得られた結果を要約すると次のとおりである.
(1)245kg/mm
2級マルエージ鋼を475℃で100minあるいは250min時効し,低歪み速度の引張りで延性が減少する試料について,室温空気中で定荷重負荷遅れ破壊試験を行うと,1mm/minの引張りで得られる強度より小さい負荷応力でおくれ破壊現象を示す.長時間の時効で延性の歪み速度依存性を示さなくなつた試料では,明らかにおくれ破壊に対する抵抗が改善される.
(2)245kg/mm
2級マルエージ鋼の場合,整合析出相の生成が多いような時効条件の試料では引張性質の歪み速度依存性が顕著である.475℃で25,10,250min時効した試料において典型的な水素脆性の特徴がみられる.すなわち引張りの際に形成される応力集中のみによつては延性が劣化せず,応力集中領域に水素が拡散してクラックを発生させるために延性が劣化する.
400℃においても約190kg/mm
2以下では,水素脆性が関与しなければ比較的高い延性を示す.しかし約200kg/mm
2以上に達すると,引張変形で形成される強い応力集中の影響で延性の低い破壊をおこす.時効温度を425℃,450℃のように漸次高温にすると,高い強度レベルまで時効硬化しても引張変形で形成される応力集中で延性が劣化する傾向は減少し,応力集中領域に水素が拡散して延性劣化をひきおこす影響が明らかになる.
(3)475℃で25~10000min時効した試料の-76°~150℃における強度の温度依存性は,時効時間が短く,整合析出相が多いと推定される試料において大きく,長時間の時効で転位の運動により剪断されない硬い析出相を多く含有する試料において小さい.
(4)280kg/mm
2級マルエージ鋼においては,整合析出相が多い場合および過時効の条件でも引張性質の歪み速度依存性が顕著である.500℃時効で最高強度に達する500min時効および過時効に相当する525℃-500min時効試料などにおいて,典型的な水素脆性の特徴が認められた.
245kg/mm
2級マルエージ鋼の場合と同様,整合析出相によつて十分高い強度レベルに硬化されれば引張り変形で形成される強い応力集中の影響で延性の小さい破壊をおこす試料があらわれ,このような場合延性の歪み速度依存性が明らかでなくなるが,強度がそれほど大きくなければ応力集中の形成とそれへの水素拡散によつて延性の劣化がおこる.
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