本稿は, 主に単身女性を読者として想定した雑誌における賃貸住宅情報を検討することを通じて, 雑誌記事の表象に潜む様々な問題を探求するものである。『Hanako』は首都圏限定発売の女性週刊誌で, ここで分析の対象とした賃貸住宅の記事は, 創刊当時の1988年から1990年にかけての5回の特集である。『Hanako』の創刊当時の編集方針は仕事だけでも結婚だけでもない女性のライフスタイルの提案であり, 創刊当時の賃貸住宅の特集はそれを特徴づけている。一般的な住宅情報誌と異なり,『Hanako』は様々なタイプの部屋での住み方を, 美的価値に従って提案していると同時に, 賃貸住宅を通じてある種の「東京」地誌を描いている。そのことを通じて, 読者は嗜好の差異を認識するのみならず,「階級」を意識させられる。また, 紙面の性差表現は他の女性誌が描き出すような男性との関係性ではないが, この雑誌は女性の生活様式をある方向に規定することによって女性性を維持しているとも解釈できる。
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