0.10C-0.30Si-1.0Mn鋼(B),これとほぼ同じ組成に0.02Nbを添加したK8鋼,および同じくNbを添加し,Cを0.01%と低減したK12鋼を用いて初期粒度をそろえ,変形前のNb(C,N)を分解,固溶させる目的で所定の温度に加熱後,10
-4~10
-1/sの歪み速度(ε),850~1 100℃の温度(
T)での高温引張変形によつて得られた応力一歪(σ/ε)曲線を解析することによつて,オーステナイトの変形挙動,動的再結晶挙動,Nb(C,N)の析出挙動とその影響について検討した.得られた結果を以下に要約する.
(1)動的再結晶でみられるσ/ε曲線のピーク応力(σ
p)は
Tが低く,εが大きい程大きくなる傾向を示し,σ
p,ε,
Tの関係はB,K12鋼では,
ε=
Aσ
npexp(-
Q/
RT)
で整理でき,それぞれ
Q=59.3,69.3kcal/molが得られた.nはいずれも約5.0となつた.K8鋼のアレニウスプロットは
T〓1 050℃の高温部で傾きが小さくなる折れ曲がりを生じた.低温部(
T〓1 000℃)から得られた
Qは85.6kcal/mol程度とK12鋼よりもさらに大きくなつた.K8鋼で見られたこれらの現象はNb(C,N)の析出に起因するものと考えられた.
(2)σ
pに対応する歪み,すなわち動的再結晶を起こすに要する歪みと密接に関係することが知られている.ε
pもεとTに対してσ
pと同様の傾向を示した.その大きさは同一条件では,K8,K12,Bの順となり,Nb添加による再結晶抑制効果が認められた.K12鋼でみられた再結晶抑制効果は,かなり小さく,その程度がε,Tによつてほとんど変化しなかつたことから固溶Nbによる効果のみが現れたものと考えられた.K8鋼での再結晶抑制効果は,
Tとεのある条件下で極めて顕著であり,その他の条件下では小さく,K12鋼と大差なかつた.この顕著な再結晶抑制効果は,析出後の導入と析出が連続的に行われる動的析出によつて生じた細かいNb(C,N)によるものと考えられた.Nb(C,N)の析出温度範囲でも,εが小さい場合は析出の核形成の数が少なく,それらが成長して比較的粗大となつたために同じ動的析出でも再結晶抑制効果が小さかつたものと考えられる.逆にεが大きすぎる場合はNb(C,N)が析出する時間的余裕がないため,K12鋼と同様に固溶Nbの効果しか示さなかつたものと考えられる.なお変形前に静的な析出をさせたものでは動的な再結晶抑制効果はほとんど認められず,変形前の固溶Nbの存在が重要であることを確認した。
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