ガレクチンは、恒温脊椎動物に広く見出され、細胞間や細胞-細胞外マトリクス間の相互作用などの種々の生物現象に関わると考えられるが、細胞外での安定性をはじめ、作用機作の詳細は今なお不明である。さらに、変温脊椎動物や無脊椎動物でもガレクチンが存在するが、それらの性質や内在性のリガンドとなる糖鎖、生理的機能やガレクチン家系における進化系譜など、ほとんど明らかではない。両生類のガレクチンは、ヒキガエルの
Bufo arenarum、カエルの
Rana tigerina と
R. catesbeiana、アフリカツメガエルの
Xenopus laevis、アホロートルの
Ambystoma mexicanum などから単離されているが、詳細に調べられているのは
X. laevis と
B. arenarum のみである。私たちは最近、ヒキガエル (
B. arenarum) 卵巣ガレクチンが、一次構造をはじめ、三次構造や糖特異性に関して、祖先型にあたる
X. laevis のガレクチンよりも、むしろウシのガレクチン-1に近いことを示した。この私たちの知見はいくつかの疑問をなげかけている。すなわち、
Xenopus 属 (古カエル亜目) のようないわゆる「原始的な」グループに対して、
Bufo 属 (新カエル亜目) のような「近代的な」両生類の現存種内で、どれだけ広範にガレクチン-1に似たレクチンが卵母細胞に存在するのか?これらのレクチンが存在するか否かは、その種の生活史や環境要因の結果なのか? あるいは新カエル亜目に存在するガレクチン-1様のレクチンが、その構造や特異性を脊椎動物を通して進化的に系統保存されてきたことは、このレクチンの生理機能が極めて重要であることを示しているのか?といった問題である。
X. laevis ガレクチンは、主として成体の皮膚に限られるのに対して、
B. arenarum ガレクチンは、卵母細胞や受精後の各段階に存在することから、これらのカエルは系統的には近いが、それぞれのガレクチンは基本的には全く異なる生理機能、たとえば
X. laevis では生体防御機構、
B. arenarum では発生過程ではたらくことが考えられる。恒温脊椎動物のガレクチン-1は、胞胚期の最も初期に発現し、子宮内膜上への栄養芽胚の着床に関与すると言われている。一方、
B. arenarum のガレクチン活性は、卵母細胞から受精卵、胞胚前の発生段階にかけて見つかり、
Bufo 属の卵のまわりを被って保護しているゼリー層との接着や、胚発生における細胞間や細胞と細胞間マトリクス間の相互作用に関与していることが考えられる。ガレクチンを系統的に調べたり、その機能を考えるうえで、両生類は非常に良いモデルといえるだろう。
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