日本ハイパーサーミア学会誌
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13 巻, 4 号
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  • 大西 武雄, 王 新江
    1997 年 13 巻 4 号 p. 199-208
    発行日: 1997/12/01
    公開日: 2009/09/29
    ジャーナル フリー
    ここ数年来の瘤抑制遺伝子p53の生物学的機能に関する研究にはめざましいものがある.放射線生物学の立場からもp53に関する研究は大変興味のある研究となってきた.それは放射線 (X線やγ線) 照射された細胞がアポトーシスを起こしたり, 細胞周期が一時的に停止したりすることにp53が深く関与している点にある.特にDNA損傷からアポトーシスや細胞停止が起こるまでの一連の化学反応は一種の情報伝達経路と呼ばれはじめている.この情報伝達経路におけるキータンパク質がp53である.我々は温熱によってもこのP53を中心とするシグナルトランスダクションが誘導されることを見出している.
    p53タンパク質はDNAと結合したり, 他のタンパク質と結合することによって, その生物学的機能が発揮される.細胞が放射線照射されたり, 温熱処理されると, そのシグナルはやがてプロテインキナーゼCを介してp53の活性化を誘引し, PuPuPuC (A/T) (T/A) GPyPyPyという遺伝子上流の特異的な塩基配列部位へ結合することによって特定の遺伝子の形質発現 (RNA合成) が誘導されることが明らかになってきた.しかし変異型p53遺伝子をもつ細胞では, このようなシグナルトランスダクションが見られない.p53によって形質発現が誘導される遺伝子はgadd45, WAF1, thy1, mdm-2, Baxなどの多くの遺伝子である.特にcdk2を阻害するタンパク質として注目されているWAF1遺伝子の上流にP53が結合することにより, WAF1遺伝子の産物を増加させる.そのWAF1は細胞中のcdk2と結合し, freeのcdk2はもう1つの癌抑制遺伝子産物Rbを不活性型にするので, WAF1が増加すると結果的に細胞周期をG1で停止することとなる.一方, 蓄積されたp53はBax遺伝子を発現誘導させて, 細胞にアポトーシスをもたらすので, 正常型p53遺伝子を持っている細胞は放射線や温熱によって死にやすくなっている.したがって, p53遺伝子のタイプが細胞の放射線感受性や温熱感受性を変える可能性がある.事実, 我々の研究グループは正常型のp53遺伝子を持つ細胞は温熱に感受性であり, アポトーシスを起こしやすくなっているが, 変異型p53遺伝子を持つ細胞では温熱抵抗性となって, 死ににくくなることを, p53を欠損した細胞に正常型あるいは変異型のp53遺伝子を導入することによって見出した.このような現象は癌の温熱治療において, p53遺伝子型を検索することが, 治療効果の予測へと結びつき, 治療の先行指標となり得る可能性が高いことを示す.
  • 前田 迪郎, 堅野 国幸, 貝原 信明
    1997 年 13 巻 4 号 p. 209-215
    発行日: 1997/12/01
    公開日: 2009/09/29
    ジャーナル フリー
    胃の漿膜に浸潤した進行胃癌に対する外科治療の成績向上のためには, 合理的な系統的リンパ節郭清範囲の検討とともに, 術後の腹膜転移に対する信頼しうる予防的対策の導入が重要である.更に, 診断時に腹膜転移を有する胃癌症例, また胃切除後に発生した腹膜転移症例などの治療成績向上 (生存期間延長) のためには, 腹膜転移そのものに対する治療方法の改善も重要である.これらの対応の一つとして, 術中の腹腔内化学療法を併用した腹腔内持続温熱灌流療法 (CHPP) は, 腹膜転移の予防, あるいは治療対策として有用である事が既に示されている.今後, CHPPはperitonectomyや低浸透圧化学療法など他治療法との併用により, 更に, 腹膜転移の予防, 治療対策として意義が高まる事が予測される.
  • 松田 裕之, JOAN M.C. BULL, 豊田 暢彦, 桑野 博行, 杉町 圭蔵
    1997 年 13 巻 4 号 p. 216-222
    発行日: 1997/12/01
    公開日: 2009/09/29
    ジャーナル フリー
    近年, 温度を比較的下げた軽度の温熱療法 (mild hyperthermia) が注目を集めている.また, 全身温熱療法では高体温が生体に及ぼす副作用が大きな問題となるため, 我々はこの軽度温熱療法を全身温熱療法に応用し動物実験で長時間 (6時間) 施行することにより抗腫瘍効果が得られることを報告した.今回, 長時間軽温熱療法 (LL-WBH, 40;6時間) の手術合併療法としての有用性をラットの高転移性乳癌モデル (MTLn3) を用いて検討した.非手術対照群の動物は全例腫瘍接種後24日目に腋窩リンパ節転移をきした.術前治療実験では腋窩リンパ節転移は温熱療法治療群, 対照群ともに67%の動物で認められたが, 局所再発は温熱療法群で0%と対照群の67%に比し有意に抑制された (p<0.05).術後治療実験では腋窩リンパ節転移は療法群, 対照群でそれぞれ30, 33%と両群間に差はなかったが, 非手術群に較べると有意に低値であった (p<0.01).また局所再発率は治療群, 対照群でそれぞれ40, 11%と温熱療法の効果は認められなかった.腫瘍の完全治癒は20~55%に認められたが各群間では有意差は認められなかった.以上, LL-WBH手術的治療における術前合併療法として有用と思われるが, 臨床応用のためにはまだ治療計画などの工夫が必要である.今後さらにこの領域での研究が望まれるところである.
  • 孫 海涛, 沈 智英, 黒田 輝, 鈴木 裕, 木村 辰男, 高山 直彦, 堤 四郎
    1997 年 13 巻 4 号 p. 223-232
    発行日: 1997/12/01
    公開日: 2009/09/29
    ジャーナル フリー
    本論文では良性前立腺肥大症 (BPH) 高周波経尿道温熱治療用アプリケータの加熱特性について述べた.まず空洞挿入型高周波用双極子アンテナについてアンテナ近傍域での電界分布を導出できる数式モデルを新しく提案した.つぎにこの数式モデルを用いて高周波加熱時に予想されるSpecific absorptionrate (SAR) 分布および温度分布をFinite difference method (FDM) 法を用いて計算した.ここではアンテナ表面冷却および前立腺内血流の影響を考慮している.さらに理論的に得られた結果を実証するために以下の模擬実験を行った.すなわち1.生理的食塩水水槽内でのアンテナ放射電界分布の計測, 2.ファントムを用いてのSAR分布および温度分布の計測である.最後にこれら理論計算値とファントム実験結果を比較検討しBPHにたいする経尿道的高周波温熱治療に用いる挿入型双極子アンテナ・アプリケータの最適治療条件について提案を行った.
  • 加藤 博和, 内田 伸恵, 笠井 俊文, 杉村 和朗, 小山 矩, 沢田 昭三
    1997 年 13 巻 4 号 p. 233-238
    発行日: 1997/12/01
    公開日: 2009/09/29
    ジャーナル フリー
    RFinterstitial heatingとRALS (Remotely Controlled After-Loading System) の併用療法では, 内部電極 (加温針) をMicroselectron用ガイドチューブ内に挿入して加温を行う方法がとられる.通常この場合, 刺入毎に発熱分布が異なり, 加温の再現性に問題があった.この原因として内部電極とガイドチューブの接触が均等ではなく, 加温毎に接触する場所が変わると考えられた.このことから, ガイドチューブ内に誘電率の大きいエタノールを満たし, それに内部電極を挿入する方法を考案した.この方法を用いてファントムの加温を行い温度上昇分布を測定したところ, 再現性のよい温度上昇分布が得られた.
  • 松本 英樹, 大西 武雄, 王 新江
    1997 年 13 巻 4 号 p. 239-244
    発行日: 1997/12/01
    公開日: 2009/09/29
    ジャーナル フリー
    日本ハイパーサーミア学会平成7年度研究グループ助成において, 研究課題「温熱による細胞周期停止へのシグナルトランスダクションのメカニズム (代表者 : 松本英樹) 」が採択され, 2年間の研究が終了したのでここに報告する.温熱に対する細胞応答において, 放射線に対する場合と同様にがん抑制遺伝子産物P53タンパク質をキータンパク質とした細胞周期調節のためのシグナルトランスダクションが存在することをWAF1の誘導を指標として明らかにした.また温熱/シスプラチン同時併用処理により誘導されるp53タンパク質をキータンパク質としたシグナルトランスダクションのコンフリクション (衝突) によりそれぞれ単独処理の場合には誘導されるp53およびhsp72タンパク質の蓄積が抑制されることを明らかにした.
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