中国の武漢での集団感染から瞬く間に世界に感染が広がった新型コロナウイルス感染症COVID-19について、日本のアカデミーであり、人文・社会科学と生命科学、理工学という幅広い研究者で構成されている日本学術会議と、日本の医学界を代表する学術的な組織である日本医学会連合が協働して、学術界全体として新型コロナウイルス感染症をコントロールすることに向けてどのように取り組んできたか、またこれからどのように取り組んでいくのかを議論いただく。
本稿では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行の始まった2020年1月から2021年8月までの、日本学術会議のCOVID-19への対応を簡潔に記述した。幹事会声明、会長談話、分科会からの緊急の提言発出、公開講演会、ホームページを通した最新の学術情報の発信などをまとめた。このような緊急時の対応に加えて、今後の活動は横断的審議による俯瞰的で、中長期的な提言を作成するフェーズに入っていく。次のパンデミックに備えて、我々が経験しているCOVID-19を学術的に、そして多角的に検証することが、今、求められている。
新型コロナウイルス感染症のパンデミックに鑑み、日本学術会議は第二部大規模感染症予防・制圧体制検討分科会を設置した。分科会は「大規模感染症発生後の緊急時に適切な専門家組織を構築し、必要な科学的検討を行い、それに基づいた対策を立案する必要がある。しかし、急遽立ち上げられた組織・体制が短時間で予算を確保し、時宜を得て対策を実施することは困難である。平時からの訓練、ネットワーク構築、必要な体制と法の整備などが重要である。」との結論を得て、2020年7月に表記の提言を発出した。本論考ではその内容を解説した。わが国では、新型コロナウイルス感染症流行が始まって1年以上を経た現在でも必要・十分な対応・対策をとれる体制が確立されていない。自然界に潜む病原体が経済活動や気候変動により人や家畜に侵入し、グローバル化により世界各地に広まることが懸念される中、本提言の内容が今後の感染症対策に役立つことを期待したい。
日本学術会議は、令和2年7月3日に提言「感染症の予防と制御を目指した常置組織の創設について」を公表し、この提言で検討した感染症対策におけるICT基盤整備に関してさらなる検討を加え、令和2年9月15日に二つ目の提言「感染症対策と社会変革に向けたICT基盤強化とデジタル変革の推進」を公表している。この提言では、新型コロナウイルス感染症の流行とその対策過程で露呈した様々なICT基盤やデジタル変革に関する課題を「医療システムのデジタル変革」、「社会生活のデジタル変革」、「サイバーセキュリティとプライバシー保護」の三つの観点で整理し、その解決のための提言を行っている。本特集号ではこの提言を「社会変革」と「感染症対策」の二つにテーマに分類し、本稿では「社会変革」に関連する提言の内容を概説している。
新型コロナウィルス感染症の世界的な拡大を受けて、各国がさまざまな情報通信技術(ICT)を活用した。ICT活用が感染症制圧に有効だった国が存在する一方、最初から投入を見送る国、期待された成果を上げられず苦戦する国もあった。本稿では、我が国の新型コロナ対策にICTを十分に活用できなかった要因として、感染症対策全体を俯瞰した戦略の不在により「木を見て森を見ず」の稚拙なICT導入が繰り返され、アジャイルソフトウェア開発で当然あるべきトライアンドエラーの繰り返しもなく実戦投入することとなり、新規投入されたシステムは操作性に課題があるにも関わらず慣熟訓練の時間が確保できなかったことを指摘する。これらの反省を踏まえて、今回得られた知見を生かしたデジタル変革の有り様について述べる。
わが国の医学分野136学会の連合体である日本医学会連合は、医学の学術と実践を担う団体として、新型コロナウイルス感染症のパンデミックによる地球規模の保健・医療・経済・社会問題への継続的かつ抜本的な対応と共に、今後とも起こり得る危機的な感染症、自然災害等に併発しうる健康危機に対応でき、さらに広く長期的な疾病予防・管理への対処を目指すため、緊急提言を2021年1月16日に発出した。その内容は、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議、分科会及びアドバイザリーボード、他の学術団体・研究機関との機動的なネットワークを構築し、より中長期的視野に立った抜本的な体制づくりを行うための「科学的エビデンスに基づく政策提言のための情報分析と活用並びに人材育成支援を行う常設組織の創設」を要望し、本組織が有効に働くための方策について国への提言をまとめた。本稿では、提言発出の背景、提言内容、課題について述べる。
中国・武漢から始まった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は100年に一度と言われる人類未曾有の危機をひきおこした。日本外科学会は2020年3月に対策委員会を発足させ、外科系学会や日本医学会連合と協力しつつパンデミック下であってもわが国全体で外科医療ができるだけ安定して継続できるよう、さまざまな指針や提言を発信してきた。がん手術や臓器移植など、とくに生死に関わる手術についてはアンケート調査を行い、医療従事者・患者へのQ&Aを随時発出するなど、常に医療現場の実態に即した取り組みを心がけてきた。残念ながら日本のCOVID-19対策は極めて不十分で、地域によっては医療崩壊が生じ、今なお終息のめどは立っていない。今後、COVID-19パンデミックがもたらした国民の健康への影響を多角的に調査し、今回の国家的危機を日本政府、医療行政、医療従事者がそろって総括し、課題を明らかにして解決策を共に探ることが急務である。
日本感染症学会は、感染症の専門家集団として新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の診療・研究・教育に取り組んできた。2020年当初、診断や治療、感染対策の在り方を含めてほとんど手探りの中での対応を余儀なくされた。このような中で、一般市民、医療従事者がパニックに陥らないように、COVID-19に関する情報をわかりやすく、タイムリーに発信する活動が求められていた。1日も早く本邦における症例の情報を共有できるようにホームページに症例報告サイトを立ち上げた。また、治療法に関する情報として「COVID-19に対する薬物治療の考え方」を発表させていただくとともに、本症の重症化因子の探索に関して学会員のネットワークを活用したQuestion-Oriented Surveyを実施している。COVID-19との対峙の経験を次のパンデミックへの教訓としてつなげていかなければならない。
インフルエンザと比較すると感染性も伝播力も高いCOVID-19の流行は大きな問題を引き起こしてきた。原因ウイルスであるSARS-CoV-2の変異株の出現も問題になっている。SARS-CoV-2の変異株は、感染性・伝播力の増強が認められたり、ワクチン効果が減弱したりするなど人類にとって大きな脅威になっている。しかし、我々は、COVID-19に対して、適切な診断および治療、有効な感染対策を実行しながら、可能な限り、ヒトとしての活動を止めないようCOVID-19と対峙してきた。スポーツイベントもその一つである。ポストコロナ時代はまだ先になると推察されるが、ウィズコロナ時代を生き抜くために覚悟と意識改革が必要である。
コロナ禍では人間活動が物理空間からサイバー空間にシフトし、無理矢理デジタル化が急速に進められたと言える。その中で、デジタル技術の便利さを最大限活かすためには、これまでの競争一辺倒ではなく、データや経験を共有するおおらかなマインドが極めて重要であることが判りつつある。本稿では、COVID-19肺炎画像解析ならびに遠隔教育について実践例からその重要性を紹介する。
新型コロナウイルスSARS-CoV-2の出現以降、このウイルスによる犠牲者を出来る限り抑制するために、我々は大きな制約を甘んじて受けながら生活している。様々な分野の研究者が一丸となって、ウイルス制圧に向けた研究を行っている。積極的疫学調査の成果から、3密(密閉、密集、密接)の回避を周知することで、感染爆発を未然に防ぐことに成功した。また、ワクチン開発では、国外の製薬会社の貢献により、1年という驚異的なスピードで実用化に至った。
本稿では、SARS-CoV-2がどのような特徴を持ち、どのように人の体内で増殖するか、そして感染した人で起こる免疫応答について、これまで明らかとなった知見を紹介したい。また、人での流行に伴い、様々なアミノ酸変異を持った変異ウイルスが世界中で報告されているが、その中でも特に注目されている変異ウイルスと共に、それら変異ウイルスに対するワクチンの有効性についても紹介したい。
最初にCOVID-19感染症に関わるヒト遺伝要因の探索研究の現状について大規模な国際共同研究の成果を紹介した。続いて結核を例に挙げて、病原体ゲノムとヒトゲノムの両方の多様性を合わせて分析することの意義を述べた。さらにB型肝炎を例にとって、ワクチン応答性と関連するヒト遺伝要因の探索の成果を述べた。最後に、感染症と人類の歴史をゲノム進化の視点から考察した。さまざまな感染症に見られる個人差や集団差には、病原体とヒトの多様性がともに関与した歴史が反映されていると考えられる。未来に遭遇する病原体に対応するためにも、ヒトゲノム多様性を保つことの重要性が理解される。