日本転倒予防学会誌
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9 巻, 2 号
日本転倒予防学会誌
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原著
  • 〜入院診療区分で比較した横断研究〜
    小林 浩介, 木戸 直博, 若林 昌司, 山本 京子, 檜原 淳, 田村 真佐美, 坂原 智子
    原稿種別: 原著
    2023 年 9 巻 2 号 p. 3-11
    発行日: 2023/03/10
    公開日: 2023/06/10
    ジャーナル フリー

    【目的】本研究の目的は,急性期病院における入院診療の区分(予定入院・緊急入院)と転倒・転落の関連について 明らかにすることであった。

    【方法】研究対象は,2021 年4 月1 日から2021 年12 月31 日までにおいて広島市立安佐市民病院に入院した10,778 例とした。インシデント・アクシデント報告ならびに電子カルテ情報から,転倒・転落患者の基本属性,入院診療の区分について後方視的に調査した。年齢は,65 歳未満,65 歳以上75 歳未満,75 歳以上に分けて,それぞれ非高齢者群,前期高齢者群,後期高齢者群とした。予定入院と緊急入院患者の転倒・転落件数について分析した。

    【結果】予定入院患者は6,313 例,緊急入院患者は4,465 例であった。転倒・転落していた患者は314 例(転倒・転落 発生率:2.9 %)であり,そのうち予定入院患者は131 例(転倒・転落発生率:2.1 %),緊急入院患者は183 例(転倒・転落発生率:4.1 %)であった。予定入院患者に対する緊急入院患者の転倒・転落発生の相対リスクは2.0 倍だった。 転倒・転落発生率は,予定入院および緊急入院のどちらにおいても非高齢者群,前期高齢者群,後期高齢者群の順に増加する傾向を認めた。すべての群において,転倒・転落発生率は緊急入院患者の方が予定入院患者よりも高かった。 転倒・転落の相対リスクは,非高齢者群が最も高く3.0 倍,前期高齢者群が2.1 倍,後期高齢者群が1.5 倍であり,順に減少していた。

    【結論】急性期病院の転倒・転落は,緊急入院患者の方が予定入院患者よりも発生率が高く,入院診療区分と関連し ていることが明らかになった。

  • 〜足部クリアランス測定部位の違いと遊脚期の最大・最小クリアランスに着目して〜
    稲井 卓真, 小林 吉之, 中嶋 香奈子, 沓澤 岳, 工藤 将馬, 二瓶 史行, 中原 謙太郎, 黄 晨暉, 藤田 浩二, 山本 皓子
    原稿種別: 原著
    2023 年 9 巻 2 号 p. 13-24
    発行日: 2023/03/10
    公開日: 2023/06/10
    ジャーナル フリー

    【目的】本研究の目的は,つまずきによる転倒に関連するクリアランスに着目し,「足部クリアランス測定部位の違 い」と「遊脚期の最大・最小クリアランス」に関する,転倒経験者の歩行特徴を特定することである。

    【方法】本研究は,地域在住高齢者の非転倒経験者26 名(非転倒群,69.4 ± 3.2 歳,女性13 名)と転倒経験者23 名 (転倒群,67.7 ± 2.6 歳,女性12 名)を対象とした。三次元動作解析装置・床反力計を用いて,遊脚期の最大クリアランスと最小クリアランスを計測した。本研究では,足部クリアランス測定部位の条件として,踵のマーカーから第 3 中足骨頭のマーカーまでの直線上の11 点を設定した。Cohen’s d を用いて効果量を計算した。

    【結果】すべての足部クリアランス測定部位の条件で,非転倒群と比べて転倒群の最大クリアランスは有意に小さ かった。ほぼすべての足部クリアランス測定部位の条件で,非転倒群と比べて転倒群の最小クリアランスは有意に小さかった。最小クリアランスよりも,最大クリアランスの効果量は大きかった(最大クリアランス:0.68-0.84[中-大],最小クリアランス:0.53-0.54[中])。踵側よりも,つま先側の最大クリアランスの効果量は大きかった(踵:0.68 [中],つま先:0.84[大])。

    【結論】本研究では,つまずきによる転倒に関連するクリアランスに着目して,転倒経験者の歩行特徴を特定した。 結論として,クリアランスを用いて転倒リスクを高い精度で評価するためには,「つま先」の「最大」クリアランスをみることが適切である可能性が示された。

  • 岡地 雄亮, 木村 一志, 佐々木 幸子, 奥村 宣久, 湯浅 孝男
    原稿種別: 原著
    2023 年 9 巻 2 号 p. 25-34
    発行日: 2023/03/10
    公開日: 2023/06/10
    ジャーナル フリー

    【目的】転倒に関する心理的要因として転倒関連自己効力感が着目されている。そこで本研究では地域在住高齢者の 生活リズム,生活機能,認知機能と転倒関連自己効力感との関連を明らかにすることを目的とした。

    【方法】対象は65 歳以上の地域在住の自立高齢者および要支援認定者52 名とした。転倒関連自己効力感の測定には 日本語版転倒関連自己効力感尺度(the Falls Efficacy Scale-International:FES-I)を用いた。生活状況の評価には簡易生活リズム質問票および,基本チェックリストを用いた。認知機能評価として遂行機能,functional reach test 誤差,2 ステップ誤差を測定した。転倒関連自己効力感に関連する要因を検討するため,FES-I 得点を従属変数,簡易生活リズム質問票総得点,基本チェックリスト総得点,認知機能評価の各項目を独立変数とした重回帰分析を行った。

    【結果と考察】研究参加者52 名の平均年齢は75.3 ± 6.5 歳だった。簡易生活リズム質問票で評価した生活リズムのう ち,睡眠の質は転倒関連自己効力感と有意な負の関連を示した(偏回帰係数B =−2.148,95 %CI:−3.676,−0.620, p=0.007)。基本チェックリストで評価した生活機能のうち,閉じこもりと転倒関連自己効力感との間に有意な負の関連が認められたが(偏回帰係数B=6.191,95 %CI:0.950,11.433,p=0.022),認知機能は転倒関連自己効力感との関連を示さなかった。転倒関連自己効力感に関連する要因を検討するためには,睡眠の質と閉じこもりについて着目する必要があることが示唆された。

    【結論】地域在住高齢者の転倒関連自己効力感を捉えるために,身体機能面だけではなく,生活リズムや生活機能と いった包括的な視野が必要であるといえる。

報告
  • 黄 開運, 松田 千登勢, 小堀 栄子
    原稿種別: 報告
    2023 年 9 巻 2 号 p. 35-43
    発行日: 2023/03/10
    公開日: 2023/06/10
    ジャーナル フリー

    【目的】本研究は回復期リハビリテーション病棟(以下,回復期リハ病棟)の看護師が実践している認知症高齢者へ の転倒予防の実態を明らかにすることである。

    【方法】一般社団法人回復期リハビリテーション病棟協会ホームページ上の公開情報から,近畿圏の回復期リハ病棟 の病床数が50 床以上の124 病院の看護部長宛てに研究の依頼文を郵送した。そのうち,同意を得た23 病院の回復期リハ病棟での経験が1 年以上の常勤看護師411 名を対象にし,無記名自記式調査票を用いた郵送調査を行った。

    【結果と考察】有効回答は148 名(36.0 %)であった。転倒のアセスメントに関しては,7 割以上の看護師が「実施 している」と回答した項目が半数であったが,「実施していない」と回答した者の割合が最も多かった項目は「A_3. 生活が安定した状況を本人の本来の生活としてアセスメントする」59 名(39.9 %)であった。また,ケアプランと実践に関する項目において,「B_2. 入院直後の環境に馴染めないことによって起こる転倒を予防するために,生活環境に慣れるプロセスを早める」55 名(37.2 %)が「実施していない」という結果であった。多くの看護師は回復期リハ病棟における認知症高齢者への転倒予防に対し,生活背景および本人のニーズに関するアセスメントや入院初期には環境に慣れるまでの看護ケアが不足することが明らかになった。また,回復期リハ病棟の転倒予防対策として,転倒予防へのマニュアルの活用およびマンパワー活用体制といった取り組みへの工夫を行うことで,転倒予防の一助となることが示唆された。

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