東海社会学会年報
Online ISSN : 2435-5798
Print ISSN : 1883-9452
10 巻
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  • 東日本大震災における岩手県大船渡市の場合
    丸山 真央
    2018 年 10 巻 p. 111-121
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/03/22
    ジャーナル フリー
    東日本大震災の被災自治体には「平成の大合併」のなかで市町村合併をおこなった市町村が少なくない.合併が東日本大震災や復興をめぐる基礎的自治体の対応にどのように影響したのかは,地域社会の脆弱性や復元力を考えるうえで重要である.先行研究では,合併自治体の中心部の旧市地域と周辺部の旧町村地域との間で行政の災害対応や復興をめぐって格差が生じていることが指摘されてきた.また合併に対する評価の研究では,やはり中心地域と周辺地域との間で住民の評価格差があることが指摘されてきた.本論文では,東日本大震災で大きな被害に遭った岩手県大船渡市(旧大船渡市と旧三陸町が2001年に合併)において,合併自治体の災害・復興対応を住民がどのように評価しているかを検討した.その結果,旧大船渡市と旧三陸町の住民の間で合併の評価は変わらなかった.震災や復興をめぐる市の行政対応についても旧市・旧町の住民の間で評価は変わらなかった.これは市行政の災害・復興対応が,旧市・旧町を単位としてではなく,下位スケールの「地区」(「昭和の大合併」以前の旧町村)を単位として進められていることの結果と考えられる.実際,「地区」間で住民の評価格差が大きかった.市町村合併が災害時の行政対応に影響するのは確かであるが,合併後の行政運営や災害・復興対応の地理的な単位がより重要であることが示唆された.
  • 若者文化の内部構造に着目して
    野村 駿
    2018 年 10 巻 p. 122-132
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/03/22
    ジャーナル フリー
    本稿の目的は,「音楽で成功する」といった夢を掲げ,その実現に向けて活動するロック系バンドのミュージシャン(以下,バンドマン)を事例に,夢を追う若者がフリーターを積極的に選択・維持するプロセスとその背景を,若者文化の側面に着目して明らかにすることである. 若者の学校から職業への移行を扱ったこれまでの研究が,フリーターを積極的に選択・維持する若者の移行過程を看過してきたという問題意識から,バンドマンを対象とした聞き取り調査のデータを分析し,次の3つの知見を導出した.第1に,バンドマンはバンド活動を「やりたいこと」だと見なしながら,それと同時にバンドメンバー同士の相互作用の中でフリーターを選択していた.第2に,バンドマンはライブ出演に向けてメンバー間で場所と時間を共有する必要があることからフリーターを選択・維持していた.第3に,フリーターであることによって生起する金銭的困難が,バンドという活動形態の集団性とバンド単位で支払いを求める音楽業界の料金システムによって緩和されていた. 以上の知見を踏まえ,バンドという活動形態の集団性と音楽業界の料金システムが若者文化の内部構造として存在するために,それに適応しなければ夢が追えないバンドマンは合理的な進路としてフリーターを積極的に選択・維持していると結論付けた.
  • 名古屋市調査の定量的研究
    木田 勇輔, 成 元哲, 河村 則行
    2018 年 10 巻 p. 133-143
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/03/22
    ジャーナル フリー
    本稿では Robert J. Sampson の集合的効力感に関する理論を検討し,日本の都市において個人レベルの集合的効力感がコミュニティにおける活動意欲を促すのかという点について検証を行った.具体的には名古屋市の6学区における質問紙調査から得られたデータを用い,集合的効力感の規定要因とその効果に関する基礎的な分析を行った.個人レベルの変数や居住学区のダミー変数を含めた重回帰分析を行った結果として,以下の3つの結論を得た.(1)社会的紐帯の豊富さと移動性の低さは集合的効力感を高める.(2)居住学区は集合的効力感に影響を与えている可能性が高い.(3) 個人レベルの変数や居住学区の効果を統制しても,集合的効力感はコミュニティにおける活動意欲に正の効果を持っている.今後の研究の展望として,日本でも集合的効力感が重要な意味を持つ可能性は高く,居住地区間の格差や不平等を解明する際の糸口を提供すると考えられる.
  • 名古屋市と豊田市における中国人ニューカマー後期 1.5世代を例に
    許 佳辰
    2018 年 10 巻 p. 144-157
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/03/22
    ジャーナル フリー
    本稿の目的 は,日本における中国人ニューカマーの後期 1.5世代子どもの進路選択にたいする,中国の教育における不平等構造による影響を分析する ことである.分析にあたって,中国人ニューカマー後期 1.5世代生徒を取り巻く家庭状況と社会的状況 ,出身国での出身地と日本での受け入れ地域との賃金差といったことも視野に入れる. 中国では,能力別学級編成によって,義務教育の早期段階から都市にある重点学校に進学できる生徒は,高等教育へ進学する意識をもち,郷鎮農村 1) にある非重点学校出身の生徒はそれを断念する可能性が高い.そのため,本稿は名古屋市と豊田市における二つの日本語教室に通っていた中国人ニューカマー後期 1.5世代生徒に着目し,かれらを都市の重点学校出身のグループと郷鎮農村の非重点学校出身のグループに分けて比較した. 分析の結果は以下のようになる. 中国人ニューカマー の後期1.5世代は,従来の日系ブラジル人の子どもと違い,教育達成に恵まれる社会的状況に置かれている .しかし中国の郷鎮農村の非重点学校出身のグループは,上昇意欲をもっているにもかかわらず, 教育達成が低いレベルにとどまり,早期非正規就労に定着していく.かれらのこうした進路選択の傾向は,中国と日本の間の賃金差,日本語能力が低くても参入できる労働市場の存在といった事象によって補強されている.それにたいして,中国の都市の重点学校出身のグループは高等教育進学の意識が強く,日本の労働市場の状況による影響をほとんどうけていない. このような結果をうけて,現在盛んに行われている定時制高校への入学支援は,出身階層や地域の点でハンディのある中国人ニューカマーの後期 1.5世代にみられる階層的再生産の連鎖を断ち切ることは難しく,将来社会問題化しかねないことがわかった.とくに低階層出身マイノリティの若者たちの教育に関しては,この点を配慮した支援のありかたが求められるといえよう.
  • 混合研究法を用いた分析を通して
    長谷川 誠
    2018 年 10 巻 p. 158-164
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/03/22
    ジャーナル フリー
    本稿の目的 は,学力下位層の私立大学生への調査を通して,性別,分野別の違いに注目し ,かれらの就業意識の特徴を明らかにすることである .分析,検討の結果,大学生の就業意識について,一般的に大手企業志向が高まる中, 企業の規模や知名度については,理系より文系が高い傾向があるものの全体的に関心が低かった.しかし, その要因には,入学難易度の高くない学生は 最初から大手企業を考えていないといったこれまでの指摘とは異なり,かれらは自身の能力を考慮し,大手企業志向を意識的に低下させざるを得ないとの考えや ,適職信仰を 持ちながらも現実的な目標を設定し,不安を乗り越えよう とする意識があったのである .また, 性別や分野を問わず収入面を重視する傾向がみられる等,仕事の雇用条件に対する関心が高かったの は,将来の仕事や生活に対する漠然とした不安を抱え,自身の能力で就職できる企業は,ブラック企業 の条件 とされる厳しい労働環境である 可能性が高いことを自覚していることや,現実を受け止めることで生じる学校から社会への移行後の生活に対する不安が背景にあると論じている.
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