特殊教育学研究
Online ISSN : 2186-5132
Print ISSN : 0387-3374
ISSN-L : 0387-3374
52 巻, 2 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
原著
  • 伊藤 恵子, 大嶋 百合子
    2014 年 52 巻 2 号 p. 75-84
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/11/19
    ジャーナル フリー
    日本の自閉症スペクトラム障害(ASD)児が、Du Bois(1987)の「好みの項構造」の談話・語用論的制約に対する感受性を有するか否かを検討した。言語発達段階で統制したASD児と定型発達(TD)児各2名における動詞の項の省略と語彙化、および非言語情報に関して分析を行った。その結果、「好みの項構造」の制約と一致した言語パターンがみられ、ASD児が言語においては、情報を提供する構造や談話の語用論的な制約に対する感受性をTD児と同様に有するということが示唆された。このことは、「普通の会話」や「一見正しく見える伝達行動」(大井, 2002)と見なされ、ASD児のコミュニケーションの問題を過小評価してしまう危険性もある。代名詞化に際しては、ASD児は非言語情報をTD児に比べて有意に少なく使用しており、非言語情報を対象特定のために有効に活用しないことが示唆された。ASD児のコミュニケーション能力の発達への支援を考えるうえでは、非言語情報の処理に関するさらなる検討が必要である。
資料
  • 一木 薫, 池田 彩乃, 青木 麻由美, 安藤 隆男
    2014 年 52 巻 2 号 p. 85-95
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/11/19
    ジャーナル フリー
    本研究では、特別支援学校(肢体不自由)の卒業生の生活の実態と保護者の学校教育に対する評価に基づき、在学時の自立活動を主として指導する教育課程における実践の成果と課題を明らかにすることを目的とした。卒業生の多くがデイサービスを利用しながら在宅生活を送る中、保護者の加齢に伴い姿勢変換の機会が制限され、在学中に習得した姿勢保持能力や周囲への関心を低下させる事例の実態も明らかになった。保護者は、在学中の身体の動きに関する指導について、わが子が主体的に学習に取り組み目標を達成したプロセスと成果を評価した一方で、卒業後の生活を見据えた指導が不十分であったことを指摘した。学校教育の成果としては、外界への関心の向上や人と関わる力を評価したが、それらに関する在学中の指導やわが子の成長のプロセスについて言及することはなかった。
展望
  • 片桐 正敏
    2014 年 52 巻 2 号 p. 97-106
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/11/19
    ジャーナル フリー
    自閉症スペクトラム障害(autism spectrum disorder, ASD)の知覚・認知特性の中には、定型発達者よりも優れるものも存在する。特にASDのある人がもつ細部への注意処理、部分処理特性は、対人相互交渉では不利に働く可能性がある一方で、膨大な視覚情報の入力を管理し、調整する適応メカニズムともいえる。本論では、ASDの部分処理特性について、最新の研究動向も踏まえてどのような議論が行われているかを概観し、部分処理特性の代償的側面と療育や支援の方向性について論じた。ASDにみられる部分処理特性は全体処理とは独立したメカニズムであるという近年の知見から、部分処理特性を伸ばすことは社会性を損なうことにはつながらず、むしろ部分処理の適応的側面にも注目すべきであることが示唆された。加えて、部分から全体への切り替えの問題に対処することが支援において重要であり、ひとつの方法として模倣を用いた療育の可能性を示した。
実践研究
  • 久保 雅敬, 石倉 健二
    2014 年 52 巻 2 号 p. 107-114
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/11/19
    ジャーナル フリー
    交通事故による頭部外傷後遺症者に対し、5泊6日の心理リハビリテイションキャンプで動作法を実施した。トレーニーは運動障害と感覚障害があり、他者に対する衝動的な行動もみられた。立位やひざ立ちでの踏みしめ課題を行う中で、自分の身体をコントロールできる実感を得ることができるようになった。そして、背中や腰がスムーズに動かせるようになり、立位姿勢も安定してきた。それとともに、課題への集中が持続するようになり、衝動的な行動が減少し始めた。これは自分の身体に注意を向けることができるということが、自分自身の衝動性への気づきに寄与しているためと考察された。
  • 岡本 邦広, 井澤 信三
    2014 年 52 巻 2 号 p. 115-125
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/11/19
    ジャーナル フリー
    本研究では、行動問題を示す発達障害児をもつ母親と教師の協議ツール(岡本・井澤, 2013)を用いた協働的アプローチを行い、特別支援学校小学部6年生に在籍する発達障害児の行動問題の低減と家庭文脈に適合した支援の提供が可能か否かの検討を第一の目的とした。また、家庭文脈に適合した支援を提供した後、協働的アプローチを終了し、行動問題に関する記録のみ、あるいは記録なしでも支援行動が維持されるか否かの検討を第二の目的とした。その結果、「着替え」が協議ツール(1)により選定され、支援手続きが協議ツール(2)~(4)により決定された。また、母親が支援を行った結果、「着替え」は短時間で完了し、家庭文脈に適合した支援を提供できた。さらに、協働的アプローチ終了後、記録の有無の条件にかかわらず、母親による支援行動は維持された。結果から、協議ツールが家庭文脈に適合した支援に寄与したこと、家庭文脈に適合した支援や教師とのやりとりにより母親の支援行動が維持されたことが示唆された。
  • 岡 綾子, 望月 昭
    2014 年 52 巻 2 号 p. 127-137
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/11/19
    ジャーナル フリー
    コミュニケーション障害、発達障害のある生徒を対象に、コミュニケーション行動の指導を実施した。研究1では、日常生活場面においてデジタルカメラで写真を撮影し、それを聞き手に見せるコミュニケーション行動(以下、撮影回覧言語行動)の指導を行い、対象生徒の自発的な撮影回覧言語行動の形成によるコミュニケーション・モードの拡大の検証を行った。研究2では構造化された場面において指導を行い、コミュニケーション・モード拡大のパターンの検証を行った。その結果、対象生徒の撮影回覧言語行動が形成され、指導終了後も維持された。また、対象生徒のコミュニケーション行動に撮影回覧言語行動が含まれる場合には、含まれない場合よりもコミュニケーション・モード数、言語行動の数が増えるようになった。対象生徒の撮影回覧言語行動が自身の既知・未知の選択のみならず、聞き手によって強化されるコミュニケーション・モードの拡大が認められた。
feedback
Top