特殊教育学研究
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33 巻, 5 号
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  • 岩井 健次
    原稿種別: 本文
    1996 年 33 巻 5 号 p. 1-6
    発行日: 1996/03/30
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    入院生活を送る筋ジストロフィー患者の病気に対する自覚の過程と、それに伴う心理を患児自身が著した文集に基づいて分析した。その結果、以下のような自覚の過程がみられた。小学部の児童は、自己の病気を足の病気として捉え、手術や訓練によって治るものと期待している。そして、入院生活を治療のための一時的な生活として捉えている。そのため退院できなかった時に、失望や怒りを示す時期がみられた。中学部の生徒では、病気を進行するものと気づくようになっており、入院生活を長期の生活の場として捉えるようになっている。そして、高等部の生徒は、病気の進行を実感するようになっている。そこで、病気の自覚に伴う心理的変化に対する援助の視点を、早期治癒、退院を期待する時期、失望や怒りを示す時期、進行に気づく時期、進行を実感する時期とに分け考察した。
  • 境 博義, 杉山 雅彦
    原稿種別: 本文
    1996 年 33 巻 5 号 p. 7-13
    発行日: 1996/03/30
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    発達障害児の指導では、児童のみでなく児童をとりまく環境に関しても働きかける必要があるといわれている。本研究では、通所施設において、児童の行動を改善するために、母子の相互作用をも含めて改善することを目標とした事例を取り上げ検討を加える。児童に対しては、行動論的立場に立った指導を行った。対人接近行動の形成と社会的対応行動の形成を目標とし、指導者が正の強化機能を持つ刺激の提示者となり、児童の好む活動の中に入り込む手続きを取った。母親に対しては、個別指導に同席し指導を観察するように要請した。また、指導後に面談を行い、家庭での児童の行動の記録に対して検討を行った。そこでは、児童の「よい」変化と母親が家庭で児童にかかわったことを取り上げ強化的対応を行った。その結果、児童への指導については、嫌悪的な刺激を可能な限り控え正の強化刺激による随伴操作に重点をおいた指導が効果的であることが示唆された。母親には、「わるい行動」として記述されていた児童の行動が「よい行動」として記述され、その行動に対してかかわりを持つようになるといった変化が生じた。また、指導場面で児童の成長を確認することと、母親が職員のかかわりをモデルとしようとすることの関連性も示唆された。
  • 齋藤 一雄
    原稿種別: 本文
    1996 年 33 巻 5 号 p. 15-20
    発行日: 1996/03/30
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    リズムを視覚的パターンで示し、さらに言葉を添えて、手拍子によって8連続のリズムパターンへの再生と同期を行わせた。これらは「音楽」の学習の中で行い、リズムパターンへの同期と再生の関係、指導法について検討した。対象児は、精神薄弱養護学校の小学部高学年の児童、ダウン症児3名、自閉的傾向の児童3名を含む11名とした。その結果、どのリズムパターンに対しても、ほぼ同様の同期と再生を示した。つまり、〓〓〓〓のリズムパターンが最もよく、ついで〓〓〓〓≧〓〓〓〓≧〓〓〓〓の順であった。同期・再生とも誤パターンは、〓が〓や〓♪、〓〓となってしまうケースが多かった。このような提示方法は、児童のリズムパターンの認知・理解を促す一助になったと考える。そして、個別に再生させリズムパターンを再確認させる、テンポを遅くして同期できたことを確認させる、そしてこれらを繰り返し積み重ねていくことが大切であることが示唆された。
  • 小林 勝年
    原稿種別: 本文
    1996 年 33 巻 5 号 p. 21-26
    発行日: 1996/03/30
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    「可逆操作の高次化における階層一段階理論」によって発達年齢2歳前半の2次元形成萌芽期と位置づけられた成人知的障害者(30歳)について過去12年間にわたる指導記録における特徴的なエピソードを類型化することによって、以下6つの労働特性が導き出された。(1)作業行動の中断、(2)作業課題を理解することの困難さ、(3)作業集団における自己中心的対人関与、(4)手の操作から道具の操作への中間的段階、(5)作業成果に対する自己評価の未熟さ、(6)労働活動における直接的動機づけ。このような労働に即した発達特性を生む要因として、この発達段階では反応が固定化しやすく労働活動を営むうえでの基本要素である「目標」、「方法」、「成果」という3要素が混在化した「過程的行為」に向かう傾向にあることが指摘された。したがって、上記の3要素が円滑に連関されるのを援助していくことが労働保障における前提と考えられた。
  • 堅田 利明
    原稿種別: 本文
    1996 年 33 巻 5 号 p. 27-32
    発行日: 1996/03/30
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    本論文では、介助者への実技指導に重点をおいた摂食指導の方法について述べ、ある発達遅滞児の機能獲得までの経過を通して、指導の効果とその要因を検討した。指導は3歳から4歳7ヵ月までの1年7ヵ月間行った。対象児の口腔・摂食機能評価と、介助者に対して行った食事環境評価については、それぞれ作成した評価表を用いた。結果は、摂食機能の向上、よだれの著しい減少を得た。また、介助者に知識や技術を習得させる際に、実技指導を中心に行ったことで、日々の食事介助ですぐに活用されやすく、機能発達促進の一助となった。食事環境の指導では、単に知識や技術の提供に終始しがちになる点に注意する必要がある。生活の中で食事が、親子にとってどのような役割や意義を持ち得るかといった質的な側面への働きかけが重要であり、介助者の意識改革を促していくことの必要性が示唆された。
  • 渡部 信一
    原稿種別: 本文
    1996 年 33 巻 5 号 p. 33-39
    発行日: 1996/03/30
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    今回筆者は、それまで全く指導を受けたことのなかった「指書」をコミュニケーション手段として突然使い始めたひとりの音声言語を持たない自閉症児を経験した。本事例は幼児期から文字に対しては著しい興味を示し、「指書」出現以前にも単語(ひらがな、カタカナ)の書字はある程度可能であったが、それをコミュニケーションに用いることは全くなかった。初めて「指書」が出現してから3ヵ月後には30単語、6ヵ月には100単語以上が観察され、その後も2単語の連続や品詞の拡大(形容詞、動詞、助詞、感情語)などの発展が認められた。従来、自閉症児に対し音声言語以外のコミュニケーション手段を意図的・系統的に指導した報告は多数あるが、本事例では事例自らが「指書」という新たなコミュニケーション手段を使い始めたという点で従来の研究とは異なった意味を持つと考える。
  • 関戸 英紀
    原稿種別: 本文
    1996 年 33 巻 5 号 p. 41-47
    発行日: 1996/03/30
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    電話の使用をスクリプトに組み込んで指導することによって、その応答の獲得が促進されるのではないかと考えた。また、獲得したスクリプトを累積的に発展させることによって、より高次の行動や新たな行動の獲得が可能になるであろうと考えた。そこで、16歳の自閉症男児に対して、「おかわり」、「報告」、「応答」の三つのルーティンのスクリプトを用いて約5ヵ月間指導した結果、校内電話をかける、自宅の電話をかける・受ける技能の獲得が可能になった。以上のことからスクリプトを利用したことによって、文脈の理解に対する認知的な負荷が軽減され、またスクリプトにおいて電話の使用が手順の一部になっていたために対象児は言語に注意を集中することができ、その結果応答の獲得が促進されたこと、スクリプトの行動手順を遂行していくなかで対象児なりにその意味の生成がなされ、その過程は語用論上の誠実性原則に反するものではなかったことが検討された。
  • 仲矢 明孝
    原稿種別: 本文
    1996 年 33 巻 5 号 p. 49-56
    発行日: 1996/03/30
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    有意味語未獲得の小学部1年精神遅滞児に対して、コミュニケーション技能の高次化を目的とし、抽出による養護・訓練の指導を2年間行った。発声・発語意欲の促進、及び相互作用の持続・発展を意図した対人的遊びと平仮名文字に関する学習の中から、3つの課題を取り上げ、指導経過の検討を行った。対人的遊び『ままごと遊び』では、音節数や母音の正しい音声表現が数多く出現するとともに、コミュニケーションの自発性、持続性が増した。平仮名文字学習『音節分解・抽出活動』では、刺激語の音節数と同じ数の積み木を並べる課題の中で、自発発声・発語が出現し、正反応率の増加に伴い、その頻度も増加した。このように、場面設定による実際の活動の中で行う指導や音節分解・抽出活動による指導の有効性が示唆された。一方、対人的遊び『的当て遊び』では、使用語彙や必然性等、場面設定上のいくつかの問題点もみられた。
  • 山田 優一郎
    原稿種別: 本文
    1996 年 33 巻 5 号 p. 57-64
    発行日: 1996/03/30
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    わが国において比較的早くに設置された知的障害養護学校高等部2校の卒業生を対象に卒業時に就労した人たちの追跡調査を壮年期まで延長し、労働力移動の実態を明らかにした。また、官庁統計を分析し、就労した知的障害者の一般就労の収束年齢を推定した。結果、壮年期の入口(30歳)において就労継続群と保護就労などへの移動群は、50%前後で拮抗する様相になることが明らかとなった。そして、30〜40歳間では比較的移動の少ない安定した時期となるが、それも束の間、40代には第2の移動の波があり、多くの人たちが40代後半までに、一般就労の収束年齢を迎えていることが推定された。これらの結果から導かれる高等部教育の実践課題について若干の検討を行った。
  • 石川 由美子, 〓田 征子
    原稿種別: 本文
    1996 年 33 巻 5 号 p. 65-71
    発行日: 1996/03/30
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    話しことばをほとんど自発的に使用しない14歳の自閉傾向生徒に「お茶の時間」場面を設定し、その文脈の行為連鎖を利用して「対格+述語動詞」の二文節文を習得させるために、学校と家庭で指導した。その結果、学校と家庭で、行為連鎖に沿った二文節文が自発され、課題場面以外での使用、課題で使用しなかった二文節文も出現した。このことから、二文節文習得における文脈利用の過程について論じた。家族の対象児に対する言語的なかかわり方が変化するとともに、母親は指導と対象児の行動変化との因果関係を理解し、自発的に次の指導目標を設定した。親の希望を取り入れ、家庭で導入しやすい課題を学校と家庭で実施することによって、指導の目標・内容・方法を共有することが可能になり、指導の社会的妥当性が認められた。
  • 平 理恵, 若松 昭彦
    原稿種別: 本文
    1996 年 33 巻 5 号 p. 73-78
    発行日: 1996/03/30
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    終日にわたり様々な常同行動を行うため、施設の職員からかかわりにくいと評価されている重度精神遅滞を持つ一人の子どもに対して、周りとの関係の中で何らかの意味を持ち得るような常同行動もあると考え、日常生活の中でより円滑なかかわりが可能となるアプローチの探求を試みた。かかわりにくさの主因であると同時に、周りからの影響を受ける常同行動を対象にして、それが行われる状況別に、子どもの行動や筆者の働きかけによる変化を検討した。その結果、状況によっては、常同行動を子どもの状態を表す一種のサインとして読み取り、それに応じたかかわり方を導くことができた。また、周りとの関係の中で意味を見出せない場合でも、かかわり方の工夫によって、より適切な対応が可能となった。職員に対するこれらの伝達は、今後の課題として残されたものの、常同行動を含めた子どもの行動全般を詳細にとらえることの重要性が改めて示唆された。
  • 宮崎 真, 岡田 佳世美, 水村 和子
    原稿種別: 本文
    1996 年 33 巻 5 号 p. 79-85
    発行日: 1996/03/30
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は、重度精神遅滞女児(CA9:0,MA1:8,IQ19)に、ごっこ遊びルーティンを指導する中で形成した発話行動が同じテーマの遊びに般化するか検討することであった。集団は精神遅滞児4名(自閉児1名を含む)から構成された。ごっこ遊びのストーリーは役決め、買い物、食事の3場面から成った。各対象児は、お店屋さん役か子ども役いずれかを分担し、ストーリーに沿ってコミュニケーション行動やその他の行動から成る行動の系列を遂行するように指導された。対象児が行動すべき時に無反応であった場合、プロンプターは示唆、指示、示範いずれかの援助を行った。指導の結果、全行動の平均遂行率は向上し、数語を獲得した。また、指導したコミュニケーション行動とその他の行動は、他の買い物ごっこルーティンに般化した。
  • 渡辺 明広
    原稿種別: 本文
    1996 年 33 巻 5 号 p. 87-93
    発行日: 1996/03/30
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    知的障害者のサービス業など対人関係業務への職域関発を進めるために、養護学校高等部生徒の行った老人福祉関係施設(デイサービスセンター,特別養護老人ホーム)での介護の内容を中心とした現場実習の遂行の状況(職業能力)を把握し、本人の側の要因を中心に、「有資格の障害者」(介護職に就くための要件)を検討し、さらに、就職への移行にあたっての課題を考察した。施設職員からの聞き取りを中心とした評価は、<スーパービジョン><チームワーク>が重要視されている。就職への移行には、<仕事の成績>を向上させることが必要であろう。対象生徒の行った実習を通して、介護職を担う上での課題と必要な支援の一端が明らかになった。
  • 古屋 義博
    原稿種別: 本文
    1996 年 33 巻 5 号 p. 95-102
    発行日: 1996/03/30
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    訪問教育について検討する際には、制度的な問題と子どもへのかかわりの方法を同時的に検討していかなければならない。子どもへのかかわりの方法において、実践の報告は確かに多いものの、より理論的な研究の蓄積がまだ不十分である。古屋・林(1995)は学習指導要領と関連させながら、「健康の促進」と「生活の充実」を指導目標の基本と位置づけ、1名の生徒に訪問教育を行い、検討した。古屋・林(1995)が示した「健康の促進」と「生活の充実」を指導目標の基本にして、1名の児童に訪問教育を行った。その結果、2年間で確かな発達を認め、訪問教育において、この2つの指導目標を手がかりとして実践することの有効性を明らかにした。更に、この2つの指導目標を設定するだけでは網羅できない点や家族との連携のあり方など、訪問教育を行うにあたって今後更に検討すべき点を明らかにした。
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