特殊教育学研究
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56 巻, 2 号
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原著
  • 彌永 さとみ, 大山 帆子, 成田 まい, 銘苅 実土, 中 知華穂
    原稿種別: 原著
    2018 年 56 巻 2 号 p. 65-76
    発行日: 2018/07/31
    公開日: 2019/12/04
    ジャーナル フリー

    小学3~6年生(1,763人)を対象に、ローマ字表記の低成績の背景要因について検討した。 CHAID分析から、3~6年生の漢字読みテストの低成績者を、5~10パーセンタイル得点以下の児童とした。漢字読みテストが低成績で、ローマ字清音表記と特殊表記が未達成を示す児童は、3、4年生で有意に少なく、5、6年生で有意に多かった。これらの児童の背景要因として、3~5年生ではひらがな単語検索テスト、順唱記憶テストの低成績が関与した。漢字読みテストが非低成績で、ローマ字特殊表記が未達成を示す児童は、3、4年生で有意に多く、5、6年生で有意に少なかった。これらの児童の背景要因は、5年生ではひらがな単語検索テストと順唱記憶テスト、6年生では順唱記憶テストと昇順記憶テストであった。これより、漢字の低成績の有無にかかわらず、ローマ字表記の学習支援では、文字と音の変換や視覚性語彙の形成に対する支援とともに、言語性ワーキングメモリに対する支援の有効性を指摘できた。

資料
  • 村山 拓
    原稿種別: 資料
    2018 年 56 巻 2 号 p. 77-86
    発行日: 2018/07/31
    公開日: 2019/12/04
    ジャーナル フリー

    本稿では、1970 年代後半のシカゴ市公立学校において、読み(reading)の指導に完全習得学習(mastery learning、以下ML とする)を導入した経緯と展開を探ることとする。ML を通した読みの指導の全体像を探るだけでなく、読みの水準が生活年齢による学年より2学年以上遅れた子どもに対する治療(remediation)や治療教育(remedial activities)に注目して、読みに大きな教育的ニーズをもつ子どもに対する指導の特徴とその制約などについて考察することを課題とする。シカゴ市公立学校ではMLの導入について2つの特徴をもっていた。第一に、読みの指導領域を中心にMLを導入したこと、第二に、学校区全域で導入したことである。読みのスキルが著しく低い子どもを通常学級の中で援助する萌芽をもっていたものの、高校進学に関する政策による大量の補習者や、高校進学者の読みのスキルの低さなどが批判の対象ともなった。

  • 鍬原 直美, 別府 哲
    原稿種別: 資料
    2018 年 56 巻 2 号 p. 87-94
    発行日: 2018/07/31
    公開日: 2019/12/04
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は、幼児期・学童期にある慢性疾患児の自己理解の特徴を、健常児との比較から見いだすことである。そのために、慢性疾患をもたない小学1年生・3年生・5年生の合計112名の学童と6歳~小学6年生の15名の慢性疾患児を対象に、佐久間・遠藤・無藤(2000)の自己理解モデルを用いた質問紙調査を実施した。その結果、健常児においては年齢が上がるにしたがって自己を外見的特徴からではなく内面的特徴から描出するようになること、高学年になると否定的側面から自己を捉えるようになることが明らかとなり、先行研究と同様の発達的変化が示された。しかし、本研究で対象となった慢性疾患児の高学年では、身体・行動面での自己描出が健常児に比べ多くみられ、また、慢性疾患児の低学年では、自己を肯定的に捉える傾向が健常児よりもさらに強いことが示された。このように、慢性疾患児の自己理解の発達的変化は必ずしも健常児と同じではないことが示唆された。

展望
  • 小山 正
    原稿種別: 展望
    2018 年 56 巻 2 号 p. 95-104
    発行日: 2018/07/31
    公開日: 2019/12/04
    ジャーナル フリー

    ダイナミック・システムズ・アプローチが注目され、20数年が経ち、言語発達支援を考えるうえにおいて示唆に富む報告がなされてきた。しかし、言語の獲得が遅れている事例へのダイナミック・システムズ・アプローチからの研究は少ないのが現状である。本稿では、初期言語学習期にある事例への言語発達支援を考えるうえで、近年の初期言語発達に関するダイナミック・システムズ・アプローチからの諸研究を展望し、言語発達障害の事例への支援におけるその意義や有効性を考察した。縦断資料をもとに、構成要素の軌跡と、それらの相乗作用、そこにみられるアトラクター状態、安定性や不安定性、その移行の検討は重要で、特に言語発達障害がある事例へのアセスメントや言語発達支援において有効であると考えられた。今後は神経構成主義の立場から、行動レベルでの細かな縦断観察をもとに、どのような構成要素に注目していくかを示すことが課題となることを指摘した。

実践研究
  • 西村 健一
    原稿種別: 実践研究
    2018 年 56 巻 2 号 p. 105-112
    発行日: 2018/07/31
    公開日: 2019/12/04
    ジャーナル フリー

    特別支援教育における3Dプリンターの実践研究は、視覚障害教育において先行研究されてきたものの、既存の3Dデータを複製した取り組みが多い。そこで、肢体不自由特別支援学校において、個々の実態や障害に応じた教材や支援具を3Dプリンターにより開発し、その効果を検討した。校内で募集した教材や支援具のアイディアの中から、「定規」「ビーズ」「引っ張り補助具」を製作し、教科学習および自立活動において活用した。その結果、全事例において児童が意欲的に学習活動に参加するようになり、所要時間の短縮や活動の安定が確認された。また、教材や支援具を使いこなすためには、練習による熟達が必要であることも明らかとなった。3Dプリンターによるオリジナルの教材や支援具の開発は、肢体不自由のある児童に具体的な操作を伴う学習経験を保障することにつながる。以上のことから、3Dプリンターによる教材や支援具の有効性が明らかとなった。

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