今回、これらのアプリシアトキシン類縁体の構造決定とマウス白血病L1210細胞に対する細胞毒性試験ならびに珪藻 Nitzschia leavis に対する抗珪藻生育阻害活性試験による生物活性の評価を行ったので報告する。 1. 抽出・精製・単離 ラン藻Moorea producens をエタノール、メタノール、アセトンの順番で抽出し、得られた抽出液を混合、減圧濃縮した。有機溶媒抽出で得られた粗抽出物を80%メタノールとヘキサン、酢酸エチルと水、水とブタノールによる液-液分配によりn-ヘキサン画分、酢酸エチル画分、1-ブタノール画分、水画分を得た。その内、酢酸エチル画分について、ODSフラッシュカラムクロマトグラフィーにより50%MeOH画分、70%MeOH画分、90%MeOH画分、100%MeOH画分に分けた。次に、逆相ODSカラムによる高速液体クロマトグラフィー (HPLC) を用いて70%MeOH画分より化合物7, 9を単離し、90%MeOH画分より化合物1‐6, 8, 10‐12の単離に成功した。 2. 新規化合物群の構造決定 [1]  2-ヒドロキシ-アンハイドロアプリシアトキシン (6) 化合物6はMSによって推定された分子式C32H45BrO10とNMRの結果からアンハイドロアプリシアトキシン類縁体だと分かった。2次元NMRによる詳細な解析の結果、本化合物はアンハイドロアプリシアトキシン(4)の2位にヒドロキシ基が置換した構造であることが分かった。これを2-ヒドロキシ-アンハイドロアプリシアトキシン (6) と命名した。2位の立体配置に関してはNOE差スペクトルによる解析を行ったが決定には至らなかった。
  • 大好 孝幸, 明本 圭, 谷口 綾香, 石原 拓磨, 黒田 武史, 金子 貴裕, 小川 裕太, 仙石 哲也, 木越 英夫
    p. 391-396-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    1.単離・構造決定1 海洋軟体動物アメフラシからは、これまでに多くの生物活性天然物が発見されている2。今回、アメフラシ(湿重量18 kg)のメタノール抽出物について、EtOAcと水で分配し、EtOAc層をさらにn-hexaneと90%MeOHで分配した。その後、90%MeOH層を60%MeOHとCH2Cl2で分配し、得られたCH2Cl2層を各種クロマトグラフィーにより繰り返し分離・精製し、新規アルカロイド・アプラミナール(1)を2.0 mg単離した。 HR-ESIマススペクトルより、分子式をC16H19N3O5と決定した。また、各種NMRスペクトルより3つのメチル基、1,4-二置換ベンゼン部位、3つのカルボニル基のシグナルが観測された。さらに、二次元NMRとX線結晶構造解析より、新規トリアザビジクロ[3.2.1]オクタン骨格を有するアルカロイドであると決定した(Figure 1)。また、1はScheme 1に示すようにテトラヒドロ葉酸から生合成されているものと考え、その絶対立体化学を推定した。さらに1のHeLa S3に対する細胞毒性を評価したところ、中程度の活性を示した(IC50=0.51 μg/mL)。 その後、Smithらによって全合成が達成され、その絶対立体化学が明らかにされた3。
  • 周防 玲, 高田 健太郎, 幸塚 久典, 伊勢 優史, 入江 樂, 渡邊 龍一, 鈴木 敏之, 大塚 攻, 岡田 茂, 松永 茂樹
    p. 397-402-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【序論】 海洋生物、微生物、植物などが生産する二次代謝産物には多様な化学構造を有し、有望な生物活性を示すものが多い。医薬品の多くが天然物、あるいは天然物を改変して創出されたものであることから、天然物は今後も医薬品開発において重要な役割を果たすことが期待される。そのため、生物に含まれる膨大な数の化合物の中から効率的に有用物質を発見することは、学術的ならびに産業的に意義深い。 培養細胞は投与する化合物の作用機序を反映して、特徴的な形態変化を示す。すなわち、理化学研究所の長田らが報告しているように1、標的分子既知の化合物が培養細胞に対して誘導する形態変化データを集積し、両者を対応させたデータベースが構築できれば、表現型を観察するだけで特異的な作用機序を示す化合物を効率的に検出できる。このような背景のもと、われわれはカイメン抽出物存在下での培養細胞の形態変化に着目した試験系を用いて、活性物質の探索をおこなった。本討論会では、3 種の新規化合物miuramide A(1)およびB(2)、ならびにpoecillastrin H(3)の単離・構造決定について報告する。 【表現型プロファイルデータベースの構築】 探索研究に先立ち、東京大学創薬機構より提供を受けたLOPAC既知薬理化合物ライブラリ(Sigma-Aldrich)および水圏天然物化学研究室が保有する海洋天然物に対して、生細胞イメージングシステムを用いて、表現型プロファイルデータベースを作成した。この結果を念頭に置き、カイメンの粗抽出液約2,000 種の評価をおこなった。
  • 堤 広之, 田邊 晴香, 石津 隆
    p. 403-408-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    1.序論 お茶に最も多く含まれるガレート型カテキン (-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート(EGCg)の水溶液にカフェインの水溶液を加えることで生じるクリーミングダウン現象による沈殿は、Fig. 1aに示すような2:2 EGCg・カフェイン錯体であることを明らかにした。さらに、この錯体はEGCgのA環、B環、B’環からなる疎水性空間にカフェイン1分子を取り込んだ構造をとっていたため(Fig. 1b)、EGCgやカフェイン単独時よりも疎水性が高まり、クリーミングダウン現象による沈殿が生じたと考えている。1)  この2:2 EGCg・カフェイン錯体における疎水性空間は、EGCgのC環の2位、3位に不斉炭素を有していることから不斉空間でもある。そこで、この不斉空間を用いることにより不斉認識ができるのではないかと考え、カフェインと同程度の分子サイズをもち、不斉炭素を1個有するジケトピペラジンCyclo(L-Pro-Gly)と、Cyclo (D-Pro-Gly)を合成し、EGCgによる不斉認識について検討した。 Cyclo(L-Pro-Gly)と、Cyclo(D-Pro- Gly)の重水溶液にそれぞれ等モル量のEGCgの重水溶液を加え1H NMRスペクトルを測定したところ、プロリン残基のH7、H8αプロトンシグナルの化学シフト値が異ってくることから、EGCgはCyclo(Pro-Gly) の不斉認識をすることが分かった。  その不斉認識のメカニズムを調べるために、2:2 EGCg・
  • 勝木 理子, 田原 由莉歌, 加藤 光, 橋元 誠, 藤井 勲, 塚本 佐知子
    p. 409-413-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    1. はじめに  ユビキチン-プロテアソームシステムは、分解されるべき標的タンパク質のユビキチン化を触媒するE1 (ユビキチン活性化酵素)、E2 (ユビキチン結合酵素) および E3 (ユビキチンリガーゼ) から構成されるユビキチンシステムと、形成されたポリユビキチン鎖を分解のシグナルとして認識し、タンパク質部分を分解する 26S プロテアソームからなる。このタンパク質分解系は、細胞周期の進行やシグナル伝達、遺伝子発現抑制、アポトーシスなど多様な生命現象に関与しているので、この分解系の破綻は疾病につながる。その一方で創薬のターゲットとしても注目されている。ユビキチンシステムを構成するE1酵素は、タンパク質をユビキチン化する際、初めにユビキチンを活性化させる重要な役割を担っており、E1阻害物質は抗がん剤としても期待されている。  我々は主に海洋資源からE1阻害物質の探索を行い、これまでに真菌Aspergillus japonicus MF275からhimeic acid A1) (1) を、海綿からhyrtioreticulin A2) を発見した。1は50 MでE1を65% 阻害したが、類縁体であるhimeic acids B (2)、C (3)1) およびE-G3) は100 Mでも全く阻害しなかった。そして、1はSUMO-1やISG15に対するE1を阻害しなかったのでユビキチンのE1を特異的に阻害すると考えられる。Himeic acidsの生合成機構を調べたところ、1はポリケチド合成酵素-非リボソームペプチド合成酵素(PKS-NRPS)により生合成されることが分かったが4)、3のピリドン環の窒素がどのようにして導入されるのかについては明らかとならなかった。また、先行実験により真菌を1週間培養した際には1が主成分であったが、2週間培養すると1が消失し代わりに3が主成分となることが分かっているので、1から3へ変化していると考えられる。本研究では、2および3の生成について検討した。 2. 同位体標識化合物の取込実験 Himeic acidsが有する長いアシル側鎖は、酢酸の縮合によって合成されるポリケチドに由来すると推測されたので、本真菌への同位体標識酢酸の取込実験を行った。すなわち、真菌培養液に [13C2]酢酸ナトリウムを添加して培養した後、1を精製し13Cの取込を調べた。その結果、図1aに示すようにC-16位を除いたC-1位からC-17位まで取込まれていることが分かった。 次に、ピロン環の16位の炭素、および、アミド結合した側鎖はL-ロイシンが前駆 体であると考え、L-[1-13C,15N]ロイシンを用いて取込み実験を行った。その結果、酢酸が取込まれなかったC-16位はL-ロイシンの1位の炭素に由来することが明らかに
  • 松村 賢, 谷口 透, James D. Reimer, 野口 峻太朗, 藤田 雅紀, 酒井 隆一
    p. 415-420-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    海洋生物からはテトロドトキシンやサキシトキシンに代表される数多くの環状グアニジンアルカロイドが報告されている。また環状グアニジンアルカロイドは抗菌、神経活性、細胞毒性や酵素阻害など様々な生理活性を持つことで知られている。当研究室では海洋生物の水溶性抽出物に着目し、マウス脳室内の投与により神経シナプス受容体のリガンドをはじめとする生理活性物質を探索している。今回、パラオ産スナギンチャクEpizoanthus illoricatusの抽出物をマウス脳室内へ投与したところ、痙攣誘発および致死活性を見いだした。そこでこれらの活性を指標に精製を進めたところ、活性本体の一つとして新規トリスグアニジンアルカロイドであるKB343 (1) を単離・構造決定を行うとともにその生理活性を検討した (Figure 1)。 Figure 1. Structure of KB343 (1) 【KB343の単離】  E. illoricatus (湿重量175 g) を水で抽出し、得られた粗抽出物 (6.8 g) を透析用セルロース膜 (40-50 Å pore) を用いて低分子画分と高分子画分に分離した。低分子画分 (5.72 g) に活性が認められたため、Sephadex LH-20、C18逆相カラムクロマトグラフィーによって分画し、逆相HPLC (Inertsil ODS-3) により精製を行ない化合物 1 (27 mg) を得た。 【KB343の構造決定】  KB343 (1) は白色粉末のトリフルオロ酢酸塩として単離され、HRESIMSおよび13C NMRスペクトルの結果よりその分子式はC15H21N9O (不飽和度10) であると決定した。13C NMRスペクトルの解析より、122-188において6個のsp2炭素原子が観測された。そのうち3個の四級炭素原子 ( 151.0, 160.5, 161.9) がグアニジノ基の存在を示唆したため、9個すべての窒素はグアニジノ基のものであると推定した。また、これは1 と2,4-pentanedione との反応においてピリミジン環が1~3個誘導された化合物 (2-4) が得られたことからも支持された(Scheme 1)。
  • 内田 龍児, 大多和 正樹, 近藤 あり子, 清水 恵里, 八木 瑛穂, 齊藤 惇, 李 大葵, 小林 啓介, 野中 健一, 増間 碌郎, ...
    p. 421-426-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【はじめに】アムホテリシン B (AMPB) は1962年の上市以降、広い抗真菌スペクトルと殺菌的な作用を示すことから、大半の深在性真菌症に対して信頼できる治療薬の一つとして用いられている優れた抗真菌剤である。しかし、その作用点が真菌細胞膜のエルゴステロールであるため、ヒト細胞膜のコレステロールにも僅かな親和性を示し、腎障害や低カリウム血症などの重篤な副作用を引き起こすことが問題点とされている。そこで本研究では、このような問題点を解決する1つの手段として、AMPBの抗真菌活性を増強するような化合物を想定し、微生物資源よりその探索を実施した結果、simpotentin (1, Figure 1) と命名した新規化合物を発見した1)。本発表では、その生産、単離精製、構造解析、全合成および生物活性について報告する。 【方法および結果】 1. 培養および単離精製 放線菌および真菌の培養液を中心に約8,000サンプルをスクリーニングした結果、東京都港区白金の土壌から分離した真菌Simplicillium minatense FKI-4981株の培養液が目的の活性を示した。FKI-4981株をスクロースとグルコースを主成分とする生産培地20 Lを含む30 L容ジャーファーメンタ2基に植菌し、27 ℃ で6日間通気撹拌培養を行なった。培養液 (40 L) を遠心し、その上清をDiaion HP 20カラムに通塔し、60% アセトン溶出画分に活性を得た (2.38 g)。この粗物質 (590 mg) を液々分配クロマトグラフィー (溶媒系: クロロホルム:メタノール:水 (2:2:1)、下降法、正溶出、回転数: 700 rpm、流速: 3.0 ml/分、分画: 18 ml/本) にて精製し、Fr. 8 ~ 15に1を含む粗物質 (162 mg) を得た。さらに蒸発光散乱検出器を用いたODS–HPLC (カラムサイズ: 20 i.d. x 250 mm、移動相: 30~70% アセトニトリル–0.05% TFA (リニアグラジエント: 30分)、流速: 8.0 ml/分、保持時間: 22分) により最終的な精製を進め、1を白色粉末として19.9 mg単離した。 2. 構造解析 化合物1の分子式は、高分解能ESIMSスペクトルより、C24H44O11 (m/z 531.2769 [M+Na]+, Δ-1.2 mmu) と決定した。また、IRスペクトルからは、3392、2929~2863および1722 cm-1付近に吸収を示したことから、水酸基、アルキル基およびカルボキシル基の存在が示唆された。 重ピリジン中で測定した1の1Hおよび13C NMRのケミカルシフト値をTable 1に示した。13C NMRスペクトルからは、24本のシグナルが観測され、DEPTスペクトルの解析により、2個のメチル炭素、12個のsp3メチレン炭素、8個のsp3メチン炭素および2個のカルボニル炭素に分類した。これらのうち、1個のアノメリック
  • 丹羽 莞慈, 田中 直伸, 柏田 良樹
    p. 427-432-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    オトギリソウ科植物からは、キサントン類、ナフトジアンスロン類、およびフラボノイド等の芳香族化合物、あるいはプレニル化アシルフロログルシノール類やメロテルペン等の多様な天然物が単離・報告されており、それらの化学構造と生物活性が注目されている1)。当研究室では、オトギリソウ科植物に含まれる二次代謝産物の探索研究を行っており、これまでにユニークな化学構造を有するベンゾフェノン誘導体やメロテルペンを単離・報告している2)。今回、本研究の一環としてオトギリソウ科Hypericum属植物トモエソウ (H. ascyron) の根について詳細な成分探索を行った。その結果、3種の新規ジベンゾ-1,4-ジオキサン誘導体 hyperdioxane A–C (1−3) を単離したので、それらの構造について報告する。 1. 抽出・分離 トモエソウの根のメタノール抽出物をn-ヘキサンと水で分配した。n-ヘキサン可溶部を各種クロマトグラフィーで繰り返し分離し、新規ジベンゾ-1,4-ジオキサン誘導体 hyperdioxane A–C (1–3) と既知化合物sampsone B (4)3) を単離した (Chart 1)。 Chart 1. Structures of hyperdioxanes A–C (1–3) and sampsone B (4). 2. Hyperdioxane A (1) の構造解析  Hyperdioxane A (1) は光学活性な無色非結晶性固体として単離され、HRESIMSより分子式をC30H34O8と帰属した。IRスペクトルでは複数のカルボニル基の吸収が観測された (1771 and 1745 cm-1)。1の1H NMRスペクトルでは、1個の1,2,4-
  • 工藤 雄大, 淡川 孝義, Yi-Ling Du, Peter A. Jordan, Paul R. Jensen, Roger G. Li ...
    p. 433-438-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    海洋放線菌Salinispora属からは臨床試験中のプロテアソーム阻害剤salinosporamideを始めとして数多くの有用二次代謝産物が発見されている[1]。2015年、本属より抗マラリア活性を有するsalinipostin (A–H) が報告された (図1A)[2]。Salinipostinは天然では極めて稀なリン酸トリエステルとγ-ブチロラクトン構造を含む二環を有し、その生合成経路に興味が持たれた。また一方で、放線菌においては、Streptomyces griseusにおけるA-factor (図1B) に代表されるように、γ-ブチロラクトン化合物が二次代謝と形態分化を制御するシグナル分子として機能している[3,4]。同じくγ-ブチロラクトン構造を有するsalinipostinが重要な生体内機能を持つことが考えられたため、本化合物を対象に研究を行った。 [Salinipostinの生合成遺伝子クラスターの同定] まず、salinipostinの生合成遺伝子クラスターの同定を目指した。Salinipostinのγ-ブチロラクトン構造はA-factorの生合成と類似した経路に由来すると考え、A-factor synthase (afsA)と相同性を示す遺伝子を指標として、推定生合成遺伝子クラスター (spt) をSalinispora属のゲノム中より見出した (図1A)[5]。続いて、Salinispora tropica CNB-440のspt9破壊株を作成し、LC-MSで解析した。野生株でsalinipostinのピークが見られる一方、破壊株においてsalinipostinの生産が消失することを確認し、sptによりsalinipostinが生合成されることを示した (図1C)[5]。 図1. (A) Salinipostinの構造と推定生合成遺伝子クラスター、(B) A-factorの構造と生合成遺伝子、(C) LC-MSクロマトグラム; (i) 天然より単離したsalinipostin G標品, (ii) S. tropica CNB-440 野生株, (iii) S. tropica CNB-440 spt9破壊株
  • 安部 真人, 澤田 良樹, 奥 公秀, 阪井 康能, 三芳 秀人
    p. 439-443-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【背景】ホスファチジルコリン(PC)とカルジオリピン(CL)は、ミトコンドリア内膜を構成する主要なリン脂質であり、特にCLは、内膜の形態維持や呼吸鎖酵素群の活性発現などに必須であると考えられている1。 図1 PCとCLの化学構造 CLの脂肪酸組成は、生物種やオルガネラによって特異的である。酵母や哺乳類において、CLはリモデリング系と呼ばれる機構によって不飽和脂肪酸を獲得すると考えられている(図2)2。リモデリング系は、次の二つの反応過程で構成される。一つ目は、ほぼ飽和脂肪酸だけからなるimmature CLが加水分解されてリゾCLが生成する過程である。二つ目は、トランスアシラーゼtafazzinによってリゾCL(アシルアクセプター)とPC(ア
  • 粳間 由幸, 野々村 拓也, Priscilla Yoong Mei Yen, Loghapriya Sivasamy, 山本 凌太郎, 土 ...
    p. 445-449-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    1.序論 日本では1981年より癌が死亡原因の第1位となり,1995年には全死亡者数の約3割が癌によって亡くなっている1.その死亡者数は,現在でも増加傾向にあり,2025年には約50万人が亡くなると推定されている.このため,現在でも優れた癌治療法の開発が望まれている. 近年,優れた癌治療法として,光線力学療法(Photodynamic Therapy:PDT)が注目を集めている.PDTとは,光と光増感剤を利用した薬物療法の一種であり,光増感剤の光化学的反応を利用した療法である2.引き起こされる光化学的反応は,二種類に分類される.ひとつは,光励起された光増感剤が,エネルギーや電子を溶存酸素に受け渡すことで活性酸素を発生させ,その強い毒性により細胞を壊死させるタイプである.もうひとつは,光励起された光増感剤が細胞中のDNAと反応して複合体を形成することでDNA合成を妨げ,細胞死を誘発させるタイプである3.PDTは,他の基本的な癌治療法に比べ,低襲撃性で強い副作用がなく,臓器温存が可能な点で優れている.この治療法には, 体表面に存在する癌に対してのみ有効とされる.それは光増感剤に光を照射する際に利用する光が可視光を用いていることが挙げられる.さらに短期間では紅斑や色素沈着過剰,長期間では前癌性角化症や皮膚癌といった副作用をもたらす問題点がある.この問題点は,用いる光増感剤の性質からもたらされている可能性がある.使用する光増感剤は,水溶性が低く,癌細胞への選択性が乏しいという性質を有する.水溶性の低い薬剤は体外に排出されにくい.癌細胞への選択性の低い薬剤は,正常細胞にまで分布する.我々は,副作用を軽減させ且つ体表面だけでなく深部に存在する癌細胞に適応できる光増感剤の合成と光細胞毒性を検討した. Figure 1 光増感剤の構造 しかし,この治療法には, 短期間では紅斑や色素沈着過剰,長期間では前癌性角化症や皮膚癌といった副作用をもたらす問題点がある5, 7.この問題点は,用いる光増感剤の性質からもたらされている可能性がある.使用する光増感剤であるフロクマ
  • 野田 耕太, 加藤 英介, 川端 潤
    p. 451-456-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    2017年において、世界の成人の11人に1人が糖尿病患者と推計されている。糖尿病は心疾患や脳卒中など心血管疾患のリスクを増大させるため、その予防や治療法の改善と開発が急務とされている。消化管α-グルコシダーゼは糖質の消化吸収過程において、二糖から単糖への分解を担う小腸上皮粘膜上の酵素である。この酵素の阻害剤は単糖の体内への吸収を緩やかにし、食後の急激な血糖値上昇を抑えることができるため、糖尿病の予防や治療に利用されている。消化管α-グルコシダーゼ阻害剤は、その機能上食前もしくは食中の摂取が必須であり、定められた利用方法を守らなければ十分な効果が発揮されない。一方で、α-グルコシダーゼの「量』を減少させることでも、同様の効果が期待でき、かっ阻害よりも持続的であるため摂取回数を減らし、摂取タイミングも摂取者の任意となる(図1)。そこで本研究では消化管α-グルコシダーゼの『量』に着目し、その発現量を低下させる生物活性物質を天然より探索した。1. α-グルコシダーゼ量低下活性を評価するin vitro系の構築α-グルコシダーゼ量低下活性の評価系はCaco-2細胞を用いて新
  • 犬塚 俊康, 川又 智有, 板倉 雄樹, 上村 大輔
    p. 457-462-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    新規生物活性物質の発見は、生命科学研究におけるツールとして、あるいは、創薬におけるリード化合物として、現在も期待されている。演者らは、その探索源として、海洋生物、特に、多くの生物活性物質の真の生産者と考えられている海洋微生物や、これらの微生物が寄生または共生する無脊椎動物などに着目して、新規生物活性物質の探索研究を行ってきた。最近では、海洋ラン藻Leptolyngbya sp. より新規化合物 Yoshinone A の単離・構造決定について報告した。1) Yoshinone A は 3T3-L1細胞の脂肪細胞への分化阻害活性を強く示すことから、抗肥満薬の医薬リード化合物として期待されている。2) また、昨年度の本討論会では、沖縄県、愛媛県、神奈川県および高知県沿岸で採集した海洋微生物や海洋無脊椎動物の抽出物について、B16 マウスメラノーマ細胞に対する細胞毒性試験を行った結果を報告した。3)  採集した海洋微生物や海洋無脊椎動物合わせて数十種類の抽出物を作成し、B16 マウスメラノーマ細胞に対する細胞毒性試験を行った結果、15 種類程度の抽出物に細胞毒性が確認された。 本討論会では、前述の海洋生物のうち、高知県沿岸の比較的水深が深い場所で採集した海洋無脊椎動物である未同定カイメン 2 種類から、細胞毒性物質を単離・構造解析・生物活性評価した結果について報告する。 1. 未同定カイメン由来細胞毒性物質 Sukumoic acid  高知県沿岸で採集した未同定カイメンの含水メタノール抽出液を水と酢酸エチルで分配し、酢酸エチル層に対してB16 メラノーマ細胞に対する細胞毒性試験を行ったところ、細胞毒性が確認された。酢酸エチル層を脱脂し、B16メラノーマ細胞に対する細胞毒性を指標に、逆相クロマトグラフィー、および、順相分取薄層クロマトグラフィーによる分離を行った結果、新規細胞毒性物質 Sukumoic acid を単離することに成功した。未同定カイメン 110 g (湿重量) から Sukumoic acid を 14.6 mg 単離した。
  • 江良 真名美, 兒島 大雪, 中邑 千奈美, 親富祖 翔太郎, 松尾 洋介, 齋藤 義紀, 田中 隆
    p. 463-468-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    1.序論 エラジタンニンは植物界に広く分布する加水分解型タンニンの一群であり、グルコースにエステル結合した2つのgalloyl基が酸化的にカップリングしたhexa- hydroxydiphenoyl (HHDP)基や、さらに酸化段階の高いdehydrohexahydroxydiphenoyl (DHHDP)基などをアシル基として持つ。その生合成はgalloyl基の酸化的カップリングでHHDP基が、さらにHHDP基が酸化されてDHHDP基ができると考えられているが (scheme 1、実線)、実験的証拠に基づかない構造式からの推測にすぎず生合成酵素もほとんど分かっていない1,2。 我々は、エラジタンニン代謝に関する研究の過程で、落葉樹のクマシデとアカシデ葉のエラジタンニン組成が春と夏で大きく異なることを見出した。いずれの植物でも4月の新芽では酸化段階の高いDHHDP基を持つデヒドロエラジタンニンが主成分であるが、夏の成葉ではDHHDP基が還元されHHDP基になった物質が主成分となっていた3。ザクロ、ホルトノキ、ナンキンハゼなどについても調べたところ、やはり新芽ではDHHDP基を持つエラジタンニンが多く検出され、成葉ではその還元体となっていることが分かった4。そこでクマシデとアカシデの新芽から主成分のデヒドロエラジタンニンを精製し反応性を調べたところ、いずれも水溶液中で自発的に酸化還元不均化反応を起こして、夏の成葉の主成分であるHHDP基を持つエラジタンニンに変化した3,4。このことはscheme 1実線のようにgalloyl基の酸化カップリングでHHDP基が生合成されるのではなく、破線で示すようにgalloyl基から一旦DHHDP基が生成した後に、酸化還元不均化反応によってHHDP基が生成していること、そしてその反応が非酵素的に進行することを示唆した。 本発表ではアカシデ成葉の主成分geraniinに関連する化合物とその反応性について報告する。Geraniinはトウダイグサ科やフウロソウ科などの植物に多量蓄積されることがある重要なデヒドロエラジタンニンであり5、アカシデにも新鮮成葉のおよそ1.5%含まれている6。我々はそのgeraniinの前駆体と推定されるデヒドロエラジタンニンをアカシデ新芽から分離し、それらからgeraniinが生成する際の立体化学について考察するとともに、geraniinのDHHDP基の反応性について検討した。 Scheme 1. エラジタンニンHHDP基の生合成仮説 (実線:従来の推定生合成経路、破線:還元的生合成経路)
  • 小野沢 忠吉, 北島 満里子, 小暮 紀行, Nichakan Peerakam, Dammrong Santiarworn, 髙山 廣光
    p. 469-473-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【概要】アカネ科Ophiorrhiza属植物は世界に約150種有り、熱帯アジアを中心に、一部は東アジアやオーストラリアにも分布している。本属植物には抗腫瘍活性を有するCamptothecin類やβ-Carboline配糖体アルカロイドなどの多様なインドールアルカロイドが含まれていることがこれまでの研究で明らかになっており、当研究室においても3種の国産および1種のタイ産Ophiorrhiza属植物について成分探索を行い、種によって含有成分が異なることを明らかにしている1-4)。 これらの背景のもと、新規医薬品シード化合物の発見を目的にタイ産Ophiorrhiza nutansの成分探索を行い、インドールアルカロイドの他に、テトラヒドロイソキノリンアルカロイドと共に、新規シクロペプチドアルカロイドOphiorrhisine A (1)を単離した5)。シクロペプチドアルカロイドは、クロウメモドキ科、アカネ科の植物を中心に多くの植物に含有されることが知られており、現在までに200種以上が単離報告されている。本化合物群の一部には、鎮痛、抗菌、抗真菌、抗腫瘍、さらに抗マラリアなど様々な生物活性を有することが報告されており、創薬シード化合物としての期待が持たれている。1 の構造は、詳細なスペクトルデータ解析と高等植物の生合成の観点を考慮することで、絶対立体配置を含め推定した。一般的なシクロペプチドアルカロイドと比較した際に1の構造的特徴は、3位立体化学がR 配置であること、10 位にアミノ酸由来のカルボキシル基を有し、側鎖のチロシンのアミノ基がトリメチル化されていることにより双性イオン型となっていることである。そこで 1 の推定構造の確認および活性評価用サンプルの供給を目的として不斉全合成研究に着手した。また、その生物活性に興味を抱き、構造活性相関研究に展開すべく14員環シクロファンを共通骨格とする誘導体を合成し、1 の合成中間体と合わせて活性評価を行うこととした。
  • 三浦 香織, 松野 弘明, 岩岡 裕二, 伊東 秀之, 田井 章博
    p. 475-479-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    花粉症や喘息に代表されるI型アレルギー罹患者数の増加は世界的に問題視されている。I型アレルギーの発症には肥満細胞の脱顆粒によるケミカルメディエーターの放出が原因とされ、脱顆粒を抑制する物質には抗アレルギー作用が期待される。ビタミンCとして知られるアスコルビン酸は非常に不安定な物質だが、我々が開発した親油性安定型アスコルビン酸誘導体は優れたプロビタミンC剤として機能することを見出している1-4)。一連の誘導体のうち、2-O--D-glucopyranosyl-6-O-palmitoyl-L-ascorbic acid (6-sPalm-AA-2G、図1)は、アスコルビン酸の2位水酸基へ-グルコシル基、6位水酸基へパルミトイル基を導入した誘導体である。我々はこれまでに6-sPalm-AA-2GがプロビタミンC剤としてではなく、誘導体自身で脱顆粒抑制活性を示し、抗アレルギー作用を発揮することを報告している5)。脱顆粒抑制活性における6-sPalm-AA-2Gの構造活性相関研究から、6位水酸基に比較的長いアシル基を有すことが重要であり、2位水酸基のグルコースの結合様式および5位水酸基の立体配置は活性に関与しないことが明らかになっている。そこで、これまでの知見をもとに、さらなるモノパルミトイルアスコルビン酸誘導体を合成し、6-sPalm-AA-2Gよりも優れた抗アレルギー作用を発揮する安定型アスコルビン酸誘導体の探索を行うことを本研究の目的とした。 【2位水酸基のグルコースが活性に与える影響】  まず初めに、6-sPalm-AA-2Gの2位水酸基におけるグルコシル基がラット好塩基球性白血病細胞における脱顆粒抑制作用に対して与える影響を評価した。2位水酸基にグルコースを有していない6-O-palmitoyl-L-ascorbic acid (6-Palm-AA、図2)は、6-sPalm-AA-2Gよりも高い脱顆粒抑制作用を示し、グ
  • 繁森 英幸, 長谷川 剛, 大宮 由芽, 小出 麻友美, 山田 小須弥, 長谷川 宏司
    p. 481-486-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    植物における光屈性および重力屈性現象については、これまで「オ-キシンが光側から影側に移動(光屈性)または上側から下側へ移動(重力屈性)することによって屈曲する」というCholodny-Went 説によって説明されてきた。一方で、「オ-キシンの横移動は全く起こらず、光側組織で成長抑制物質が生成されることによって光方向に屈曲する」という新たな光屈性の仮説 (Bruinsma-Hasegawa説)が提唱され、重力屈性についても同様に成長抑制物質が関与することが示唆された(図1)1-6)。そこで本研究では、Bruinsma-Hasegawa説に基づき、エンドウ芽生えからその重力屈性に関わる生理活性物質を見出し、それを用いて分子レベルでの作用機構の解明を行うことを目的とする。 図1.光屈性の仮説(左図、中央図)と重力屈性の仮説(右図) 1.アラスカエンドウと重力応答突然変異体ageotropumの重力屈性現象の観察 アラスカエンドウ(Pisum sativum L. cv. Alaska)と重力応答突然変異体ageotropumの黄化芽生えについて、重力刺激による観察を行った。3.5日間、暗所、23.5℃下で発芽・成育させた黄化アラスカエンドウ芽生えの頂端部より、2 mmと12 mm下のところにイオン交換樹脂をラノリンを用いて付着させた。その後、暗所下で芽生えの屈曲角度ならびに成長について赤外線カメラを用いて5分間隔で撮影を行い、その画像をもとに屈曲角度ならびに成長速度を調べた。黄化アラスカエンドウ芽生えを水平に横たえて重力刺激を与えると、その芽生えは約10分後に屈曲し始めたがageotropum芽生えにおいてはほとんど屈曲しなかった(図2)。次に、成長速度解析の結果、垂直に保った芽生えの成長速度に比べ、横たえた芽生えの上側組織の成長速度は重力刺激約10分後から低下した。一方、下側組織の成長速度の変化のタイミングは上側組織に比べて遅く、重力刺激約30分後から上昇した。一方、黄化ageotropum芽生えにおいては、水平に横たえても上側組織および下側組織の成長速度の変化はほとんど認められなかった(図3)。
  • 田村 理, 岡田 麻衣子, 加藤 茂明, 篠田 康晴, 塩田 倫史, 福永 浩司, 程(宇井) 久美子, 上田 実
    p. 487-492-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【序論】  医薬品開発の元となる分子や生命現象の解明に役立つツールなどは、天然資源をソースとして探索されることが多いが、これまでに多くの研究者が多数の化合物を単離・構造決定してきており、同様のコンセプトや方法によって新規な生理活性物質を見出すことが年々難しくなってきている。一方で、分子生物学の発展に伴い、既存の生理活性物質に全く別の新規な活性が発見される事例も近年散見されるようになってきた。このような観点から、我々は天然物の世界において数多く存在している配糖体に関心を持った。これまで配糖体は、生理活性を示すアグリコン部に糖を結合させることで不活性化した、排泄や貯蔵のための誘導体であると考えられてきた。しかし、特異な多官能基性分子であるそのアグリコンが有する生物活性を、活性試験からスクリーニングする試みはあまり行われていない。そこで、我々は、強心配糖体として良く知られる「ウアバイン」とそのアグリコンである「ウアバゲニン」に着目した(Fig. 1)。  ウアバインはキョウチクトウ科植物などに含まれるステロイド配糖体であり、心筋に作用してその収縮力を高めることから、鬱血性心不全や不整脈の治療に古くから用いられてきた1。しかしながら、近年ウアバインなどの強心配糖体がヒトを含めた哺乳動物の体内からも微量成分として見出されており、これらは内因性ジキタリス様物質と呼称されている。中でもウアバインは副腎組織から初めて同定された内因性ジキタリス様物質であり、現在では血圧調節に関与する内因性リガンドであると考えられている2。ウアバインの作用メカニズムは長年不明であったが、その標的分子がNa/K-ATPaseであることが明らかとなり、3位水酸基上の糖部(ラムノース)がその親和性獲得に重要な役割を果たしていることが、X線結晶構造解析から示されている。一方、ウアバインのアグリコンであるウアバゲニンについてはほとんど研究例がなく、Na/K-ATPaseへの親和性は著しく低く、特異的な標的分子や生理活性についても全く知られていなかったため、単にウアバインの不活性な生合成前駆体であるとみなされていた。しかしながら、ウアバゲニンは、ステロイド骨格に6個の水酸基が結合したオキシステロール類の一種であると捉えることが可能であり、近年オキシステロールには多様な生理活性が次々と明らかにされていることから、ウアバゲニンにもウアバインとは異なる何らかの生理活性が存在するのではないかと考え、その標的分子探索を含めた機能解明に着手した。
  • 坂井 健男, 江﨑 雄都, 北村 祐樹, 秦 光平, 尾本 弓実, 波多野 良紀, 常川 真里菜, 榊原 英晃, 堀 泰子, 山崎 稚奈, ...
    p. 493-498-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【序論】 Gymnocin-B (1)1)は赤潮渦鞭毛藻Karenia mikimotoiから単離構造決定された、マウス白血病細胞P388に対する細胞毒性(IC¬50 = 1.7 g/mL) を有するポリ環状エーテル海洋天然物である。A環からO環まで連なる巨大な梯子状構造が一番の特徴で、その15個というエーテル環の連続縮環数は世界で第2番目の長大さを誇る。我々は、これまでに長大なポリ環状エーテルの合成手法として、オキシラニルアニオン収束合成法を確立し2)、同手法の反復利用による14環性ポリ環状エーテルgymnocin-Aを全合成している3)。Gymnocin-Bは、gymonocin-Aよりも縮環エーテル数が1つ多いだけでなく、1)核間メチル基を持つ5-7員環システムのAB環、2)7-7員環システムを持つGH環、3)水酸基と核間メチルが連続した7-6員環システムのJK環、4)シン-2,7-ジメチルオキセパンであるO環など、gymnocin-Aとは異なる合成が難しいエーテル環システムが存在しており、より挑戦的な合成ターゲットである。  オキシラニルアニオン法を用いて合成の最終段階でEF環部位とJK環部位の構築を行うようにgymnocin-Bを逆合成し、ABCD, GHI, LMNOの3つのフラグメント2-4に分割した(Scheme 1)。こうすることで、問題となるAB, GH, O環部位を3つのフラグメントに分散でき、それぞれの合成を平行して効率的に検討することができる。今回、ABCDおよびGHIフラグメントの合成を達成し、LMNOフラグメント合成の鍵となるO環部位の構築法を開発することに成功した。合わせて、右二つのフラグメント連結時に問題となるJK環部位の構築法を確立したので報告する。 Scheme 1. Gymnocin-Bの逆合成解析
  • 笠松 暁輝, 白岩 潤也, 松澤 彰信, 杉田 和幸
    p. 499-504-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    boscartin類は、2015 年にboswellia carteriiのゴム樹脂より単離されたセンブラン型ジテルペンである1)。小胞体ストレス応答関連転写因子であるX-ボックス結合タンパク質1に作用することで、抗潰瘍性大腸炎活性を示すことが報告されており、新たな医薬品のリード化合物として期待されている。そこで我々は、高活性を示す(-)-boscartin Fを標的化合物に設定し、合成研究を実施した。今回、保護基を用いることなく、(-)-boscartin Fの短工程かつ高選択的な不斉全合成を達成したため、報告する。 1. 合成計画  逆合成解析は次のように行なった(Scheme 1)。(-)-boscartin Fは、閉環メタセシスによって炭素骨格を構築した後、エポキシ化を行うことで合成する計画を立てた。閉環前駆体であるβ-ヒドロキシケトン2は、ジアステレオ選択的アルドール反応によって、アルデヒド3とケトン4から合成可能であると考えた。ボトムハーフフラグメントであるアルデヒド3は、アルコール5の分子内環化によるTHF環形成の後に官能基変換をすることで合成できると考えた。また、光学活性アルコール5は、アリルアルコール7からシャープレス不斉エポキシ化によって容易に合成できる、エポキシアルコール6から誘導することにした。 2.ラセミ体での合成  まず、鍵反応の閉環メタセシスをはじめとする合成経路を確立するために、ラセミ体での合成を行った(Scheme 2)。市販のβ-ケトエステル8に対して、アルキル化、脱炭酸を行いケトン10へと変換した後、アリルマグネシウムクロライドによるアリ
  • Jin Cui, Toshifumi Takeuchi, Akimichi Ohtsuki, Takumi Watanabe, Naoya ...
    p. 505-510-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    syn-β-Hydroxy-α-vinyl carboxylic acid derivatives are versatile intermediates that have found widespread use in the synthesis of natural products, particularly those of polyketide origin. Evans aldol reactions of chiral crotonate imides 1, triggered by a stoichiometric amount of boron Lewis acid/amine base, have long been used to access this class of compounds with excellent stereocontrol (Firgure 1).1) Despite considerable advances in direct catalytic asymmetric aldol reactions, a diastereo- and enantioselective synthesis of the syn-β-hydroxy α-vinyl adducts in a direct-type reaction manifold has remained elusive. Herein, we report the successful exploitation of direct catalytic asymmetric aldol reactions of α-vinyl thioacetamide and α-vinyl acetamide, respectively, for the atom-economic and stereoselective preparation of this useful molecular architecture and its application to natural product asymmetric synthesis. Strategic use of the vinyl group in the aldol adducts enabled access to the stereoselective synthesis of key synthetic intermediates for blumiolide C and kainic acid. We first describe the use of thioamide 4b as a versatile aldol donor.2) A standard catalytic system comprising mesitylcopper/(R,R)-Ph-BPE/5a was already identified for 4a,3) promoting a direct aldol reaction with hydrocinnamaldehyde 3 to afford the (2R,3S)-syn product 6aa with high stereoselectivity (Scheme 1). However, in such conditions, the aldol reaction with α-vinyl thioacetamide 4b exhibited significantly worse stereoselectivity and the antipodal (2S,3R)-syn-6bb was preferentially obtained. Screening of catalysts prepared with phenol derivatives produced divergent reaction outcomes. Generally, phenols bearing non-coordinative alkyl groups at the ortho-position favored the formation of irregular product (2S,3R)-syn-6bb as observed with 5a, and enantioselectivity was proportional to the apparent steric bias of the phenols (in the order of 2,6-dimethylphenol 5b, chromanol deriv
  • 前田 和人, 鬼束 聡明, 濱田 季之, 岡村 浩昭
    p. 511-516-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    (概要) 今回発表者らは、dihydronaphtalenelignan であるhyptoside ((±)-1)および類縁体(±)-2–4の初の全合成を達成した。この合成は収束的合成手法を用いており、多様な類縁体合成に適応できる。また、今回合成した(±)-1–4 の1Hおよび13C NMRデータは単離報告論文に記載されたものとは一致せず、4種のdihydronaphtalenelignan類すべての文献報告構造が誤っていると断定した。このうち、2については、修正候補化合物の合成及び分光学的データより、単離報告された2は既知化合物である(+)--apopicropodophyllin 2’を誤帰属したものであると結論づけた。本発表では(±)-1および類縁体(±)-2-4の初の全合成ならびに構造訂正の詳細について述べる。 (序論) 1 は2012 年にシソ科植物Hyptis verticillata Jacq.の葉より濱田らによって単離・構造決定されたリグナンである1)。構造的特徴として、① A-Eの5つの環構造 ② 8 - 8’位の2重結合 ③ 9位のカルボニル基 を有しdihydronaphtalene型の珍しいリグナンである。これまで、この種の化合物の天然からの単離報告は1-4のみであり、合成報告はない。生物活性としては、1及び2に、成人T細胞白血病患者由来のS1T細胞に対し強い細胞傷害性を示すことが報告され、新規薬剤のリード化合物として期待されている2)。 今回発表者は、ターゲットとしている4種のdihydronaphtalenelignan類の合成法の確立および有用な生物活性を有する1の創薬研究への展開を目的に合成研究に着手した。
  • 鈴木 拓郎, 棚田 文也, 伊藤 元気, 竹田 幸司, 穴田 仁洋, 松永 茂樹, 橋本 俊一
    p. 517-522-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    1. 研究背景  18E-リングビアロシドC (1)は、2010年にLueschらによってグアム近海産の藍藻類Lyngbya bouilloniiより単離、構造決定されたグリコシドマクロライドであり、腫瘍細胞に対して細胞毒性(IC50; HeLa細胞: 9.3 µM, HT29細胞: 13 µM)を示すことが知られている1)。構造上の特徴として6員環ヘミアセタール構造とブロモジエン側鎖をもつ14員環マクロラクトンからなるアグリコン部分のエステル結合が、他のマクロライドには類を見ない第3級アルコールに由来する点があげられる。2015年に不破らによって類縁体であるリングビアロシドBの全合成が達成され、その立体化学が訂正された後2a, 2b)、TaylorらによってリングビアロシドCの全合成が達成され、同様にC10位、C11位およびC13位の立体化学が訂正された2c)。  我々はこれまでに二核ロジウム(II)アミダート錯体Rh2(S-BPTPI)4 (2)を開発し、不斉ヘテロDiels–Alder (HDA)反応においてジヒドロピラノン誘導体が完璧なendo選択性かつ高いエナンチオ選択性で得られることを見出している(eq. 1)3)。今回我々は、18E-リングビアロシドC (1)のもつ生物活性と特異な構造に着目し、ロジウム(II)触媒を用いた不斉HDA反応の応用研究として本化合物の全合成研究に着手した。 2. 合成計画  逆合成解析をScheme 1に示した。以前我々はマクロラクトン化によるコア構造3の構築を検討していたが4)、セコ酸を用いたマクロラクトン化は困難であった。そこでコア構造3はC1–C8フラグメント4とC9–C16フラグメント5とのエステル化によるカップリング、続く閉環メタセシスによって構築することとした。それぞれのフラグメントは二核ロジウム(II)触媒を用いた不斉HDA反応によって得られるジヒドロピラノン7、11をそれぞれ変換することによって合成することとした。
  • 浅川 倫宏, 村上 はる香, 村松 義浩, 徳丸 陽平, 石川 諒, 塚口 雄太, 飛坐 愛輝, 谷口 透, 近藤 満, 稲井 誠, 大内 ...
    p. 523-528-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    ハイブリッド型天然物は、生合成経路の異なる構造単位を複数有する天然有機化合物である。その多様性と特異な構造に起因する生理活性が期待され、創薬分野への展開を目指し研究が進められてきた。ハイブリッド型天然物の代表的なものに、複数の炭素骨格が融合したポリフェノール類がある。当研究室では、ハイブリッド型ポリフェノールの複雑な構造と生物活性に興味を抱き、フラボン−ジヒドロベンゾフラン構造を持つソホラフラバノンH (1) やフロフラン−ジヒドロベンゾフラン構造を持つヘジオトール A (2)、フロフラン−ベンゾジオキサン構造を持つプリンセピン (3) の合成研究を展開してきた(Figure 1)。 Figure 1. Structures of hybrid polyphenols.  これらハイブリッド型ポリフェノールは、先駆的な単離研究から構造決定がなされ、その複雑な構造が明らかとなった。しかしながら、その絶対立体配置に関しては、多くが同類構造からの推定に基づく。また、骨格構造単位ごとの立体配置が天然物と異なるジアステレオマーであっても、不斉点が離れていることからNMRスペクトル解析で得られる情報では識別が困難である。一方で、天然物そのものの化学的改変も、化合物の不安定さから正確な構造情報を得ることに問題が生じる。そこで、合成により天然型、非天然型化合物を合成し、立体情報を比較することで絶対立体配置の決定を進めている。今回、ハイブリッド型ポリフェノールであるソホラフラバノンH (1)の全合成を行い、円二色性(CD)情報から計算科学を利用して絶対立体配置の決定を行ったので報告する。
  • 横江 弘雅, 津吹 政可
    p. 529-534-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【研究背景】 Grandilodine C (1) 1) は、右図に示すような高歪多環アルカロイドであり、合成化学的に大変魅力的な構造を有しているが、これまでに報告されている全合成は、一例のみである2)。また、ガン細胞の獲得耐性により、無効化された薬剤の抗ガン活性を再生するという、いわゆる薬剤耐性克服作用を示すことから、新たな抗腫瘍剤開発シードとしても期待されている化合物である。1 の全合成を行う上で、上図太線で示した連続スピロ環骨格を如何に構築するかが、重要なポイントである。 我々はこれまでに、2のような前駆体から、連続して分子内環化反応が進行することで、ジスピロ体 3 が高ジアステレオ選択的に生成することを見出している3)。本反応では、2 のアルキン部が活性化され、中央の芳香環の ipso 位から 5-endo-dig 型環化が進行し、一つ目のスピロ環が形成される。二度目のスピロ環化反応は、生じたジアリルカチオン 4 または 5 を経て進行すると考えられるが、このとき、窒素原子上のメトキシカルボニル基とベンジル基との立体反発を避けるようにして、面選択的にカチオンが補足されることで、3 がジアステレオ選択的に得られたのだと説明できる (Scheme 1)。 Scheme 1
  • 塚野 千尋, 平家 崇吉, 西林 和也, Tagwa, A. Mohammed, 竹本 佳司
    p. 535-540-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【背景】 Shagene Aおよび Bは2014年にBakerらによって南米大陸と南極大陸の間に位置するスコシア海に生息する軟サンゴより単離・構造決定されたセスキテルペンである1 (Figure 1)。その平面構造と相対立体配置は高分解能質量分析およびROESYスペクトルを含む各種NMR測スペクトルにより決定されているが、絶対配置は未決定である。構造的な特徴として、三, 六, 五員環が縮環した新規三環性骨格に六つまたは七つの連続した不斉中心を持つ点、および、シクロプロパン環の主鎖置換基が全て同一面方向に位置する構造(以下、全シス置換構造と呼ぶ)が挙げられる。Shagene Aはリーシュマニア症の原因原虫Leishmania Donovaniに対して強い毒性(IC50 = 5 μM)を示す一方で、ほ乳類細胞には毒性を示さないことが報告されている。興味深いことにshagene Bについては上述のリーシュマニア症に対する活性が認められないことから、8位メトキシ基が活性発現に重要であると指摘されている。Shagene類に関する合成研究はこれまで報告されていない。我々はこのリーシュマニア症シード化合物となりうる生物活性に加え、全シス置換構造に起因する合成的難しさに興味を持ち、立体選択的な合成を目指して研究に着手した。 【合成計画】 Shagene類の合成上の課題は、三環性骨格上の連続する不斉中心、および、シクロプロパン環上の置換基の立体選択的な構築である。我々はこれまでにアレンのシクロプロパン化と続くアルキリデンシクロプロパンの異性化による全シス置換シクロプロパンの構築法を基盤とした構造関連天然物の全合成を報告している2。これら研究の知見を発展させれば、shagene類のシクロプロパン環上の置換基を立体選択的に構築できると期待した。具体的にはshagene A (1)およびB (2)はアリルアルコール4から酸化的1,3-転位と保護基の変換により合成するものとし、4の全シス置換シクロプロパンはアルキリデンシクロプロパン5のIr触媒による立体選択的異性化で構築する(Scheme 1)。通常反応性の低い四置換オレフィンを末端オレフィンに異性化させる報告はこれまでなく、本変換ではケトンを配向基として紙面裏側からIr触媒を接近させることでこれを実現することを狙った(5→4)。続いて、アルキリデンシクロプロパン5はα-ジアゾ-β-ケトニトリル7のシクロプロパンと閉環メタセシス反応を鍵として合成する(7→6→5)。アレンを分子内に持つα-ジアゾ-β-ケトニトリルのシクロプロパン化のジアステレオ選択性は明らかではなく、置換基Rのかさ高さ、および、電子的要因を検討して高い選択性で実現することを目指した。
  • 臼杵 克之助, 濱田 千絵, 竹内 大貴, 小川 洸, 佐藤 哲也
    p. 541-546-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    JBIR-06 (1)は2008年に新家らにより放線菌Streptomyces sp. ML55株の培養物から、グルコース飢餓環境下における特異的な分子シャペロンGRP78の発現抑制活性を指標として単離された、12員環トリラクトンに3-(ホルミルアミノ)-2-ヒドロキシ安息香酸がアミド結合した構造を有する化合物である(Figure 1)1a。固形癌細胞では、血管新生が癌細胞の増殖に追いつけず、正常細胞と比較するとグルコースおよび酸素が欠乏した状態にある。このような栄養飢餓ストレス下で生存するために、GRP78を高発現する耐性メカニズム(小胞体ストレス応答)を亢進させている。JBIR-06はグルコース飢餓環境下において特異的にGRP78 発現を抑制するため、固形癌選択的な抗腫瘍剤の創薬シーズとして期待される。これまで、私たちはプルヌスタチンA (2)に代表される、15員環テトララクトン構造を有するネオアンチマイシン系抗生物質の構造とGRP78発現抑制活性などの生物活性に興味を持ち、合成研究を行ってきた2-4。ラクトン環の大きさに違いがあるものの、どちらも3-(ホルミルアミノ)-2-ヒドロキシ安息香酸がL-トレオニン残基にアミド結合しており、β-ケトエステル部分も共通している。GRP78発現抑制活性は、1が262 nMであるのに対して2は1.9 nMである。共通の部分構造が何らかのかたちで活性発現に関与しているのではないかと考えた。 Figure 1 また、1に存在する5つの不斉中心のうち、トレオニン残基に由来するC6とC7の絶対立体配置は、Marfey法により(6S, 7R)と決定されたが、残り3つの不斉中心の立体構造がまだ決定されていなかった。そこで、1の立体化学を(2S, 4S, 14S)と仮定して全合成を試み、JBIR-06の立体化学を決定することに成功したので、その詳細を報告する。 【合成戦略】 まず、15員環テトララクトン構造を有するネオアンチマイシン系抗生物質の合成経路2-4を参考にして、環化前駆体4の分子内エステル交換反応による12員環構築を試みたが、所望の反応よりも脱炭酸が進行する結果となった(Scheme 1)。
  • 毛利 朋世, 高橋 祐介, 權 垠相, 桑原 重文, 小倉 由資
    p. 547-552-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【序論】(–)-Isocelorbicol (1)は1976年にSmithらによってニシキギ科の植物であるツルウメモドキ (Celastrus orbicrutus)の種子油けん化物より単離・構造決定されたジヒドロ-β-アガロフラン骨格を有するセスキテルペンであり、7つの不斉炭素を有する1。本化合物の生物活性は不明であるが、その3つの水酸基が種々のカルボン酸とのエステルになった天然物には抗がん活性 (2)、抗ウイルス活性 (3)、神経保護作用 (4)など、多様な有用生理活性が報告されている2,3,4。そのため1とその関連化合物は医薬・農薬開発の起点となり得る化合物として多くの研究者の注目を集めている5。我々は、(–)-isocelorbicol (1)の高立体選択的な全合成がβ-アガロフラン骨格を有する様々な天然物の効率的な合成手法の確立につながると考え、その合成研究に着手した。これまでに1の全合成例は4例報告されているが、いずれも工程数や通算収率、立体化学の制御に改善の余地を残すものであった6-9。今回我々は1が有する7つの不斉中心全ての立体化学を極めて高度に制御できる合成戦略を立案し、その全合成を達成したため以下に報告する。 【逆合成解析】1を合成するにあたって重要なのは効率的な骨格構築と酸素官能基の立体選択的な導入である。特に10位の不斉四級炭素を含む4, 5, 10, 9位の4連続不斉炭素の構築は本全合成研究における挑戦的課題といえる。これを念頭に置いて我々は1を得るための逆合成解析を行った (Scheme 1)。まず1はβ-アガロフラン骨格を有する5のジヒドロキシ化により得られると考えた。本酸化反応は架橋エーテル部位とPNBオキシ基が立体的により大きく寄与することを期待して、所望の面から反応が進行すると予想した。5のβ-アガロフラン骨格は6に対する閉環メタセシスと続くエーテル環化によって構築できるとし、6はスピロラクトン7の1炭素増炭によって得られるとした。7は、α, β-不飽和スピロブテノリド8からその立体的制約を利用した1,4-還元と脱炭酸を行うことで調製できると考えた。8はケトン9に対
  • 早川 嘉樹, 中村 謙介, Loida O. Casalme, 梅澤 大樹, 松田 冬彦
    p. 553-558-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    海洋環境の汚染物質として、船底付着阻害剤が挙げられる。海洋付着生物が船底に付着すると、船舶の推進性能に悪影響を与えるため、船底付着阻害剤が使用されてきた。従来の有機スズ化合物を含有する阻害剤は、微量であってもオスの巻貝をメス化させるため、使用が禁止された。そのため、環境にやさしい新規付着阻害剤の開発が望まれている。 Dolastatin 16 (1)は、アメフラシから単離された天然有機化合物である。1) 本化合物は、タテジマフジツボのキプリス幼生に対する強い付着阻害活性と低毒性を併せ持つことから、新規阻害剤のリード化合物として注目を集めている。2) 当研究室では、1の全合成を達成している。3) 次に、活性発現機構解明に向けた構造-活性相関研究を本研究の目的とした。本発表では、1のX部やY部あるいはZ部のいずれかを官能基化した、誘導体2の合成について発表する。 これまでに、上側フラグメントと下側フラグメントにわけ、これらをカップリング及びマクロラクトン化することで全合成を達成している (Scheme 1, X=Y=Z=H)。同様の合成経路を用いる2の合成を計画した。すなわち、XあるいはY部の官能基化は、プロリンの代わりに市販の4-ヒドロキシプロリンを用いることで上側フラグメントを合成する。Z部の官能基化は、先に報告した異常アミノ酸 (dolaphenvaline)の合成法を用いて官能基化することで下側フラグメントを合成することとした。
  • 岡野 健太郎, 森井 一樹, 山根 由暉, 森 敦紀
    p. 559-563-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【緒言】1985年にFaulknerらによってラメラリンA–Dが単離,構造決定されてから,1現在までに置換様式の異なる70種類以上の類縁化合物が見出されている。これらの化合物群は,HIVインテグラーゼ阻害活性や抗腫瘍活性をはじめとして,多様な生物活性を示すことから合成化学者の興味を集め,現在までに数多くの合成が達成されてきた。2電子豊富な芳香環を複数有する全置換ピロールを含んだ,構造的にもユニークな化合物であり,いかに位置選択的に置換基を導入するかが合成の鍵である。  最近,当研究室では,多置換アリール化ヘテロ芳香族化合物の合成法として,ワンポットハロゲンダンス・根岸カップリングを開発し,テトラアリールチオフェンなどの位置選択的な合成を報告している。3本変換では,ハロゲンダンスにより生じたチエニルリチウムをトランスメタル化により有機亜鉛反応剤へ変換し,対応するヨウ化アリールとクロスカップリングさせることで,続く変換の足がかりとなるブロモ基を備えた化合物が得られる。特に,,-ジブロモ化合物から誘導可能な,,-ジブロモ体は,二つのブロモ基の反応性が大きく異なるため,例えば,ワンポットで二度の鈴木宮浦カップリングを実施することもでき,ヘテロ芳香族化合物の位置選択的な合成への応用が期待できる。  一方で,これまでにハロゲンダンスが進行するヘテロ芳香族は,ほとんどの報告においてチオフェンやフランに限られており,ピロールの報告例はなかった。われわれは,ハロゲンダンスの基質一般性の向上を目的として検討を行った結果,脱プロトンを加速させるオキサゾリンを利用すると,これまで報告例がなかったピロールを用いてもハロゲンダンスが進行することがわかった。すなわち,オキサゾリン
  • 原田 研一, 板東 莉奈, 入交 諒, 座波 克圭, 久保 美和, 郡山 恵樹, 福山 愛保
    p. 565-570-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    脳神経細胞の変性と萎縮を伴う認知障害疾患アルツハイマー病は、高齢化の進行とともにその患者数が増加の一途を辿っている。未だその根本的治療法は確立されておらず様々な側面から治療薬の開発が研究されているなか、脳神経系において細胞の分化、成熟、生存維持などの一連の生命活動を担っている神経栄養因子の利用が注目されている。しかし、神経栄養因子は脳室内への直接投与では認知機能の改善が     図1. タラウミジンと誘導体の構造 認められるものの、タンパク質である ため抹消投与では分解されやすく、また血液脳関門を通過しにくいことから臨床応用には至っていない。1 このような背景のもと、我々は神経栄養因子と同等の活性を有する低分子化合物の探索研究をおこない、数種の活性化合物を報告してきた。そのひとつであるブラジル産植物Aristrochia arcuataから単離されたタラウミジン (1) は、PC12細胞およびラット胎児大脳皮質由来初代培養神経細胞に対して突起伸展促進活性と細胞死保護活性を併せ持つ非常に珍しい化合物である。2,3 1は脂溶性の高いコンパクトなリグナン構造であることから脳への移行性も高く、アルツハイマー病治療薬への展開が注目されている。我々は以前にタラウミジンの不斉全合成および全立体異性体の網羅的合成を達成し、立体化学と活性との相関を調べた結果、立体異性体 ()-(2S,3R,4S,5R)-2が天然物よりも強力な活性を示すことを見出した。4,5 今回、タラウミジン誘導体をアルツハイマー病治療薬へと展開すべく、以下の創薬研究に取り組んだ。1) 誘導体合成およびin vivo実験を可能にする大量合成を目指したタラウミジン誘導体の短段階合成法の開発、2) 各種誘導体合成による活性増強、3) 構造活性相関による活性必須構造の特定、4) in vivo実験によるタラウミジン誘導体の視神経再生活性の評価、本討論会ではこれらの詳細な結果について発表する。 1) タラウミジン誘導体の短段階合成  これまでの研究により強力な活性を示すタラウミジンとその立体異性体 ()-2を見いだすことに成功したが、それらを合成するには反応段階が多く、活性物質を大量に供給するには問題があった。そこで短段階で合成できる活性物質の創製に着手した。これまでの研究からタラウミジンはエナンチオマー間では活性に差がないことがわかっていることから、光学活性体 ()-2はラセミ体としても同等の活性を有することが示唆される。そこでまず ()-2のラセミ化合物2aを合成ターゲットとし、
  • 早川 皓太郎, 花木 祐輔, 徳田 春邦, 柳田 亮, 中川 優, 入江 一浩
    p. 571-576-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【研究背景・目的】 Protein kinase C (PKC) は細胞の増殖,分化,アポトーシスなどのシグナル伝達に関わるセリン/スレオニンリン酸化酵素である.そのため,PKCはがん治療における標的酵素の一つとして注目されている.天然には12-O-tetradecanoylphorbol 13-acetate (TPA), aplysiatoxin (ATX) とその脱臭素体・debromoaplysiatoxin (DAT) など様々なPKC活性化物質が存在するが (Figure 1), その多くは発がん促進活性,炎症活性などの重篤な副作用を示すため,直接抗がん剤として用いることはできない.本研究グループは,ATXの構造に着目し,その構造を分子疎水性度の低下,化学的安定性の向上といった観点から単純化することにより,副作用を取り除き,がん細胞増殖抑制活性を選択的に残した10-Me-Aplog-1 (1) の開発に成功している (Figure 1).1) 化合物1は,DATの活性を凌ぐがん細胞増殖抑制活性を有していることから,当研究室における最も有望な抗がん剤シーズと言えるが,その合成には最長直線工程数で23段階必要であり,総収率は1.1%にすぎない.そのため,実用的な抗がん剤の開発に向けて工程数を減らし収率を高めたアナログ開発が求められていた. 本研究グループでは,岸ら(ハーバード大)がATX合成時に,3位ヘミアセタール構造,スピロ環ならびにマクロラクトン環を同時構築して合成段階数を削減し
  • 細谷 圭介, 小田木 陽, 長澤 和夫
    p. 577-582-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【背景】  ヒドロカルバゾール構造は、10-Methoxy- aspidospermidine (1) やVincorine (2) 等のモノテルペンインドールアルカロイド類(MIA)に広く見出される構造である(Figure 1)。そのため、当該構造を効率的に構築可能な手法の開発が求められている。  フェノールの脱芳香族化を伴う酸化的環化反応は、複雑な多環性骨格を構築する上で有用な方法論であり、様々な天然物の合成研究に用いられている1。しかしながら、当該反応による6-5-6員環構造の構築は、生成物が高度に歪んだ構造を取ることから困難であり、実際にこれまでの報告は数例に留まる2。特に、含窒素5員環を形成する手法の報告例は、TangらによるPd触媒を用いた1例のみである3。 一方当研究室では近年、ヒガンバナ科アルカロイドの一種である (+)-Gracilamine (3) の合成研究において、超原子価ヨウ素試薬を用いた酸化的環化反応により、3のABE環部の構築に成功している4。すなわち、ジアリールメタン誘導体4に対し、ヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP)中、ジアセトキシヨードベンゼン(PIDA)を作用させることで酸化的環化反応が進行し、ヒドロフルオレン型ジエノン5が得られることを見出している(Scheme 1a)。 そこで本研究では、上記の知見を基盤とし、超原子価ヨウ素試薬を用いたジアリールアミン誘導体6の酸化的環化反応による、ヒドロカルバゾール型ジエノン7の合成法の開発を行った(Scheme 1b)。また、得られた7に対し種々誘導体化を行うことで、1の骨格構造を合成したので報告する。 Scheme 1. 超原子価ヨウ素試薬を用いた酸化的環化反応
  • 山田 康司, 阿部 匠
    p. 583-588-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【研究背景・目的】   アフリカ固有の灌木Cryptolepis sanguinolentaは、西アフリカ民族医学において、マラリア、細菌性呼吸器疾患、高血圧、下痢などの様々な病気の治療に使用されている重要な植物である。本植物の根の主成分であるcryptolepine (1) は、1931年に最初に単離されたインドロキノリンアルカロイドであり、その後、quindoline (2)、cryptolepinone (3)、11-isopropylcryptolepine (4)や、biscryptolepine (5)、cryptolepicarboline (6)、cryptoquindoline (7)、cryptospirolepine (8)といった二量体やスピロ体なども同植物から単離されている(Figure 1)。1,2) 特にcryptolepineへの関心は高く、本化合物をリードとする広範な研究により、抗マラリアをはじめ、抗腫瘍、抗炎症、降圧、抗血栓、抗糖尿病、抗菌、解熱など様々な薬理効果が見出されている。このような背景からインドロキノリンアルカロイドは、格好の合成標的となっており、これまで数多くの合成例が報告されている。3) Cryptolepine (1)の全合成に関してみると、その経路はquindoline (2)を形成後、N-メチル化することで1へと導いており、いかにしてquindolineを構築するかに重点が置かれている。  我々は、cryptolepineをインドールパーツとアニリンパーツとに分け、これらを組み合わせた後に環化する合成経路を想定した。そして、この縮合を可能にするインドールパーツとして、これまで有機合成に利用されていないインドール-2,3-エポキシドを設定した。本研究では不安定なエポキシド等価体の開発と反応性を確立し、その反応性を利用してcryptolepine (1)の全合成を達成することを目的としている。 【逆合成解析】  Cryptolepine (1)は、インドロ[3,2-b]キノリン骨格とその5位窒素上にメチル基を有する。我々は、3-アミノインドール体9bの2位ホルミル化と続く環化によりキノリン環を形成して1を合成できると考えた(Scheme 1)。インドール9bは2-ヒドロ
  • 横山 初, 松尾 愛, 宮澤 眞宏
    p. 589-594-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【背景・目的】  赤潮などの重大な漁業被害を引き起こす海産毒にポリエーテル類(Figure 1)が存在する。例えば、brevetoxinBは6~8員環エーテルが連続している天然物であり、さらにmaitotoxinは32環のエーテル環が連なっている巨大分子である。一方、自然界には5員環エーテル環を有する天然物も多く存在する。その中でもバンレイシ科植物より単離されたアセトゲニン類(Figure 2)があり、その生物活性の大部分は未解明である。これまでこのようなポリエーテル類やアセトゲニン類の合成は多くの報告がなされてきた。当研究室ではこれまでパラジウム2価触媒の付加環化反応を用いて、その応用としての合成研究を行ってきた。近年、Au(I)触媒に新たに着目し、その付加環化反応を用いて天然物合成を検討している1)。今回はその中から、ポリエーテル類とアセトゲニン類の合成に関して新規な知見を得たので報告する。 Figure 1 ポリエーテル類 Figure 2 アセトゲニン類 【Au(I)触媒の付加環化反応によるポリエーテル類の合成研究2)】  Au(I)触媒の付加環化反応は近年、多く報告されているが、その報告はアルキンに
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