本研究では,カリフォルニア州サクラメント河流域の生態系を修復するプロジェクトをハミルトンシティーで推進する環境ガバナンス,ならびに,ハミルトンシティーの住民の反応を分析した。環境ガバナンスの理論,そして,実践は,スケール・ポリティックスの観点から分析した。ハミルトンシティーは,貧困層が多数を占めるコミュニティーであり,プロジェクトに洪水対策の堤防建設を統合するように要求していた。それには,ローカルから連邦スケールに至る従来の利害関係者よりも,ずっと多くの関係者が積極的に関わっており,生態系修復に関心を持つ多くの団体が加わっていた。つまり,ハミルトンシティーのプロジェクトには,国際的なものを含んだ非政府組織,連邦からローカルに至る従来から河川管理に関わる多くの政府機関,ローカルの住民が包摂された。より広域的に見ると,非政府機関と政府機関がサクラメント河流域全体の生態系修復プロジェクトを推進する環境ガバナンスを創造し,やや水平的な関係を関係主体間で生み出していた。当初堤防建設だけを求めていたハミルトンシティーの住民が生態系修復プロジェクトを受け入れ,それに参加したのは,政策的なメリットのためである。政府は,堤防建設だけのプロジェクトを政策的に正当化できず,予算を編成できなかったが,生態系修復を加えることで堤防建設を正当化できた。堤防建設の予算の実現を政府,非政府機関に要求し続け,生態系修復を推進する環境ガバナンスと歩調を合わせ,堤防建設を前進させた点で住民の努力には意義があったと言える。
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