学術の動向
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バーチャルイシュー
27 巻, 11 号
選択された号の論文の24件中1~24を表示しています
特集
日本の多様性 ─地域の視点から─
第1部 日本の地域差をデータから見る
  • 吉野 伸哉
    2022 年 27 巻 11 号 p. 11_12-11_17
    発行日: 2022/11/01
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

     パーソナリティの地域差研究は、大規模かつ全国的な調査が実施可能になった近年から増えてきている。日本においてもBig Fiveパーソナリティを測定する心理尺度を用いて、都道府県レベルの得点から地域差が検討されている。また、パーソナリティの地域差が生じるメカニズムについては選択的移住、生態的影響、社会的影響の3つが挙げられており、それぞれ実証的な検討がおこなわれている。これらの研究で用いられている心理尺度とはパーソナリティ特性の個人差を捉えるツールであり、地域レベルにおいても地域集団における得点の分散を捉えるものである。地域レベルの得点の分散を説明する社会生態的な変数を明らかにすることは、心と社会環境の関連を示し、理論的な提案をもたらし得る。心理尺度を使用したパーソナリティの地域差研究は黎明期にあるため、今後さらなる検討が期待される。

  • 相田 美砂子
    2022 年 27 巻 11 号 p. 11_18-11_24
    発行日: 2022/11/01
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

     学校基本調査(政府統計)と大学基本情報(大学改革支援・学位授与機構)に基づいて、国立大学への進学者数や進学率(男女別)が都道府県別に違いがあるのかどうかを明らかにする。学部進学率に地域差があり、その男女別進学率にも地域差がある。しかし、国立大学だけに限って、都道府県別に分野別男女別の学部入学者の割合を調べてみると、それには地域差がないことがわかった。国立大学進学者の分野別割合には極めて大きな男女差がある。しかし、その分野別男女別の割合には地域差がない。

第2部 地方発の産学連携/地域連携の取組事例
  • 山本 幹雄
    2022 年 27 巻 11 号 p. 11_25-11_30
    発行日: 2022/11/01
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

     広島大学では、「すべての学生に質の高い同一の教育を保障すること」「成績・評価の公平性を担保すること」を基本理念として、障害のある学生を含む多様な学生に対する修学支援とアクセシビリティ推進に積極的に取り組んでいる。アクセシビリティリーダー育成プログラムは、広島大学がプログラムを開発し2006年に広島大学の学生を対象として開始された人材育成プログラムである。2009年には産学官連携による協議会を設立し、2010年に同プログラムの全国展開を果たし、2022年現在も同プログラムを実施する大学は増加している。本稿では、同プログラムを開始するまでの経緯及び協議会設立の経緯とその後の展開について報告するとともに、障害学生支援の取組がどのように人材育成プログラムと関係してきたかについて概説する。

  • ──青森県の短命県返上活動から
    中路 重之
    2022 年 27 巻 11 号 p. 11_31-11_37
    発行日: 2022/11/01
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

     健康・寿命が社会の総合力の指標であることより、その社会に内在するdiversity(本稿ではdiversityを単に多様性という意味で用いた)は常に健康づくり・寿命延伸対策のキーワードであり、ある時は大きな壁となり、またある時は重要な戦術のヒントを与えてくれる。筆者らは日本の最短命県青森で短命県返上に向けての社会イノベーション創出を目指している。具体的には、超多項目データを収集している岩木健康増進プロジェクト(2005年から18年間継続)を軸に一大データプラットフォームを構成し、目指す方向性の異なる産官学民を結集させ、社会イノベーションにつなげようという構想である。収集したデータは原則オープンにされ、それにより、さらに多種多様な産官学民を呼び込み、さらに大きなデータプラットフォームと、並走する新たなプラットフォーム(ソーシャル・キャピタルのプラットフォーム)が確立されつつある。本稿ではdiversityに対応した社会イノベーション創出の事例として筆者らの活動を紹介したい。

  • ──地域発の産官学連携レジデント型研究
    松原 孝博
    2022 年 27 巻 11 号 p. 11_38-11_42
    発行日: 2022/11/01
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

     日本では、食の多様化に伴って魚離れが進み、魚の消費の伸びは今後も期待できない中、国内屈指の養殖基地愛媛県も生産額の減少・停滞が続き、水産業の再興は喫緊の課題となっていた。一方、世界的には魚類養殖は海洋性タンパク質の供給を支える成長産業と位置づけられている。そうしたグローバルな視点を含めて地域水産業の振興に寄与するミッションを背負って、2008年に愛媛大学南予水産研究センターが発足した。同センターは県内養殖産業の中心地である愛南町に設立され、旧町役場と廃校になった小学校を大学の研究施設として活用するユニークな組織であり、産学官連携により実践的な研究を行う国内に類を見ない「レジデント型研究拠点」である。ここでは、南予水産研究センター発足の経緯や、水産分野では極めてユニークと言える地域産学官連携の研究スタイル、そうしたスタイルを形作った代表的研究や地域連携の取り組みなどについて紹介する。

第3部 研究の多様性
  • 佐藤 和広
    2022 年 27 巻 11 号 p. 11_44-11_47
    発行日: 2022/11/01
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

     文部科学省の補助事業であるナショナルバイオリソースプロジェクトの中核機関の一つとして、岡山大学はオオムギ約2万系統を中心とするリソースの収集・保存・提供を実施している。リソースに関連する来歴、画像などの情報はデータベースとして公開しており、これらのリソースは国内外の研究・教育のために国内外に実費で提供されている。また、提供されたリソースを使用した研究成果は、データベースでの登録閲覧が可能となっている。保存系統はゲノム解読が進められており、配列情報の公開とともに、解読した系統の種子やDNAの入手も可能である。NBRPオオムギは最終的にすべての系統をゲノム解読し、使用したリソースを保存、提供するデジタルジーンバンク化を目指している。

  • 田代 聡
    2022 年 27 巻 11 号 p. 11_48-11_51
    発行日: 2022/11/01
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

     福島第一原発事故に対して学術的な対応を行うために、広島大学原爆放射線医科学研究所、長崎大学原爆後障害医療研究所及び福島県立医科大学ふくしま国際医療科学センターは、2016年にネットワーク型共同利用・共同研究拠点「放射線災害・医科学研究拠点」を形成した。本拠点では、放射線災害・医科学研究領域で先端的かつ融合的な研究を推進するとともに、その成果の国民への還元と国際社会への発信に取り組んできた。2022年度からは、病院で用いられる医療放射線の人体影響についての研究支援を強化した第2期拠点事業を開始した。本拠点では、広島、長崎、福島という被爆地、原子力災害被災地の大学附置研究所・センターが連携するとともに人材育成を進めることで、世界に類を見ない総合的な放射線災害医療研究の拠点構築を進め、日本の特徴的な研究として世界に発信していきたいと考えている。

  • ──現状と課題
    伊神 正貫
    2022 年 27 巻 11 号 p. 11_52-11_57
    発行日: 2022/11/01
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

     科学技術・学術政策研究所(NISTEP)では、論文データベースを用いて国際的に注目を集めている研究領域を見いだし、それらを俯瞰した「サイエンスマップ」を作成し、世界における研究動向と日本の活動状況の分析を実施している。サイエンスマップの分析から、世界において科学研究の拡大が生じる中、日本がカバーしている研究領域の割合が相対的に低下していること、日本では研究の多様性の源泉であるともいえるスモールアイランド型の研究領域への参画割合が低下していることが明らかになった。これらを改善するためには、日本が強みをもつ研究領域を周辺の研究領域まで含めて育てていくこと、挑戦的・探索的な研究が可能となる研究環境を構築していくことが必要と考えられる。

まとめ
特集
チバニアン, 学術的意義とその社会的重要性
  • 西 弘嗣
    2022 年 27 巻 11 号 p. 11_61
    発行日: 2022/11/01
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー
  • 北里 洋
    2022 年 27 巻 11 号 p. 11_62-11_67
    発行日: 2022/11/01
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

     2020年1月IUGS理事会において、「チバニアン」が中期更新世の地質時代として承認され、その結果Chibanianが国際地質年代表に掲載された。一方、フィールドでは、GSSPを露頭に設置することによって地質基準が実効化される。2022年5月21日、千葉県市原市田淵の川沿いの露頭にGSSPが設置されたことによって、世界的な地質基準として具体化された。本稿では、チバニアンの地層が内在する学術的な意義を整理し、社会への広がりを指摘する。それとともに、チバニアンの根幹をなす統合的な層序学の哲学的な背景について紹介する。さらに、チバニアン研究の基盤となった日本の地質学の先輩たちの貢献についても記した。伝統は記憶されるべきだからである。

  • Martin J. Head
    2022 年 27 巻 11 号 p. 11_68-11_72
    発行日: 2022/11/01
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー
  • 岡田 誠
    2022 年 27 巻 11 号 p. 11_73-11_77
    発行日: 2022/11/01
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

     2020年1月17日、かねてより審査中であったチバニアンGSSP(Global Boundary Stratotype Section and Point: 国際境界模式層断面とポイント)がIUGS(International Union of Geological Sciences: 国際地質科学連合)の執行理事会で批准された。我が国として初めてのGSSP認定であり、初めて日本の地名が地質年代名称として使用されることになった。そして中期更新世は「チバニアン期」となり、チバニアン期の開始年代は77.4万年前と決まった。本稿ではGSSPとは何か、そしてチバニアンGSSPが認められることになった要因について、鍵となった房総半島の地層と、その地層に刻まれた地磁気逆転現象の記録との関係を中心に解説する。

  • 齋藤 文紀
    2022 年 27 巻 11 号 p. 11_78-11_81
    発行日: 2022/11/01
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

     地球環境が人間活動により自然本来の変動の域を超えて新しい時代である人新世に入ったことが地球システム科学の研究者から提案されている。これを受けて、地質年代の国際基準を定めている国際地質科学連合の国際層序委員会に属する小委員会の作業部会において検討と提案に向けた準備が行われている。来年には提案が行われ、審議が開始されようとしている。

  • 小出 譲治
    2022 年 27 巻 11 号 p. 11_82-11_83
    発行日: 2022/11/01
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

     市原市は、国指定天然記念物「養老川流域田淵の地磁気逆転地層」、そして日本初のGSSP認定を得たチバニアンの地層を適切に保護し、その価値と魅力を後世に伝えるため、本地層を所管する自治体の役割として、対象地の公有地化、関連条例の制定、見学環境整備等の諸活動に取り組んでいる。

  • 川辺 文久
    2022 年 27 巻 11 号 p. 11_84-11_88
    発行日: 2022/11/01
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

     小・中学校理科と高等学校「地学基礎」の教科書が、千葉セクションの露頭写真を掲載してチバニアンを説明している。小学校6年理科では地球の歴史の時代を分ける国際的な基準となる地層が国内に存在することを紹介し、中学校1年理科では地質年代の細分や地磁気に言及した「発展的な学習内容」としての記述である。「地学基礎」では、千葉セクションが前期/中期更新世の境界の目安となる地磁気逆転の痕跡を世界中で最もよく保存する地層であることを解説し、地磁気逆転境界の約1 m下位の火山灰層がチバニアンの基底であることを明示している。各校種のチバニアンの教科書記述は、地層に記録された過去の出来事によって地球の歴史が区分されることを理解するにあたって、児童・生徒の学習段階を考慮した適切かつ効果的な扱いである。チバニアンが教科書の題材に加わったことで、日本に暮らす人々の地学の素養が高まると期待される。

  • ──SDGs実現のために
    久田 健一郎
    2022 年 27 巻 11 号 p. 11_89-11_93
    発行日: 2022/11/01
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

     今回のチバニアン設定は、SDGs実現の後押しとなり、新たな地学教育の方向性が見えてくるのではないかと期待している。高等学校「地学基礎」ではSDGs実現に向けて様々な試みがなされている。そもそもSDGsは1960年代以降の地球環境悪化により、国際機関で定められた目標である。この現代の問題をより良く理解するためには、過去の地球環境を知ることも重要である。チバニアンの期間はミランコビッチサイクルの10万年周期に特徴づけられ、この周期性は大気CO2 濃度のキーリングカーブでも見ることができる。キーリングカーブには、1960年代以降のかつてない急激な上昇が認められる。チバニアンの終わりごろの現生人類の出現と拡散は、10万年周期の地球環境の変化と関わりがありそうである。キーリングカーブを通じて、地球環境の変化、そして悪化を理解することが重要であり、これは新しい地学教育になるのではないか。

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