本研究は内モンゴル自治区西部阿拉善左旗東縁地域を事例として,周辺に卓越する地形プロセスに着目した土地環境条件を明示するとともに,地域農業の営農状況と環境政策の受容プロセスを明らかにした。
烏兰布和沙漠東縁にて,8 ka頃の河成段丘面離水期以降,砂丘地の拡大が継続している。砂丘地前縁位置は過去数千年間で10
-1~10
0 m/yr,1960年代以降,場所により10
0~10
1 m/yr程度の移動速度が見積もられる。砂丘地拡大により段丘面はほぼ埋没し,当地の農地利用は,地下水位の極めて浅く土壌塩性化の生じやすい黄河氾濫原上に限られる。
砂丘地拡大に伴う草地縮小の影響を受けていた牧畜業は,1990年代中盤以降,主要生業として換金性の高いヒマワリ生産に変化した。その集中的な作付は,地力・収量の低下や病虫害,化学肥料の多投,塩害などの土地環境資源に対するリスクと,冬季湛水による農地維持策との均衡保持が必要とされるが,現在,そのバランスは徐々に崩れつつある。禁牧などの環境政策は所得保障の性格が強いため,環境資源の持続性を確保するには,土地環境条件と住民の生計維持行動とを考慮した政策適用が必要である。
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