天理医学紀要
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20 巻, 1 号
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巻頭言
特別講演
オピニオン
  • 前谷 俊三
    原稿種別: オピニオン
    2017 年 20 巻 1 号 p. 19-25
    発行日: 2017/12/25
    公開日: 2017/07/01
    ジャーナル フリー
    背景: 医師は日常の診療において,多くの選択肢の中から,治療法であれ診断法であれ最適と思われる方法を選ばなければならない.いずれを選ぶかによって,患者に重大な結果を招く恐れがある.その上,医師が適切とみなして選んだ方法が,患者の期待した結果に繋がらないこともある.それでは,どのようにして正しい方法を選ぶべきだろうか.特に患者中心の医療の時代においては,患者や有識者を含めて広い視点から意思決定を再評価する必要がある.

    方法: 歴史的にみて医療における意思決定に直接または間接的に関与したと思える東西の識者の教えを取り上げ,その視点から意思決定を再評価した.その教えとはヒポクラテス(Hippocrates)の金言,僧源信の往生要集,山脇東洋の蔵志,Claude Bernardの実験医学序説である.更に一米国外科教授の見解を披露した.

    結果: 既に2千年以上前からヒポクラテス学派は,医療における意思決定の難しさ,経験に頼ることの危うさ,好機の逃しやすさを説いていた.平安時代の僧源信は,生を死と同様に四苦の一つに数え,生の価値観を大きく変えた.山脇東洋は1754年日本で最初の人体解剖から,理論を廃して実物から学ぶべきことを強調し,これがClaude Bernardにより体系化され,医療におけるevidenceの重要性を示した.

    結論: 人生は苦痛に満ちていると考える者は,必ずしも源信やその信奉者に留まらず,古今東西にみられる.更に生存期間を引き延ばす治療が,必ずしも患者の満足感を増やすとは限らず,むしろ突然死によって終末期を短縮して欲しいと願う患者もいる.その結果,医師には望ましいと思われる治療法が,患者にとって逆効果となる場合もあり,必ずしも患者の願いをかなえるものではない.個々の患者のQOL や生存モデルの中のどの評価尺度を使うべきか,医師は今後,患者中心の医療において意思決定の方法を更に広い視点から再評価する必要がある.

原著
  • 鴨田 吉正, 下村 大樹, 津田 勝代, 林田 雅彦, 福塚 勝弘 , 和泉 清隆, 丸山 亙, 永井 雄也, 飯岡 大, 赤坂 尚司, 大 ...
    原稿種別: 原著
    2017 年 20 巻 1 号 p. 26-37
    発行日: 2017/12/25
    公開日: 2017/07/01
    ジャーナル フリー
     我々は,まず,cup-like核形態を認めた急性骨髄性白血病(AML) の1例を提示する.症例は63歳男性.ヘモグ ロビン10.0 g/dL,白血球数16.78 × 103/μL (芽球 94.6%),血小板数91 × 103/μL .骨髄は細胞密度20%,芽球87%.末梢血中の芽球の20%がcup-like核形態を示し,電子顕微鏡下で核嵌入部にミトコンドリアが集簇していた.芽球はペルオキシダーゼ陰性であったが,CD13, CD33 陽性で,CD34 陽性,HLA-DRの発現は減弱していた.染色体は正常核型.FMS-like tyrosine kinase 3-internal tandem duplication (FLT3-ITD) とnucleophosmin 1 (NPM1) 遺伝子変異は認めなかった。化学療法に反応したが短期間で再発し,初診から9か月で死亡した. 次に,当院では,これまでに合計6症例のcup-like AMLを診療した.年齢は62から80歳,男女比は3:3.2例はFrench-American-British分類M0,1例はM1,2例は骨髄単球性/単球性白血病,1 例は低形成白血病であった. 2例は高度の白血球増多で,2例は白血球減少で発症した.全例で骨髄球系の抗原を発現したが,CD34とHLA-DRのいずれかまたは両者の発現が減弱していた.全例で正常核型,4例でFLT3-ITDとNPM1遺伝子変異のいずれかまたは両者が認められた.全例で,核嵌入部のミトコンドリアの集簇を認めた.現時点では,cup-like AMLが特定の臨床病態,遺伝子変異,治療アウトカムと関連するかどうかは不明である.
症例報告
  • 岩﨑 毅, 福島 正大, 芝 剛, 吉村 真一郎, 土井 拓, 三木 直樹, 南部 光彦
    原稿種別: 症例報告
    2017 年 20 巻 1 号 p. 38-43
    発行日: 2017/12/25
    公開日: 2017/07/01
    ジャーナル フリー
     症例は3歳頃より口内炎を繰り返していた13歳男児.右下腹部痛と肛門痛,3週間で11 kgの体重減少の精査加療目的に入院した.母親と母方のいとこがベーチェット病と診断されていた.大腸内視鏡検査により回盲部に潰瘍が認められ,口腔内にアフタ,肛門周囲にびらんが見られたことなどより不全型ベーチェット病(腸管型)として治療を行った.栄養療法に加えてプレドニゾロンとコルヒチン,メサラジンによる薬物療法で症状は改善 した.濃厚な家族歴から遺伝性であることが疑われた.
  • 鈴木 悠, 三木 通保, 大須賀 拓真, 山中 冴, 松村 直子, 松原 慕慶, 金本 巨万, 藤原 潔, 佐川 典正
    原稿種別: 症例報告
    2017 年 20 巻 1 号 p. 44-50
    発行日: 2017/12/25
    公開日: 2017/07/01
    ジャーナル フリー
     妊婦に対して腹腔鏡手術を行う機会は近年増加しており,開腹手術と比して妊娠予後に差がないことが示唆されている.報告の多くは妊娠12週から16週までの間に手術が行われており,16週以降では少ない.今回我々は妊娠16週から18週の4症例に対して腹腔鏡下卵巣腫瘍核出術を施行したので,文献的考察を加えて報告する.腫瘍径は7.5から9 cm 大で,3例は成熟嚢胞奇形腫,1例は漿液性嚢胞腺腫と成熟嚢胞奇形腫であった.手術時間は157分から232分であり,週数の進行とともに手術時間の延長を認めたが,術後の妊娠経過には異常を認めなかった.手術を行うに際しては,増大した妊娠子宮が障害にならないよう,トロッカーの位置は臍より頭側で,腫瘍患側におくことなどの工夫が必要であった.妊娠16週以降でも画像診断により術前に腫瘍の位置を確認し,トロッカーの配置などを工夫すれば,腹腔鏡下手術は安全に施行できると考えられた.
  • 松村 直子, 関山 健太郎, 大須賀 拓真, 山中 冴, 鈴木 悠, 松原 慕慶, 金本 巨万, 三木 通保, 藤原 潔
    原稿種別: 症例報告
    2017 年 20 巻 1 号 p. 51-55
    発行日: 2017/12/25
    公開日: 2017/07/01
    ジャーナル フリー
     悪性腫瘍に対する放射線治療後に照射野内の動脈破裂をきたす例は頭頸部癌ではしばしば経験されているが,婦人科癌ではその報告は少ない.今回我々は,卵巣癌の骨盤再発に対して全骨盤照射を施行し,1年4か月後に外腸骨動脈破裂をきたしたが救命しえた一例を経験したため報告する.症例は66歳女性. 卵巣癌ⅠA期の術後,骨盤内に腟断端と接する8 cm大の再発と思われる嚢胞性腫瘤が出現し,化学療法を計4レジメン施行するも残存するため全骨盤照射を施行した.放射線治療の1年4か月後,嚢胞内に膿瘍を生じたため全身麻酔下に経腟的ドレナージ術を施行した.手術が終了し,抜管直後に大量の性器出血をきたした.血管造影にて出血源は術野外である右外腸骨動脈の破裂によるものと判明し,経カテーテル的ステントグラフト留置術にて止血した. 婦人科癌の放射線治療後にも動脈破裂をきたす例が存在する.また,発症の予測にはCTが有用であり,発症時には迅速な血管内治療を考慮するべきである.
  • 長野 広之, 永井 雄也, 飯岡 大, 本庄 原, 林田 雅彦, 石丸 裕康, 八田 和大
    原稿種別: 症例報告
    2017 年 20 巻 1 号 p. 56-62
    発行日: 2017/12/25
    公開日: 2017/07/01
    ジャーナル フリー
     6 年前に肺腺癌で左上葉切除を受けた84 歳男性.食欲低下,労作時呼吸苦で当科に入院した.CT で右肺上葉に腫瘤性陰影と縦隔リンパ節腫脹,肝多発腫瘤を認めた.採血では貧血( ヘモグロビン 9.9 g/dL),血小板減少( 血小板数 32 × 10 3 /µL),LDH 高値 (2,391 IU/L),sIL-2R 高値(6,954 U/mL) が認められた.骨髄穿刺液の塗抹標本では大型の腫瘍細胞を認め,これらは全有核細胞の70% を占めた.フローサイトメトリー解析では腫瘍細胞におけるリンパ系,骨髄系の表面抗原の発現を認めなかった.骨髄生検では骨梁間を埋めるような密な腫瘍細胞の増生が認められ,一部は “organoid nesting appearance”を示していた.免疫染色で腫瘍細胞はsynaptophysin,chromogranin が陽性であり,大細胞神経内分泌癌と診断した.本症例では腫瘍細胞が骨髄浸潤し,血液リンパ系腫瘍に似た検査異常を示すという大細胞神経内分泌癌として稀な経過を示した.
  • 大野 仁嗣, 戸田 有亮, 鴨田 吉正, 岡部 誠, 本庄 原
    原稿種別: 症例報告
    2017 年 20 巻 1 号 p. 63-72
    発行日: 2017/12/25
    公開日: 2017/07/01
    ジャーナル フリー
     症例は65歳女性.顕著な肝腫大と多クローン性高γグロブリン血症のため紹介受診した.総蛋白8.9 g/dL,アルブミン35.6%,グロブリン40.2% (35.8 mg/mL),アルカリフォスファターゼ730 IU/L.CT上で計測した頭尾側方向の肝の長さは24.2 cm であった.肝生検では,肝実質は好酸性の無構造の物質に置換され,それはコンゴーレッド染色陽性,偏光顕微鏡下でapple greenの複屈折を示し,アミロイド沈着であることが判明した.アミロイド沈着は胃粘膜と骨髄にも認められた.免疫固定法では血清・尿中にM成分を認めなかったが,血清遊離軽鎖(free light chain, FLC) はκ鎖に著しく偏倚していた(FLC-κ, 1,290 mg/L; FLC-λ, 86 mg/L).骨髄ではクローン性の形質細胞を10.4%認め,FISHでCCND1遺伝子と免疫グロブリン重鎖遺伝子の融合シグナルを認めた.ALアミロイドーシスと診断し,ボルテゾミブを含む化学療法を開始したところ速やかに血液学的効果を認め,very good partial responseの効果判定基準を満たした.肝腫大は2年以上にわたるボルテゾミブの投与によって徐々に縮小した.初診時の多クローン性高γグロブリン血症は,肝でのアミロイド沈着に対する反応性・炎症性過程を反映していたと考えられる.形質細胞を標的とした治療は臓器のアミロイド沈着を減少させ,低下した機能を回復させる可能性がある.
  • 山中 冴, 金本 巨万, 大須賀 拓真, 鈴木 悠, 松村 直子, 松原 慕慶, 三木 通保, 八木田 薫, 末長 敏彦, 藤田 久美, 藤 ...
    原稿種別: 症例報告
    2017 年 20 巻 1 号 p. 73-79
    発行日: 2017/12/25
    公開日: 2017/07/01
    ジャーナル フリー
     抗NMDA受容体脳炎は若年女性に好発する自己免疫性の辺縁系脳炎である.今回我々は卵巣腫瘍に伴う抗NMDA受容体脳炎が疑われた若年女性に対し,腹腔鏡下手術を実施した症例を経験したので報告する.
     症例は21歳の女性.当科への入院1か月前から発熱・頭痛が出現し,異常行動を認めるようになったため,その約15日後に近医精神科に入院した.統合失調症と診断され,抗精神病薬を投与されたが,治療効果を認めず,次第に不随意運動を認めるようになったため,また約11日後に前医神経内科に転院し,前医施行の造影CTにて左卵巣奇形腫を疑う腫瘤性病変を認め,抗NMDA受容体脳炎が疑われ,当科へ紹介となった.
     当科にて腹腔鏡下左付属器切除術を施行し,術後免疫抑制治療を要した(mPSL + IVIG療法2クールとPSL + AZA).病理結果は成熟のう胞性奇形腫であった.術後35日目に抗NMDA受容体抗体が検出され,診断確定した.意識障害は著明に改善し,術後50日目に自宅退院した.
     抗NMDA受容体脳炎は重篤かつ特徴的な臨床経過をたどり,回復までに長時間を要する場合が多い.一般的に神経学的予後には早期の治療介入が重要とされており,神経内科,精神神経科をはじめ産婦人科領域においても本疾患の認知をさらに広める必要がある.
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