熱ショックや低酸素,高酸素,紫外線暴露,栄養不足など様々な刺激により発現誘導される熱ショックタンパク質27(HSP27)は,細胞の恒常性を維持し,細胞の生存を促進するため,分子シャペロンおよび抗アポトーシスタンパク質として機能する.HSP27のリン酸化や糖化など翻訳後修飾やオリゴマー化などの動的変化により,細胞は生理学的機能の変化に適応し,損傷に対する保護応答を開始する.HSP27は,多くの腫瘍形成シグナル伝達経路に関与し,予後不良および治療抵抗性に関連する侵襲性の強いがんで過剰発現される.がんの発症や進展におけるHSP27のタンパク質発現とその翻訳後修飾による機能発現制御機構について最近得られた知見も含めて概説するとともに,化学療法抵抗性を克服する新しい戦略として開発が進んでいるHSP27を標的とした治療法を紹介する.
ナノサイズのマグネタイト正電荷脂質複合粒子(magnetite cationic liposomes, MCL)を腫瘍内に局所投与した後,体外からの交番磁場照射により発熱を誘導し,腫瘍を退縮させる治療法が本邦で開発された.既に,臨床研究が実施され,施術フィジビリティ並びに有害事象に関する大きな阻害要因は見出されないことが報告された.しかしながら,腫瘍温度は等しく上昇したにも関わらず,その有効性は広範囲(完全退縮~ほとんど無効)に亘ったため,更なる有効性の向上を目的に,腫瘍体積当たりの発熱量(J/cm3)を新たな施術コントロール指標とする提案がなされた.本研究の目的は,MCL粒子の殺細胞活性をインビトロで検討し,その妥当性を論じることにある.
検討の結果,MCL粒子は,ポジティブなゼータ電位に依存して,ヒト前立腺癌細胞に吸着し,その飽和量は2 ng-MCL/cellであることが示された.更に,電子顕微鏡観察により,大多数のMCL粒子は細胞膜に局在することが確認された.一方,磁場照射によるMCL粒子の発熱活性は,比吸収率(J/g-MCL・min)で表記可能であり,各照射条件の磁束密度に応じて変動することが示された.MCL粒子が飽和吸着した細胞に対する殺細胞活性は,磁場照射により1.2×10-4(J/cell)の発熱量を誘導した条件で認められ,その際に細胞膜の障害に起因すると考えられる細胞形態の変化と細胞膜のバースト現象が観察された.注目すべきことに,本条件下において培養液の温度上昇は認められず,MCL粒子の殺細胞活性は,培養液温度とは無相関に細胞膜局所における発熱量(J/cell)に依存するものと考えられた.これらの結果は,臨床研究における測温指標の代替として,腫瘍体積当たりの発熱量(J/cm3)を施術コントロール指標とする先の提案を支持するものと考えられた.