本論は, 情報の不足する地域における海水面上昇の影響予測手法を確立することを目的とし, チャオプラヤ川河口に位置するバンコク地域を対象に, 海水面上昇による社会経済的な影響予測を試みたものである。この予測は, 土地利用図と地盤高図のオーバーレイから明らかにした, ある地盤高以下の土地利用面積と原単位から行うことができる。土地利用図はランドサットTMデータを用いて作成し (自動分類図), 地盤高図は複数の資料から編集した。原単位は, 土地利用区分毎に求められた単位面積当たりの社会経済的な資産価値であり, 地価, 生産性, 居住人口についてまとめた。将来, 1mの海水面上昇が起こった場合, バンコク地域では1,200km
2が水没する。影響を受ける社会経済的資産について原単位を使って計算した結果, 640億バーツの土地の損失, 年間3,000億バーツの生産性の損失, 280万人の撤退の必要性が予測された。また, NRCT (National Research Council of Thailand) のリモートセンシング部が作成した目視判読図を用いた予測でも, 自動分類図とほぼ同様の結果が得られたことから, 人工衛星による土地利用図を用いても, 海水面上昇の影響予測が十分にできることが分かった。
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