局所温熱と化学療法の併用の意義は, 局所効果の増強と遠隔転移の防止・抑制にある.BDF1マウス下腿部に移植されたルイス肺癌を用いて, (1) 温熱効果に有効な薬剤, (2) 温熱・薬剤の投与法, (3) 増強法として血管収縮剤の温熱化学療法への併用について, 腫瘍成長遅延日数と肺転移数を指標として検討した.薬剤は, ACR, DWA2114R, PEP, BLM, CPT11, MMCを用いた.結果 : (1) DWA2114R, PEP, MMCは, 43.5℃温熱との併用で相加以上の効果を示し, 同時に転移も抑制した.LD
50の約30%の投与量と温熱の効果は, 放射線10Gy (MMC) ~16Gy (DWA) に匹敵した. (2) 投与量・温熱温度・投与時期・併用回数の影響は, 僅かであった.腫瘍内投与は腹腔内投与より効果が高かった. (3) エピネフリンの局所投与は, 温熱・抗癌剤 (PEP, DWA2114R) の効果を著しく増強し, 放射線30Gyに匹敵した.この療法は42℃以下でも増強効果が認められた.結論 : 血管収縮剤エピネフリンの局所投与によってin vivo実験での温熱化学療法の限界を征服することができた.血流抑制による (低酸素化・低pH化) 温熱化学療法の増強に大きな期待がもてる.
表3は, 以上のまとめで, GDの効果を放射線線量に換算したものである.43.5℃45分の温熱は約1日のGDで放射線の4Gyに匹敵し, MMCやPEPとの併用は10Gy, 大量のDWA2114Rで16Gy, 三回の併用で16-17Gy, 腫瘍内投与で18-19Gyに達した.しかし, これ以上の温熱や薬剤の投与量もこの実験では限界ともいえる.血流抑制による温熱化学療法の増強効果は, 温熱化学療法の効果を倍増し (30Gy相当), まさにこの限界を打破するものと期待できる.腫瘍内血流抑制剤にはさまざまものがあるが, 果して臨床的に使えるのか, その効果は動物実験で得られたものと遜色ないかといった問題がある.エピネフリンの場合は局所投与に限られるが, 血流抑制の効果は確実であり, 臨床的にも応用可能である.
また, その血管収縮効果は可逆性であり, 放射線照射は血流の回復時期に行うことが出来る.さらに効果を高めるには放射線との併用が考えられる.放射線照射直後に温熱を併用すると著しい効果があり, その場合にエピネフリンを併用すると治癒も得られている.照射2日後の温熱はもはや増強効果はなくなるが, エピネフリンを併用するとその増強は照射直後温熱の効果に近づいた.照射後においては腫瘍内血流の回復・再酸素化による温熱効果の低下も予想でき, 照射と温熱による腫瘍・正常組織の環境の変化についてさらに研究が必要である.
温熱療法における化学療法は, 43.5℃以上の高温の場合は転移促進の可能性もあり, 転移抑制・防止の為に必要と考えられる.また, 局所効果を高める役割があるが, その効果を向上させるためには, (1) 温度感受性リポソーム, 腫瘍内・局所投与などドラッグデリバリーを工夫し, 腫瘍内薬剤濃度を上げること, (2) ヒドララジン, FAA, TNF, グルコース, エピネフリン等による腫瘍内血流低下・低pH化, あるいはアミロライドのような低pH化剤による温熱効果の増強, (3) 低酸素細胞増感剤, MMC, CDDP等の低酸素・低pH状態で効力を増す薬剤との併用, (4) さらには, 以上の薬剤と放射線との適当な組み合わせの研究が必要である (表7).
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