季刊地理学
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63 巻, 1 号
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論文
  • —— 長崎県五島列島の事例 ——
    中村 努
    2012 年 63 巻 1 号 p. 1-16
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    本稿では,長崎県五島列島を事例に,離島における医薬品流通システムを医薬品卸の機能に注目して検証した。医薬品は生命関連性が高いため,地域に偏りなく医薬品を供給するという公平性が求められる。一方,離島はその隔絶性や狭小性ゆえに,配送コストが本土と比較して高くなる。また,需要の絶対量が小さく,スケールメリットを生かした配送効率化には限界がある。しかし,公定薬価は全国一律に決定されるため,離島の薬価に占める配送コストの割合は高い。
    こうした離島が抱える配送上の構造的問題に対して,医薬品卸は必要な医薬品が滞らないようにしながら利益を確保していた。医薬品卸は,医療機関や保険薬局に高めの納入価を設定するとともに緊急配送など採算性の悪い取組みを極力抑えていた。
    しかし,離島に立地する保険薬局へのアンケートからは,在庫管理の困難性やサービス水準への不満が指摘された。一方,医薬品卸の事業環境は急速に悪化している。そのため今後,営業所の撤退や配送頻度の低下など,必要な医薬品の迅速な配送に支障をきたす可能性がある。
研究ノート
  • —— アイヌとオロチョンの比較 ——
    遠藤 匡俊, 張 政
    2012 年 63 巻 1 号 p. 17-27
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    世界の狩猟採集社会の特徴の一つとして集団の空間的流動性があげられる。これまで複数の異なる民族を対象として流動性の程度を比較した研究例はほとんどみられなかった。本研究の目的は,アイヌとオロチョンを例に,集団の空間的流動性の程度を比較することである。分析の結果,以下のことが明らかとなった。集落共住率(U)を算出した結果,同一集落内に定住する傾向が強く集落を構成する家があまり変化しなかった紋別場所のアイヌでは,集落共住率(U)が0.9∼1.0である家の総家数に占める割合は73%ほどであった。一方,多くの家が集落間で移動する傾向が強く集落構成が流動的に変化していた三石場所のアイヌでは,集落共住率(U)が0.9∼1.0である家の総家数に占める割合は43%ほどであった。三石場所のアイヌと同様に,集落構成が流動的に変化していたオロチョンでは,集落共住率(U)が0.9∼1.0である家の総家数に占める割合は25%とさらに低く,0.1∼0.2の家は33.3%,0.3∼0.4の家は25%であった。13年間における集落共住率(U)の経年変化をみると,オロチョンの値は常に0.11∼0.33であり,三石場所のアイヌよりも下回っていた。アイヌの事例を1戸ずつ検討しても,集落共住率(U)の値が常に0.4未満であるような事例は1例もなかった。アイヌ社会のなかでも三石場所のアイヌ集落においては集団の空間的流動性が大きかったが,オロチョンの一家の場合にはさらに流動性が高かった可能性がある。
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