本研究はカンザス州カーニー郡を事例に, 農地保全政策CRPがハイプレーンズの穀作農業地域にいかなる効果をもたらしたかを, 農業の発展過程と土地の耕作条件をふまえて明らかにした。1986年から施行されたCRP (保全留保計画) は, 耕地を休耕にして自然植生を回復させる代償として, 農家に補償金を支払う政策である。CRPは穀物価格の低迷に悩まされていた穀作農業地域に普及したが, とくに, オガララ帯水層の涵養量が少ない州境地帯は, CRP契約地が最も集中する地域となった。ここは, 降水量の変動が大きい上に, 土壌侵食の危険度が高いため, 夏季休閑や土壌保全対策を必要とする乾燥農業が広く行われてきた。
カーニー郡におけるCRP契約地は, 谷の周辺などの土壌侵食の危険度が高い場所に加えて, センターピボット灌漑耕地の角地など, 農業生産活動が盛んでない場所に分布する。CRPの補償金は近年減少を続けているが, いまだ休閑を伴う穀作の収入やドライランド (非灌漑耕地) の地代に匹敵する。これらCRPは本来の目標である土壌保全や農家収入の安定ばかりでなく, 野生動物が増加するなど, その環境保護的な効果を発揮している。
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