特殊教育学研究
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50 巻, 5 号
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実践研究
  • ―行動連鎖が確立した活動における教師の支援の見直しから―
    小林 久範, 平澤 紀子, 冲中 紀男, 湯本 純子, 山 久利乃, 伊佐地 薫, 脇坂 悠衣, 井川 由佳子
    2013 年 50 巻 5 号 p. 429-439
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/09/18
    ジャーナル フリー
    本研究は、特別支援学校における自閉症児への要求言語行動の指導機会について検討した。小学部2年の自閉症男子1名に対して、行動連鎖が確立した活動を抽出し、教師は対象児の要求を受けてから物を与えたり、確認を行ったりするようにかかわりを変えた。朝の準備における (1) 活動遂行時に必要な物の要求と (2) 活動終了時の確認の要求を第1の指導機会とし、それらを類似した第2、第3の機会に拡大した。指導機会間の多層ベースラインデザインにより、対象児の要求言語行動と活動の遂行の変化を検討した。その結果、当初要求の機会がなかった活動において自発的な要求言語行動が生起するようになり、活動の遂行に要した時間も短縮した。また、学校生活全般で指導した要求言語行動が拡大した。結果をもとに、行動連鎖が確立した活動における教師の支援を見直した指導機会の妥当性と課題を指摘した。
研究時評
  • ―自国の状況に適した教育の創造にむけて―
    真殿 仁美
    2013 年 50 巻 5 号 p. 441-450
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/09/18
    ジャーナル フリー
    中国の障害児教育はこれまでおもに、教育を普及させることを目的に、教育形態を多様化する等の施策により取り組まれてきた。しかし、学齢期の障害児童の約3~4割は未就学である。障害児童の義務教育の普及を図ると同時に、2003年以降インクルーシブ教育の導入を検討し始めた。2008年には国連の「障害のある人の権利に関する条約」を批准、2010年には国家の教育方針として、児童の教育を受ける権利の保障を掲げ、これまで以上に権利保障の重要性を強調するようになっている。この教育を受ける権利の保障にむけて中国は、世界のインクルーシブ教育の実効性を分析すること等を通じて、自国の状況に適した教育を創造しようとしている。障害児童の教育を受ける権利保障の実現には、“随班就読”の充実を含む教育環境の整備を図ると同時に、多様性を尊ぶ社会環境づくりが求められる。
  • 小野川 文子
    2013 年 50 巻 5 号 p. 451-461
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/09/18
    ジャーナル フリー
    本稿では、一人ひとりの子どものニーズに応じた教育、さらには家庭・地域との連携・協働が求められる特別支援教育の時代にふさわしい寄宿舎教育のあり方を展望するために、今日の寄宿舎教育研究の動向と課題を明らかにすることを目的とした。寄宿舎教育に対する国・文科省の動向は、2001年の「21世紀の特殊教育の在り方(最終報告)」において一定の教育的意義は認めていたが、明確な方向性は示されていない。設置者である都道府県では寄宿舎統廃合が進んでいる。しかし寄宿舎教育研究においては、障害児とその家族の実態や生活と発達との関係性についての実証的研究がほとんど行われていないために、特別支援教育における寄宿舎の教育的意義を十分に明らかにするまでに至っていない。多くの保護者は「多様なニーズに対応する寄宿舎」を求め、教育内容においては「子どもの自立や社会性の獲得」を求めている。家庭・地域との連携・協働が求められている特別支援教育の時代であるがゆえに、寄宿舎を子どもの生活と発達保障の場として特別支援教育に位置づけ、そのための教育条件整備を進めていく必要がある。
  • 別府 悦子
    2013 年 50 巻 5 号 p. 463-472
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/09/18
    ジャーナル フリー
    教師の精神疲労やバーンアウトが問題になっているが、児童生徒の多様な困難やニーズによって、教師が児童生徒との関係をうまく作れないことが一因ともなっている。本稿では、先行研究のレビューを通して、児童生徒の特別な教育的ニーズに対して教師が抱える指導困難を年齢段階や移行期において明らかにし、教師支援に有効なコンサルテーションの課題について検討した。その結果、幼児期や小学校低学年では、多動衝動的行動や対人トラブルによって教師が困難を抱えやすいが、高学年になるにしたがい、気づきにくい問題が顕在化したり、自尊心の低下や二次障害から生じる問題に、教師は指導困難を抱えていることが明らかになった。また、中学校では思春期の問題への対応が重要になっていた。こうした年齢段階や移行期において教師が抱える指導困難への支援を行い、教師が自己有能感をもてるようなコンサルテーションシステムの開発が課題であると示唆された。
  • 菊池 紀彦
    2013 年 50 巻 5 号 p. 473-482
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/09/18
    ジャーナル フリー
    家族とともに在宅で生活する重症心身障害児(者)が増加している。種々のサービスが拡充するなかで、主たる介護者である母親は養育上の負担を抱えていたが、その負担は、医療・福祉サービスなどの社会資源よりも、悩みなどを共有できる家族会などの社会資源を利用することにより軽減されていた。今後は、母親によき相談者がいることや、世帯員が母親と同等の介護ができるよう家庭内の支援を行う必要があることを指摘した。また、重症心身障害児(者)が在宅生活を継続して送るためには、関係機関相互の連携が求められるが、その会議に家族も参加し中心的な役割を果たすことの重要性を明らかにした。一方で、重症心身障害児(者)本人の医療依存度が高いという問題や、家族の健康状態の問題により、施設入所を選択せざるをえない場合もある。そうした人たちに対する地域生活支援の報告はきわめて少なく、今後の研究課題であることを指摘した。
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