マラリア患者における脈拍の性状に関しては, 一般的な記載は教科書に記してあるが, 不整脈の出現については殆ど記載がない。我々は三日熱と熱帯熱マラリアの混合感染例が入院時心房粗動を起こし, マラリアの治療で自然に治癒した例を経験したので報告する。患者は31歳の従来健康な男性でフィリピンから帰国後, 2日目から発熱したが15病日に入院した。体温は39.1℃, 末梢血液には白血球200につき三日熱マラリア原虫の栄養体と生殖母体が342個, 熱帯熱マラリア原虫の生殖母体が1個あり, 血液1μl当たり合計13,510のマラリア原虫がいた。しかし熱帯熱マラリア原虫のring formは全く検出されなかった。患者は胸内苦悶を訴えたので, 心電図をとったところ心房粗動が認められた (図1) 。
直ちにクロロキン療法を開始すると36時間後には平熱になった。またその頃には胸内苦悶は消失しており, 心電図も正常に戻っていた。
三日熱マラリアは一般に良性で死亡例が少ないので, 病理所見の記載は殆ど熱帯熱マラリアに限られている。熱帯熱マラリアでは, 分裂体の感染した赤血球が脳, 腎糸球体, 腹膜や腸絨毛の毛細血管内に停滞して, 血流障害を起こすことは良く知られている。我々は心筋内毛細血管が, 分裂体感染赤血球で充満しているのを経験した。三日熱マラリアでも原虫が成熟して分裂体になると, 膨大した赤血球は変形能を失い, かつ毛細管の狭い所は通過出来なくなることは容易に推定できる。三日熱マラリアの発熱発作時における頭痛, 筋肉痛等は, これで説明出来よう。三日熱マラリアにおける脳症の報告例もある。従って三日熱マラリアにおいて, 心筋内毛細血管が分裂体感染赤血球で充満し, 心筋の酸素欠乏を起こし, 心房細動を起こしたものと考えられる。
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