我々は,好みの問題としてではなく核エネルギー利用は可能であるかどうか,根底から問いなおす時点にきている.そして恐らくLILIENTHALも指摘するように,初心に戻り再出発すべきであろう
28).その具体策の一つとしてトリウム溶融塩炉を示した.さらに詳しい解説
25)もある.
上記のようにまずMiniFUJIを運転し,この技術の合理性を広く社会と共に実感することが必須である.それは幸い,ORNLの努力,特に実験炉MSREの実績に基づくならば,疑う余地はないくらいである.それはわずかの投資,約100名の人々で遂行できたのである.この余りに美事な成果は,ある意味では不幸であつた.余りに小人数であつた関係者しか,その成果の価値を理解していないといえるからである.液体燃料炉になじみの薄い人々により書かれた誤解をまねきやすい解説が,今でも国内外に多いのはたいへん不幸なことである
17).
改めて,なぜわずかな資金・人容(時間は約20年[Fig.2])で技術の基本が完成できたかを考えてみたい.結論は「理論に支えられた開発」
29)だつたからである.歴史的にみても溶融塩化学は,物理化学的手法が最も成功した領域であるが,この燃料塩は典型的なイオン性液体であつて,相互作用の主体は古典的な静電力であり,重ね合わせが効き,正に物理化学的理論で半定量的な挙動予測が十分できる
9).[本質的に量子論的性格の強い液体金属技術とは,対照的である
29)30).]彼らはこの原則に誠実に従い,基礎的研究を深めつつ開発を進めた.試行錯誤ではなく,理論予測を踏まえた実験的手法で,難問を次々と解決してきたのである
14)19).これは,今後の開発途上で困難に直面した場合にも,直ちに合理的な対策が立てられるであろうことを意味する.またひるがえつて,過去の成果についても,単なる経験事実以上の理論的保証が得られていることを意味するであろう.
このようにして,この技術が現代の課題(A)~(F)(2.参照)の真の解決策であることを実証できると信じたい.しかも必要資金はまず200~300億円でよいと思う.
溶融スラグは,本質的にFlibe系溶融塩と同質の媒体である
12)29)(4・2).同じ高温融体工業である鉄鋼業界の持つ能力が,この方面に活かされることを期待したい.[追記]本解説に関連深い次世代炉に関する論説が発表された[IAE-4479/3(1987)].主著者故LEGASOVは,Chernobyl炉事故処理の指揮者であつた.拙訳[日本原子力学会誌,30(1988)11,印刷中]を参照されたい.
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