Trends in Glycoscience and Glycotechnology
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20 巻, 116 号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
本号の目的
ミニレビュー
  • Gallala Hichem, D., Sandhoff Konrad
    2008 年 20 巻 116 号 p. 277-295
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/03
    ジャーナル フリー
    最近になって,細胞膜のリピドラフトを巡る多くの論争が起こっている。コレステロールやスフィンゴ脂質に豊富なマイクロドメインは,シグナル伝達,膜輸送,細胞骨格系の編成や病原体の侵入など,様々な細胞機能に重要な役割を果たしている。しかし,これまで生細胞においてラフトを可視化することは困難であった。そして,ラフトの存在を証左するほとんどが,間接的,あるいは,不十分でさえある界面活性剤による抽出といった方法に依存している。生細胞における推定上のラフトの存在に関する直接的研究については,マイクロドメインのサイズ,あるいは,その存在についてさえも,未だに意見の一致をみていない。したがって,ラフトについての決定的な証拠は未だに得られていないといえる。
    様々な見解が混沌とする分野の例に違わず,これまでリピドラフト論争の核心にあった数々のモデルやその反モデル,説明や理論は数多くの混乱を招いた。この総説では,ラフト研究に用いられる方法やそれらから得られる短期的な利益だけでなく,これまでと異なるリピドラフト/細胞膜マイクロドメインのモデルを提示しようとしている。加えて,リピドラフトに関する研究の多くで物議を醸している問題(リピドラフトが本当に存在するのか?)にスポットライトを当てるような,有望な新しい研究方法についても紹介する。
  • Stiban Johnny, Silva Liana, C., Futerman Anthony, H.
    2008 年 20 巻 116 号 p. 297-313
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/03
    ジャーナル フリー
    スフィンゴ脂質は生体膜の重要な構成成分である。このファミリーの主要な代謝物であるセラミドは,分化から老化やアポトーシスに至るまで多くの細胞プロセスに関わっている。セラミドは小さな頭部基を持つ両親媒性の分子で,そのために他の脂質に比べて膜内で混ざり易い。セラミドは,セラミドに富んだドメインを形成することで,膜の物理的性質を変えることができる。様々な生物物理学的な手法を用いて,セラミドに富んだドメインの物理学的,形態学的特徴が研究されている。脂質ドメインの存在は広く受け入れられているが,文献上のデータは,脂質ドメインの性質について多くの矛盾がある。我々は,二つのタイプの膜ドメイン(脂質ラフトとセラミドドメイン)の生物物理学的かつ生物学的重要性について,この総説で議論する。さらに,ミトコンドリアの外膜を透過性にするといったセラミドの他の特徴についても議論する。最後に,生化学的かつ生物物理学的な見方から,こうした様々な課題を統合してみたい。
  • Sonnino Sandro, Prinetti Alessandro
    2008 年 20 巻 116 号 p. 315-340
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/03
    ジャーナル フリー
    膜脂質ドメインに関する初期の考えは,人工膜に基づいた実験モデルと,調節された条件で細胞の界面活性剤処理によって得られた細胞ライセートを密度勾配遠心することによって調製された膜画分の研究から主に導かれた。これらの研究によって,ゴルジ体がタンパク質を選別し,「ラフト」(スフィンゴ糖脂質,スフィンゴミエリン,セラミドそしてコレステロールに富んだ膜脂質ドメイン)を介してそれらを細胞膜へと輸送するという生物学的概念が導入された。この概念は,この 10 年間に進化,発展してきたが,今や様々な実験的アプローチによって,こうしたドメインをインタクトな細胞で観察することも可能になってきた。ここでは,細胞膜に存在するものと,我々が研究室の試験管の中で細胞膜から調製できるものとをきちんと区別することの必要性について議論する。
  • Kenichi G. N. Suzuki, Akihiro Kusumi
    2008 年 20 巻 116 号 p. 341-351
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/03
    ジャーナル フリー
    ラフトドメインは,分子が効率的にシグナル伝達を行うために集まり,相互作用するプラットフォームであると提案されている。最近我々は 1 分子追跡実験により,細胞外シグナル分子の結合による受容体刺激後に形成された,グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカー型受容体(例えば CD59)のクラスターにより,オンデマンドに形成されるラフトへ,細胞質側のシグナル分子がしばしば,しかし非常に一時的にリクルートされることを明らかにした。今までに調べたすべての細胞質側のシグナル分子,Gαi2, Lyn, PLCγ は,CD59 クラスターラフト内で~200 ミリ秒の短い滞在時間を示していた。各々のシグナル分子のリクルート期間は,これらの分子全体のバルクの活性化期間と比較して 4000 倍も短かった。数千秒以上もの間続くアナログ型のバルクシグナルが,1 秒以下しか続かない短寿命のディジタル式の個々のシグナルの重ね合わせにより生み出されていることについて議論を進めた。
  • Jin-ichi Inokuchi, Kazuya Kabayama
    2008 年 20 巻 116 号 p. 353-371
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/03
    ジャーナル フリー
    ガングリオシドは EGFR,インスリン受容体(IR), PDGFR, NGFR, FGFR などの様々な成長因子受容体(GFR)を調節することが知られている。培養細胞の培地中にガングリオシドを外因的に添加すると,これら多くの GFR の機能に変化が認められることから,ガングリオシドが受容体機能の制御媒体として働くことは示唆されているが,その分子メカニズムについては解明しなければならない問題が残されている。この 10 年程の間に世界中の多くの研究者が,コレステロールやスフィンゴ糖脂質に富む微小領域である膜マイクロドメイン(脂質ラフト)が成長因子シグナルの適正な仕分けに重要な役割を果たしている事を報告している。本総説において我々はこれまでの研究成果をまとめ,さらにマイクロドメインにおける成長因子受容体のガングリオシド調節機構の新たなコンセプトを提唱したい。また,ガングリオシドと成長因子受容体がどのように病態に関与するのか? という観点から,最近我々が報告した脂肪細胞のインスリン抵抗性がマイクロドメインにおける GM3 によるインスリン受容体とカベオリンの複合体の解離により惹起されるという新しい分子病態像を紹介する。
  • Kok Jan Willem, Klappe Karin, Hummel Ina, Kroesen Bart-Jan, Sietsma Ha ...
    2008 年 20 巻 116 号 p. 373-397
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/03
    ジャーナル フリー
    発見以来リピドラフトは,極性のある細胞でのタンパク質の輸送やシグナル伝達など,さまざまな細胞機能との関連が示されてきた。また多剤耐性において,リピドラフトに ATP 結合カセット(ABC)トランスポーターが局在することが重要なのかもしれない。この特異的な局在が,ABC トランスポーターが薬剤排出ポンプとして活性があることを支持している可能性があり,このことがリピドラフトを構成する分子に対する依存性に関する重要な問題を提起している。この点に関して,2 種類の脂質の関与がすぐ思い浮かぶ,即ちスフィンゴ脂質とステロールの両脂質がリピドラフトの形成と維持に重要であると一般的に考えられている。膜脂質二重層における側方相互作用は別にして,膜二重層を横断する相互作用が ABC トランスポーターの位置と機能において重要な役割を果たしていると考えられる。実際,アクチン細胞骨格が特定の膜領域での ABC トランスポーターの位置の安定化に役立っているという幾つかの証拠がある。ABC トランスポーターは直接あるいはリピドラフトを介して間接的にアクチン細胞骨格と会合しているのかもしれない。このレビューでは,ABC トランスポーターがその機能において特定の膜環境に依存するのか,そしてこの依存性を発揮するためにリピドラフトのどの構成分子が必要であるかについて評価していく。
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