本委員会で提案した焼入性予測の重回帰式は,CおよびC以外の合金元素間の相互作用の有意性を確認し,それらの項を重回帰式にとり入れた点に,最も大きな特徴がある.
相互作用の物理的意味については,現在のところ明らかではないが,相変熊に関する従来理論に準拠して,その可能性を考えてみる.
合金元素の添加による焼入性の変化は,オーステナイトの分解過程,すなわち,フェライトあるいはパーライト変態の核生成と成長とに対して,合金元素が如何に機能するかに依存する.
まず最初に,フェライト変態について考えてみると,Ni, Mn, Si, Cr, Moなどの合金元素は成長の段階でほとんど分配しないことが知られており
4),したがつて,これらの元素は,おもに核生成速度を遅らせることによつて,焼入性に寄与していると考えられる.Ni, Mn添加による核生成速度の減少は,熱力学データから推定される理論値に比較的近い
5)のに対して,フェライト安定化元素であり,かつ,強力な炭化物形成元素であるMo, Crなどの場合にはほとんど説明できないような核生成現象を示す.したがつて,1つの仮説にすぎないが,従来理論に従わない元素の組み合わせ,あるいは理論に従う元素とそうでない元素の組み合わせのような場合に,相互作用が現れてくるのではないかと考えられる.
つぎにパーライト変態について考えてみる.この場合に最も重要な点は, Mn, NiはFe
3Cに濃縮しないのに対して, Si, Cr, Moは極めて多量に濃縮し,パーライトの成長を遅らせることである.したがつて,フェライト変態あるいはパーライト変態のいずれが支配的であるかによつて,CとC以外の合金元素の組み合わせによる焼入性の関係に差が生じ,このことが,相互作用として現われるのではないかと考えられる.
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