これまでのカベオラあるいは細胞膜 raft に関する一連の研究は、こうした細胞膜上の特殊な構造物中に糖脂質やコレステロールが濃縮して存在し、極性を有する上皮細胞などの膜タンパクのソーテイングや細胞膜を介する情報伝達に重要な役割りを担っていることが明らかにしてきた。しかし、ごく最近まで実際生体内でこうした構造物が存在するか否かに関しては議論のあるところであった。最新の知見によれば確かに生体内でこうした細胞膜上の特殊な構造物が存在することが明らかとなっている。
カベオラあるいは細胞膜ラフトは一般の細胞の細胞膜上に存在する糖脂質特にGM1ガングリオシドなどの酸性糖脂質やコレステロール, スフィンゴミエリン、レセプター型チロシンキナーゼ、Gタンパク、c-Src, グリコフォスファチヂルイノシトール結合タンパクなどの情報伝達分子がこうした構造物に局在することが明らかとなっている。一方、神経系細胞におけるこうした構造に関する知見の集積は大変興味深い研究テーマであるにもかかわらず未だ乏しいのが現状と言えよう。神経系細胞の分化生存、障害からの防御反応などの生物学を考える上で、神経成長因子 (NGF), 脳由来神経栄養因子 (BDNF), ニューロトロフィンー3/4(NT-3/4) などの神経栄養因子類の果たす役割の重要性はすでに多くの研究者の認めるところとなっている。われわれの報告を含めいくつかのグループがこうした神経栄養因子類の高親和性機能的受容体である Trk ファミリーチロシンキナーゼがまさにこの構造中に存在しており、その機能はこうした構造中の構成要素により制御されていることを明らかにしている。この総説では、神経系細胞に焦点を当て神経細胞の機能発現にカベオラあるいは細胞膜ラフトが如何に関与しているかについて細胞内情報伝達の観点より現在まで蓄積された知見について概説してみたい。
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