特殊教育学研究
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57 巻, 3 号
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原著
  • 岡村 章司, 井澤 信三, 宇野 宏幸
    原稿種別: 原著
    2019 年 57 巻 3 号 p. 149-158
    発行日: 2019/10/31
    公開日: 2020/11/10
    ジャーナル フリー

    本研究では、自閉スペクトラム症(以下、ASD)児の行動問題と知的障害の有無、次に、行動問題と保護者のストレス対処力(Sense of Coherence; SOC)をもとにした、保護者のニーズの違いを検討した。419名に質問紙を配布し、小・中学生のASD児をもつ保護者104名を対象とした。その結果、行動問題高群の保護者はすべてのニーズが高かった。特に、知的障害のない行動問題高群の保護者は、「他者への説明方法に関するニーズ」が高く、「家族関係に関するニーズ」と相関があった。このことから、保護者自身や家族に関する支援、および関係者への子どもの状態に関する説明を可能にする支援が重要であると示唆された。 さらに、SOCの把握可能感が低い行動問題高群の保護者は、「情報に関するニーズ」と「他者への説明方法に関するニーズ」が高かった。このことから、行動問題の知識や技術を提供しながら理解を高め、保護者のストレスに配慮しながら日々の状況の観察、記録を促す支援が必要とされると考えられた。

資料
  • 宮谷 祐史, 井坂 行男
    原稿種別: 資料
    2019 年 57 巻 3 号 p. 159-166
    発行日: 2019/10/31
    公開日: 2020/11/10
    ジャーナル フリー

    本研究では成人聴覚障害者を対して、音読、黙読および手話併用音読(日本語対応手話を併用した音読)が文章理解に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。予備実験では35名を対象に、日本語対応手話を用いた課題試行時の作動記憶への負担を、リーディングスパンテストを用いて検討した。その結果、日本語対応手話を用いた読み方は、音読と比較して作動記憶の負荷になるとはいえなかった。本実験では40名を対象に、手話併用音読、音読と黙読で文章検証課題成績を分析した。その結果、熟達した読み手であれば、聴覚障害を有していても音読と黙読の理解度の差は少ないことが示唆された。また、手話併用音読を用いることで、テキストレベルだけでなく状況レベルの読解水準においても課題成績の高さが認められた。手話と日本語の両方に熟達した聴覚障害者は手話併用音読を用いることで、単語や文の記銘保持および文章の視覚的イメージの生成が促進される可能性が考察された。

実践研究
  • 今中 博章
    原稿種別: 実践研究
    2019 年 57 巻 3 号 p. 167-178
    発行日: 2019/10/31
    公開日: 2020/11/10
    ジャーナル フリー

    平仮名拗音表記の読み書き習得指導の効果が検討された。対象は拗音表記の読みに困難を示す小学2年生1名であった。まず、拗音表記の混成規則の理解促進と、拗音表記と音価とを意味および写真・絵で媒介する指導が行われた。音読テストで自己修正正答が出現するようになったが、一方で誤読も多数あった。このことは、本児が混成規則をある程度利用したことを示唆した。次に拗音を2文字で書く聴写指導が導入された。本児は拗音表記の1つめの文字の書字完了から2つめの文字の書字開始までの間に拗音の発声を繰り返した。聴写は本児に自己の解読をモニタリングする機会を提供し、その後自己モニタリングしながら拗音表記を読むことを通じて、読みの習得がなされていったと考えられた。このモニタリングの過程で音素への感受性が高まるとともに、この感受性のもとで混成規則が利用され、習得がより一層促された可能性が示唆された。

  • 河村 優詞
    原稿種別: 実践研究
    2019 年 57 巻 3 号 p. 179-187
    発行日: 2019/10/31
    公開日: 2020/11/10
    ジャーナル フリー

    研究の目的:日記の中で漢字の割合を増加させることを目的とした。研究計画:BL 期→介入Ⅰ期→プローブ期→介入Ⅱ期をおおむね5試行で交代した。場面:小学校の教室で実施した。参加児:特別支援学級に在籍する児童5名であった。独立変数:BL期とプローブ期では従前の授業通り100文字程度の日記を書かせた。介入Ⅰ期では漢字の数を1つ10点で採点した。介入Ⅱ期では漢字の数を1つ10点で採点し、質問せずに書いた漢字にはさらに1点を追加して与えた。従属変数:全字数中の漢字の割合を算出した。また、参加児が質問した漢字と質問回数を記録した。結果:介入Ⅰ期では用いられる漢字の割合が増加した。また、教師への漢字の質問が増加する参加児がいた。介入Ⅱでは質問が減少する参加児がいた。結論:得点化により日記中の漢字使用が促された。質問スキルなどの行動を増加させる機会にもなりうると考えられた。

研究時評
  • 岡本 邦広
    原稿種別: 研究時評
    2019 年 57 巻 3 号 p. 189-200
    発行日: 2019/10/31
    公開日: 2020/11/10
    ジャーナル フリー

    本研究では1990年以降の障害児の授業研究49編を概観し、指導目標の妥当性、指導内容・方法の妥当性、知識等の活用状況、単元指導計画の評価の4点を検討し、研究の到達点と今後の課題を示した。結果、特別支援学校の割合が高く(69%)、目的別では指導効果(35%)、授業改善(22%)が多い傾向が示された。また、指導内容・方法の妥当性を検討した研究が65%にみられた。一方、通常学級在籍の障害児の授業研究、指導目標の妥当性を検討した研究、知識等の活用を対象授業外で検討した研究、単元指導計画を評価した研究の割合は、いずれも低い傾向が示された。今後の課題として、通常学級在籍の障害児の授業研究および教育的ニーズをもとにした研究の蓄積、振り返り票および授業研究会による指導目標の妥当性、単元指導計画に基づく指導目標の妥当性、指導目標に関連する複数授業の効果、対象授業後における関連単元の指導効果を検討する研究が必要であることが示唆された。

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