天理医学紀要
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15 巻, 1 号
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巻頭言
特別講演
原著
  • 大野 仁嗣, 鴨田 吉正, 為金 現, 林 孝昌 , 鷹巣 晃昌
    原稿種別: 原著
    2012 年 15 巻 1 号 p. 15-24
    発行日: 2012/12/25
    公開日: 2013/02/26
    ジャーナル フリー
    電子付録
     成人T細胞白血病・リンパ腫(adult T-cell leukemia/lymphoma; ATLL)は西南日本で頻度が高いが,兵庫県立尼崎病院では地域的な特性のため,多くのATLL患者を診療している.2008年1月から2011年6月までの3.5年間に同院で診療したATLL患者19症例を検討した.
    結果:下山分類では,急性型7例,リンパ腫型8例,慢性型4例であった.年齢は53-95歳(中央値67歳),男女比17/2,17例中16例が九州・沖縄・四国地方の出身で,青年期に阪神地域に転入した.急性型が最も劇症で,performance statusのグレードが高く,肝脾腫や胸・腹水を伴うことが多く,LDH,可溶性IL-2レセプター,血清カルシウムが高値を示した.末梢血中の腫瘍細胞の特徴的な形態と,フローサイトメトリーによる活性化末梢性T細胞の免疫形質の検出によって,急性型の診断は容易であるが,リンパ節の病理形態は他の末梢性T細胞リンパ腫やホジキンリンパ腫の病理形態とオーバーラップした.染色体分析では8例にクローン性染色体異常,2例にadd(14)(q32)を認めた.急性型5例,リンパ腫型5例がLSG15/mLSG15プロトコールによる化学療法を受けた.6例が部分寛解または完全寛解に到達し,リンパ腫型4例が1年以上生存した.
    考案:今回の検討で認められた著しい男性優位は,尼崎地域の人口構成の特性を反映していると考えられる.ATLL患者の高齢化は全国的な傾向であるので,高齢者にも実施可能な治療戦略を確立する必要がある.
  • 林野 泰明, 福原 俊一, 野口 善令, 松井 邦彦, John W Peabody, 岡村 真太郎, 島田 利彦, 宮下 淳, 小崎 真 ...
    原稿種別: 原著
    2012 年 15 巻 1 号 p. 25-33
    発行日: 2012/12/25
    公開日: 2013/02/26
    ジャーナル フリー
     本研究の目的は,2004年の卒後医学教育改革前後の医療の質を比較することである.日本の8つの臨床研修指定病院において研修中の医師が本研究に参加した.参加した医師は,外来において頻度の高い疾患(糖尿病, 慢性閉塞性肺疾患,心血管疾患,うつ病)についての臨床シナリオに回答した.回答をエビデンスに基づいた診療の質の基準に照らしあわせて採点し,正答率スコアを算出した.ローテート研修が導入された前後でスコアの変化が生じたかを検証するために,2003年の参加者のスコアと,2008年の参加者のスコアを比較した.2003年では,141名(70.1%)が,2008 年には237名(72.3%)が参加に同意した.交絡因子を調整後も,両年の間にスコアの違いを認めなかった(2003 年からのスコアの変化 = 1.9%. 95% CI -1.8 to 5.8%).教育改革前の研修プログラムがストレート研修の施設ではスコアが 3.1% 改善しており,改革前にローテート研修を採用していた施設の改善度1.4% と比較して有意に高値であった.全般的には,2004 年の医学教育改革前後において,研修医の医療の質は変化していなかった.
症例報告
  • 鴨田 吉正, 中井 敦史, 宇山 紘史, 大野 仁嗣
    原稿種別: 症例報告
    2012 年 15 巻 1 号 p. 34-39
    発行日: 2012/12/25
    公開日: 2013/03/08
    ジャーナル フリー
    症例: 19歳男性.労作時息切れ,全身倦怠感,発熱などを自覚し近医受診,血液検査で白血球増多が認められたため,急性白血病を疑われて紹介入院となった.表在性リンパ節腫脹なし,肝脾腫なし.
    検査結果: 白血球27,700/μl,白血病細胞89.5 %,ヘモグロビン8.3 g/dl,血小板4.9×104/μl(前医で赤血球・血小板輸血後),LDH 1,300 IU/l. 骨髄は過形成で芽球から顆粒の豊富な前骨髄球レベルに分化した白血病細胞を65.7%認めた.ペルオキシダーゼ染色陽性,Auer小体陽性で,FAB分類ではM2に該当した.フローサイトメトリー検査では,CD13+,CD33+,CD34+,HLA-DR-/+で,リンパ球系のマーカーは陰性.染色体検査は46,XY,t(9;22)(q34;q11) [17] /46,XY [3],間期核FISHではBCR/ABL 融合シグナル22.5%陽性(minor BCRパターン),キメラmRNAはminor BCR/ABL 1×105copies/μg RNAであった.
    治療経過: イダマイシン+シタラビンによる寛解導入療法を行ったが白血病細胞が残存した.上記結果が判明した後, イマチニブの投与を開始したところ骨髄中の白血病細胞は増加傾向を示した.次いで,ダサチニブに変更したが白血病細胞はさらに増加した.チロシンキナーゼ阻害薬による治療は断念し,高用量シタラビンに変更したが治療に反応せず入院後4か月で死亡した.
    考案: 間期核FISHでt(9;22)/Ph陽性細胞は白血病細胞の一部を占めるに過ぎなかったことから,この染色体転座は二次的な異常であった可能性が高い.本例において,t(9;22)/Phとp190 BCR/ABL蛋白の発現が,AMLの発症・進行に果たした役割は限定的であったと考えられた.
  • 和泉 清隆, 辻村 朗, 飯岡 大 , 前迫 善智 , 赤坂 尚司, 中村 文彦, 御前 隆, 中川 美穂, 岸森 千幸, 福塚 勝弘, ...
    原稿種別: 症例報告
    2012 年 15 巻 1 号 p. 40-47
    発行日: 2012/12/25
    公開日: 2013/03/08
    ジャーナル フリー
    症例: 57歳女性.3か月前から左腰痛を自覚し次第に増強するため当院に紹介.入院時は疼痛のため仰臥位がとれない状態であった.
    検査結果: ヘモグロビン14.9 g/dl,血小板16.3×104/μl,白血球5,800/μl,LDH 520 IU/l,尿酸7.8 mg/dl,可溶性IL-2R 1,010 U/ml.CT で仙骨~左腸骨,左卵巣,右大腿骨近位部に腫瘍を認め,PET/CTでこれらの病変にFDGの集積を認めた.骨髄生検と腫瘍針生検で細胞質に空胞を有する大型の腫瘍細胞を認め,CD19+, 20+, 5, 10, SmIgκ+, BCL2+, Ki-67≒100%, DNA index 1.11であった.
    染色体・FISH解析: 染色体数50~51,1つまたは2つのder(14)とマーカー染色体を認めた.IgH, c-MYC, BCL6プローブを用いたFISHで,BCL6の再構成を伴うt(3;12;14)(q27;p12;q32)転座と,der(14)上のc-MYCIgHの再構成,またはマーカー染色体上のc-MYCとnon-IgH遺伝子との再構成を確認した.
    経過: R-CHOP, CODOX-M, DHAPプロトコールを順次実施し,治療開始6か月後に寛解状態に至った.
    考案: 本症例はc-MYCBCL6の遺伝子再構成を伴うdouble-hit lymphomaと考えられる.WHO分類に従うとB-cell lymphoma unclassifiable with features intermediate between diffuse large B-cell lymphoma and Burkitt lymphomaに該当すると考えられた.
  • 住友 理浩, 林 道治, 本庄 原
    原稿種別: 症例報告
    2012 年 15 巻 1 号 p. 48-52
    発行日: 2012/12/25
    公開日: 2013/03/08
    ジャーナル フリー
     子宮頸部由来の癌肉腫は非常にまれな腫瘍であり, 予後不良であると一般的には考えられている. 今回我々は, 子宮頸部由来の癌肉腫が子宮内膜と卵管に進展していたが, 初回治療後3年間無病生存している症例を経験したため, 若干の文献的考察を加え報告する.
     症例は61歳, 未経妊女性. 閉経後不正性器出血を主訴に当科外来を初診. 初診時の経腟超音波検査およびMRIでは, 子宮内膜腫瘍および充実部分を伴う両側付属器腫瘍を指摘. 卵巣転移を伴う子宮内膜癌との術前診断にて子宮及び両側付属器切除術を施行した. 病理組織学的検査にて, 子宮内頸部より外向発育性の腫瘍を認め, 同部には腺癌成分と軟骨肉腫成分を認めた. 腺癌成分と類似した癌腫成分を子宮内膜および卵管内膜に認めた. 子宮頸部由来の癌肉腫, および両腫瘍の子宮内膜,卵管転移と診断. シスプラチンおよびイホマイドによる術後全身化学療法を施行. 非常に厳しい予後が予想されたが, 初回治療後36か月の時点で無病生存中である. 子宮頸部由来の癌肉腫は子宮内膜由来の癌肉腫とは生物学的特性が異なる可能性が考えられた.
  • 飯岡 大, 高橋 佑典, 吉川 貴明, 津田 勝代, 中村 文彦, 御前 隆, 中川 美穂, 岸森 千幸, 福塚 勝弘, 奥村 敦子, 大 ...
    原稿種別: 症例報告
    2012 年 15 巻 1 号 p. 53-61
    発行日: 2012/12/25
    公開日: 2013/03/08
    ジャーナル フリー
    症例: 56歳女性.発熱が1か月以上続くため紹介入院.入院時体温39.6℃.
    検査結果: ヘモグロビン10.4 g/dL,血小板230×103/μL,白血球17.5×103/μL,成熟単球20.5%,CRP 17.0 mg/dL.骨髄は正形成で単球43.2%.単球は,MLL break-apart probeを用いた間期核FISHでスプリットシグナル陽性,メタフェーズFISHで3′MLLが19pに転座,RT-PCRでMLL-ELL融合mRNAを検出した.以上からt(11;19) (q23;p13.1); MLL-ELLを伴う慢性骨髄単球性白血病と診断した.CTで回盲部の腸管壁肥厚を認め,FDG-PET/CTで同部位に強い集積を認めた.大腸内視鏡検査で回盲部に多発性潰瘍病変が認められた.一方,上部消化管内視鏡検査で早期胃癌を合併していることが判明した.
    経過: 入院後も高熱が続いた.さらに口内炎と腹痛・下血をきたし,ヘモグロビン6.9 g/dLに低下した.プレドニゾロン30 mg/dayを経口投与したところ速やかに解熱し消化器症状も軽減した.全身状態が安定したところで早期胃癌に対して内視鏡的粘膜下層剥離術を実施した.血液学的にも貧血・単球増多が改善し,末梢血中のMLLスプリットシグナル陽性細胞は53.8%から6.1%に低下した.
     しかし治療開始4か月後に再燃した.白血病細胞は幼弱な形態を示し急性単球性白血病に進展したと考えられた.核型は47,XX,+8,t(11;19)(q23;p13.1).ish t(11;19)(5′MLL;3′MLL)であった.
    考察: 本症例に認められた回盲部の潰瘍病変は,慢性骨髄単球性白血病に合併した腫瘍随伴症候群と考えられる.文献検索によると,+8を有する骨髄系腫瘍と不全型・腸管型ベーチェット病の合併例が,特に我が国から数多く報告されている.本症例でも急性単球性白血病細胞に+8を認めたことから,本染色体異常と回盲部病変との関連が示唆された.
  • 田中 大喜, 岡田 雅行, 芝 剛, 塩見 夏子, 吉村 真一郎, 三木 直樹, 山中 忠太郎, 松村 正彦, 南部 光彦
    原稿種別: 症例報告
    2012 年 15 巻 1 号 p. 62-66
    発行日: 2012/12/25
    公開日: 2013/03/08
    ジャーナル フリー
     症例は8歳女児.主訴は発熱と紫斑.白血球数1,300/μl(好中球分葉核4.0%,好中球桿状核3.5%,リンパ球90.0%,単球1.0%,好酸球1.5%),血小板数2,000/μl,赤血球数363×104/μl,網状赤血球数1.09×104/μl,ヘモグロビン値10.1 g/dlであった.肝炎やファンコニー貧血を疑わせる臨床所見はなく,最重症の特発性再生不良性貧血と診断した.患児には同胞がいなかったため,ウサギ抗ヒト胸腺細胞グロブリン(ATG)とシクロスポリンを併用する免疫抑制療法を施行した.皮膚と眼球結膜に副作用が出現したが,メチルプレドニゾロンで対応した.好中球数,血小板数,ヘモグロビン値は,3か月後に部分寛解,6か月後に完全寛解の基準を満たした.なおリンパ球数は,500/μl以上となるのに5か月以上を要した.ウマATG製剤が製造中止となったが,ウサギATGを第1選択として使用する症例はまだ少なく,ウサギATGに残されている問題点を克服する上で参考となる貴重な症例である.
  • 脇坂 仁美, 庄司 和彦, 堀 龍介, 濵口 清海, 岡上 雄介, 藤村 真太郎
    原稿種別: 症例報告
    2012 年 15 巻 1 号 p. 67-72
    発行日: 2012/12/25
    公開日: 2013/03/08
    ジャーナル フリー
    1997年から2011年までの15年間に当科で手術治療した耳下腺腫瘍症例350例のうち,耳下腺脂肪腫の3例について報告する.2例が耳下腺浅葉,1例が耳下腺深葉に腫瘍が存在していた.画像検査や細胞診などから耳下腺脂肪腫を疑い,いずれも全身麻酔下に腫瘍を摘出した.2例は耳下腺腫瘍摘出術を行い,耳下腺脂肪腫症を合併した1例は耳下腺浅葉切除術を施行した.いずれの症例も術後合併症や術後再発はなかった.
  • 中塚 大介, 仁科 健, 金光 尚樹, 廣瀬 圭一, 五十嵐 仁, 堀 裕貴, 安水 大介, 谷口 尚範, 魚谷 健祐, 上田 裕一, ...
    原稿種別: 症例報告
    2012 年 15 巻 1 号 p. 73-78
    発行日: 2012/12/25
    公開日: 2013/03/08
    ジャーナル フリー
     左胸腔内穿破と下肢灌流障害を伴った急性A型大動脈解離に対して,弓部全置換術及びステントグラフト内挿術(thoracic endovascular aortic repair; TEVAR)を同日に施行した1例を経験したので報告する.症例は45歳の男性,胸背部痛を主訴に発症し,造影CTにて急性A型大動脈解離と診断された.術前,著明な血胸と下肢灌流不全を呈していたが,shock vitalではなかった.まず,急性A型大動脈解離に対して弓部全置換術を施行,術後の再穿破予防と下肢灌流不全の改善の目的で引き続き,ステントグラフト(Gore-Tex TAG ®)2本を用いたTEVARを同日に施行した.術後2日目に遅発性対麻痺を発症したが,脊髄ドレナージの施行,ナロキソン投与並びに副腎皮質ステロイド大量投与などにより症状は改善し,術後40日目には独歩退院した.胸腔内穿破を伴ったA型急性大動脈解離に対する術式選択と術後遅発性対麻痺について,文献的考察を加えて報告する.
  • 堀 裕貴, 金光 尚樹, 廣瀬 圭一, 中塚 大介, 五十嵐 仁, 安水 大介, 上田 裕一, 山中 一朗
    原稿種別: 症例報告
    2012 年 15 巻 1 号 p. 86-90
    発行日: 2012/12/25
    公開日: 2013/03/08
    ジャーナル フリー
     症例は43歳女性.基礎疾患のクローン病による癒着性イレウスを繰り返し,経腸栄養が不可能となったため,7年前に右鎖骨下静脈に長期留置型中心静脈カテーテルを留置し,中心静脈栄養を継続していた.1か月前からspiking fever をきたし,血液培養からメチシリン耐性黄色ブドウ球菌が検出された.心エコー,MRI で,右鎖骨下静脈,右内頸静脈,無名静脈から上大静脈にかけて血栓で閉塞しており,右房内に径20 mmの腫瘤を認めた.内科的加療による感染症コントロールが限界と考えられたため,カテーテル関連血流感染症を合併した上大静脈閉塞,右房内腫瘤に対して,全身麻酔下に胸骨正中切開で手術を開始した.右房斜切開で右房内を観察したところ,器質化血栓が右房壁・上大静脈壁に強固に癒着し,カテーテルの先端が露出していた.血栓をできる限り除去し,カテーテルを抜去した.次いで,上大静脈の前壁に自己心膜パッチを当て,4-0 Prolene 連続縫合で閉鎖し,右房も連続縫合で閉鎖した.術後経過は良好で感染所見も急速に改善した.現在は,右鎖骨下静脈に再留置したカテーテルを用いて中心静脈栄養を継続しており,術後6か月の時点では上大静脈の閉塞を認めない.しかし,自己心膜パッチを用いて形成した上大静脈が長期開存するかどうか今後の慎重なフォローアップが必要である.
総説
  • 前谷 俊三, 瀬川 義朗, 萬砂 秀雄, 大林 準, 西川 俊邦, 高橋 泰生
    原稿種別: 総説
    2012 年 15 巻 1 号 p. 91-104
    発行日: 2012/12/25
    公開日: 2013/03/08
    ジャーナル フリー
     近年,多くの疾患において予後推定は著しい進歩を遂げた.これまで予後は病期(例. ステージ1,ステージ2)や形容詞(例. 重い,軽い)でおおまかに表されることが多かった.今や予後は死亡など事象の発生する確率や,それまでの期間を用いて定量的に表されるのが普通となった.更にこれらの結果は,治療その他の予後因子と統計学的に関連づけられるようになった.しかし残念ながら,証拠に基づく医療に裏づけられたランダム化比較試験(RCT)の結果さえも,長期の臨床的観察結果と必ずしも一致しないことが認められている(例. 6MPによる急性リンパ性白血病の効果を調べた Acute Leukemia Group B の RCTや,広範リンパ節郭清の効果を調べた Dutch Gastric Cancer Group の RCT).このような食い違いの一因として統計モデルの不適切な使用が考えられる.本研究の目的は使用頻度の高いモデルを臨床医の視点から再評価し,それらが長期臨床的観察と一致するか, またそれらのパラメータが臨床医や患者にとって有用な情報を提供するかを検討することである.
     吟味した統計モデルとしては,ロジスティックモデル, プロビットモデル, 加速死亡時間モデルに加え,特に留意したのは Boag の全治込み対数正規モデル,及び Cox の比例ハザードモデル,更には Boag モデルに基づくRCTのシミュレーションである.
     その結果,最も多用されてきた比例ハザードモデルさえも,臨床医や患者にとって有用な情報を提供するとは限らず,追跡が不十分な場合には判断を狂わせて不適切な治療を選ぶおそれがある.
     結論として,統計モデルを予後推定に使用する限りは,誤りは起こりえる.誤りを最小に抑えるためには,モデルの検証を統計学者のみに委ねるべきではない.臨床医が患者を生涯追跡することにより,積極的に検証に関与すべきである.
解説
  • 大野 仁嗣, 中川 美穂, 岸森 千幸, 福塚 勝弘, 奥村 敦子
    原稿種別: 解説
    2012 年 15 巻 1 号 p. 105-113
    発行日: 2012/12/25
    公開日: 2013/03/08
    ジャーナル フリー
     ヒトの染色体は 22 対44 本の常染色体と 2 本の性染色体からなっている.Gバンディングを行うと染色体には特有の縞模様(バンド)が生じ,それぞれのバンドには国際規約によって規則性を有する番号が付けられている.染色体異常には,数的異常と構造異常の2種類があり,国際規約(ISCN)に従って記載した分析結果を核型とよぶ.白血病の染色体研究は,慢性骨髄性白血病のフィラデルフィア染色体(PhまたはPh1 染色体)の発見に始まる.Ph染色体は9番染色体と22番染色体の染色体相互転座 [t(9;22)(q34;q11.2)] によって生じる.分子レベルではPh染色体上でBCR-ABLキメラ遺伝子が形成され,BCR-ABLキメラ蛋白がコードされる.急性骨髄性白血病においても数多くの染色体相互転座が見出されており,t(8;21)(q22;q22), inv(16)(p13.1q22)/ t(16;16)(p13.1;q22), t(15;17)(q22;q12), t(9;11)(p22;q23)などが代表的である.一方,二次性白血病では5番染色体と7番染色体の全部または長腕の部分欠失 [-5/del(5q), -7/del(7q)] の頻度が高い.FISH解析は蛍光色素でラベルした DNA プローブを染色体標本やスメア標本にハイブリダイズし,染色体転座であればシグナルの融合または分離を,染色体欠失であればシグナルの消失を観察する方法である.本法は分裂核だけでなく,間期核にも応用することが可能である.染色体異常は,白血病細胞の形態・臨床経過・治療予後と密接に関連するので,染色体分析は白血病診療に欠かすことができない検査である.
各科から推薦された研究発表(2011年度)
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