特殊教育学研究
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49 巻, 2 号
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原著
  • ―漢字単語の属性効果に基づく検討―
    熊澤 綾, 後藤 隆章, 雲井 未歓, 小池 敏英
    2011 年 49 巻 2 号 p. 117-126
    発行日: 2011年
    公開日: 2013/08/20
    ジャーナル フリー
    本研究は、32名のLD児と285名の健常児を対象とし、ひらがな文の読み困難をともなうLD児の漢字単語の読み特性を検討した。LD児は、ひらがな文の読み困難をともなうLD児(RD児)18名と、ひらがな文の読み困難をともなわないLD児(NRD児)14名に分類された。ロジスティック回帰分析を用いて、漢字単語の読みの単語属性効果を検討した。心像性効果ないしは親密度効果があった13名のRD児と5名のNRD児は、低心像の漢字単語の読みの成績が低く、RD児は、NRD児よりさらに低かった。これらRD児とNRD児は、WISC-IIIの群指数FDの値が低く、聴覚記憶の弱さを示した。聴覚記憶の弱い子どもは、音韻ループを介しての漢字の読み学習に困難を有するので、読み学習に際して意味ルートを用い、視覚的イメージや意味を利用したため、心像性効果や親密度効果が生じたことが推測できる。RD児はNRD児と比べて漢字単語の読みの成績が低かったことから、意味ルートの機能レベルが低いことが推測された。
資料
  • 小島 道生, 吉利 宗久, 石橋 由紀子, 平賀 健太郎, 片岡 美華, 是永 かな子, 丸山 啓史, 水内 豊和
    2011 年 49 巻 2 号 p. 127-134
    発行日: 2011年
    公開日: 2013/08/20
    ジャーナル フリー
    本研究では、通常学級での特別支援教育に対する意識構造とその影響要因について明らかにするために、小・中学校の通常学級教師を対象として、調査研究を実施した。小・中学校の担任教師615名を分析対象とし、因子分析により意識構造を明らかにするとともに、影響要因との関係について分析した。その結果、質問紙から3因子が抽出され、それらは「特別支援教育に対する理解と技能」「特別支援教育に対する積極的な評価・関心と学習・研修の必要性」「通常学級での指導と保護者への対応に関する悩み」と命名された。また、影響要因との関係から、特別支援教育の経験、大学での免許習得、単位修得、通常学級における特別な教育的支援を必要とする児童生徒の担任経験によって、理解と技能、積極的な評価・関心、そして学習・研修での必要性に違いが認められた。なかでも、特別支援教育の経験と研修機会の有無は、通常学級での指導と保護者への対応に関する悩みにおいても、違いを生じていた。
  • ―乳幼児支援担当者に対する調査から―
    庄司 和史, 齋藤 佐和, 松本 末男, 原田 公人
    2011 年 49 巻 2 号 p. 135-144
    発行日: 2011年
    公開日: 2013/08/20
    ジャーナル フリー
    新生児聴覚スクリーニングの普及によって聴覚障害の早期発見が進展し、聾学校(特別支援学校)の乳幼児教育相談では、相談ケースの増加、低年齢化などの変化が起こっている。今回、実態把握を目的として全国の聾学校の乳幼児教育相談担当者を対象にアンケート調査を実施した。98%から回答があり、全国の聾学校で乳幼児支援が展開されていることが確認された。支援内容では、保護者支援が重視されており、他の専門職、成人ろう者等の支援への参加が試行されていた。また、教育相談担当者は、早期発見児に対して発達が良好であるという印象をもっていること、乳幼児期のコミュニケーション手段については、手話、音声言語、聴覚活用等の多様な手段を柔軟に活用しようと考えていることがわかった。一方、担当者の人数および経験や研修の不足、施設設備の不十分さ、他機関との連携の問題などが多く指摘され、これらは今後の重要な課題であることが示唆された。
  • ―クラスワイドな支援から個別支援へ―
    関戸 英紀, 安田 知枝子
    2011 年 49 巻 2 号 p. 145-156
    発行日: 2011年
    公開日: 2013/08/20
    ジャーナル フリー
    授業中離席をする・板書をノートに写さない等の問題行動を示す児童が5名在籍している、小学校4年の通常学級に対して、当該の児童の授業参加行動の改善を目指して、できるだけ担任に負担をかけない方法で介入を行った。まず、第一次介入としてクラスワイドな支援を行った。その後、第一次介入だけでは授業参加行動に改善がみられなかった1名の児童に対して、第二次介入として個別支援を行った。その結果、対象児全員の授業参加行動に改善がみられ、1.5年後も4名の対象児の授業参加行動が維持されていた。また、学級の他の児童の話の聞き方においても改善がみられた。さらに、児童と教師の双方から手続きに関しても肯定的な評価を得られた。以上のことから、本研究で用いた、クラスワイドな支援を基盤としたうえで個別支援を導入した支援方法は、担任に負担をかけることなく、複数の児童が対象であっても問題行動の改善を可能にすること、また他の児童に対しても適切な行動の増大をもたらすことなどが検討された。
  • 米持 早苗, 村中 智彦
    2011 年 49 巻 2 号 p. 157-170
    発行日: 2011年
    公開日: 2013/08/20
    ジャーナル フリー
    5名の広汎性発達障害児を対象に、小集団指導での音楽活動において、指導者の位置取りの違いが対象児の参加や離席行動、指導者の支援行動に及ぼす効果を検討した。期間は7か月で、指導者2名によるチームティーチングにより、打楽器と手遊び課題を行った。課題への参加行動の形成を目指して、補助指導者が、(1) 対象児全員に後方から個別支援する、(2) 参加困難な対象児を後方から個別支援する、(3) 参加困難な対象児を前方から個別支援する、(4) 主指導者と補助指導者が分担して対象児全員を前方から支援する、という4条件を(1)~(4)の順で実施した。その結果、2名の対象児では、(3)の対象児の前方から個別支援する条件で参加行動が高まった。指導者が前方から支援することで、動作モデルが手がかりとなり、うなずきが賞賛となることを示唆した。また、(3)の条件では、指導者が特定の対象児に個別支援することで、個別支援を受ける対象児の離席行動は低減する一方、他児では離席行動が高まった。
  • ―LH構造とHL構造との比較―
    迫野 詩乃, 伊藤 友彦
    2011 年 49 巻 2 号 p. 171-179
    発行日: 2011年
    公開日: 2013/08/20
    ジャーナル フリー
    近年、ディスレクシアは音韻障害に起因すると考えられている。したがって、ディスレクシアの早期発見のためには、音韻的側面に着目して定型発達児の仮名単語の読みの特徴を明らかにする必要があると考える。乳幼児は、産出においても知覚においても、HL(重音節+軽音節)の音節量構造をもつ語を好む傾向があることが指摘されている。本研究は、幼児の読みにおいても、HLのほうがLH(軽音節+重音節)よりも容易であるのかどうかについて検討したものである。対象は5~6歳児15名であった。音節量構造がHLとLHの2種類の刺激語を仮名文字で呈示した。本研究の結果、平均誤答数はLHに比べてHLのほうが有意に少なかった。また、平均反応潜時および平均音読時間においても、HLのほうがLHよりも有意に短かった。これらの結果は、幼児においてはLHの語に比べてHLの語の読みが容易であること、音節量構造が幼児の読みの困難さに影響を及ぼすことを示唆している。
実践研究
  • ―通園療育における事例―
    徳田 和恵
    2011 年 49 巻 2 号 p. 181-189
    発行日: 2011年
    公開日: 2013/08/20
    ジャーナル フリー
    1歳1か月時の胃食道逆流症の手術後、医学的に経口摂取に問題がないにもかかわらず経管栄養から経口摂取への移行が困難であった児(3歳2か月、以下3:2のように記す)に対して、知的障害幼児通園施設において摂食機能を考慮しながら食行動の発達支援を進めた事例を報告する。施設職員らは、母子を経口摂取困難事態のままに受け入れることから始めて、ビデオ録画や諸記録、外部の医療・保健関係者の助言・指導をもとに検討を重ねて対応していった。施設内外の関係者間で、家庭と施設における具体的な経過情報と目標を共有した。本事例における施設療育の支援とその効果を整理し、施設支援の方法について考察した。また、発達支援の対象のひとつとして、摂食機能発達を位置づけることを提案した。
  • ―仮名文字習得から漢字想起への展開事例を通して―
    堀井 利衛子
    2011 年 49 巻 2 号 p. 191-201
    発行日: 2011年
    公開日: 2013/08/20
    ジャーナル フリー
    文字習得に困難を示す児童には、自己有能感、学習意欲がともに低下し、ますます学習についていけなくなるという悪循環を抱えているものが少なくない。そこで、文字想起に困難をもち自己有能感が低下した児童1名を対象とした学習支援プログラムの構築を検討した。アセスメント、支援方略の選択、支援効果の検証と支援を循環させ、自己有能感を高める支援と的確なアセスメントに基づく学習方略の選択を並行して進めることを試みた。支援方略の選択過程を、1:自己有能感を高める状況設定、2:平仮名読み支援、3:平仮名、片仮名の形態記憶支援、4:文字想起速度の向上支援、5:漢字の形態記憶支援、の5段階で設定した。その結果、対象児の自己有能感が高まり、文字想起が促され正確な書字の量が増加した。自己有能感を向上させる状況設定と認知特性に応じた学習方略の提案とを並行させた学習支援が文字習得に困難をもつ児童に有効であることが示唆された。
  • 石津 乃宣, 井澤 信三
    2011 年 49 巻 2 号 p. 203-213
    発行日: 2011年
    公開日: 2013/08/20
    ジャーナル フリー
    知的障害特別支援学校高等部2年生の生徒に対して、高等部卒業後の社会生活で必要な社会スキルを選び、ソーシャルスキル・トレーニング(SST)を取り入れた進路学習の授業を実施し、その効果を検討した。その結果、SST尺度と就労スキル尺度の評定を事前・事後で比較すると、9カテゴリーにおいて有意に上昇し、SSTを取り入れた授業実践の有効性が示された。また、知的障害群生徒と自閉症群生徒の比較を行ったところ、知的障害群のほうが効果が上がりやすいことが示唆され、自閉症生徒へのSST実施には短く具体的な指示をするなどの配慮が必要であることが考えられた。
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