特殊教育学研究
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36 巻, 2 号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
  • 海老沢 穣, 〓田 征子
    原稿種別: 本文
    1998 年 36 巻 2 号 p. 1-10
    発行日: 1998/09/30
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    本研究は、5歳後半の健常児と精神年齢がそれに相当する知的障害小学生各15名を対象にして、課題要求に合った方略使用とルート作成・実行を必要とする複合課題の解決場面を設定し、成人の働きかけを導入することによって、その効果を検討すると共に、知的障害児の課題解決における特徴を、健常児との比較により明らかにすることを目的とした。実験者の漸次的働きかけは、課題解決を改善した。両群とも複合課題における解決行動はまだ不安定であり、自発的な表象変換の不安定さが要因として考えられた。知的障害児では健常児に比べて、ルート作成・実行が促進されず、妨害刺激に影響され易かったことから、作業記憶、行動制御の問題として解釈された。これらの特徴は、課題の難易度との関連で考察された。
  • 川崎 億子, 草薙 進郎
    原稿種別: 本文
    1998 年 36 巻 2 号 p. 11-19
    発行日: 1998/09/30
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    トータル・コミュニケーションの理念に則り、手話を導入し「聴覚手話法」で指導を行なっているA聾学校幼稚部のコミュニケーション方法を取り上げ、幼児の発話を分析することで、幼児たちの活用しているコミュニケーション手段の実際を明らかにしようとした。分析の結果、(1)幼児たちは、自分の活用できるあらゆる手段を組み合わせてコミュニケーションを行なっていた。(2)1発話の構成要素が年齢に伴って増加するとともに、そこで用いられるコミュニケーション手段も動作を中心とした前言語的手段から、音声語・指文字・手話を中心とした言語的手段へと変わり、コミュニケーションの発達の順序性が明らかになった。(3)発話の機能の面では、年齢に伴って他者とのやり取りに関わると思われる機能が増えることが分かった。(4)音声語と指文字・手話が同時に使用されるなど、手段が複合化して用いられることが分かった。
  • 小田 浩伸, 藤田 継道, 井上 雅彦
    原稿種別: 本文
    1998 年 36 巻 2 号 p. 21-31
    発行日: 1998/09/30
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    本研究では、音声表出言語が全くなく、かつ、音声理解言語が殆どない重度知的障害青年4名を対象に、2つのコミュニケーション機能(マンドvsタクト)と2つのコミュニケーションモード(受容vs表出)および2つのシンボル(写真vs身振り)から成る8課題について、獲得の早さと般化・維持の容易さが条件交替デザインによって比較された。その結果、4名全員が写真と身振りを用いたマンドの受容の2課題を除く6課題を獲得した。また、6課題の中では4名全員に共通して「写真によるタクトの受容」課題の獲得・般化・維持が最も容易であり、「身振りによるタクトの表出」課題の獲得・般化・維持が最も困難であった。シンボルが写真・身振りのいずれの場合でも、全対象児にとってマンドはタクトよりも表出モードでは獲得・般化・維持が容易であった。どちらのシンボルの場合でも、全対象児にとって、タクトでは受容モードの方が表出モードよりも獲得・般化・維持が容易であった。またシンボルは、全対象児にとって写真の方が身振りよりも獲得・般化・維持が容易であった。これらの結果から、音声理解言語も表出言語も乏しい重度知的障害児にとっては、実物と類縁性の高い写真や写像性の高い身振りをコミュニケーションの媒体とし、その産出が簡単なポインティングや身振りの獲得を目指した指導の有効性が示唆された。
  • 澤 隆史, 吉野 公喜
    原稿種別: 本文
    1998 年 36 巻 2 号 p. 33-41
    発行日: 1998/09/30
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    160名の聴覚障害児を対象に隠喩文の理解課題を、45名の大学生を対象に隠喩文の心理的印象評定課題を行い、聴覚障害児における隠喩文の理解困難度と比喩の修辞性との関連を検討した。評定値に基づく因子分析の結果、隠喩文の修辞性に関与する因子として、「慣用性」、「知的洗練性」、「愉快性」の3つを抽出した。各隠喩文の困難度と修辞性との関連を分析した結果、聴覚障害児にとって理解が容易な隠喩文は「慣用性」、「愉快性」が高いこと、理解が困難な隠喩文は「知的洗練性」が高いことが示唆された。また、聴覚障害児を隠喩文理解の良好な群と困難な群に分け、両群における隠喩文の困難度と修辞性との関連を分析した。その結果、隠喩文の理解が良好な子どもにとっては、文の「知的洗練性」と「愉快性」が、理解が困難な子どもにとっては「慣用性」がそれぞれ理解に影響を及ぼすことが示された。以上の結果から、聴覚障害児の隠喩文理解における修辞性の影響が示唆された。
  • 磯貝 順子, 佐藤 進, 小池 敏英, 堅田 明義
    原稿種別: 本文
    1998 年 36 巻 2 号 p. 43-52
    発行日: 1998/09/30
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    表出言語を持たない重度精神遅滞児との相互交渉を促進する方法のひとつとして、指導者の行動解読能力を高めることが考えられる。本研究では、このような意図で指導者教育プログラムを試作し、障害児教育未経験者である学生を対象に検討した。訓練群には、訓練用ビデオに対して「状況情報」、「一般的な行動情報」、「対象児の情報」を与え、訓練プログラムを実施した。また、その有効性をみるために訓練前後(1,2年次末)に判断用ビデオを見せて、判断を求めた。その結果、要求行動場面は2年次の方が判断の一致率が有意に高く、非要求行動場面では4秒呈示の判断の一致率が有意に低かった。また、訓練によって短時間の判断が高まること、要求行動として判断する傾向が強まることが示唆された。但し、判断用ビデオの被写体が共通だったため、学習効果も懸念された。そのため、被写体を変えて再度検討したところ、先の内容を支持する結果となった。
  • 花田 日登美, 大[ズル] 香
    原稿種別: 本文
    1998 年 36 巻 2 号 p. 53-61
    発行日: 1998/09/30
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    従来、極低出生体重児の知的発達に関しては、出生体重別にその特徴が示されてきた。本研究の目的は、極低出生体重児の検査時の行動特徴と知能検査結果との関係性について検討することである。現在6歳で、学齢前の極低出生体重児36名に対しWISC-R知能検査を行い、母親に対して、対象児の日常生活における行動について面接した。その結果、出生体重別の比較ではIQに差がみられなかったが、検査態度による比較では、検査態度問題あり群が問題なし群よりもIQが低いということ、また、「知識」「類似」「単語」「絵画配列」「組合せ」の下位項目で、検査態度問題あり群が問題なし群よりも評価点が低いということが示された。さらに、検査中の対象児の行動特徴は母親面接で語られた日常生活での行動と一致した。これらの結果より、極低出生体重児のフォローを考えていく場合、出生体重という側面からだけでなく、彼らが示す行動特徴という側面からも、知的発達を考えていくことの必要性が示唆された。
  • 小笠原 恵
    原稿種別: 本文
    1998 年 36 巻 2 号 p. 63-72
    発行日: 1998/09/30
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    本研究では2名の発達障害児に遅延強制モデル法を用いて要求行動を形成した。遅延強制モデル法は、子どもが要求事態から離脱しないような要求場面を設定して、子どもの何らかの反応の自発出現を強制するために、モデルを反復し遅延提示する手続きと定義する。その結果、2名とも自発的な要求行動が出現し、設定した要求事態とこの手続きの有効性が示された。また、2名それぞれの子どもがあらかじめ有していた反応が自発出現し、標的行動との機能等価性が示されたが、その出現の変容過程はそれぞれ異なっていた。自発出現した行動は、ある決まった強化刺激のクラスを生み出すように、要求媒介者に対して要求を伝達しようとするクラス内反応と、要求の機能は持つがある決まった強化刺激のクラスは生み出すことがなく、要求媒介者に伝達されないクラス外反応に分かれた。本研究の結果より、機能等価性はクラス内反応に対して促進の効果を、クラス外反応に対して抑制の効果を持つことが示唆された。
  • 大竹 一成
    原稿種別: 本文
    1998 年 36 巻 2 号 p. 73-80
    発行日: 1998/09/30
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    本研究は、聾学校高等部普通科と専攻科に在籍する生徒114名を対象に、生徒の補聴に関する意識を調査した。調査は、個人補聴器の装用、効果、補聴器装用時の音や音声に対する感覚、教師に対する補聴上の要望、集団補聴システムの5項目に大別される。調査結果から、93.0%の生徒が補聴器を装用しており、学校では、運動時以外は約80%の生徒が常時補聴器を装用していることがわかった。また、静かなところでは、相手が、聴覚障害者なら47.2%、健聴者なら71.7%の生徒が補聴器を装用したほうが話しやすいと答えている。補聴器を通した音や音声に対しては、聴覚活用の度合いが高まっている生徒が増え、音や音声に敏感になっている場合の多いことが示唆された。これらの結果から、我々教師が、授業において補聴の面で配慮すべきことが多いことが改めて確認された。集団補聴システムについての調査では、ループ式集団補聴システムの問題点が浮き彫りにされた。
  • 古田 弘子, 吉野 公喜
    原稿種別: 本文
    1998 年 36 巻 2 号 p. 81-88
    発行日: 1998/09/30
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    本研究は、発展途上国における子どもの聴覚障害の現状を明らかにし、この問題に対応する上での基本的な視座を示すことを目的とした文献研究である。本研究から、以下のことが明らかになった。(1)発展途上国における子どもの聴覚障害の主要な原因は中耳炎とその後遺症である。(2)コストイフェクティブであることを重視した障害の予防が求められる。特に予防接種はコストイフェクティブである。(3)プライマリ・ヘルスケア活動の中で耳の公衆衛生を確立していく必要がある。(4)補聴器についてはより単純なものにする必要があり、技術者の養成が急務である。(5)耳鼻科医よりもオージオロジカルアシスタントの養成が急がれる。(6)先進諸国とは異なる、適正検査・評価法を開発する必要がある。(7)国際協力を実施する上で地域のニーズを最優先し、「頭脳流出」等発展途上国特有の問題に配慮する必要がある。
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