Trends in Glycoscience and Glycotechnology
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21 巻, 118 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
緒言
ミニレビュー
  • Lee Yuan Chuan
    2009 年 21 巻 118 号 p. 53-69
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/23
    ジャーナル フリー
    この半世紀の間に複合糖質の糖鎖構造の解析は非常な発展を遂げた。糖タンパク質中の GlcNAc-Asn 結合が明らかにされてから,ほどなくして N 型糖鎖に共通なコア構造も解明された。それに引き続き,様々な化学的,酵素学的な方法を伴った標識糖鎖のクロマトグラフィーによる分離を利用した細やかな構造研究により,数百もの構造が明らかにされた。高速液体クロマトグラフィーや核磁気共鳴のような機器分析の進展は構造解析のプロセスにおいて不可欠であった。特にハイスループットな構造決定において異なるモードの質量分析が今や必要となっている。より多くの構造が知られるにつれて,データベースの重要性も増大している。こうした進展はすべて,グライコミクスやプロテオグライコミクスの分野の発展に貢献している。
  • Noboru Tomiya
    2009 年 21 巻 118 号 p. 71-86
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/23
    ジャーナル フリー
    モノクローナル抗体などの有用な遺伝子組み換え蛋白質の多くは分泌蛋白質であり,N-結合糖鎖を持っている。糖鎖構造などの生化学的性状は蛋白質を発現する宿主細胞や合成される蛋白質,あるいは細胞の培養条件などの影響を受ける。好ましい構造の糖鎖と機能を備えた糖蛋白質の発現には,宿主として使う細胞が適切な糖鎖修飾・成熟に必要な酵素系を持っていることが大切である。バキュロウイルスを用い昆虫細胞で医療用の蛋白質を発現する方法は,低コストに異種蛋白質を大量生産できる潜在的な利点があることは広く知られているが,伝統的ないくつかの昆虫細胞株で発現されるグライコフォームはヒト細胞で発現されるものとは大きく異なる。N-結合糖鎖は糖蛋白質の生物活性,生体内動態などに影響を与えることが多いので,グライコフォームの違いが近年大きな関心の的となった。この 10 年の間に昆虫細胞がヒトとは異なるグライコフォームを作り出す仕組みを明らかにし,医薬品としてより適するヒト型糖鎖を持つ糖蛋白質の昆虫細胞での発現を目指して多くの研究が行われた。
  • Hiroaki Nakagawa
    2009 年 21 巻 118 号 p. 87-94
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/23
    ジャーナル フリー
    医療分野での研究における 2 次元マップ糖鎖分析法の利用を紹介する。この分析法は異性体構造の解析に非常に有効である。糖鎖構造は基質特異性が高い酵素群により合成される。異性体も含む構造解析により,関連する糖鎖合成酵素を推定でき,その酵素の発現解析など研究を先に進めることが容易にできる。また本法による糖鎖精製は質量分析の試料調製にも有用である。ここでは 2 次元マップ糖鎖分析法を用いた 3 つの研究,α-マンノシダーゼIIの迂回経路,腫瘍の薬剤耐性,腫瘍タイプによる発現の違い,を紹介する。
  • Hirokazu Yagi, Koichi Kato
    2009 年 21 巻 118 号 p. 95-104
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/23
    ジャーナル フリー
    高橋禮子博士らによって開発されてきた多次元 HPLC マップ法は,今や中性糖鎖およびシアリル化糖鎖の構造解析において極めて有用な手法として広く認知されてきている。近年,硫酸化糖鎖,グルクロン酸含有糖鎖などの酸性糖鎖が細胞間のコミュニケーションを司っていると報告されていることから,HPLC マップ法の適用範囲をこうした酸性糖鎖まで拡張することにより,その有用性は一層の広がりをみせるものと期待される。そこで我々はこれまでに,硫酸基転移酵素およびグルクロン酸転移酵素を利用して,これら酸性糖鎖の HPLC マップを構築してきた。本稿では,酸性糖鎖の HPLC マップの開発に関して説明し,さらには本マップの応用例として硫酸基転移酵素 N-acetylglucosamine-6-O-sulfotransferase-1(GlcNAc6ST-1)の基質特異性の解析やインフルエンザウイルの糖鎖プロファイリングをとりあげ,HPLC マップの有用性について述べる。
  • Jefferis Roy
    2009 年 21 巻 118 号 p. 105-117
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/23
    ジャーナル フリー
    今や 20 種類以上のリコンビナント抗体が,様々ながんや慢性疾患の治療用に認可されている。さらに,文字通り数百もの抗体が開発あるいは臨床の早期フェーズのさなかにある。当初,抗体の魅力は標的抗原への特異性にあった。しかし今や,免疫複合体の形成が臨床上の成否を決する下流の生物活性の引き金となることが広く認められている。そのような生物学的メカニズム(エフェクター機能)の活性化には,抗体の質量のわずか 2-3%にすぎない糖鎖による IgG-Fc の修飾が不可欠であることが示されている。さらに,Fc に結合している糖鎖の構造はタンパク質のコンフォメーションや安定性を決定し,それにより下流の生物学的な効力にも影響を及ぼし得るのである。ある疾患に対して最適となるような均一なグライコフォームの抗体を選択的に生産する細胞株を作り出すために細胞工学的な手法が取り入れてられてきている。治療抗体を高濃度に調製することには利点があるが,IgG-Fab 領域に新たな糖鎖修飾を行うことが,それを支援する技術となるかもしれない。また,生産コストを下げることによって低廉化をもたらし得る生産系も開発されつつある。
  • Noriko Takahashi
    2009 年 21 巻 118 号 p. 119-130
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/23
    ジャーナル フリー
    30 年前,私はグライコアミダーゼ A という新規酵素を発見した。この酵素はペプチド構造に影響を与えることなく,糖ペプチドから糖鎖部分を切り出すことが可能である。この発見により,私はこの酵素を用いて糖タンパク質に発現している N 型糖鎖の詳細な構造解析を自分自身の研究として行うことを決心した。現在私の開発した HPLC マップ法は N 型糖鎖の構造を解析する非常に強力な方法となっている。本稿では,グリコアミダーゼ A の発見から GALAXY データベースの開発に至るまでの N 型糖鎖の構造解析の夢に生きた私の 30 年に関して述べる。
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