東北森林科学会誌
Online ISSN : 2424-1385
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26 巻, 1 号
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論文
  • 石田 清, 倉内 優衣, 中林 綾香
    原稿種別: 論文
    2021 年 26 巻 1 号 p. 1-12
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2022/12/06
    ジャーナル フリー
    東北地方における絶滅危惧種エゾノウワミズザクラ2集団 (「五所川原」と「板柳」) を対象に集団の構造と開花結実特性を調べた。GBH 15cm以上の幹についてみると,2集団合計で151幹あり,1〜41幹からなる15のパッチが観察された。五所川原の方が板柳よりもパッチが少なく,その密度も低かった。1花序あたりの両性花数には有意な集団間差があり,板柳の方が五所川原よりも 20%多かった。一方,2集団の結果率の平均値は 0.9%ときわめて低かった。1パッチあたりの結果率にも有意な集団間差があり,パッチの幹断面積で重みづけして平均した結果率については,板柳の方が五所川原よりも40倍以上高かった。板柳では,幹サイズが大きいパッチほど高い結果率を示す傾向も認められた。さらに,授粉実験により,本種は不完全な自家不和合性を持つこと,また,花粉制限指数は2集団両方ともに 0.97〜0.99と高く,他家受粉不足によって結果率が大きく減少していることが明らかとなった。他家受粉花の結果率も 17%と低いことから,他家受粉不足以外の要因も結果率を減少させていると考えられる。結果率の減少によって生じる種子生産の減少は,集団のレジリエンスを低下させ,さらには「絶滅の渦」を回す可能性があることから,東北地方における本種の長期的な保全管理を図るためには,結果率減少の原因とその集団間変異の解明のみならず,種子生産の減少が集団の存続に及ぼす影響を予測する必要がある。
  • 小澤 壮太, 中村 克典, 前原 紀敏
    原稿種別: 論文
    2021 年 26 巻 1 号 p. 13-19
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2022/12/06
    ジャーナル フリー
    マツノマダラカミキリの防除素材として他種穿孔性昆虫の寄生性線虫が有効であるかどうかを検討するため,野外で捕獲したマツノキクイムシを解剖して寄生性線虫の保持を確認するとともに,得られた線虫のマツノマダラカミキリ幼虫への接種を試みた。解剖に供したマツノキクイムシ雌雄成虫 37頭のうち 31頭 (83.8%) の血体腔から最大 132頭の寄生性線虫が検出され,成虫の形態からParasitorhabditis属線虫であると判断した。13頭のマツノキクイムシに由来する寄生性線虫 1〜123頭と,マツノマダラカミキリ老熟幼虫各1頭を6cm シャーレ内で共存させて培養したところ,ほとんどの幼虫が正常に蛹化・羽化した。90日経っても幼虫のままだった2頭および,蛹で死亡した1頭を含めたすべての供試虫について,経過観察後の解剖では,体内への線虫の侵入は確認されなかった。ただし,本研究で使用した線虫は寄主への侵入に適した発育ステージではなかった可能性がある。線虫のカミキリムシへの寄生能力を判定し,マツノマダラカミキリの防除素材としての有効性を適正に評価するには,線虫の感染態ステージの特定やそれを用いた接種,カミキリムシの接種対象ステージの検証などについて,さらに実験を行う必要がある。
報文
  • 太田 敬之, 齋藤 智之, 野口 麻穂子
    原稿種別: 報文
    2021 年 26 巻 1 号 p. 20-26
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2022/12/06
    ジャーナル フリー
    宮城県石巻市の牧の崎スギ天然林は本州で唯一,太平洋岸に分布しているスギ天然林である。積雪がほぼ見られず, 秋田などとは異なる環境下に成立している。林分構造を調査し,他のスギ天然林と比較するため,2017年に尾根の近くに調査区 1,谷に調査区2を設定し,胸高直径,立木位置の測定を行った。主要樹種はスギ,モミで尾根にはヒサカキの小径木が多く見られた。スギの立木密度は調査区1で 169 本ha−1,調査区2では 133 本ha−1,スギの最大直径はそれぞれ 120cm,93cm,スギの最大樹高は 25m,30mであり,他のスギ天然林より樹齢が若い個体が多いとみられることを考慮しても,樹高が低い傾向にあった。調査林分およびその近辺ではスギの風倒被害,アカマツの大幅な 減少,シカ食害によるスギ幼樹の減少が見られ,保護のための施策が必要と考えられた。
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