学術の動向
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バーチャルイシュー
27 巻, 2 号
選択された号の論文の28件中1~28を表示しています
特別企画
眞鍋淑郎博士の2021年ノーベル物理学賞受賞
特集
地球環境変動と人間活動 ─地球規模の環境変化にどう対応したらよいか─
  • 鈴木 康弘, 春山 成子
    2022 年 27 巻 2 号 p. 2_25
    発行日: 2022/02/01
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー
  • ──地質年代境界イベントに入ってしまった現代
    川幡 穂高
    2022 年 27 巻 2 号 p. 2_26-2_30
    発行日: 2022/02/01
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

     脱炭素社会への具体的な取り組みが成功しないと、二酸化炭素の排出に伴う「双子の悪魔」、地球温暖化と海洋酸性化の脅威が現実のものとなる。海洋酸性化の支配因子の中で大気中の二酸化炭素濃度上昇は第二の因子で、最重要の第一因子は速すぎる環境変化速度である。現代を表すのに新たな地質年代として「人新世」が提案されている。5500万年前の暁新世/始新世(P/E)境界を現代の炭素循環に対比すると、現代あるいは「人新世」は、実は地質年代の境界期に相当すると私は考えている。人新世がどこに向かうのかを予測することは私たちにとって初めての体験なので、誰にとっても予測は難しい。しかし、研究者はその専門性を生かして、さまざまな条件ごとに未来を推定することができる。最終判断を国民あるいは全人類が決める時に役立つよう、その推定シナリオを社会に提示することが研究者の使命と考える。

  • ──「変化」の速さに着目して
    中塚 武
    2022 年 27 巻 2 号 p. 2_31-2_35
    発行日: 2022/02/01
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

     樹木年輪等を使った高時間分解能での古気候復元の進展で、気候変動の自然科学的メカニズムが理解されると同時に、気候変動が人間社会に与えた影響についても詳細に明らかになってきた。その中では「数十年周期」での気候変動の振幅拡大が飢饉や紛争を生み、やがて社会体制の転換を促すという普遍的なメカニズムの存在が示唆されている。前近代の農業社会では気候変動が農業生産量を変化させて社会に大きな影響を与えるが、「数年周期」の変動であれば穀物備蓄で対応でき、「数百年周期」の変動なら出生率の調整や技術開発に時間的余裕がある。しかし「数十年周期」の変動の場合は、気候環境の好適期に拡大した人口や生活水準が気候環境の悪化期に維持できなくなり社会が危機に陥ったと考えられる。これは温暖化を含む現在の地球環境問題と時間スケールも含めて同じ構図であり、その破滅的な影響を回避するために歴史の教訓に学ぶことが求められている。

  • 齋藤 文紀
    2022 年 27 巻 2 号 p. 2_36-2_38
    発行日: 2022/02/01
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

     河川が海に流入して河口部に形成されるデルタ(三角州)は、完新世の海水準変動に支配されて8〜6千年前以降に形成されてきた。デルタは、河川流域の人間活動の影響を受け、アジアのデルタでは1〜2千年前から森林伐採などによる土壌流出によって運搬土砂量が増加し大きく成長してきた。しかし、1950年代以降のダム建設に伴って運搬土砂量は激減し、デルタにおいては沿岸侵食などの問題が生じてきている。急速な経済成長を続けるアジアの国々では水資源や骨材資源を必要としており、地下水の汲み上げ過多による地盤沈下や、河川からの砂利採取による問題も顕在化してきている。地球規模で各地域において同様な問題が起こっており、特に気候変動などの地球規模の変動と比べて変化速度が大きいことから、早急な対応が必要である。5億人以上の人が居住し、高い生産性や豊かな生物多様性を持つデルタの持続的な保全や利活用は、人類にとって重要な課題である。

  • 久保 純子
    2022 年 27 巻 2 号 p. 2_39-2_43
    発行日: 2022/02/01
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

     東京低地では近世以降海岸部の干拓や埋立、河川の改修などの人工改変が進められてきた。著者は微地形の分布をもとに、これらの改変が行われる前の東京低地の地形を復元した。中世頃は利根川が東京低地で分流してデルタを形成し、前面には干潟が分布していた。東京低地の微高地では主に古墳時代以降の遺跡がみられる。東京低地の地形・環境変遷に関する多くの研究をもとに、100万年スケールの氷期・間氷期変動から10年スケールの人間活動による影響まで、年代スケールごとの環境変動を整理し、現在直面する災害脆弱性などの課題を示した。

  • 川東 正幸
    2022 年 27 巻 2 号 p. 2_44-2_48
    発行日: 2022/02/01
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

     永久凍土分布域では土壌、植生、水などの環境を構成する因子が絶妙なバランスを保つことによって生態系が成立している。この貴重な生態系は、火災を始めとする自然の撹乱を受けるものの、時間をかけて回復することができる恒常性をもっている。しかしながら、人為による高い頻度での攪乱が起きると不可逆的な変化を余儀なくされ、その恒常性が失われてしまう。それまでにこの生態系が保持していた広大なツンドラやタイガの植生帯は失われ、地球全体での炭素貯蔵庫としての役割も果たせなくなってしまう。地下に眠る永久凍土の分布を我々は正確に把握することはできないため、地上に成立する生態系に現れる変化からその兆候を見いださなくてはならない。現在、我々が認識することができる変化は回復可能なものなのか、不可逆的なものなのか、判断することは極めて難しいが、弛まぬ環境モニタリングから貴重な生態系維持の判断材料を蓄積して行かなくてはならない。

  • ──人間活動の影響
    石井 励一郎
    2022 年 27 巻 2 号 p. 2_49-2_53
    発行日: 2022/02/01
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

     現在地球上の各地で急速に進行する植生の劣化は、気候変動に加え、地域ごとに異なる多様な人間活動が複合的に作用することによって引き起こされていると考えられている。本稿では、主にモンゴル北部の水制限下の植生の調査観測にもとづき、この地域の植生が気候変動と森林伐採、家畜の過放牧に対して応答するメカニズムを具体的に考察し、持続的な人間活動のあり方を探る。その際、他地域の植生変化を考える際にも重要であると考えられる以下の二つの観点に着目する:①植物の成長と土壌形成の間にはたらく“正のフィードバック”に起因する植生の状態の双安定性と、それが生み出す環境変化に対する植生の不連続・不可逆な移行の可能性。②複数の要因の複合相乗効果(シナジー)と、上記の不連続な植生変化が起こる際の環境変化の閾値の関係。

  • 花崎 直太
    2022 年 27 巻 2 号 p. 2_54-2_58
    発行日: 2022/02/01
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

     温室効果ガスの排出による気候変動は、人間活動が地球環境を改変する事例の中で最も顕著で深刻なものの一つである。気候変動の影響を予測し、適応策を実施することが社会に不可欠である。本稿では主に全球スケールの水循環・水資源分野に着目し、以下の三つの問いに対して最新の全球水資源モデルを駆使して取り組まれた気候変動影響予測の最先端研究を紹介する。ダムは温暖化時の洪水被害をどれだけ減らすか? 気候変動影響は適応策によってどれだけ和らげられるか? バイオ燃料生産は灌漑で加速できるか? こうした問いに答えるには人間活動やインフラを地球の一部と捉えてモデルやシミュレーションに組み込んでいくとともに、分野横断的な研究の展開を加速する必要がある。

  • 三村 信男
    2022 年 27 巻 2 号 p. 2_59-2_63
    発行日: 2022/02/01
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

     気候変動への対応は、温室効果ガスの排出削減をめざす緩和策と悪影響に対する適応策が両輪である。本論では、日本の適応の経過を概観し、2018年の気候変動適応法成立以来、国や地方自治体の取り組みが進展したことを示す。その一方で、現状では分野・事象ごとの計画が主体であり、我が国の気候変動リスクへの対処に関する全体的な見取り図や、個別分野の対策を超えた社会全体のレジリエンス(対応能力)の強化が必要であることを指摘する。さらに、急速に進展している2050年カーボンニュートラルの動きとの関係を検討し、適応という切り口で地球環境変動への対応のあり方を考える。

特集
自動車の自動運転の今
  • 永井 正夫
    2022 年 27 巻 2 号 p. 2_65
    発行日: 2022/02/01
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー
  • ──これまでの取組と今後のITS構想の基本的考え
    自動運転の社会実装と次世代モビリティによる社会デザイン検討委員会幹事
    2022 年 27 巻 2 号 p. 2_66-2_69
    発行日: 2022/02/01
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

     自動運転の社会実装に向けて、国では毎年、官民ITS構想・ロードマップを策定してきている。2021年度版では、2020年度までの主なKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)の評価、制度面や技術面での取組状況が示され、今後のITS構想の考え方として、2030年の地域の将来像やそこにおける実現目標について述べられている。本稿では、このロードマップを取りまとめた内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室(現、デジタル庁国民向けサービスグループ)に、日本学術会議「自動車の自動運転の推進と社会課題に関する委員会」の幹事が取材し、国の取組状況についてまとめたものである。

  • 波多野 邦道, 加納 忠彦
    2022 年 27 巻 2 号 p. 2_70-2_76
    発行日: 2022/02/01
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

     2020年11月に国土交通省によって世界初となるレベル3自動運転の型式指定が行われ、2021年3月より自動運行装置である「トラフィックジャムパイロット」を搭載した車両(通称名:レジェンド)の販売が開始された。本稿では、レベル3自動運転の実用化に向けた課題を法務的側面と技術的側面で整理した上で、世界で初めてとなる主要技術を解説する。さらに、自動運転の普及拡大とレベル4自動運転に対する課題と今後の期待を述べる。

  • ──社会実装に向けた産総研の取組み
    加藤 晋
    2022 年 27 巻 2 号 p. 2_77-2_81
    発行日: 2022/02/01
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

     本稿では、地域内等の短中距離の移動を補完する次世代の交通手段として、自動運転技術を活用したラストマイル自動走行と名付けて実施した研究開発や実証実験などについて述べる。さらに、一部の実証地域での事業化による本格運行についてなど、自動運転移動サービスの社会実装に向けた産総研の取組みを紹介する。

  • ──SAKURAプロジェクトの紹介
    内田 信行
    2022 年 27 巻 2 号 p. 2_82-2_86
    発行日: 2022/02/01
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

     近年、国内では少子高齢化が進展する中で、道路交通やモビリティに関する問題が顕在化しつつある。自動運転システムの実用化は、新たなモビリティサービスの創出や交通事故削減により、安全安心な道路交通の実現に繋がると期待されている。特に、自家用車については、2020年6月に自動運転レベル3の国際基準が制定され、限定条件下とはいえシステムが運転の主体となる自動運転での公道走行が可能になった。今後レベル3以上の自動運転システムの市場化が進むと考えられるが、より一層の普及にあたっては自動運転に対する社会的受容性が不可欠である。特に、説明性が高く国際的にも認められる安全性評価手法の確立が課題である。本稿では国内での官民連携による自動運転実用化の取り組みについて紹介した上で、自動運転システムの安全性評価に関する課題と海外動向を概観すると共に、国内で進められている安全性評価の手法構築の取り組みについて述べる。

  • ──DIVPプロジェクトの紹介
    井上 秀雄
    2022 年 27 巻 2 号 p. 2_87-2_91
    発行日: 2022/02/01
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

     自動運転はシステムが複雑化する一方で、無数に存在する走行環境に対して高い安全性の確保が求められている。しかし、現在の自動運転車両の安全性の検証は、実環境走行下での網羅的な実績評価に依存しており、膨大なコスト(人・物・金・時間)を要する。また、自然界で起こる物理現象に対し、カメラ、レーダ、LiDAR等の外界センサは、物理的限界の検証が難しく、システムを構築する上でどこまでやれば安全性を保証できるのかといった課題がある(How safe is safe enough?)。このような背景を踏まえ、本研究プロジェクトでは、自動運転の安全性評価に必要となる実現象と一致性の高い「走行環境~空間伝搬~センサ」一連のモデルを特徴に、仮想空間シミュレーションでの評価プラットフォームを構築することを目的とする。これにより多くの環境条件(シナリオ)で精緻、且つ、効率的な自動運転の安全性評価を可能とする。

  • 須田 義大
    2022 年 27 巻 2 号 p. 2_92-2_95
    発行日: 2022/02/01
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

     自動運転の社会実装に向けて世界各地において鋭意実証実験等が進められている。このうち、大学、ベンチャー企業における研究開発等は、技術開発のみならず社会受容性の醸成、制度整備、ビジネスモデル検討など、モビリティ社会におけるエコシステム構築に大きな役割を担ってきた。今までの実績と動向を紹介する。

  • 長橋 愛, 中島 真之介
    2022 年 27 巻 2 号 p. 2_96-2_99
    発行日: 2022/02/01
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

     苦境に立つ地域公共交通における切り札として注目を集める自動運転。未来のテクノロジーと捉える人も多いが、既に目に見える形で実用化が行われている事例が存在する。国内初の実用化の舞台となった茨城県境町を始めとする幾つかの国内事例を紹介するとともに、公共交通の新たな可能性を示す。

  • 宮木 由貴子
    2022 年 27 巻 2 号 p. 2_100-2_104
    発行日: 2022/02/01
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

     近年、自動運転の技術発展と社会実装に向けた法整備の進行に対し、社会的受容性醸成が伴っていないとの指摘がある。本稿では、2019年から実施している「自動車・自動運転に関するアンケート調査」の時系列調査から、消費者の意識を概観し、①オーナーカーにおける運転支援機能の認知度・利用・理解が低いこと、②自動運転の社会実装に必要な受容性ファクターのうち、特に「コスト」と「固有性・技術限界」が課題となること、③消費者における自動運転に関する “WHY” と “WHAT” の理解が “HOW” の検討に先立って重要であることを指摘している。その上で、自動運転の社会的受容性醸成に向け、「地域課題の認識・つながりの活用・親和性の創出」「ヒトと技術の共創・補完」「モビリティの価値の概念シフト」の観点から、具体的なアクション提言を行っている。

  • 永井 正夫
    2022 年 27 巻 2 号 p. 2_105-2_107
    発行日: 2022/02/01
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

     モビリティの分野では、100年に一度のモビリティ革命の時代になっていると言われ、自動運転やMaaS(Mobility as a Service)、あるいはCASE(Connected, Autonomous, Sharing & Services, Electric)という言葉がメディア等でも取り上げられることが多くなっている。特に2014年から官民ITS構想・ロードマップが策定されてより、国家的な研究開発プロジェクトが推進されてきた。とくに内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)、および経済産業省と国土交通省の自動走行ビジネス検討会では、産官学が一体となって協調領域の課題に取り組んできた。著者らはこれまで日本学術会議の中で自動運転に関する課題別委員会を設置して、社会に及ぼす影響が大きい自動運転について、技術開発にとどまらない社会的課題について様々な角度から審議し、提言をまとめてきた。本稿では、その日本学術会議からの意思の表出である提言について、概要を紹介する。

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