季刊地理学
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66 巻, 4 号
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特集論文
  • 児玉谷 史朗, 島田 周平, 半澤 和夫
    原稿種別: 特集論文
    2015 年 66 巻 4 号 p. 231-238
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/01
    ジャーナル フリー
    脆弱性(vulnerability)やレジリエンス(resilience)は,社会・生態システムの理解にとって有効で且つ豊かな可能性をもつ概念である。しかしながら,それらが価値依存的概念であるという性格をもち,さらに計測することが容易ではないことから,開発援助といった実践レベルでも理論レベルでも検討すべき点が多いことが指摘されている。検討すべき問題点の1つに地域スケールの問題がある。地理学者やポリティカル・エコロジー論者の中には,脆弱性やレジリエンス概念はすぐれて地域スケールに依存する概念であり,特定の地域に限定して理解される必要があることを強調する研究者が少なくない。我々もこのような見方にたち,以下の論文では1つの地域の事例を示すことで,脆弱性とレジリエンスについて考えてみることにした。焦点をあてたのは,1992年から2011年にわたり現地調査を行ったザンビアの1農村である。長期の現地調査によりこの地域の人間・環境関係の歴史的変化を検討し,小規模農民の脆弱性に影響を与えている多様でしばしば相互に関連する諸要因に関する分析を行った。
  • ── ザンビア中央州の1農村の事例から ──
    児玉谷 史朗
    原稿種別: 特集論文
    2015 年 66 巻 4 号 p. 239-254
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/01
    ジャーナル フリー
    本稿では化学肥料の使用と灌漑がアフリカの小規模農民の食料安全保障に与える効果についてザンビア中央部の一つの村を事例として検討した。事例村では,近年注目されている湿地帯を利用した小規模灌漑が広く行われている。本稿では小規模農民世帯の食料安全保障には,自家消費用の食料作物の生産だけでなく,それ以外の農業活動や非農業活動が食料確保の原資を提供する形で貢献し得る点に注目した。
    調査の結果,トウモロコシの生産は気象条件(旱魃等)と化学肥料の入手状況に影響されること,灌漑による乾季のトウモロコシ作は限定的であり,むしろ灌漑による野菜生産,小規模ビジネス,親類からの送金が重要な役割を果たしていることが明らかとなった。これらによる現金収入が化学肥料等の購入または食料の購入に使われ,食料安全保障が改善した。
  • ── 市場経済の浸透と農民の反応 ──
    半澤 和夫
    原稿種別: 特集論文
    2015 年 66 巻 4 号 p. 255-268
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/01
    ジャーナル フリー
    ザンビアでは2000年以降,市場経済の発展と貿易の自由化が農業生産と農村経済に大きな影響を与えている。銅価格の上昇が主要因でGDPの年平均成長率は5.6%(2001-2010年)となり,その結果,国内の食料需要は増大してきた。本論文は,これらの変化について一農村を対象に技術的・経済的な視点から考察した。大農部門では大型灌漑設備をもつ農場が増えているが,小農部門でも化学肥料や改良品種などの投入財に加え,小型エンジン・ポンプを利用した灌漑農業が普及し始めた。2010年現在,灌漑用ポンプの普及は村世帯の約1割であるが,灌漑水の大量利用は将来,村の貴重な水資源を圧迫することになると推測される。年1回の雨季と乾季が明瞭に分かれる自然条件下で,天水によるトウモロコシの栽培時期は従来,雨季に限定されていた。村内で地表水や地下水が年中利用できる一部地区では,乾季でも灌漑によるトマトやスイカなどの栽培が盛んであった。小型ポンプの導入はトウモロコシの二期作や野菜栽培など農業生産の多様性を可能にしたが,一方で高費用の農業生産が経営を圧迫し,脆弱性を強めている。小型ポンプによる井戸水灌漑の周辺では,ポンプを所有しない世帯の乾季の栽培面積が縮小している。
  • ── ザンビア中央州の1農村における調査から ──
    島田 周平
    原稿種別: 特集論文
    2015 年 66 巻 4 号 p. 269-283
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/01
    ジャーナル フリー
    脆弱性概念の重要性は広く認識されている。しかしその概念が持つ多面性から,その意味を理解することも測ることも容易ではない。脆弱性は多面的アプローチを採用することによってのみ評価が可能であると考えられる。この論文は,アフリカの小規模農民の脆弱性を捉える1つの事例を示すものである。ザンビアの1農村で1992年から実施してきた長期の調査結果をもとに,農民の自然資源へのアクセスの変化に焦点をあて,彼らの脆弱性の変化の分析を試みた。その結果,社会経済的変化が農民たちの脆弱性増大に与えた影響は1つの要因では説明できないこと,さらにその社会経済的変化が脆弱性を緩和するように働く事もあり得ることを明らかにした。脆弱性やレジリエンスの概念は,このように複数の要素を分析することによりにより初めて明らかになる複雑な概念である。
研究ノート
  • 庄子 元
    原稿種別: 研究ノート
    2015 年 66 巻 4 号 p. 284-297
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/01
    ジャーナル フリー
    本研究は,耕作放棄の要因と指摘されている農地の低生産性と農業労働力の減少が顕著な西会津町上谷地区における耕作放棄の抑制メカニズムの実態とその有効性を明らかにするため,ここでは農地利用と農作業分担の面から分析した。
    西会津町は,工芸作物の衰退,農業規模の零細性,高齢化による農業労働力の減少という農業特性を持つ。一方,人口流出先が関東地方から会津若松市や喜多方市,郡山市といった近接する都市域へと変化したこと,高速道路による交通網が整備されたことから,西会津町は他出子弟が農作業に従事しやすい環境にある。本研究では,こうした特徴が町内の中でも顕著である上谷地区を事例に考察した。まず,農地利用の点からは,養蚕業の衰退に伴う桑園の縮小に対して植林を行うことにより耕作放棄を抑制していた。次に,農作業分担の形態からみると,上谷地区の農家は① 自己完結型,② 他出子弟援農型,④ 他出子弟完結型,④ 地区内作業委託型に類型化することができる。多くの農家では他出子弟による農作業従事がなされていたが,この背景には他出子弟の居住地が近接であることがあげられる。また,他出子弟の農作業従事は実家に限定されていることから,農業労働力としては個別的かつ限定的なものに過ぎない。このため,地域的および持続的な耕作放棄の抑制には他出子弟を含めた地域農業の組織化が必要である。
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