多くのグリコシダーゼは加水分解活性とともにさまざまな化合物の水酸基に糖残基を転移する糖転移活性を有している。筆者らは糸状菌
Mucor hiemalis のエンド-β-
N-アセチルグルコサミニダーゼ(Endo-M) の糖転移活性を用いた糖ペプチドの化学-酵素合成法を確立した。この方法は
N-アセチルグルコサミン残基が付加したペプチドの化学合成とその
N-アセチルグルコサミニルペプチドへのEndo-Mによる糖鎖供与体からの
N-結合型糖鎖の転移反応からなる。筆者らはこの方法によってペプチドTやカルシトニンなどの生理活性ペプチドにシアロ複合型糖鎖を付加した。また、サブスタンスP神経ペプチドや酵母のα-接合因子のグルタミン残基に糖鎖を付加することにも成功した。糖鎖が付加されたこれらの生理活性ペプチドはもとの生理活性ペプチドよりもプロテアーゼ消化に対して強い抵抗性を示した。
Endo-Mのこの糖転移反応によって、筆者らはインフルエンザウィルスの宿主への感染を阻害する多価オリゴ糖を持った糖ポリマーを調製した。また、この反応によって糖タンパク質あるいは糖ペプチドの高マンノース型糖鎖を複合型糖鎖に変換することもできた。さらに、Endo-Mの糖転移活性を用いて糖タンパク質の糖鎖を有する新奇な糖脂質を合成し、これを免疫原として糖タンパク質の糖鎖に対する単クローン抗体を作成した。
Bifidobacterium longum のエンド-α-
N-アセチルガラクトサミニダーゼも糖転移活性を示した。筆者らはこの酵素を用いて、
p-ニトロフェニ-ルガラクトシルβ-1,3
N-アセチルガラクトサミニドからガラクトシルβ-1,3
N-アセチルガラクトサミン二糖を1-アルカノールや単糖、あるいはセリンまたはスレオニン残基を有する生理活性ペプチドに転移付加することに成功した。
抄録全体を表示