東北大学理学部八甲田山植物実験所内の湿原・池沼生態系の南東部には, 裸地が広がっていた。1979年頃から湿原の排水管理方法の変更によって, 水位が徐々に上昇する環境の変化が生じ, 裸地にはミズゴケ群落が形成された。この遷移系列は, 次のようなものであった。
(1) 渇水期にも長期に乾燥しない環境でエゾホソイが侵入, 定着する。(2) 夏期の短期間のみやや乾燥するが, ほぼ常時湛水する環境でウカミカマゴケなどの蘚類が侵入,定着する。この間, リターの薄層 (リターネット) が裸地に形成される。(3) この薄層を足掛かり, 支持体として, ミズゴケの侵入, 定着が開始した。既存の湿原縁辺でちぎれ, 池沼に供給されたミズゴケシュート切片が侵入の起源である。(4) 切片定着後5年でミズゴケシュートの伸長成長が停止し, ミズゴケ泥炭が形成され始めた。(5) 高密度なミズゴケ群落は水深4cm以浅の環境下で, 定着ミズゴケ切片から短時間に発達した。
この短時間の遷移は, 荒廃ミズゴケ湿原の人為的復元に際し, 設定すべき水文及び地表の環境条件を与える。さらに, 湿原下の泥炭層と埋没火山灰層の層界が一般的にシャープであるという事実をも説明する。
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