学術の動向
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27 巻, 8 号
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特集
戦後アジアの地域再編と学術の共同 ─分断・協調・再分断を超えて─
第I部 戦争と戦後の日中韓三国関係と地域共同の枠組み
  • 貴志 俊彦
    2022 年 27 巻 8 号 p. 8_14
    発行日: 2022/08/01
    公開日: 2022/12/23
    ジャーナル フリー
  • ──民国北京の大学人と日本人留学生
    稲森 雅子
    2022 年 27 巻 8 号 p. 8_15-8_18
    発行日: 2022/08/01
    公開日: 2022/12/23
    ジャーナル フリー

     1920~30年代、中国学の若手研究者たちが北京へ留学した。当時、政治の中心は南京に移り、北京には静かな環境が残されていた。目加田誠の留学記録『北平日記』及び新発見の資料から日中の学術交流の一斑に迫る。

     1910年代後半に起こった文学革命により白話古典の価値が見直され、新分野の研究が始まっていた。

     馬廉は、長澤規矩也と競い白話古典版本を研究した。他方、倉石武四郎と共同で挿絵写真集も作成、鄭振鐸『挿図本中国文学史』に転載され高い効果をあげた。

     孫楷第は、1930年に文献調査のため来日した。直後に満州事変が勃発したが、日中の支援者を得て調査を完遂し、白話小説書目を編んだ。これらは、現在も活用され続けている。

     少年期に日本で教育を受けた銭稲孫は、日本人留学生を親身に世話した。1930年元旦、日中の学術交流拠点を目指して自宅に日本語図書室を開設し、わずか1年で北京随一の日本語図書数となったが、残念なことに満洲事変により閉鎖に追い込まれていた。

     周知のとおり、この時の日本人留学生たちは戦後の中国学界を牽引した。

  • 木宮 正史
    2022 年 27 巻 8 号 p. 8_19-8_22
    発行日: 2022/08/01
    公開日: 2022/12/23
    ジャーナル フリー

     1990年代に入り、非対称的相互補完関係から対称的相互競争関係へと変容する日韓関係において、歴史問題をめぐる対立が「歴史戦」の様相を呈するまでエスカレートしてきた。それを支えるのは、対北朝鮮政策や米中対立への対応などをめぐって、日韓の安保外交政策の乖離が顕著になったことである。しかし、2022年、韓国における政権交代で尹錫悦保守政権が成立することで、少なくとも、対北朝鮮政策や米中対立への対応などの安保外交政策をめぐって日韓は接近するようになり、米国を挟んだ日韓の政策協調や安保協力の必要性は高まりつつある。一方で歴史問題をめぐる対立は、日韓の学術対立にも影響を及ぼしつつあるが、他方で安保外交政策をめぐる学術協力の可能性は高まる。日韓には、共有する課題に競争的に取り組みながら、競争が過剰な対立にエスカレートしないようにするために、対立と協力の両面を俯瞰するような学術協力をいかに進めるのかが問われる。

  • 我部 政明
    2022 年 27 巻 8 号 p. 8_23-8_26
    発行日: 2022/08/01
    公開日: 2022/12/23
    ジャーナル フリー

     2022年に沖縄の施政権返還から50年を迎えた。

     日米同盟を最優先する日本政府は、20世紀が終わろうとするとき、整理縮小のための代替という名目で沖縄での新たな基地建設を計画した。日本政府と沖縄の人々との間での新たな緊張の始まりであり、今なお続く。これまでアジアでの米国の戦争(朝鮮戦争、台湾海峡危機、ベトナム戦争、中東での戦争)に加え、現在の台湾をめぐる米中の対立にあっても、日本政府と沖縄との緊張がやむことがない。軍事的な手段による解決を望まない沖縄の人々の声が強いからである。沖縄戦の教訓の「命どぅ宝」が生きているのだ。

     日本の安全は沖縄の基地負担という代償を支払って成り立つ。それゆえ、沖縄での反基地という世論は日本の安全保障政策の基本を揺るがすパワーを持っている。沖縄からの恒常的な政治問題化(politicization)が問題の解決へ導くように思える。沖縄の基地削減のためには、沖縄を取り巻く国際環境の安定化が不可欠である。

  • ──日中韓連携の継続的発展
    大日方 純夫
    2022 年 27 巻 8 号 p. 8_27-8_30
    発行日: 2022/08/01
    公開日: 2022/12/23
    ジャーナル フリー

     日中韓3国共通の歴史教材づくりの経緯については、すでに本誌2020年9月号掲載の論稿で、2019年12月までの経緯を紹介した。本稿では、それ以後の2年半を含めた日中韓連携の継続的な取組みの経緯と、この取組みの担い手について紹介したうえで、歴史認識の更新と歴史和解のための課題を提示し、過去を未来に架橋することへの展望に言及する。そのうえでこの取組みが、市民間の共通基盤の量的・質的な拡大をはかって不信を信頼に変え、差異性とともに共通性を確認し合って対立を和解と連帯に変え、歴史を判断する主体を創出して知を力に変えるという、3つの変化を東アジアに呼び起こすことへの期待を述べる。

第II部 アジアの新たな近隣国関係 ──モンゴル(朝鮮半島・インド・ロシア)
  • ──モンゴル (朝鮮半島・インド・ロシア)
    羽場 久美子
    2022 年 27 巻 8 号 p. 8_31
    発行日: 2022/08/01
    公開日: 2022/12/23
    ジャーナル フリー
  • ──日本の対モンゴルODAの評価とポストODA
    清水 武則
    2022 年 27 巻 8 号 p. 8_32-8_37
    発行日: 2022/08/01
    公開日: 2022/12/23
    ジャーナル フリー

     日本のモンゴルへのODAは戦略性を有し、モンゴルのニーズにも合致したものであった。1990年の民主化の翌年には海部総理がサミット国のリーダーとして初めてモンゴルを訪問し、いち早く国際支援国会合の開催など支援策を打ち出し機動性もあった。背景には、ベーカー国務長官(米国)の日本への高い期待があった。日本のODAは90年代の経済危機の時代、2000年代の経済発展段階、2010年頃からの無償卒業国入り以降の新空港建設などの大規模事業への支援を経て、今日新たな段階に入った。無償供与は人道支援以外は基本的に実施困難であり、借款もモンゴルの債務負担能力がネックになっている。ODAの実施を梃子として発展してきた両国関係は、今日、戦略的パートナーシップの段階にあり、モンゴル国民の日本への信頼も良好な発展を示してきたが、ポストODAの時代においては民間交流が重要な役割を果たす必要がある。両国はEPAを締結し2016には発効したが、当初期待したモンゴルの対日輸出の拡大は達成できていない。モンゴルの中国への依存度が高まる中で日本としてできることは産業振興のための技術協力、日本からの観光客の拡大のための協力等が考えられるが、ODAの役割が確実に小さくなっていることだけは間違いない。

第III部 東アジアの地域秩序の変容 ──中国・アメリカ・東南アジアの戦略と域内の論理
  • ──中国・アメリカ・東南アジアの戦略と域内の論理
    三重野 文晴
    2022 年 27 巻 8 号 p. 8_38
    発行日: 2022/08/01
    公開日: 2022/12/23
    ジャーナル フリー
  • 三重野 文晴
    2022 年 27 巻 8 号 p. 8_39-8_42
    発行日: 2022/08/01
    公開日: 2022/12/23
    ジャーナル フリー

     アジアの地域秩序のイシューのなかで、金融秩序に関わる域内協力は1990年代後半のアジア金融危機の反省から、日本と中国の協調のもとで取組まれてきた。2000年代には実物経済の発展によるこの地域の主要国の資本輸出国化が実現し、金融秩序は相対的に安定化する。しかし、2010年代になると、巨大な資本輸出国となった中国の打ち出す「一帯一路」戦略が、金融秩序に新しい局面をもたらし、日本、中国、米国間のバランスが変化してきた。今後、コロナ禍のもとで進んだ財政拡大と米国の金融引き締めによる高金利が、アジアの後発国における金融混乱を連鎖的に発生させる可能性があり、またその結果、「一帯一路」による借款に潜む問題が顕在化するかもしれない。このときに、金融秩序に関わる地域協力のあり方が、再び試されることになる。

  • 金山 直樹
    2022 年 27 巻 8 号 p. 8_43-8_47
    発行日: 2022/08/01
    公開日: 2022/12/23
    ジャーナル フリー

     最近、中国が実力行使をしながら、そこから生じる問題は、すべて話し合いによって解決するのが自国の立場だと繰り返し主張している。これに対して、日米は、中国の態度は国際法を無視するものであって、許されないと反論している。歴史を見れば、多くの場合、国際法の遵守を声高に主張するのが小国であることは明らかである。そのように考えると、日米が、とくにアメリカが凋落の途にあることは覆い隠すことができないであろう。大国であれば、国際法違反を理由に、小国を意のままに操ることができるはずだからである。中国が、もはや小国でないことは明らかである。

     本稿においては、南シナ海仲裁判決、および、香港国家安全維持法を素材に、中国が国際法とどのように対峙しているのか、そしてそれに対して欧米がいかに対応しているのかを分析する。

  • ──直面する諸問題
    高原 明生
    2022 年 27 巻 8 号 p. 8_48-8_51
    発行日: 2022/08/01
    公開日: 2022/12/23
    ジャーナル フリー

     地域の今後を展望する上では、中国の将来が一つの変数だ。共産党による支配体制は新型コロナの流行を乗り越えたが、安定のため社会の同質化を強制する一方、少子高齢化の難題に直面する。党の領導と近代化の矛盾を抱え、国民の支持を得るにはナショナリズムに依拠せざるを得ないのが実状だ。

  • ──「価値の同盟」QUAD, AUKUSと東アジア
    羽場 久美子
    2022 年 27 巻 8 号 p. 8_52-8_56
    発行日: 2022/08/01
    公開日: 2022/12/23
    ジャーナル フリー

     中国の急速な経済成長とアメリカの経済的頭打ち、及びコロナによる米の感染拡大と100万人を超える死者の増大によって、東アジアでの米中の緊張関係が増している。そうした中、経済的には中国との連携、政治的にはアメリカとの同盟で、乗り切ろうとするアジア諸国が増えている。

     一方で、アメリカは2021年6月のG7サミットで、「価値の同盟」を打ち出し、民主主義vs専制主義を掲げて中国に対する圧力を強めている。しかしアジア諸国においては、地域協力・地域共同の動きが、ASEAN、一帯一路、SAARC、BIMSTEC、RCEP、CPTPPなどによって広がっている。また地域の安定化のための、日中韓学術連携、インド太平洋の学術連携も地道な努力として継続・発展しつつある。

     近隣国との歴史的な経済・文化・学術交流の経験を踏まえ、経済と学術交流によるアジアの共同と安定的発展こそ21世紀の普遍的価値として我々が目指すべき課題であろう。

  • ──絡み合う外交と内政, そしてメディアの役割
    沢村 亙
    2022 年 27 巻 8 号 p. 8_57-8_60
    発行日: 2022/08/01
    公開日: 2022/12/23
    ジャーナル フリー

     米国でいまアジア系市民に対する憎悪犯罪が急増している。トランプ大統領による「中国ウイルス」連呼などの影響もあるが、アジア系の場合はルーツのあるアジアの国々と米国の関係のありようが、そのパーセプションを左右する傾向が強い。近年、米国の政策決定層は党派を問わず、特に中国への対抗意識を急速に強めてきた。背景には、軍事、経済、科学、価値観などでの米国の「一強」がもはや盤石ではないという自信の揺らぎに加え、台頭する中国が米国内で格差をもたらすグローバル化の負の象徴ととらえられ、不満の矛先が向かいやすい現実がある。米国のメディアも近年、良質な政治・国際報道に力を入れてきた伝統メディアが退潮する一方、感情に訴えやすいSNSやトークラジオが影響を持つようになった。分断のあおりを受けたメディアがさらに偏見をあおる構図だ。その悪循環を絶ち、冷静なアジア観を築く方策を、米国に駐在したジャーナリストの視点から論じる。

  • 小長谷 有紀
    2022 年 27 巻 8 号 p. 8_61
    発行日: 2022/08/01
    公開日: 2022/12/23
    ジャーナル フリー
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「未来の学術振興構想」の策定に向けた「学術の中長期研究戦略」の公募について
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