天理医学紀要
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23 巻, 2 号
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原著
  • 飯岡 大, 岸森 千幸, 福塚 勝弘, 林田 雅彦, 丸山 亙, 赤坂 尚司, 大野 仁嗣
    原稿種別: 原著
    2020 年 23 巻 2 号 p. 58-73
    発行日: 2020/12/25
    公開日: 2020/12/25
    ジャーナル フリー

    【緒言】白血化と骨髄浸潤を主体としたバーキット白血病リンパ腫(BL/L) の臨床病態と治療転帰を明らかにする.【患者と方法】アグレッシブB 細胞リンパ腫の内,1) 白血化と骨髄浸潤を認める,2) 腫瘍細胞がFAB 分類L3 の形態的特徴を有しB 細胞関連抗原を発現している,3) Ig 遺伝子と8q24/MYC の相互転座であるt(8;14)(q24;q32), t(2;8)(p11-12;q24) またはt(8;22)(q24;q11) のいずれかの染色体異常を有している症例をBL/L と定義し,2006 年から 2017 年の期間に当院で診療したBL/L 全11 例の臨床病態および治療転帰について後方視的に解析した. 【結果】発症時年齢中央値61 歳 (16–78).B 症状を7 例,脳神経麻痺やnumb chin syndrome などの神経症状を 3 例で認めた.白血球数は4.0–73.0×10 3 /µL ( 中央値 18.26×10 3 ),白血病細胞比率は2.5–81.2% ( 中央値 15.0%).全例でLDH 値の顕著な増高 ( 中央値 4,103 U/L),8 例で尿酸高値を認め,特に尿酸の顕著な増高を伴った2 例 (23.7, 33.8 mg/dL) では腎不全を認めた.骨髄穿刺またはスタンプ標本の鏡顕ではFAB 分類でL3 に該当する細胞の浸潤 ( 鏡顕分類での比率40.1–80.9%) を認め,フローサイトメトリーでCD10, CD19, CD22, CD38 およびHLA-DR が全例で陽性,CD20 が10 例で陽性,surface Igが9 例で陽性.骨髄生検では腫瘍細胞の顕著な増生を認め,2 例でstarry sky appearance,1 例で骨髄壊死を伴った.免疫染色では7 例中6 例でMYC 陽性,全例でBCL2 陰性,全例でKi-67 は90% 以上陽性.染色体・FISH では10 例でt(8;14)(q24;q32),1 例でt(2;8)(p12;q32) を認めた.初回治療はDA-EPOCH 4 例,Hyper-CVAD 4 例,CODOX-M/IVAC 2 例,miniCHOP 1 例,9 例でrituximab を併用, 2 例は腎不全のため治療導入時に透析治療を要した.観察期間中央値112 か月で,5 年無増悪生存割合(5-yr PFS) は61%.初回治療を計画通り完遂できた5 例 ( 年齢中央値 49 歳) と未完遂6 例 ( 同67.5 歳) の5-yr PFS はそれぞれ100%と33% (P = 0.04) であった. 【考察】末梢血および骨髄の形態・組織像,免疫表現型,染色体遺伝子解析からBL/Lと診断した.B 症状を高頻度に認め,LDH 値および尿酸値の顕著な増高を伴った.強力な多剤化学療法によって長期生存が期待できるが,化学療法未完遂例は予後不良であったことから,特に高齢患者における至適治療法の確立が今後の検討課題である.

  • 加藤 恭郎, 福原 真美, 髙倉 美奈子, 黒田 結菜, 石田 優衣, 清水 桂, 清水 佐幸, 尾﨑 佐和子, 梅本 裕子, 森川 久恵
    原稿種別: 原著
    2020 年 23 巻 2 号 p. 74-78
    発行日: 2020/12/25
    公開日: 2020/12/25
    ジャーナル フリー

    目的:急性期病院の緩和ケア病棟における管理栄養士による食事調整を分析する. 方法:2019 年10 月1 日から2020 年3 月31 日までに当院緩和ケア病棟に入院した患者における管理栄養士によ る食事調整について後方視的に分析した. 結果:全例49 例が院内急性期病棟からの転棟例で,在棟日数の中央値は11 日(1–48 日)であった.入棟日に食事摂取,意思表示が可能な場合には,管理栄養士が入棟時カンファレンスへの参加と病床訪問での食事調整を行った.管理栄養士による食事調整なし23 例の在棟日数の中央値は8 日(1–32 日),転棟時摂取エネルギー量は中央値0 kcal (0–725 kcal) であった.転棟後に摂取エネルギー量が100 kcal/ 日以上改善した例はなかった.管理栄養士による食事調整あり26 例の在棟日数の中央値は16 日(2–48 日),転棟時摂取エネルギー量は中央値365 kcal(0–1,305 kcal)であった.初回の管理栄養士による食事調整は転棟当日が23 例(88.4%)で,残り3 例は 転棟後4–11 日であった.管理栄養士による食事調整回数は計57 回で,1 回:14 例,2 回:2 例,3 回:3 例,4 回:6 例,6 回:1 例であり,半数以上の症例が1 回のみであった.管理栄養士による食事調整後に摂取エネルギー量 が100 kcal/ 日以上改善した例は26 例中6 例(20.7%)であり,管理栄養士による食事調整なし例に比べて有意に多かった(Fisher の正確確率検定,P = 0.024). 結論:摂食不良例が多い緩和ケア病棟においても半数以上に管理栄養士による食事調整が行えていた.その約2 割に摂取エネルギー量の増加がみられた.緩和ケア病棟ではこれらの栄養士の活動に対する診療報酬はないが,このような状況で行われている管理栄養士による食事調整に即した形での診療報酬も今後検討されることが望まれた

  • 中島 光司, 杉本 曉彦, 中西 琴音, 明保 洋之, 阿部 教行
    原稿種別: 原著
    2020 年 23 巻 2 号 p. 79-85
    発行日: 2020/12/25
    公開日: 2020/12/25
    ジャーナル フリー

    発熱性尿路感染症は急速進行性の病態のため,速やかな診断・治療が求められる.原因微生物の推定には尿検体のグラム染色が一般的に推奨されるが,時間的・人員的制約,試料不足などの問題から,抗菌薬投与前の切迫した状況などでは,全例においてグラム染色を施行することは難しいことがある.我々は,グラム染色より簡便に尿中病原菌を推定する代替手段として,無染色尿沈渣の鏡検に着目した.本研究では,当院で2019 年12 月7 日から2020 年1 月9 日までの間に尿培養を実施した103 例を対象とし,尿培養から分離された有意菌(1 × 105 CFU/mL 以上)を参照基準として無染色尿沈渣検鏡法による尿中病原菌推定の感度と特異度を後方視的に検討した.結果として,球菌では感度54.5% (95% 信頼区間23.4–83.3%),特異度95.7% ( 同89.2–98.8%),桿菌では感度93.8% ( 同79.2–99.2%),特異度88.7% ( 同79.0–95.0%) であった.無染色尿沈渣検鏡法による推定病原菌と,尿培養による有意菌が一致しなかった4 例のうち3 例は球菌を桿菌に見間違えていた.本研究は,無染色尿沈渣鏡検法による尿中病原菌の推定性能をヒトにおいて定量的に評価した初めての報告である.本法が外来診療のような時間的・人的資源が限られる状況では簡便かつ有用な検査法であることが示唆された.

天理よろづ相談所 学術発表会2019
  • -ヘモグロビンA1c 値に与える影響-
    木下 真紀
    原稿種別: 天理よろづ相談所 学術発表会2019
    2020 年 23 巻 2 号 p. 88-95
    発行日: 2020/12/25
    公開日: 2020/12/25
    ジャーナル フリー

    異常ヘモグロビンは,ヘモグロビンを構成するグロビン鎖にアミノ酸置換が生じたものである.高速液体クロマトグラフィー(high-performance liquid chromatography; HPLC) を用いたヘモグロビンA1c (Hb A1c) 測定においては,異常ヘモグロビンは荷電状態が変化しているため,正確なHb A1c 値を得ることができない.当検査部では, 2015 年5 月にアークレイ社製Hb A1c 分析装置HA-8180V を導入した.本分析装置の測定原理はHPLC 法である が,従来の測定モード(Fast モード)に加え,一部の異常ヘモグロビンを検出するモード(Variant モード)を搭載している.本分析装置で得られたクロマトグラムのパターンから異常へモグロビンを疑い,遺伝子検査でヘモグロビン異常症と診断した症例は, Hb Q-Iran(α2 グロビンのcodon 75 GAC [Asp] がCAC [His] に置換)が2 例, Hb St. Luke’s(α2 グロビンのcodon 95 CCG [Pro] がCGG [Arg] に置換)が1 例,Hb Toranomon(βグロビンのcodon 112 TGT [Cys] がTGG [Trp] に置換)が1 例であった.東南アジア国籍の4 人ではHb E に合致するクロマ トグラムパターンを認めた.それぞれのHb A1c 値は,Hb Q-Iran とHb St. Luke’s 症例ではVariant モードが正値, Hb Toranomon 症例ではいずれのモードも偽低値,Hb E 症例ではHA-8180V による補正値が正値であると考えら れた.我々臨床検査技師は,異常ヘモグロビンを疑う検査結果を得た場合には,異常ヘモグロビンによるHb A1c 値への影響と,Hb A1c 以外の検査項目を用いた血糖コントロールの必要性を医師に報告し,すべての患者が正しい診断と治療を受けられる体制を構築する必要がある.

  • ~QOL の向上を目指して~
    岡本 敦
    原稿種別: 天理よろづ相談所 学術発表会2019
    2020 年 23 巻 2 号 p. 96
    発行日: 2020/12/25
    公開日: 2020/12/25
    ジャーナル フリー

    わが国において,国民の2 人に1 人が生涯のうちにがんに罹患し,3 人に1 人ががんで死亡する.早期診断・早期治療などの医療技術の進歩もあり,がんの死亡率は年々低下傾向にある.がん経験者,いわゆるがんサバイバーは今後も増加が予測され,がんが「不治の病」であった時代から「がんと共存」する時代へと様変わりしている.がん患者は,がんの直接的な影響や,手術・化学療法・放射線治療などによって,身体障害から運動機能の低下や生活機能の低下をきたし,結果,生活の質(quality of life; QOL) の低下を招く. リハビリテーションの専門職である理学療法士,作業療法士,言語聴覚士は,リハビリテーションを進める上で,患者の全身状態,がんの進行度,がんの治療経過について把握し,リスク管理を行い,患者のQOLの向上を目標にリハビリテーションプログラムを組み立てる.一方で,現場では精神心理面にも配慮したかかわりも大切である.患者は,疼痛・運動麻痺・廃用による筋力低下や骨転移などによる安静によって,「身体的喪失」・「自律性の喪失」をきたしている.リハビリの訓練場面では,患者が発する言葉に耳を傾け,少しでも不安を軽減できるよう,希望をつなぐリハビリテーションを心掛ける.具体的には,疼痛を生じさせない動作訓練,麻痺した部位を代償する福祉用具や自助具,骨転移部の病的骨折を予防する装具等を用いて,自分でできる動作を残す努力をする.このようなリハビリテーションプログラムが心理支持的に働き,患者みずから新たな目標を生み出し,結果,QOL の向上につながることも数多く経験する. 今回は,当院におけるがんリハビリテーションのかかわりを,症例を提示しながら紹介する.

  • 森川 久恵, 林野 泰明
    原稿種別: 天理よろづ相談所 学術発表会2019
    2020 年 23 巻 2 号 p. 97-103
    発行日: 2020/12/25
    公開日: 2020/12/25
    ジャーナル フリー

    がん治療において患者の栄養状態を保つことは極めて重要であり,患者の栄養管理を行うことは,がん治療の柱となる化学療法・放射線療法・外科治療の支えとなっている.それぞれの治療による副作用の出現は,患者にとって最大の苦痛であり,QOL を著しく低下させ,場合によっては,治療の中止に繋がることもある.したがって,治療を継続していくためにも,個々の患者の状態に応じて細やかに食事調整を行い,出来る限り経口摂取量の低下を防がなければならない. 血液内科治療のうち,造血幹細胞移植治療が開始されると,患者は,長期間免疫不全状態となり,長期入院の中,重篤な副作用が次々と起こる.平成28 年11 月~12 月の間に血液内科病棟入院中で,比較的状態が安定している患者のうち,過去に食べられない状態を経験したことがある患者22 名に,聞き取り調査を実施した.入院中に経験したことがある食事摂取に影響を及ぼす副作用としては,食欲不振・吐き気・口内炎の出現頻度は比較的多く,幅広く,様々な症状を呈していた.また,患者家族の協力により,果物や麺類を持ち込んでいることが多いことがわかった.そこで,「食事対応一覧」を作成し,病院食でも,果物の提供や,主食を麺類に変更するなどの対応が可能なことを示し,また,食事が進まない患者向けの食事として「回復食」と称した新たな食種を設定した. 現在,管理栄養士は,クリーンルームに入室している造血幹細胞移植患者のベッドサイドにて入院時(多くはクリーンルーム入室時)と退院時に栄養食事指導を行い,入院期間中は週1 回のベッドサイド訪問を行い,患者の状態に合わせた食事内容の調整を行っている.今後は,入院時の訪問指導を充実させるとともに,退院後に生じた困りごとや戸惑いを患者が抱え込むことなく解決していくためにも,移植後の全ての患者に外来栄養食事指導を行うことが出来るような体制を作っていきたい.

  • 雪矢 良輔, 梶田 貴司, 奥田 佳子, 戎浦 規文, 黒松 誠, 樽野 麻依, 大河原 亜梨沙, 石丸 裕康, 八田 和大, 奥野 智之, ...
    原稿種別: 天理よろづ相談所 学術発表会2019
    2020 年 23 巻 2 号 p. 104-112
    発行日: 2020/12/25
    公開日: 2020/12/25
    ジャーナル フリー

    本研究では,外来にてメトトレキサート(methotrexate; MTX) が導入された関節リウマチ患者の服薬アドヒアランス向上を目的とし, MTX 薬物療法に関する教育体制を構築しその評価を行った.患者への教育は,MTX の用量・用法,MTX 服用時の留意事項,服用中止事項について最大3 回指導した.さらに,双方向の教育体制とするため,薬剤師による初回指導の前後と次回受診日の計3 回にわたって,多職種からなるリウマチチームによって作成した「確認テスト」を用いて患者の理解度を確認し,理解が不十分な内容を中心にパンフレットを用いて指導した.また,本システムの教育効果を評価するため,2017 年4 月から2018 年9 月に外来にてMTXが導入された関節リウマチ患者57 名に対して薬剤師の指導前後に実施した3 回の確認テストの正答率を比較検討した.その結果,正答率の中央値は,初回指導前の48.1%から,初回指導後は87.8%へ有意に上昇した(P < 0.001).また,次回受診日の正答率は84.3%で,初回指導後に実施した確認テストと同様の高い正答率を示した.以上,本研究で構築した確認テストを用いた教育体制は,MTXに対する患者理解を深めることから,その服薬アドヒアランス向上に寄与するものと考える.

  • ~腫瘍循環器外来の取り組み~
    坂本 二郎
    原稿種別: 天理よろづ相談所 学術発表会2019
    2020 年 23 巻 2 号 p. 113-119
    発行日: 2020/12/25
    公開日: 2020/12/25
    ジャーナル フリー

    近年,がんの治療法が格段に進歩し,がん患者の予後が改善している.がん治療を継続することができれば長期生存を見込めることも多く,がん治療を中断せず続けるためにがん支持療法の重要性が増している.がん支持療法は,消化器症状や骨髄抑制に対する対策や疼痛緩和ケアなど,従来から行われている対策もあるが,分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤などの新規薬剤による新たな合併症に対する対策も必要となっている.がん治療だけでなく,がん支持療法が充実していることが,がん診療連携拠点病院に必要とされている.がん支持療法の一つとして腫瘍循環器外来を開設した. 化学療法に伴う循環器合併症として,アントラサイクリン系薬剤による心毒性は有名だが,それ以外にも新規薬剤は近年急増し,心毒性や血栓症,高血圧を引き起こす可能性のある薬剤もあり,早期検出,治療が重要である.また,がん治療が終了したがんサバイバーが長期的には循環器疾患を発症するリスクがあると報告されている.がん治療の経過の中で発症する循環器合併症の対策を行うのが腫瘍循環器外来で,全国的に開設する施設が増えている.がん治療の内容やがんの状態をよく理解することが必要であり、腫瘍関連科との情報共有が重要である.今回は,腫瘍循環器外来の概要と, 腫瘍循環器学領域において注目されている, がん治療関連心機能障害とがん関連静脈血栓塞栓症について述べる.

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