Trends in Glycoscience and Glycotechnology
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18 巻, 99 号
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
  • Antonio Villalobo, Aitor Nogales-González, Hans-J. Gabius, 笠井 献 ...
    2006 年 18 巻 99 号 p. 1-37
    発行日: 2006/01/02
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
    細胞膜は細胞と外部環境との間のコミュニケーションのためのインターフェイスとしてゆるぎない役割をもつ。したがって外部シグナルに対する細胞の反応性や応答能力は、細胞表面の決定基により支配される。たとえば細胞が悪性化した場合、それらのプロファイルがどのように変化するか、細胞の型に特有などのような糖鎖が出現するかを検討することから、糖鎖情報がどのように細胞の応答をもたらすか、刺激に満ちた知識を得られるだろう。しかしとかくタンパク質がすべてをにぎるハードウエアとして過大評価されがちなので、シグナル経路を検討する前に、シグナルをコードする生化学的モードを見ておく必要がある。細胞がもつ複合糖質上の糖質エピトープは、実際に情報を貯える生化学的システムの中でも特異なもので、タンパク質とは対照的で、高密度のコード化を達成できる有利な立場にあり、アダプター分子と容易に接触して相互作用できる状況にある。複合糖質が関わる生命シグナルの始動スイッチはレクチンとの相互作用である。細胞分裂促進作用をもつレクチンは、細胞の応答を誘発させ、結合を起点として、目に見える増殖促進にいたるまでの生化学的経路を解析するための道具として研究に有効に使われてきた。哺乳動物の (内在性) レクチンの役割が明らかになり、医学的応用への期待が高まるにつれ、植物のタンパク質を使ったモデル実験から、生理的意味をもつエフェクターを用いた研究へと重点が移動しつつある。細胞表面との最初の接触を成立させるには、末端が枝別れしたグリカン鎖エピトープを標的とする2つのレクチン(ガレクチンとセレクチン)がもっとも適している。これらのレクチンは、似かよった結合相手と相互作用してシグナルを誘起する有力な物質としての地位が確定している。したがってこれらのレクチンの活性プロファイルは、シグナル伝達経路の基本構造を、細かい各論はさておいて、原理に着目しつつ解析する出発点として利用できる。そこで、マイトゲン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)、サイクリン/サイクリン依存性キナーゼおよび阻害分子による細胞成長の調節を先ず取り上げ、次いでホスファチジルイノシトール3'-OHキナーゼ(P13K)/Akt経路、インテグリン介在細胞接着による細胞骨格のリモデリング、細胞の運命制御に対するp53の関与、および内因性および外因性経路によるプログラム細胞死と関連づけた細胞の生き残りについて検討する。更に白血球のホーミングに際してセレクチンで誘導されるシグナルについても取り上げる。構造に主として興味をもつ糖質研究者、あるいは応用に主として興味をもつ糖質研究者に、糖質が関わる相互作用が誘起する細胞シグナル伝達の基本的概念に親しんでもらうことが本総説の目的である。
  • Takeshi Ishimizu, Sumihiro Hase
    2006 年 18 巻 99 号 p. 39-47
    発行日: 2006/01/02
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
    N-配糖体のコア構造中のManβ1-4GlcNAc結合を加水分解するエンド-β-マンノシダーゼ(EC3.1.2.152) が高等植物より見いだされた。我々は、最近、エンド-β-マンノシダーゼの精製、遺伝子クローニングに成功した。エンド-β-マンノシダーゼのオーソログ遺伝子は植物種のみからしか見いだせず、この酵素は植物に特異的な機能をもっていると考えられる。このエンドグリコシダーゼの基質特異性は、(Man)nManα1-6Manβ1-4GlcNAcβ1-4GlcNAc (n=0~2)のManβ1-4GlcNAc結合を加水分解するというユニークなものである。これらの基質はManα1-3Manβ結合を優先的に加水分解するタチナタマメα-マンノシダーゼ様酵素がハイマンノース型糖鎖に作用することによって生じる。つまり、植物細胞内でエンド-β-マンノシダーゼとタチナタマメα-マンノシダーゼ様酵素が協同的に働いてハイマンノース型糖鎖をN,N'-ジアセチルキトビオースにまで加水分解していると考えられる。また、このエンド-β-マンノシダーゼはトランスグリコシレーション活性を持ち、化学合成時に立体制御が困難なβ-マンノシドを形成することができる。
  • Kenji Yamamoto
    2006 年 18 巻 99 号 p. 49-62
    発行日: 2006/01/02
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
    多くのグリコシダーゼは加水分解活性とともにさまざまな化合物の水酸基に糖残基を転移する糖転移活性を有している。筆者らは糸状菌 Mucor hiemalis のエンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼ(Endo-M) の糖転移活性を用いた糖ペプチドの化学-酵素合成法を確立した。この方法はN-アセチルグルコサミン残基が付加したペプチドの化学合成とそのN-アセチルグルコサミニルペプチドへのEndo-Mによる糖鎖供与体からのN-結合型糖鎖の転移反応からなる。筆者らはこの方法によってペプチドTやカルシトニンなどの生理活性ペプチドにシアロ複合型糖鎖を付加した。また、サブスタンスP神経ペプチドや酵母のα-接合因子のグルタミン残基に糖鎖を付加することにも成功した。糖鎖が付加されたこれらの生理活性ペプチドはもとの生理活性ペプチドよりもプロテアーゼ消化に対して強い抵抗性を示した。
    Endo-Mのこの糖転移反応によって、筆者らはインフルエンザウィルスの宿主への感染を阻害する多価オリゴ糖を持った糖ポリマーを調製した。また、この反応によって糖タンパク質あるいは糖ペプチドの高マンノース型糖鎖を複合型糖鎖に変換することもできた。さらに、Endo-Mの糖転移活性を用いて糖タンパク質の糖鎖を有する新奇な糖脂質を合成し、これを免疫原として糖タンパク質の糖鎖に対する単クローン抗体を作成した。
    Bifidobacterium longum のエンド-α-N-アセチルガラクトサミニダーゼも糖転移活性を示した。筆者らはこの酵素を用いて、p-ニトロフェニ-ルガラクトシルβ-1,3N-アセチルガラクトサミニドからガラクトシルβ-1,3N-アセチルガラクトサミン二糖を1-アルカノールや単糖、あるいはセリンまたはスレオニン残基を有する生理活性ペプチドに転移付加することに成功した。
  • Eri Akaike, Takashi Yamanoi
    2006 年 18 巻 99 号 p. 63-71
    発行日: 2006/01/02
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
    我々は Candida boidinii で発現させた糸状菌 Mucor hiemalis由来リコンビナントエンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼ(リコンビナントEndo-M) の有機溶媒含有系における糖鎖転移活性について調べた。糖鎖供与体には鶏卵黄由来の糖ペプチドである二本鎖ジシアロ複合型糖鎖を、糖受容体にはp-ニトロフェニルN-アセチル-β-D-グルコサミンを用いた。リコンビナントEndo-Mは30~40% (v/v) のアセトン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、メタノールを含有する反応系において十分な糖鎖転移活性を有することがわかった。また、これらの有機溶媒中における本酵素の糖鎖転移活性は、それぞれの有機溶媒によって特徴が見られた。有機溶媒含有系において糖鎖供与体の濃度を種々変えたところ、糖鎖転移生成物の収率が著しく向上することも見出した。次に、この有機溶媒中でのEndo-Mの糖鎖転移反応システムを利用して、N-アシルグルコサミン誘導体や2-O-グリコシル二糖化合物といった水溶性の乏しい化合物を糖受容体に用いた糖鎖転移反応を検討した。その結果、糖鎖転移反応は速やかに進行し、本 Endo-M反応システムが有効であることを明らかにした。
  • Kazuo Ito
    2006 年 18 巻 99 号 p. 73-84
    発行日: 2006/01/02
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
    我々は、ヒト唾液中において、唾液α-アミラーゼファミリーA (HSA-A) から糖鎖を遊離し、唾液α-アミラーゼファミリーB (HSA-B) とする酵素がエンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼであることを明らかにした。そして、本酵素をエンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼHS (エンドHS)と命名した。エンドHSは、アスパラギン結合型糖鎖のうち、コンプレックス型糖鎖に特異的で、糖鎖の還元末端側のGlcNAcに結合する Fuc 残基の存在にかかわらず、2、3、4本鎖コンプレックス型糖鎖を、ネイティブな糖タンパク質、糖ペプチドおよび糖アスパラギンから遊離させる。また、エンドHSは、遊離したこれら糖鎖を、様々な単糖に転移する。さらに、我々は、2ヶ所の糖鎖結合部位に糖鎖を結合しているヒト唾液α-アミラーゼを見出し、ヒト唾液α-アミラーゼファミリーC (HAS-C) と命名した。HSA-CはHSA-AやHSA-Bと同様の抗原性を示し、2本鎖コンプレックス型糖鎖を2分子結合している。HSA-Cは、エンドHSの作用を受け、HSA-Aを経てHSA-Bに変換した。このとき、エンドHSの作用を受けて、HSA-Cを構城するマルチプルフォームのすべてが、HSA-Bを構成するマルチブルフォームへと変換した。HSA-CおよびエンドHSの存在と、HAS-CがエンドHSの作用を受けHSA-Aを経てHSA-Bとなることから、ヒト唾液α-アミラーゼは、まず、2ヶ所の糖鎖結合部位に糖鎖が付加され、HSA-Cとなって唾液中に分泌される。その後、エンドHSの作用を受けて順次糖鎖を失い、HSA-AやHAS-Bのような糖鎖不全によるグライコアイソフォームが出来上がっていくものと考えられる。
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