特殊教育学研究
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41 巻, 3 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
  • 林田 真志, 加藤 靖佳
    原稿種別: 本文
    2003 年 41 巻 3 号 p. 287-296
    発行日: 2003/09/30
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    タッピング反応を指標として、聴覚障害児・者のリズム知覚・表出能力を検討した。リズムパターンを聴覚、視覚、または両モダリティに同時に呈示し、リズムパターンに含まれる個々の刺激へのタッピング反応を測定した。課題で用いたリズムパターンは、個々の刺激の持続時間とオンセット間隔が一定の単調拍子のパターン(課題1)と、個々の刺激の持続時間とオンセット間隔が異なる4種のパターン(課題2)であった。課題1ではタッピング反応の正確さと安定性は呈示条件間で異ならなかったが、課題2では呈示条件間でタッピング反応の正確さと安定性に差がみられた。連続的なタッピングによるリズムパターン全体への同期では、リズムパターンを聴覚と視覚に同時呈示する条件で、同期までに要する時間が最短となった。この結果から、聴覚障害児・者による複雑なリズムの知覚・表出では、聴覚刺激と視覚刺激を併用することが有効になると考えられた。
  • 山崎 理央
    原稿種別: 本文
    2003 年 41 巻 3 号 p. 297-305
    発行日: 2003/09/30
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    成人期まで持続した吃音は、慢性化し完全な改善が見込めないといわれる。本研究では、7名の成人吃音者を対象に行った面接調査から、吃音の受容過程について検討した。対象者はいずれも吃音者のセルフ・ヘルプ・グループに参加するメンバーであり、面接調査では生育歴の時間軸にそって、吃音の状態や吃音に対する意識、吃音に関連した行動について質問した。吃音の自覚と悩みの始まりは同時期ではなく、その後の体験の積み重ねを通して、吃音に対する価値観や吃音をもつ自己像が変化していった。また、吃音場面のたびに感情の揺れが振り子状に生じ、これは受容が進んでも揺れの幅を縮めながら存在した。対象者の参加するセルフ・ヘルプ・グループでの活動は、吃音の受容を促す社会参加の機会として働いていることが考えられた。
  • 武田 鉄郎, 篁 倫子, 原 仁, 山本 昌邦
    原稿種別: 本文
    2003 年 41 巻 3 号 p. 307-315
    発行日: 2003/09/30
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    本調査の目的は、病弱養護学校高等部在籍生徒の実態と職業教育の実施状況、進路指導上の課題を把握することであった。対象校は全国の病弱養護学校高等部設置校46校(平成10年度)で、1009人の生徒がその対象となった。疾患別人数としては、筋ジストロフィーなど神経系疾患422人(41.8%)、心身症など行動障害238人(23.6%)、二分脊椎など先天性疾患97人(9.6%)、喘息など呼吸器系疾患60人(5.9%)、腎炎など腎臓疾患49人(4.9%)であった。高等学校普通科課程に準じる各教科・科目に、職業に関する各教科・科目、例えば家庭、商業、工業を併設する形で教育課程を編成している養護学校は38校(84.4%)、実際に職業教育に関する各教科・科目を履修した生徒は402人(39.8%)であった。また、就業体験を実施した学校は30校(66.7%)で、就業体験をした生徒は177人(17.5%)であった。最後に、卒業生の疾患の種類等の実態を踏まえ、病弱養護学校高等部での進路指導や職業教育について考察した。
  • 田中 道治
    原稿種別: 本文
    2003 年 41 巻 3 号 p. 317-323
    発行日: 2003/09/30
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    課題達成場面で精神遅滞児(者)は多種多様な動機づけ特性を表すことが知られている。そのなかから外的指向性およびその発達に注目する。精神遅滞児(者)は健常児と同じように外的指向行動から内的指向行動へと発達的に変化するのであろうか。被験対象者は3MA水準(5歳代、8歳代、9歳代)に区分される。三者択一の大きさ弁別学習事態で2つの負刺激のうち1つにランダムにランプが各試行前点減される。最大許容試行数は50であり、そのうちで7連続正反応を課題基準達成とする。その結果、手がかり誤反応数および手がかり誤反応率ともに、健常児群が全体として低く、発達の上昇に伴って減少させたのに対して、精神遅滞児群は低MAレベルから中MAレベルにかけて減少の傾向を示すものの、高MAレベルで最大の誤反応数(率)を示した。これは発達に伴う広範囲な失敗経験による外的指向性の増大であると考察された。
  • 長南 浩人
    原稿種別: 本文
    2003 年 41 巻 3 号 p. 325-334
    発行日: 2003/09/30
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    本研究は、聾学校高等部生徒20人を対象として手話を使用した日本語の語彙(名詞、形容詞、形容動詞、動詞、副詞)指導を行い、その効果を学習者の属性との関連において検討したものである。指導条件には、文字・音声条件という従来の口話法に該当する方法と、手話条件という2つの条件が設定された。指導の後、事後テストを実施した。その結果、成績の特徴から学習者を4つのグループに分類できることがわかった。4つのグループとは、手話条件においてのみ事後テストの得点に向上がみられたグループと、両条件とも得点が高かったグループ、文字・音声条件においてのみ得点が高かったグループ、両条件においても、得点が低かったグループである。また手話表現能力が高い者に手話の使用が有効であった。さらに手話を利用することは、活用しない語と活用する語の語幹の学習を促進することがわかった。
  • 我妻 敏博
    原稿種別: 本文
    2003 年 41 巻 3 号 p. 335-343
    発行日: 2003/09/30
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    在米日本人障害児の教育的環境とその保護者の状況を調べるため、保護者を対象にアンケート調査を実施し、71通の有効回答を得た。調査の結果、以下のことがわかった。(1)在米日本人障害児の多くは現地の特殊学級、養護学校、通常学級で教育を受けているが、その中でも現地の特殊学級に在籍している子どもが最も多い。(2)多くの専門家による診断や指導およびさまざまなサービスが受けられるなど、現地の教育に満足している保護者が多い。(3)保護者は現地の専門家や教育関係者との英語でのコミュニケーションに困難を感じており、日本語による情報の提供を必要としている。(4)渡米前から帰国後まで、一貫した支援を提供してくれる日本人による専門機関の設置が多くの保護者から要望されている。
  • 肥後 祥治
    原稿種別: 本文
    2003 年 41 巻 3 号 p. 345-355
    発行日: 2003/09/30
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    地域社会に根ざしたリハビリテーション(community-based rehabilitation; CBR)は、その発展過程や実施されている地域の偏り等から、途上国におけるリハビリテーションの方法論のひとつであるといった理解が一般的である。本稿の目的は、CBRを「障害者へのサービス提供の一形態としてのCBR」と「障害者へのサービス提供システムの哲学(考え方)としてのCBR」の2つの側面をもつ概念であると規定し、1)日本におけるCBRへの誤解、2)CBRの内包するパラダイムチェンジ、3)日本の教育におけるCBRの意味、の3つの視点から日本の教育に対するCBRの意義を検討することであった。議論の過程で、わが国の教育が直面している社会資源の地域間格差、財政危機、学校で特別な支援を必要としている子どもたちの増大といった現状を考慮していくと、「障害者へのサービス提供システムの哲学(考え方)」の側面を明確に位置づけたCBRは、これらの問題に切り込んでいく上で重要な役割を果たす可能性が高いことが示唆された。また、今後CBRをわが国の教育システムに取り入れることを検討する場合は、現在のサービス提供システムの背景にある哲学とのくい違いを解決し、専門家養成のための新たなプログラム開発などのこれに付随した課題に対応する必要に迫られることが予測される。
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