日本転倒予防学会誌
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1 巻, 3 号
日本転倒予防学会誌
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
総説
  • 鈴木 みずえ, 金森 雅夫
    2015 年 1 巻 3 号 p. 3-9
    発行日: 2015/03/10
    公開日: 2015/07/07
    ジャーナル フリー
     認知症高齢者の転倒は,認知症の進行に伴って脳神経障害に関連した歩行障害・バランス障害から引き起こされるだけではなく,認知症による失行,失認などの中核症状,認知症の行動・心理症状など多様な要因が複雑に絡まっている。最新の認知症高齢者の転倒予防のシステマティックレビューやランダム化比較試験(RCT)の検討をした結果,介入方法の基準や標準化が明確ではなく,結果の再現性が乏しいということが考えられた。それらを踏まえてケアスタッフの多職種連携や転倒予防に関する教育プログラムを明確化したRCTも報告され,ケアスタッフが最大限に機能を果たしてエビデンスに基づいた効果的なアセスメントや介入が展開できれば転倒予防につながる可能性が高い。以上から認知症高齢者を対象とする転倒予防の効果的な介入のポイントとして多職種連携や転倒予防教育を重視した介入プログラムの必要性が示唆された。
  • 大高 洋平
    2015 年 1 巻 3 号 p. 11-20
    発行日: 2015/03/10
    公開日: 2015/07/07
    ジャーナル フリー
     寿命の延伸とともに,転倒予防はその重要性を増している。高齢者の3人に1人は1年間に一度以上の転倒を経験するとされ,転倒による不慮の事故は,窒息に続き第2位であり交通事故を上回っている。また転倒は,大腿骨近位部骨折をはじめとした高齢者の骨折の主原因であり,要介護の主要な原因の1つでもある。転倒のリスク因子には,本人の特性に関連する内因性リスクと環境などの外因性リスクがある。内因性リスクとしては,バランス障害,筋力低下,視力障害,薬剤などさまざまなものが知られている。転倒予防に最も有効な介入は運動である。運動はグループでも,在宅で個別に指導を行う場合でも有効であり,バランス訓練の要素など複数の訓練要素が含まれているものに効果がある。その他,家屋評価や改修,精神作動薬漸減,頸動脈洞過敏症に対するペースメーカー挿入,初回の白内障手術,家庭医に対する内服処方の指導,包括的なリスク評価に基づいたリスクの修正,などのアプローチで転倒予防効果が報告されている。また,低ビタミンD血症に対するビタミンD補充による転倒予防効果も知られているが,さらなる検証が必要である。今後,エビデンスに基づき実現可能性,継続可能性の高いプログラムを地域の中で実践していくことが望まれる。
原著
  • −文部科学省新体力テストの結果を用いて−
    髙野 映子, 渡辺 豊明, 寺西 利生, 澤 俊二, 金田 嘉清, 近藤 和泉
    2015 年 1 巻 3 号 p. 21-28
    発行日: 2015/03/10
    公開日: 2015/07/07
    ジャーナル フリー
    【はじめに】地域在住での比較的自立度の高い高齢者であっても,転倒リスクは経年的に上昇すると報告されており,早期より転倒ハイリスク者を識別し,転倒予防活動を展開する必要がある。われわれは,文部科学省の高齢者向けの新体力テストを用い,屋外歩行が自立している地域在住高齢者の転倒を予測できるのではないかと考えた。本研究の目的は,屋外歩行が自立している地域在住高齢者を対象に,「過去1年間の転倒経験の有無」と「新体力テスト6項目」の結果を比較検討し,転倒に関係する評価を明らかにすることである。【方法】対象は,地区の公民館まで自力で通うことができる60歳以上の地域在住高齢者とした。新体力テストは,握力・上体起こし・長座体前屈・開眼片足立ち・10m障害物歩行・6分間歩行の6項目を実施した。質問紙調査から,対象を過去1年間に転倒経験がある群と転倒経験のない群の2群に分類し,6項目の平均値の差をMann-Whitney U検定にて比較分析した。さらに,有意差(p<0.05)のあった項目を独立変数,転倒経験の有無を従属変数とした多重ロジスティック回帰分析を行い,転倒発生のOdds比を求めた。また転倒経験の有無を状態変数としてROC曲線を描き,AUC, Cut off値,転倒予測感度,特異度を求めた。【結果】女性高齢者76名(年齢73.6±8.3歳)中,質問紙の結果から,転倒群は12名(年齢73.4±7.6歳),非転倒群は64名(年齢73.0±8.5歳)であり,転倒発生率は15.8%であった。両群における新体力テスト6項目の比較から,開眼片足立ち,10m障害物歩行,6分間歩行で有意差(p<0.05)を認めた。これら3項目を独立変数,転倒経験の有無を従属変数とした多重ロジスティック回帰分析を行った結果,10m障害物歩行のみ有意差(p=0.005)を認め,Odds比は1.473(95%信頼区間1.127-1.924)であった。なお,ROC曲線よりAUC=0.763, Cut off値8.7秒,転倒予測の感度は100%, 特異度は57.8%であった。【考察】新体力テスト6項目中10m障害物歩行は,転倒のOdds比が1.473であり,対象群の転倒に深く関与していることが示唆された。10m障害物歩行は特異度が低いものの感度は100%であった点から,10m障害物歩行は,屋外歩行が自立している地域在住高齢者の一次スクリーニングとして有用であることが示唆された。今後,スクリーニングとしての活用法だけではなく,高齢者自身がバランス保持能力を把握し,合わせて日常生活での転倒予防の留意点などを指導することが望まれる。
  • ~準ランダム化比較試験~
    今岡 真和, 樋口 由美, 藤堂 恵美子, 北川 智美, 上田 哲也, 増栄 あゆみ, 寺島 由美子, 甲斐沼 成, 黒﨑 恭兵, 池内 ま ...
    2015 年 1 巻 3 号 p. 29-36
    発行日: 2015/03/10
    公開日: 2015/07/07
    ジャーナル フリー
    【目的】本研究の目的は,老健施設の入所者を対象に,運動とビタミンDの栄養による介入を3か月間行い,その後の観察期間の転倒減少効果を検証することとした。【方法】研究のデザインは単一施設の非盲検による準ランダム化比較試験とした。対象は大都市近郊A介護老人保健施設に入所する要介護高齢者68名(女性49名),平均年齢84.3±9.2歳とした。ランダムに3群へ割り付け,それぞれコントロール群,運動介入群,栄養介入群とした。コントロール群は通常のケアを行い,運動介入群では通常ケアに加え週1回30分の抵抗運動とバランストレーニングを実施した。栄養介入群では転倒予防効果が報告されるビタミンDを1日900 IU摂取させた。摂取方法はゼリーとサプリメントとした。 介入期間は3か月間とし,その後4か月間を転倒の観察期間とした。ベースライン調査では,年齢,性別,身長,体重,BMI,長谷川式簡易知能評価スケールで評価した。介入効果を確認するために,ベースラインと介入後3か月ではSkeletal Muscle Mass Index,握力,25ヒドロキシビタミン D(以下:25(OH)D)およびFIMを測定した。 観察期間中の調査項目は転倒の発生状況とし,分析はカプランマイヤー法を用いた。介入前後の比較には2元配置分散分析を用いた。【結果】9名が介入期間中に脱落したため,解析は59名にて実施した(追跡率85.3%)。介入前後では栄養介入群の25(OH)Dが有意な交互作用を認めた。その他の項目では統計学的有意差は見られなかった。各群の転倒発生率は,コントロール群5名(22.7%),運動介入群8名(47.1%),栄養介入群2名(10.0%)であった。 転倒発生状況をカプランマイヤー法により分析した結果,栄養介入群は運動介入群に比べて有意に転倒発生が減少していた。【結論】老健施設入所者のビタミンD摂取は,介入期間が終了してからも,4か月において転倒予防効果があると示唆された。
  • 鮫島 直之, 桑名 信匡, 渡邊 玲, 関 要次郎
    2015 年 1 巻 3 号 p. 37-42
    発行日: 2015/03/10
    公開日: 2015/07/07
    ジャーナル フリー
    【目的】本研究は,いまだ明らかとなっていない特発性正常圧水頭症(idiopathic Normal Pressure Hydrocephalus : iNPH)患者の転倒の既往とそれに起因する骨折の発生頻度を調査することを目的とした。【方法】対象は2009年4月より2014年4月まで,当院脳神経センターにてシャント手術を施行したdefinite iNPH 291例(LPシャント276例,VPシャント15例)。probable iNPHと診断した際,治療を行う前に本人,家族に詳細を問診で聴取した。独居の認知症などの理由で正確な問診が行えなかった32例を除外した。【結果】definite iNPHと診断した259例(男性156例,女性103例,平均年齢±SDは78.2±6.9歳)中,228例(88.0%)に転倒の既往があり,65例(25.1%)に骨折を認めた。転倒はiNPH に特有の歩行障害が出現した後に生じており,症状の軽い段階から生じていた。骨折後iNPHの診断までには数か月から5年(平均1年3か月)経過していた。【考察】転倒は,iNPHの歩行障害の特徴である,立ち上がれない,足が上がらない,止まれない,方向転換時にふらつくことに関係し,排尿障害が加わっての頻回の夜間歩行,認知障害に起因する判断力の低下,高齢者の俊敏性低下,骨粗鬆症などが骨折率の高さに影響していると考えられた。【結論】iNPHは易転倒性の疾患であり,転倒骨折の頻度が高い。転倒骨折患者を診療する医師,訪問看護師,ケアマネージャーと連携して早期診断・治療につなげていくことが重要である。
報告
  • 川口 朋子, 西谷 厚, 越田 真美, 瀧本 弘明
    2015 年 1 巻 3 号 p. 43-49
    発行日: 2015/03/10
    公開日: 2015/07/07
    ジャーナル フリー
    【目的】本研究の目的は,通所リハビリテーション(以下,デイケア)における6か月間の個別リハビリテーション(以下,リハビリテーションをリハビリとする)が,身体機能と転倒予防自己効力感に及ぼす効果について検証することである。【対象】対象者は,デイケアを利用している高齢者19名である。【方法】リハビリ開始時と6か月後のリハビリ終了時に,握力,30秒椅子立ち上がりテスト(以下,CS-30テスト),10m歩行時間,Timed Up & Goテスト,イラスト版転倒予防自己効力感尺度(以下,FPSE)の計5項目について評価し,その評価結果を比較分析した。【結果】リハビリ開始時と,6か月後のリハビリ終了時の結果を比較すると,CS-30テスト,10m歩行時間,イラスト版FPSEの項目において,有意に改善していた(Wilcoxon符号付順位和検定,p<0.05)。イラスト版FPSEの細項目では,「立ち座り」が有意に改善していた(t検定,p<0.05)。【結論】デイケアを利用する高齢者を対象に,6か月間の個別リハビリを実施した。個別リハビリが,身体機能と転倒予防自己効力感に及ぼす効果について明確にはならなかった。今後は,個別リハビリの効果を検討するために,コントロール群を設定し,要介護度,リハビリ頻度,ADL機能など配慮した対象者を設定し,身体機能と転倒予防自己効力感との関連を検討する必要がある。
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