血液型Sd
a抗原は優性遺伝をする糖鎖構造より成り、β-結合した
N-アセチルガラクトサミンが免疫原糖である。本抗原は赤血球に限定されず主に大腸や腎臓に存在しており、また、尿中に Tamm-Horsfall 糖タンパク質と連結して排出される。Tamm-Horsfall 糖タンパク質から単離された5糖断片、GalNAcβ1,4(NeuAcα2,3) Galβ1,4GlcNAcβ1,3Galが非常に高いSd
a活性を有することが見い出された。Sd
a抗原の生合成に関わるβ1,4-
N-アセチルガラクトサミン転移酵素 (Sd
a-βGalNAc転移酵素) はアクセプター分子として、
O-3位に
N-アセチルノイラミン酸が置換した末端ガラクトース残基を厳格に要求する。この酵素の組織分布はSd
a抗原が腎、大腸に際立って局在していることと相関している。Sd
a-βGalNAc転移酵素は新生モルモットの腎臓及び乳飲みラットの大腸ではほとんど発現しておらず、また、ヒトの大腸癌では劇的に減少していることから、その発現量は発癌発生過程で制御されていることが示唆される。ヒト大腸癌由来の培養細胞のうちCaco-2細胞のみが腸細胞分化の程度に平行したレベルでSd
a-βGalNAc転移酵素を発現している。分化したCaco-2細胞は主に側底面から本酵素を可溶型として多量に放出する。NeuAcα2,3Galβ-単位に特異的に結合し、腸毒素産生や腎炎発症に関わる大腸菌株の感染を阻止することが、腎臓の遠位部の尿管や大腸においてSd
a-βGalNAc転移酵素が目立って発現していることを説明付け得る淘汰要因であるのかも知れない。
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