日本転倒予防学会誌
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2 巻, 3 号
日本転倒予防学会誌
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原著
  • 鈴木 みずえ
    2016 年 2 巻 3 号 p. 3-9
    発行日: 2016/03/10
    公開日: 2016/06/27
    ジャーナル フリー
     人口の高齢化に伴って認知症高齢者の数は増大し,入院患者における認知症高齢者の割合も増加している。認知症高齢者の場合には,認知症という脳神経系の疾患による症状や加齢による心身機能の変化に伴って,転倒リスクに関連する身体機能も変化しやすく,潜在的なニーズが満たされないことから危険な行動を起こして転倒している。認知症高齢者の中核症状に関連した転倒リスクを明確にするとともに,認知症高齢者の視点からのニーズやこのような転倒を引き起こすプロセスも踏まえて,的確にケアをすることが重要である。認知症高齢者のニーズや転倒リスクは多様であることから多職種チームで転倒予防に取り組まなければならない。今後,これらのエビデンスに基づき,わが国の高齢者施設の状況に合わせて実行可能で継続性の高いプログラムの実践が望まれる。
総説
  • 小山 晶子, 征矢野 あや子, 小山 智史, 浅野 均, 梅﨑 かおり, 堀内 ふき
    2016 年 2 巻 3 号 p. 11-21
    発行日: 2016/03/10
    公開日: 2016/06/27
    ジャーナル フリー
    【目的】本研究は,介護保険施設職員が経験的に得ている身体拘束しない転倒予防ケアと,そのケア提供を可能とした施設や施設職員の要因を明らかにすることを目的とした。さらに一般病棟における認知症高齢者の転倒予防ケア向上に関する示唆も加えた。【方法】調査対象者は,A 県内の4 つの介護保険施設の看護職,介護職,リハビリ職ら29 名である。グループインタビューによる半構造化面接を行い,質的に分析した。【結果】カテゴリの抽象度を高めた4 領域として,【身体拘束しない転倒予防ケアを可能とする基盤】,【施設高齢者に関する多角的な情報を把握する能力】,【情報や観察結果の統合】,【活動と安全を両立したケア】を見出した。プロセスとして,施設職員は【身体拘束しない転倒予防ケアを可能とする基盤】に支えられ,【施設高齢者に関する多角的な情報を把握する能力】を培い,【情報や観察結果の統合】を深め,【活動と安全を両立したケア】を提供していた。【考察】介護保険施設で高齢者の転倒予防ケアを行うには,職員が協力して対象者の情報を収集し,共有することが必要不可欠であることが示された。一般病棟において認知症高齢者に対して身体拘束しない転倒予防ケアを行うためには,病院・病棟の体制の検討や看護師が多角的な情報を把握する能力を養う必要性が示唆された。
報告
  • ― 移動手段に着目して ―
    長谷川 大悟, 藤田 好彦, 坂本 晴美, 巻 直樹, 若山 修一, 稲田 晴彦, 奥野 純子, 柳 久子
    2016 年 2 巻 3 号 p. 23-32
    発行日: 2016/03/10
    公開日: 2016/06/27
    ジャーナル フリー
    【目的】本研究は,施設入所者を車いす使用者(全介助者)・車いす使用者(部分介助者)・歩行移動者に分類し,移動手段別に転倒発生状況を明らかにすることを目的とした。【方法】3 か所の介護施設において,過去1 年間の事故報告書などを分析対象とした。対象者数は341 名(A 施設86名,B 施設113 名,C 施設142 名),移動手段別に車いす使用者(全介助者)・車いす使用者(部分介助者)・歩行移動者に分類し,転倒件数,転倒者数,転倒場所,転倒時間帯,転倒様式について分析した。また,移動手段別の転倒発生割合(移動手段別転倒者数/移動手段別入所者総数),および1,000 人日当たりの発生頻度を求めた。【結果】施設全体の事故報告件数459 件のうち転倒件数は304 件(66 %)であり,転倒者数は341 名のうち154 名(45 %),1,000 人日当たり1.6 であった。移動手段別に見ると,車いす使用者(全介助者)は,80 名中15 名(19 %,0.1/1,000 人日)が転倒しており,転倒件数43 件であった。転倒場所は居室・食堂・ホール38 件(88 %),転倒時間帯は午後2 時~ 4 時で12 件(28 %),転倒様式は介護者に由来する転落やずり落ちが16 件(37 %)とそれぞれ最も多く報告された。車いす使用者(部分介助者)は,200 名中113 名(57 %,1.2/1,000 人日)が転倒しており,転倒件数208 件であった。転倒場所は居室126 件(61 %),転倒時間帯は午後2 時~ 4 時で31 件(15 %),転倒様式は本人に由来する移乗時の転倒が94 件(45 %)とそれぞれ最も多く報告された。歩行移動者は,61 名中26 名(43 %,0.3/1,000 人日)が転倒しており,転倒件数53 件であった。転倒場所は居室22 件(42 %),転倒時間帯は午前6 時~8 時で7 件(13 %),転倒様式は歩行時の転倒が32 件(60 %)とそれぞれ最も多く報告された。【結論】事故報告総数の60 %以上が転倒事故であり,施設全体の年間転倒発生割合は45 %と過去の報告と同程度であったが,移動手段別に見ると,それぞれの転倒発生状況および転倒発生割合は異なっていた。
  • 林 節也, 竹中 孝博, 岩本 千秋, 延田 侑華里, 久保田 将成, 田中 利典, 森 憲司
    2016 年 2 巻 3 号 p. 33-39
    発行日: 2016/03/10
    公開日: 2016/06/27
    ジャーナル フリー
    【目的】回復期リハビリテーション(以下,回復期リハ)病棟に在籍していた患者の転倒,および転倒者の特性を明らかにすることを目的に,年齢,総転倒件数,疾患別転倒件数,転倒場所,回復期リハ病棟入棟後から転倒までの期間,転倒時のFunctional Independence Measure(以下,FIM),転倒・転落アセスメントスコアを調査した。【対象と方法】対象は2013 年4 月から2015 年3 月の2 年間にA 病院回復期リハ病棟に在籍していた患者383 名。平均年齢は73.6 ± 14.3 歳であり,疾患別内訳は脳血管疾患246 名,整形疾患117 名,廃用症候群20 名であった。調査方法は,転倒に関する事故報告書および集計より,年齢,総転倒件数,疾患別転倒件数,転倒場所,回復期リハ病棟入棟後から転倒までの期間,転倒の有無からみた運動FIM(以下,M-FIM)点数,認知FIM(以下,C-FIM)点数,合計FIM(以下,T-FIM)点数,転倒アセスメント点数を横断調査した。【結果】2 年間の回復期リハ病棟における転倒者数は,63 名(91 件)であり,在籍患者の16.4 %であった。性別は,転倒群は男性33 名,女性30 名,平均年齢は転倒群75.5 ± 13.4 歳,非転倒群73.2 ± 14.5 歳であった。転倒群の疾患別内訳は,脳血管疾患44 名(17.9 %),整形疾患14 名(12.0 %),廃用症候群5 名(25.0 %)であった。転倒場所で最も多いのは病室で71.4 %,次いで病棟トイレ11.0 %であった。入棟から転倒までの期間は,入棟後1 週間以内が30.8 %で最も多く,85.7 %が2 か月以内の転倒であった。FIM においてはM-FIM,C-FIM,T-FIM ともに転倒群のほうが低かった。転倒アセスメントスコアでは,リスクレベルⅡでは,291 名中転倒者72 名(24.7 %),リスクレベルⅢでは,78 名中転倒者19 名(24.4 %)であった。【結論】転倒が多く発生したのは,場所別では,病室とトイレで,時期では,回復期リハ病棟入棟後比較的早期であった。また,転倒群はFIM 点数が中等値であり,転倒・転落アセスメントスコアではリスクレベルⅡ以上の患者に転倒が多いことが示唆された。
  • 古田 良江, 鈴木 みずえ
    2016 年 2 巻 3 号 p. 41-48
    発行日: 2016/03/10
    公開日: 2016/06/27
    ジャーナル フリー
    【目的】本研究は,地域高齢者の転倒・疼痛と健康関連QOL および転倒恐怖感,生活能力との関連について明らかにすることを目的にした。【方法】対象はA 市の二次予防事業に参加する要介護ハイリスク者で,2012 年10 月~ 12 月に対象に該当する727名のうち,同意が得られた495 名(男性32 名,女性463 名,回答率68.1 %)に対して聞き取り調査を行った。調査項目は,転倒,転倒恐怖感,疼痛,歩行への支障,生活能力,健康関連QOL とした。【結果】転倒・疼痛の有無で4 群に分けると,転倒なし・疼痛なし群15.4 %,転倒あり・疼痛なし群11.5 %,転倒なし・疼痛あり群31.9 %,転倒あり・疼痛あり群41.2 %であった。転倒恐怖感を有する割合は,転倒なし・疼痛なし群が82.9 %で他の群と比べて少なく,群間差が見られた。老研式活動能力指標は,転倒なし・疼痛あり群は合計得点と手段的自立得点が,転倒なし・疼痛なし群に対して有意に高かった。一方,健康関連QOL は,転倒なし・疼痛あり群と転倒あり・疼痛あり群の身体的サマリースコアが,転倒なし・疼痛なし群に対して有意に低かった。【結論】本研究の対象となった二次予防事業に参加する要介護ハイリスク者は,転倒や疼痛があっても生活能力は良好に維持されていたが,転倒や疼痛によって転倒恐怖感を有するとともに,身体機能に関する健康関連QOL の低下が見られたことから,こうした実情を考慮した介護予防対策を講じる必要がある。
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