特殊教育学研究
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31 巻, 5 号
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  • 田村 浩子, 田辺 正友
    原稿種別: 本文
    1994 年 31 巻 5 号 p. 1-5
    発行日: 1994/03/31
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    比較的稀な疾患とされるインスリノーマによって惹起された低血糖症による精神発達遅滞児の発達と障害および療育について検討しようとしてなされた一連の研究の一つである。本稿では、筆者らが取り組んでいる療育活動における本児の3年間の発達過程での特徴・問題とその変容について分析し、それぞれの時期の療育について言及した。特に、現在、本児が呈している「知覚-運動」障害の問題を、本児の疾患および疾患から派生してくる生活上の問題との関連で考察した。
  • 飯村 敦子
    原稿種別: 本文
    1994 年 31 巻 5 号 p. 7-13
    発行日: 1994/03/31
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    我々は、ダウン症児の早期教育において、乳幼児期から豊かな感覚運動刺激を与え、子供にとっては、遊び的要素を含んだムーブメント活動の中で、その発達を援助することが可能であると考えている。そこで本研究は、乳児期からのムーブメント教育による指導を10年間にわたり継続してきたダウン症児(S.H児,男,昭和56年9月9日生)の発達の分析と、その指導経過について検討することを目的に取り組んだ。1982年11月から1992年12月までの指導期間は、対象児の発達課題とプログラム内容から5期に分けられ、各期についてプログラムターゲットおよび内容について記した。対象児の発達を分析した結果、運動・感覚、言語、社会性スキルの全面的な発達変化が確認された。また、対象児の運動スキルは、乳幼児期(7歳頃まで)を通して達成されたが、言語・社会性スキルの発達は、学童期(11歳頃)にかけて運動スキルの発達に追いつくという様相を示した。このことから、言語、社会性スキルの発達は、運動スキルの発達をベースとして促進されることが示唆された。
  • 大野 真裕
    原稿種別: 本文
    1994 年 31 巻 5 号 p. 15-22
    発行日: 1994/03/31
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    本研究では、児童相談所でTEACCHプログラムを取り入れて行っている、自閉症を対象とする障害幼児親子教室の試みについて報告し、中間的な評価を行った。対象児は17名で、各児童に実施した個別訓練課題の分析、保護者に対するアンケート結果の分析、児童の通っている保育所・幼稚園の保母・教員に対するアンケート結果の分析を行った。その結果、当教室の3つの目的((1)一人一人の子どもに合わせた個別教育プログラムを作成し訓練する、(2)家庭でも個別教育プログラムにもとづいた養育ができるよう援助する、(3)家庭、地域,保育所・幼稚園等の関係者が連携して子どもを療育できるよう支援する)について、保護者の養育態度の変化、家族の協力、幼稚園・保育所での関わりの変化などいくつかの成果を確認した。また、今後の課題についても検討を加えた。
  • 室橋 春光, 広川 香
    原稿種別: 本文
    1994 年 31 巻 5 号 p. 23-29
    発行日: 1994/03/31
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    重度精神遅滞児を対象として、描画活動の援助法を検討した。対象児に絵の具をつけた筆を持たせると、四角に縁取り内部を塗る動作を繰り返した。これは、作業学習で指導された糊づけ作業の般化的行為と考えられた。そこで対象児が、四角を利用した描画パターンを描けるようにし、それを彼の好きなバスに見立てるよう援助した。最初に、描画援助者を共に描く存在として理解してもらうこと、次に対象児と援助者が交互に描画する関係を作ることを試みた。そして、援助者が「バス」と言いながら、対象児の描いた四角の下部に小円を2個、直ちに描き加えた。当初、対象児は援助者の行為を無視したが、小円が加えられるのを待つようになった。さらに、対象児自らが小円を描き加え、バスに見立てることを試みた。彼は、「バス」と言いながら、描くようになった。その後、対象児が情緒的に不安定なときにこのパターンを描くと、安定することも観察された。
  • 金谷 京子
    原稿種別: 本文
    1994 年 31 巻 5 号 p. 31-37
    発行日: 1994/03/31
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    本研究は対人行動に問題を持つ、軽度の発達障害幼児にパートナーとの2人学習の場面で1年9ヵ月の間、社会的スキルの獲得のための指導を行った経過を通して、そのプログラムと指導法について検討したものである。指導法には、行動修正技法を用い、初期の段階では、個別的課題を2人で同じ机上で移行し、お互いを観察すること、模倣することを強化した。第2段階では、パートナーとの共同作業やゲームを増やし、適切な言語伝達法を学習させるとともに、ルールの理解や競争意識の喚起を促した。そして最終段階では、ごっこ遊びやゲームを通して相手への援助行動や協力行動を強化し、子ども同士の相互作用を促して、教師の介入は漸次撤去していった。以上の結果、対象児の注目行動の定着、適切なコミュニケーション手段の獲得、相手との協力・援助行動の増加をもたらした。
  • 小笠原 恵, 関 真佐美, 河野 由美
    原稿種別: 本文
    1994 年 31 巻 5 号 p. 39-45
    発行日: 1994/03/31
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    本研究では、精神遅滞児や自閉症児に対して、機能的な言語の自発使用を促すために、機会利用型指導法及びマンド・モデル法を用いて指導を行った。これらの指導法を用いて要求行動を形成していく際、先行刺激に強化機能が強い食べ物を用いる研究は多くある。しかし、食べ物は好き嫌いに個人差が大きく、時にその好き嫌いが極端に変化する、反復使用ですぐに飽和してしまう、日常的な場面では強化子として用いることは少ない等の問題点がある。そこで本研究では、自然で強い強化機能をもつと考えられる子どもの好きな遊具を強化刺激として用いた。さらに、単一の遊具で遊ぶことに飽和してしまわないように数種類の遊具を導入した。そのうえで、指導場面をより日常場面に近づけるために、遊具には不自然な物理的制限を加えずに、子どもがひとりでも遊ぶことができるように設定した。その結果、3名の対象児のうち1名は、1語文での要求から2語文での要求を行うようになった。また、指導開始以前ことばをもたなかった1名の対象児は1語文での要求が可能になった。また、1名の対象児はことばによる要求は獲得し得なかったが、身振りによる要求行動を獲得した。この結果より、強化刺激として遊具が有効であることを示唆した。また、数種類の遊具を導入したことはTrapoldのいう結果差異効果(differetial outcome effect:DOE)を裏付ける結果となった。本研究では、指導場面をより日常場面に近づけたことによって、獲得された行動は日常場面で般化しやすいのではないかと推測される。今後、この般化についての検証が課題として残された。
  • 高橋 潔
    原稿種別: 本文
    1994 年 31 巻 5 号 p. 47-53
    発行日: 1994/03/31
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    中度遅滞を示す17歳の知的障害児が入所施設内のクラス異動を契機に、盗み、拒食、無断外出などの不適応行動を示した。これらの行動改善を目的に、カウンセリングアプローチによる関わりを行った。各々の不適応行動は、依存、顕示、反抗、拒否、自暴自棄という内面変化を背景に変容していったと解釈された。また、知的障害児に対するカウンセリングアプローチの効果は、ケースの言語能力・情緒発達と関連して限界が論じられ、生活療法的な環境調整との併用が有効であることが示唆された。
  • 坂口 しおり
    原稿種別: 本文
    1994 年 31 巻 5 号 p. 55-61
    発行日: 1994/03/31
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    インリアル・アプローチは重度重複障害児へのコミュニケーション指導に有効であるが、養護学校にそれを導入するに当たっては、複数担任制の教育課程の中にどう位置づけるべきか、がまだ不明確である。この点を考察するために、インリアルを応用しながら、小学部高学年の重度重複障害児グループを担任する教師集団で、個別のコミュニケーション指導場面をVTR分析していくという試みを行った。本稿はその実践報告であり、以下のような考察が引き出された。(1)児童および教師のコミュニケーション評価・目標設定について、教師1人で行うよりも複数教師で行う方が明確になる。(2)グループ内の全教師が、児童のコミュニケーションにおけるねらいを確認することで、児童へのかかわり方が明確になり、教師全員が児童のねらいに沿った働きかけを行えるようになる。
  • 湊 秋作
    原稿種別: 本文
    1994 年 31 巻 5 号 p. 63-68
    発行日: 1994/03/31
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    精神遅滞児とダウン症児の感覚の訓練と感性を育てるために、人工物と違い多様な感覚器官を児童に同時に働かせる自然物を用いて感覚訓練を試みた。五感を働かせる原体験の場としては、理科の時間と、特設の生き物の時間をおいた。その結果、次のことが明らかになった。(1)自然物を使った感覚訓練は、脳を刺激し、言葉の認識を容易にし、認識の基礎作りを行い、学習レディネスの形成に効果的である。(2)自然物の中で動物は、感性と自然への興味や関心を育てるのに有効で、植物は感覚訓練に適している。(3)校庭内に自然遊び、原体験活動ができる場を作る必要がある。
  • 仲矢 明孝
    原稿種別: 本文
    1994 年 31 巻 5 号 p. 69-76
    発行日: 1994/03/31
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    話し言葉の機能的使用が困難な中学部1年自閉児に対して、抽出による養護・訓練の指導を3年間行った。応答性にかかわるスキル獲得を目的とする学習<質問に答える>の中から、3つの課題を取り上げ、指導経過の検討を行った。容器内の事物の名称を答えるという課題では、全23回の指導の結果、質問内容に注目し、容器の名称ではなく、その中にある事物の名称を答えるという返答技能が獲得された。命題の正否を答える課題では、文字活用のStepを設けることにより、返答技能が獲得され、思考過程を視覚化できる文字の有用性が示唆された。行為者・対象物・行為を答える課題では、文字カード提示を伴わせた質問の場合、正反応率が高まるなど,ここでも視覚刺激としての文字の有効性が示された。一方、指導経過の中で、対象物や行為者への指差しにかかわる問題など、動作レベルでのいくつかの問題もみられた。
  • 冨樫 敏彦, 位頭 義仁
    原稿種別: 本文
    1994 年 31 巻 5 号 p. 77-82
    発行日: 1994/03/31
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    攻撃的行動を示す重度自閉症児に対して、感覚統合指導を実施した。本研究では、感覚統合指導直後に行われた作業学習場面と家庭生活場面が分析された。その結果、作業学習場面のベースライン期における攻撃的行動と常同言語・行動は相補的関係を示し、指導開始に伴って両者は並行して減少した。家庭における攻撃的行動は明らかに減少したが、低頻度で40日余り維持された後に消失し、第2ベースライン期におけるより低頻度の生起を経て、第2指導期には再び消失した。以上のことから、場面状況からは原因が特定できない対象児の強迫的な攻撃的行動は常同行動と関連し、内的感覚剥奪により維持されているとの説明が可能であり、感覚統合指導は内的感覚剥奪状態の解消として作用する可能性が示唆された。
  • 古屋 義博
    原稿種別: 本文
    1994 年 31 巻 5 号 p. 83-87
    発行日: 1994/03/31
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    実用歩行に困難を示すひとりの脳性マヒ児がいる。本児にとって、車椅子操作は大切な日常生活動作である。しかし、上肢にも動作不自由があり、それが車椅子操作に支障を及ぼしている。そこで、車椅子操作に関係する身体部位の緊張状態を改善する指導を養護・訓練の時間に行った。週5回の指導を約10ヵ月間行った。指導した身体部位は、肩、手首、拇指、四指、肘、足である。車椅子操作能力を評価する測度は、ある一定区間の移動時間である。測定場所はスロープと水平面であった。6つの身体部位の緊張状態の改善の様子とスロープにおける速度の変化がかなり密接に関連していた。車椅子操作能力の向上をねらって行った緊張状態を改善する指導は有効であったと結論された。また、緊張状態の改善の様子と水平面の速度の変化との関連がやや低かったことについて、スロープでの車椅子操作の方略と水平面でのそれとが異なるのではないかということについて検討された。
  • 海塚 敏郎, 釘宮 正次
    原稿種別: 本文
    1994 年 31 巻 5 号 p. 89-94
    発行日: 1994/03/31
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    教科学習の遅れが著しい小学校2年生の男児に対して感覚統合療法の原理に基づいて治療を行った。本児は学力の遅れの背景に視知覚、視覚-運動協応能力の問題、筋緊張の低下とそれに伴う微細な運動能力の著しい低下を示した。感覚統合的視点から、前庭覚-固有覚-視覚の統合を目的として、約8か月にわたり原則として週1回(1回60分)の治療を18回行った。結果は、動作性と言語性の知的能力の有意な差異が解消した。また行動的には視覚認知,目と手の協応運動に改善がみられ、筋緊張の増強が観察された。それに伴って粗大運動も滑らかになると共に、運動課題への取り組みも積極的になっている。学校での学習もこれと平行するように改善している。読み・書きの障害への対応として、今後、認知訓練へ治療の重点が移っていくことが予想される。
  • 関戸 英紀
    原稿種別: 本文
    1994 年 31 巻 5 号 p. 95-102
    発行日: 1994/03/31
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    質問に対してエコラリアで応じる14歳の自閉症男児に対して、明確な順序性をもち、動機づけの高い共同行為ルーティンを設定し、その文脈を用いて対象児の認知的発達水準を考慮しながら、適切な応答的発話の習得を目的とした指導を約3か月間行った。その結果、4セッションめでエコラリアが消失し、18セッションめで指導目標とした4つの質問すべてに正答できた。また、日常場面においても応答的発話に変化がみられた。以上のことから、場面文脈を対象児の認知的発達水準に近接させていくことによって文脈の理解がされ、このことがエコラリアの消失を促進したと考えられること、また場面文脈および質問の意味の理解を促進するためには最小限必要な要素から構成される、単純化された場面を設定し、しかもスクリプトの主要な要素から指導を開始することの重要性が検討された。
  • 竹花 正剛, 竹花 裕子
    原稿種別: 本文
    1994 年 31 巻 5 号 p. 103-111
    発行日: 1994/03/31
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    1970年代に入って、無発語の自閉症児や重度の精神遅滞児に対して非音声系の補助手段としてサインやシンボルや文字を用いた指導法が多く報告されるようになった。非音声系の補助伝達手段を、音声言語の補助とするか、または代替として機能させるかは、障害のレベルやタイプおよび音声言語のレベルによって異なる。本研究は、視覚-運動系が優位で優れた視覚的記憶を示す中度の遅れを持つ自閉症児にサインと言語の同時提示法(マカトン法)を導入して、命名学習へのサイン言語の有効性を検討した。結果は、サイン反応の習得が言語反応に先行し、最終的にはサインと言語の複合反応を形成した。般化事態では、言語反応の般化は見られたが、サイン反応の般化はほとんど認められず、修正法の導入で言語とサインの両反応の般化が見られた。また、言語条件とサインと言語の同時提示条件と比べた場合、後者の方が学習成立が速い傾向が認められた。
  • 江田 裕介
    原稿種別: 本文
    1994 年 31 巻 5 号 p. 113-119
    発行日: 1994/03/31
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    書字が困難な重度脳性まひ者1名に分割選択方式のコミュニケーション・エイドを開発・導入し、その適性を検討した。64種の記号のマトリックスを、(1)2分割で選択する条件と、(2)4分割で選択する条件の2種でシステムを設定し、それぞれの操作能率を測定したところ、この事例では同一時間に入力できる文字数が2分割条件で有意に多い。また(1)同一画面上で選択を繰り返すか、(2)非選択面を消去するかという画面表示の差は能率に影響しないが、対象者は非選択面が消去される仕様を好んでいる。2分割条件での入力は10分間に25文字程度で安定しており、誤った入力が起こった後の処理も容易なことから、対象者は従来の走査選択方式のシステムよりも、この分割選択方式のシステムを利用することが適当と考えられる。ただし2分割条件と4分割条件のどちらが能率的であるか、および画面表示をどのように設定するかは、対象者の障害による個別的な問題と考えられ、機器の適用には事前・事後のアセスメントが重要になる。
  • 我妻 伸也, 菅井 邦明
    原稿種別: 本文
    1994 年 31 巻 5 号 p. 121-126
    発行日: 1994/03/31
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    本研究は重度精神遅滞中学生に対し、歌遊び学習を実施した3年間の経過報告である。指導者は、歌遊びの動作表現の動作、歌の音声、歌詞の文字を対象児が受信しやすい条件で提示した。歌遊びは「おなかをポンポン」を使用した。その結果1年めには、指導者を見続け、動作の順序ができた。2年めには、歌が数曲に増えた。3年めには、歌の速度を聞き分け動作発信できた。また3年間の文字学習で3年めには歌詞の一部の文字に動作発信できた。歌うことは、歌の一部に発声が見られた。3年間外界の状況に対する行動調整機能を高めるため全身運動も行なった。その際対象児の体や感覚の使い方を分析しながら行なった。音楽活動を言語行動の高次化の観点から整理し、指導に役立てることは、有意義であると考えられた。
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