特殊教育学研究
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30 巻, 4 号
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  • 羅 世玲
    原稿種別: 本文
    1993 年 30 巻 4 号 p. 1-10
    発行日: 1993/01/30
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    失敗経験が成人の肢体不自由者(ポリオ者)に及ぼす影響を調べた。34名の肢体不自由者と36名の健常者を経験課題難群、易群、なし群のいずれかに分けた。パズルを用いて、前テスト、経験課題、後テストを実施し、各セッション後、質問紙によって内的変化を調べた。経験課題難群は難しい問題を与えられ、失敗経験をし、経験課題易群は易しい問題を与えられ、成功経験をした。前テストと後テストの分析の結果は次のとおりであった。(1)パフォーマンスでは肢体不自由者は前テストより後テストの方が、健常者と比較して下降を示した。(2)内的変化では、失敗経験にも関わらず、肢体不自由者は課題への意欲・関心を失わなかった。一方、健常者は失敗経験により、意欲・関心は低下した。(3)肢体不自由者はパフォーマンスの下降、上昇によって主観的無力感が変化するが満足感は変わらず、一方健常者は満足感が変わるが主観的無力感は変化しないことが示された。
  • 渡辺 健治
    原稿種別: 本文
    1993 年 30 巻 4 号 p. 11-22
    発行日: 1993/01/30
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    本稿は障害児の発達の問題を子どもについての総合科学、すなわち児童学によって解決しようと意図したヴィゴツキーの構想を検討した。1920年代半ばのソビエトにおける教育困難児問題の発生と児童学の出現という歴史的過程の中でヴィゴツキーは障害児の発達の問題を明らかにしようとした。ヴィゴツキーは児童学を統一のある全一体としての子どもについての科学であると捉えている。ヴィゴツキーは障害児、教育困難児、神経症、精神病児を含む「困難児」というカテゴリーを設定し、「困難児の児童学」を確立しようとした。ヴィゴツキーが「困難児の児童学」の分野で構想したものは独自の科学としての方法論を築きあげることであった。彼は児童学的課題としての子どもの発達における内的法則性の解明を意図した発達診断の研究と児童学的臨床の確立により「困難児の児童学」が科学として成立すると考えた。
  • 乾 初枝, 田中 道治
    原稿種別: 本文
    1993 年 30 巻 4 号 p. 23-34
    発行日: 1993/01/30
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は、重症心身障害児の定位・探索反応の特性を、感覚モダリティーの違い、信号性の有無による差異、発達年齢などの相互の関連性に着目し、行動反応とHR(心拍)反応において、健常乳幼児との比較から検討するものである。被験児は健常乳幼児群27名、重障児群22名であり、7種の刺激を使用した。行動反応は定位・探索行動をチェックし、HR反応はR-R波間隔を測定した。以下の結果が得られた。1)行動反応とHR反応の関連性が認められた。2)重障児群は健常乳幼児群に比べて行動反応、HR反応ともに少なく、とくに、第1回目の刺激提示及び試行初期において両群の差は顕著であった。3)重障児群の発達年齢6ヵ月レベルでは、定位反応の生起そのものが困難であった。しかし、個別にみれば反応性の乏しさと個人差の大きさは認められるものの、刺激に対して何等かの応答を行っていた。4)重障児群において、聴覚刺激に対してより多くの反応が認められた。5)健常乳幼児群では、パトカー(玩具)と呼名に対して、探索反応の状態を示していた。
  • 村上 由則, 諸冨 隆, 村井 憲男
    原稿種別: 本文
    1993 年 30 巻 4 号 p. 35-42
    発行日: 1993/01/30
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    2名の血友病児において、血友病性関節内出血と気象変動との関連を検討した。関節内出血の度数を月ごとに加算したところ、他の月と比較して4〜6月に出血が集中することが明らかになった。また、対象児の出血動態と気象要素との関連を分析したところ、平均気温の日間較差が、出血となんらかの関連をもつことが確認された。出血が特定の関節領域に集中しその度数が増大する悪化期には、出血の始発日前後1〜2日に気温の低下が観察された。この気温の低下傾向は、特定関節の出血以前に先行する出血がある場合に顕著であることも併せて明らかとなった。出血の少ない安定期や逆に出血が多発する頻発期には、気温の変動と出血との関連は明確ではなかった。これらの結果から、気温の変動は血友病性関節内出血に対し影響を及ぼすが、その影響は関節の破壊状況により異なることが示唆された。
  • 北島 善夫, 小池 敏英, 堅田 明義, 松野 豊
    原稿種別: 本文
    1993 年 30 巻 4 号 p. 43-53
    発行日: 1993/01/30
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    種々の働きかけに対し注視行動や情動行動を表出する重症心身障害者(重障者)を対象として、働きかけに対する予期や運動準備を伴う期待反応について検討した。まず人が姿を現わし、その後働きかける刺激条件を設定し、行動観察と脳緩電位記録を行った。働きかけ開始時点を基準とした注視行動と情動行動の条件付生起確率および潜時の特徴より、8名の対象者が3群に分けられた。人が姿を現わし働きかけを行うまでの間に注視行動と情動行動が生起し、働きかけ後、条件付生起確率が増加した者が4名認められ、そのうちの2名には刺激間間隔において陰性方向への緩電位変動が記録された。彼らには刺激呈示の時間関係に対応した予期と運動準備が生じたと考えられた。本結果から、行動反応と脳緩電位変動により重障者の期待反応を検討できることを明らかにし、コミュニケーションの初期発達に見られる情動行動の能動的表出過程と期待反応が関連することを示唆した。
  • 鄭 仁豪
    原稿種別: 本文
    1993 年 30 巻 4 号 p. 55-66
    発行日: 1993/01/30
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    聴覚障害児の文章理解の特徴を明らかにするために、音読時のMISCUEを手がかりに、音読のプロセス及び理解を健聴児との比較を通して検討した。被験群は、音声言語を主なコミュニケーション手段とする聴覚障害児群の35名と健聴児群の20名であった。両被験群は知能偏差値によってマッチングされた。実験は、物語の音読課題と再生課題で構成され、MISCUEの出現率、単語・文・文脈レベルのプロセス、および再生の比較と関連を検討した。その結果、MISCUEは、量的には理解のプロセスを妨げるものの、質的には理解を促進する、相反する働きを示した。また、音声的手がかりや文法的手がかりの活用に劣るが、意味論的側面においては健聴児と同程度の活用をしながらも、その歪みが多いことも明らかになった。再生率においては健聴児に比べ有意に低いとはいえず、文章全体の流れの把握や、隠された意味をつかむ能力は劣ることが認められた。
  • 鎌田 文聰
    原稿種別: 本文
    1993 年 30 巻 4 号 p. 67-74
    発行日: 1993/01/30
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    本研究では、健常新生児(9名)とダウン症新生児(5名)を対象に1日から36日齢まで、2〜6日おきにペンライトとブザーによる単純光、音刺激(静止および移動)を呈示し、それらに対する様々な視、聴性行動反応の発達的変化を縦断的に比較検討し、以下の結果を得た。健常新生児の場合、1日〜1週齢の「防御反射期」と2〜3週齢の「定位反応発生期」さらに3〜4週齢の「定位反応充実期」と呼べるような三つの発達的変化相を示すが、ダウン症新生児の場合には、4、5週齢まで主として「防御反射期」にとどまる。また注視と追視の発達は、健常新生児では前者が2〜3日齢、後者が7日齢頃から始まって漸進的に進行し、どちらも1ヵ月齢頃に一定の安定性を獲得する。他方、ダウン症新生児では注視が2週齢、追視が3週齢前後から多少認められ始めるが、どちらも1ヵ月齢では安定性を得るまでには至らない。
  • 湯浅 恭正
    原稿種別: 本文
    1993 年 30 巻 4 号 p. 75-85
    発行日: 1993/01/30
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    交流・統合の教育(教育的インテグレーション)に関する教育実践研究の方法論を明らかにするために、生活指導の実践記録を中心にして、教育実践分析のあり方を検討した。わが国の1970年代から80年代にかけての、通常の学校での障害児(学級)との交流・統合についての実践記録とその分析視点をとりあげ、とくにインテグレーションをめぐる子どもの意識・態度・障害児の処遇について検討した。その結果、実践分析の方法的視点として、(1)子どもの生活する時代的背景、(2)集団形成にかかわるリーダー指導のあり方、(3)インテグレーションをすすめるさいの要因となるもの、(4)教育者集団の共同のあり方、(5)実践場面での具体的な指導技術が強調されていることが明らかにされた。これらの視点は、いずれも、教育的インテグレーションの教育実践を創造する方法をも意味するものである。
  • 熊谷 恵子
    原稿種別: 本文
    1993 年 30 巻 4 号 p. 87-91
    発行日: 1993/01/30
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
  • 落合 俊郎, 山片 正昭
    原稿種別: 本文
    1993 年 30 巻 4 号 p. 93-98
    発行日: 1993/01/30
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    特殊教育学の分野で記号論をとりあげているのは、恐らく落合と山片だけであろう。両者とも重度の発達障害児の臨床研究に記号論を援用している。前者には広く認識論につながる志向があり、後者はより狭く指導法研究を志向している。本稿では、両者の論述を並記して参考に供したい。
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