日本転倒予防学会誌
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5 巻, 3 号
日本転倒予防学会誌
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
特集
  • 鈴木 みずえ
    2019 年 5 巻 3 号 p. 5-12
    発行日: 2019/03/10
    公開日: 2019/07/24
    ジャーナル フリー

     転倒は高齢者の歩行・バランス機能の低下に基づいた必定的な出来事であるが,超高齢社会においては老年症候群でもあり,その後の移動能力や生活の質の低下を予測する貴重な症状として,大変重要な位置づけにあり,保健・医療・福祉だけではなく,さまざまな領域で予防対策が取り組まれている。転倒予防は単に転倒を予防することだけに着目するのではなく,人がいかによりよく生きるのかを考えながら,生活の質と安全のバランスをとり,検討する必要がある。さらに,転倒予防学の3 つのアプローチ方法のリスク介入手法を確立することで,介入成果もより明確になっていくと考える。今後,多職種,多分野による転倒予防学の構築が期待される。

  • 感染徴候を見逃さない
    村上 あおい
    2019 年 5 巻 3 号 p. 13-14
    発行日: 2019/03/10
    公開日: 2019/07/24
    ジャーナル フリー

     医療施設では,入院中の転倒転落事故を未然に防ぐ取り組みを行っているが,入院患者の中でも高齢者の割合が増加し,転倒要因も多岐にわたるため効果的な対策を講じるには難しいと感じることが多い。転倒転落の問題については,多職種で共有し要因分析をした上でさまざまな対策を講じているが,自身の専門分野でもある感染管理の視点で何か取り組めることはないかと模索し, 本研究を実施した。

  • 薬剤師の立場から
    垣越 咲穂
    2019 年 5 巻 3 号 p. 15-20
    発行日: 2019/03/10
    公開日: 2019/07/24
    ジャーナル フリー

     転倒・転落は内的要因や外的要因が絡み合い発生するため,転倒を予防するには多職種で連携し多面的に介入する必要がある。病院内での転倒・転落の主な発見者は,患者の介助を直接行うスタッフであり,これらの職種と連携し,情報共有を行っていくことが,より効率的な転倒・転落予防につながる可能性があると考えられる。

     当院では,転倒予防チームと再骨折予防チームが活動しており,転倒予防および再骨折予防に取り組んでいる。昨年度は,患者・患者家族向けの転倒予防および再骨折予防に関する手帳作成をテーマに,転倒予防チームでは転倒・骨折予防(一次骨折予防)として「転倒・骨折予防手帳」,再骨折予防チームでは二次骨折予防として「再骨折予防手帳」の作成を行ったが,これらの手帳の作成過程においては,多職種連携の重要性についてより実感した。

     多職種連携を継続して行うためには,各職種の役割を理解し合い,専門性を活かしたチームを形成する必要がある。目標を設定して,達成する過程は,チームのモチベーション維持やコミュニケーションの活性化に有効であったと考えられる。当院のチームは,多職種で,楽しく,多面的な介入を行うためにアイディアを出し合いながら活動に取り組んでいる。薬剤師の立場から,病院内での多職種連携の課題について検討したが,まずは積極的に転倒予防にかかわる薬剤師が増えることが望まれると当時に,また転倒予防に対してさまざまな医療機関で,多職種チームが活躍することが期待される。

  • 初雁 卓郎
    2019 年 5 巻 3 号 p. 21-24
    発行日: 2019/03/10
    公開日: 2019/07/24
    ジャーナル フリー

     医療・介護分野に共通の課題である転倒事故については,これまでにもさまざまな対策が提案・実践されている。病院や高齢者施設を問わず,転倒事故はベッドサイドで発生することが多い。そこで本報告では,ベッドサイドを中心とした転倒事故対策事例を紹介する。

     転倒対策は,人的対策と物的対策の2 つに大きく区分できる。さらに物的対策は,未然防止策,直前防止策,損害軽減策の3 つに区分できる。実際に物的対策を導入して成果を出すためには,それを有効活用するための人的対策も必須である。転倒事故低減事例でも,運用方法を模索する導入初期には顕著な導入効果が得られず,運用方法を確立してはじめてその効果を発揮する。人的対策を円滑に浸透させるためには,施設管理者とスタッフの双方がリーダーシップを発揮しながら目標を掲げ,現状把握をして課題を明確にし,施策をメンバー一丸となって創出・運用していくことが重要である。リーダーシップ研修は医療・介護分野でも実施されつつある。そうした活動の成果は本学会などを通して積極的に情報共有を行うことが重要であり,私たちも転倒転落事故対策研究会(RoomT2;ルームティーツー)などの小集団活動でその一端を担っている。

     今後労働力不足も懸念される医療・介護現場において,適正な転倒事故対策による業務効率化と安全・安心な療養環境を両立させるためにも,さらなる物的対策と人的対策との連携が望まれる。

  • 見守りシステム,ロボットを用いた転倒予防の成果
    近藤 和泉, 尾崎 健一, 相本 啓太, 川村 皓生, 伊藤 直樹
    2019 年 5 巻 3 号 p. 25-28
    発行日: 2019/03/10
    公開日: 2019/07/24
    ジャーナル フリー

     転倒は,抗重力的な姿勢をとって生活していく上で避けられない事象で,特に高齢者ではその傾向が強くなる。転倒には普通の生活で起こる一般転倒と,入院という特殊な状況下で起こる病院転倒があり,それぞれ異なった対応がとられるべきである。地域在住のフレイル高齢者に対するバランス訓練ロボットの適用,現在我々が開発している入院中の転倒予防IT システムとトイレ移動支援ロボット,入院中のリハビリテーションで歩行訓練開始時に投入されるインテリジェント杖ロボット,地域高齢者の活動量増大を目指したロボットケインについて紹介し,さまざまな状況で起こる転倒に対して,適切なロボットあるいはデバイスの適用が行われることが望ましいことを強調した。

原著l
  • 油野 規代, 加藤 真由美, 桂 英之, 小泉 由美, 山崎 松美, 正源寺 美穂
    2019 年 5 巻 3 号 p. 29-41
    発行日: 2019/03/10
    公開日: 2019/07/24
    ジャーナル フリー

    【目的】本研究は,終末期がん患者の生存期間1 か月間の転倒要因を明らかにする。

    【方法】国民健康保険小松市民病院において2013 年1 月1 日から2014 年12 月31 日に,がんにより死亡した397 名の生存期間1 か月間の診療録,インシデントレポートからの後ろ向き調査を行った。対象者の基本属性,心身状態,治療・処置内容,使用薬剤,バーサルインデックス,転倒状況,損傷レベルを調査し転倒との関連について分析した。

    【結果】転倒群は80 名(20.2 %),100 件であった。見当識障害のオッズ比は,4.092[95 % CI:2.296 - 7.294],下肢筋力低下の認識は,2.281[95 % CI:1.287 - 4.045],睡眠薬の内服は,1.963[95 % CI:1.134 - 3.396]であった。その内,複数回転倒者は17 名(21.2 %),37 件であった。複数回転倒群では,転移のオッズ比が,3.575[95 % CI:1.050 - 12.168 p = 0.041],見当識障害2.849[95 % CI:1.045 - 7.766, p = 0.019],睡眠薬の内服3.809[95 % CI:1.342 -10.81, p = 0.011],食欲不振3.348[95 % CI:1.126 - 9.953, p = 0.025]と高かった。複数回転倒群はすべて65 歳以上であった。転倒が多かった場所はベッドサイド66.0 %,行動の動機は排泄59.0 %,夜間帯の転倒は52.0 %,転倒の多かった月は4 月の16.0 %であった。

    【結論】終末期がん患者の生存期間1 か月間での転倒要因は,見当識障害,下肢筋力低下の認識,睡眠薬の内服であり,複数回転倒群では,転移,見当識障害,睡眠薬の内服,食欲不振であった。

  • 中嶋 香奈子, 小林 吉之, 多田 充徳, 持丸 正明
    2019 年 5 巻 3 号 p. 43-53
    発行日: 2019/03/10
    公開日: 2019/07/24
    ジャーナル フリー

    【目的】地面に唯一接している足底部はヒトの移動動作や姿勢制御を支持する役割を担っていることから,本研究では,歩行時足底圧の時系列データに着目し,転倒経験者と非転倒経験者における特徴を明らかにすることを目的とした。【方法】転倒は女性に多く発生することから,女性30 名(転倒歴なし22 名:59.64 ± 8.89 歳,転倒歴あり8 名:61.88 ± 8.29 歳)を対象に足底圧計測装置F-scan Ⅱシステムを用いて10m の歩行計測を実施した。まず計測により得られた足底圧データの平均と偏差のデータを求めた。次に,時間正規化された足底圧値から構成された300 × 357(5 試行× 2(左右足データ)× 30 名,足底部7 領域× 51 点)の行列データセットを主成分分析にかけ,出力された第1 から第36 主成分までの各主成分得点について,転倒経験を要因としたt 検定で有意差検定を行った。さらに,主成分得点と参加者の基本情報,歩行の時間空間パラメータ,最大足底圧との相関係数を求め,足底圧の変位特徴の理解に用いた。加えて,対象群ごとの足底圧データの特徴を把握するために得られた主成分に関連する足底圧波形の再構築を行った。

    【結果】足底圧の平均と偏差を求めた結果では,平均値に群間の大きな差は見られなかったが,偏差においては立脚後期の前足部足底圧に差が見られた。さらに,主成分分析の結果,第1 ,8 ,10 主成分に転倒経験の主効果が示された(p < 0.05)。これらの主成分得点と他の評価パラメータとの相関関係の結果と,得られた主成分に関連する再構築波形の比較により,転倒経験者では非転倒経験者よりも立脚期中の踵とつま先の位置の足圧値が低値となること,反対に高値を示す足底箇所が見られた。また,足底圧波形全体の形状においてもデータの出力傾向が異なり,出力ピーク位置のずれなどの変動差が見られた。

    【結論】本研究の結果から,主成分分析を用いることにより足底圧のピーク値や平均値などの単一的な評価パラメータだけではなく全体的な波形の評価ができ,歩行中の足の接地戦略の違いから転倒経験者と非転倒経験者の歩行時足底圧変化の特徴差を示していることがわかった。上記の主成分の観点から,歩行時の足底圧特徴を検知することにより,転倒経験を持つ者に近い対象者を抽出できる可能性が示唆された。

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