立川,山本両会長の申されましたように,2004 年の第1 回学術集会から今回までに,「転倒予防」が奥深く,学問的にも掘り下げ続けられてきました。それはまさにメインテーマである“米百俵の精神”に支えられて来たと言って過言ではありません。また,転倒予防の精神も,皆様の弛まぬご努力が積み重なって開発され,引き継がれ,将来のさらなる発展に繋がっていくと思われます。
さて,本シンポジウム「高齢者の転倒に関わる医学,多面的視点」の最初の講演者,立入久和先生は,変形性膝関節症がロコモティブシンドロームの主原因であり,下肢アライメント,筋力,可動域,バランス能力の低下,痛みは転倒リスクとなること,また,予防で重要となる運動療法を詳細に解説されました。
次の白野美和先生は,歯と転倒との関連性に歯科のお立場から解説され,歯の喪失,咬合力支持の低下は,口腔機能の低下,食物摂取支障は転倒リスクに繋がり,フレイルから要介護の上流には,「オーラルフレイル」が存在し,咀嚼障害や接触嚥下障害に陥る前に介入することが重要と強調され,非常に興味深い講演となりました。
次の小川純人先生は,生理的予備能の低下でストレスに対する脆弱性が亢進するフレイルと転倒との関連性について基礎から臨床に至る深く幅広い知識を基盤に解説され,フレイル,サルコぺニアの発症や進展には,ホルモン等の液性因子の加齢変化,栄養障害,慢性炎症など様々な要因が関与し,運動・栄養・薬物療法を含めた包括的アプローチによる転倒予防対策の可能性を提唱されました。
次の石澤正博先生は,これまで正面から取り上げられなかった糖尿病と転倒について大変分かりやすく解説され,糖尿病患者の転倒リスクには数多くの要因が関わるが,食事療法で食事摂取量抑制と体重減少が指示され,サルコペニアが起こりやすいなどの各要因の改善は困難であり,生活療法を中心とした予防策が重要で,さらに骨質の悪化という上乗せの骨折リスクがあり,一部の薬は骨折リスクを高めることも指摘されました。
最後の森川春子先生は,女性アスリートのエネルギー摂取量<消費量,視床下部性無月経,エストロゲン低下による骨粗鬆症,そして疲労骨折などの悪循環を断つには,運動量をへらすか適切なエネルギー補給が必要とされ,女性医学の視点から骨粗鬆症の予防治療が重要であることを強調されました。
本シンポジウムにおきましては,発表者の先生方の日頃の深いご考察,透徹した展望,ご研究の存分なる成果を非常にわかりやすく提示してくださりましたことで,会場の観衆にはこれまでにない満足と知見を得ていただけたと思います。
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