特殊教育学研究
Online ISSN : 2186-5132
Print ISSN : 0387-3374
ISSN-L : 0387-3374
53 巻, 3 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
原著
  • 堀田 千絵
    2015 年 53 巻 3 号 p. 143-154
    発行日: 2015年
    公開日: 2019/02/05
    ジャーナル フリー
    本研究は、学習時の反復検索が、語彙理解に遅れのない幼児のみならず、遅れのある幼児の長期保持を高めるかどうかを検討することを目的とした。幼児30名(統制群15名、遅滞群15名)に対し、学習材料の記銘、反復検索/聴取、5分後テスト、4時間後テストを課した。その結果、以下の2点が明らかとなった。第1に、保持間隔、学習条件にかかわらず、遅滞群は統制群よりも成績は低いこと、第2に、学習中の反復検索の介入は同時間聴取しながら学習するよりも、5分後、4時間後ともに成績が高く、これは統制群、遅滞群ともに同様であったことである。これらの結果から、成人の結果と同様、語彙理解に遅れのある幼児であっても、反復検索が長期保持に強い効果をもたらすことが明らかとなった。
  • 塚本 匡, 竹内 康二
    2015 年 53 巻 3 号 p. 155-164
    発行日: 2015年
    公開日: 2019/02/05
    ジャーナル フリー
    3名の発達障害児(知的な遅れのないASD児、LD児、知的障害のあるASD児)を対象に、文章に記載された矛盾場面における他者感情の推測の方略と、それを強化する聞き手の影響について検討した。状況・表情・ことばの3つの手がかりで構成された文章のうち、同時に2つの異なる感情語を選択できる矛盾文章を参加児に提示し、登場人物の気持ちと、そのように考えた理由を尋ねた。訓練期では、手がかりの一部分に基づく反応を消去し、手がかり間の矛盾を示す言語プロンプトやモデルプロンプトによって、矛盾の統合的な理解の方略を強化した。その結果、すべての参加児は、矛盾文章に対して統合的な理解の方略を試みるようになった。正誤のフィードバックの有無に応じて、参加児の行動は鋭敏に変化したことから、矛盾場面における他者感情の推測の方略は、障害特性だけでなく、その聞き手という環境要因にも影響されることが示唆された。
資料
  • 藤川 雅人, 石井 尚美, 落合 正彦, 佐藤 貴宣, 柳沼 泰子, 藤井 和子
    2015 年 53 巻 3 号 p. 165-174
    発行日: 2015年
    公開日: 2019/02/05
    ジャーナル フリー
    本研究は、小学校の通級指導教室担当教師と通常の学級担任との連携の実態の構造について、因子分析を用いて明らかにするとともに、連携の実態と情報交換の方法との関連性を検討することを目的とした。北信越5県の通級指導教室を設置している小学校93校の通級指導教室担当教師125名を対象として、質問紙による調査研究を実施した。連携の実態における因子分析の結果、「担任との日常的な子どもの実態の共有」「担任から得た情報の活用と報告」「担任との目標設定と評価の共有」「指導開始時の担任への情報提供」の4因子が抽出された。自校通級、他校通級とも、通常の学級担任との連携方法においては、連絡帳を活用している群は複数の因子で、検討会やケース会を設定している群は4因子すべてにおいて、していない群との間に有意な差が認められた。
  • 永井 祐也, 武田 鉄郎
    2015 年 53 巻 3 号 p. 175-183
    発行日: 2015年
    公開日: 2019/02/05
    ジャーナル フリー
    本研究は、ムコ多糖症のある幼児児童生徒への教育に対する保護者の認識を明らかにすることを目的とした。日本ムコ多糖症親の会に所属する学齢期の子どもをもつ保護者57名を対象とし、質問紙調査を実施した。その結果、教科学習で約4割、体育で約7割の児童生徒に教育的支援が行われたと保護者は認識していた。その支援内容は、健康への配慮や学習保障が多い一方、自己管理能力の育成は皆無であった。教師や保護者は本人の健康に配慮する必要があるが、子ども自身が自己管理できるように発達段階等に応じた支援も求められる。また、年齢の上昇とともに症状が進行するため、特別支援学校に在籍する割合が徐々に増加しており、在籍する特別支援学校では医療的ケアが十分でないために学籍を移動する事例もあった。医療的ケアが必要になっても、在籍する特別支援学校で対応できるように、より一層医療的ケアの実施環境を整備することが求められる。
  • 田原 敬, 原島 恒夫, 小林 優子, 堅田 明義
    2015 年 53 巻 3 号 p. 185-194
    発行日: 2015年
    公開日: 2019/02/05
    ジャーナル フリー
    本研究では聴覚障害者20名を対象に、聴覚的に提示された環境音の音源を答える課題と、複数の音源が映った日常場面の画像(背景情報)からその状況に存在しうる音源を答える課題を実施し、両課題の成績の関係を明らかにすることで、聴覚障害者の環境音認知における背景情報の活用について検討した。その結果、環境音を聴覚的に識別する能力と、背景情報を手がかりとして環境音の音源を推測する能力に相関関係はみられなかった。また、聴覚的な識別能力の低い者において、背景情報を手がかりとして環境音を推測することが可能であっても、聴覚的に提示されると識別が困難である環境音が多いという特徴がみられた。これらの結果から、一部の聴覚障害者においては、環境音を推測してもその音の聴覚表象を連想し、入力された音響情報と照合することが難しく、環境音認知において背景情報を有効に活用できていない可能性が考えられた。
実践研究
  • 朝日 華子
    2015 年 53 巻 3 号 p. 195-203
    発行日: 2015年
    公開日: 2019/02/05
    ジャーナル フリー
    本研究では、対人関係や発達に課題があり、卒業後は就労を希望している定時制高校生4名に対して、問題解決は児童生徒、学校関係者との協働によって図られるというスクールソーシャルワークの視点から、全40回のグループワークを行い、生徒間の相互作用を通じてキャリア発達を促し、具体的な就労体験を行うことで、社会的、職業的自立を目指すための支援を検討した。当初は、参加者間の関わりは少なく受身の態度であったが、ワークを重ねるにつれ、自己理解・相互理解が深まり、ワークに対する具体的な希望や、就労体験に対する積極的な参加がみられた。また、参加者の1人は潜在化していた課題が表面化し、障害者就労を検討する機会を得た。参加者のニーズに合わせた就労体験先の探索と連携により、参加者間、学校、地域の共感に基づいたネットワーク化が図られた。
  • 古山 千佳子, 落合 俊郎
    2015 年 53 巻 3 号 p. 205-213
    発行日: 2015年
    公開日: 2019/02/05
    ジャーナル フリー
    特別支援教育への作業療法士(以下、OT)の関わりが増加する中、学校でのOTの役割や成果を明確にする必要がある。このたび、特別支援学校中学部2年、ダウン症で中度の知的障害を有する生徒を対象に、教員とOTが、COPMとスクールAMPSという評価尺度を用いて生徒の学校課題(色を塗る、はさみで切る、貼るなど)を評価し、共通の目標と取り組みを話し合い、実行した。その結果、生徒の課題遂行力が向上し、目標に到達することができた。以上の結果は、2つの評価を用いて生徒の課題遂行の問題を明確にしたこと、環境を調整し適切な教材で繰り返し練習したこと、教員とOTが共通の目標と取り組みを実行したことによると推察された。また、特別支援教育におけるOTの役割は、教員と協働して生徒の問題に取り組むことだと考えられた。しかし、その一方で、OTがよりシステマティックに介入できる体制づくりの必要性も示唆された。
feedback
Top