特殊教育学研究
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58 巻, 4 号
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原著
  • 高木 潤野
    原稿種別: 原著
    2021 年 58 巻 4 号 p. 207-217
    発行日: 2021/02/28
    公開日: 2021/08/31
    ジャーナル フリー

    本研究は、十分な研究が行われていない青年期・成人期の場面緘黙当事者を対象に治療的介入を行い、緘黙症状を改善させることができるか否かを明らかにすることを目的とした。 対象は10代~30代の場面緘黙当事者10名(女性7名、男性3名)であった。プログラムは不安階層表を用いた段階的なエクスポージャーと心理教育により構成した。エクスポージャーは個々に設定した目標に基づき、対象者の日常生活場面で実施した。エクスポージャーを行う行動は人、場所、活動を組み合わせて検討し、不安階層表を用いて実施可能な行動を決定した。6回のセッションを約1か月間隔で実施した。その結果、緘黙症状を示す質問紙の合計得点は10名中9名で上昇が認められた。また10名全員に何らかの症状の改善がみられ、 2名については緘黙症状が解消した。以上のことから、青年期・成人期であっても治療的介入により緘黙症状を改善させることができる可能性が示された。

資料
  • 岡村 章司
    原稿種別: 資料
    2021 年 58 巻 4 号 p. 219-233
    発行日: 2021/02/28
    公開日: 2021/08/31
    ジャーナル フリー

    本研究は、通常の学級担任が保護者とともに行動問題を示す自閉スペクトラム症児への介入を行うプロセスと、それにかかわる要因を明らかにすることを目的とした。修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)を研究方法として用い、通常の学級担任10名に対して半構造化面接を実施し、それらのデータを分析した。その結果、通常の学級担任は、自閉スペクトラム症児や学級全体への介入をしながら、保護者の実態に応じたコミュニケーションを図って関係づくりを行い、参画を促すなどの保護者への支援を行っていくことで互いの取り組みの成果を共有していた。これらのプロセスを促進する要因として、校内支援体制と教師としての役割認識が見いだされた。しかしながら、家庭での行動問題に関する問題解決に至った事例はみられなかった。以上の結果から、通常の学級担任に対する、保護者との協働を促すために必要な支援や研修のあり方について考察した。

  • 宮野 雄太, 八重田 淳
    原稿種別: 資料
    2021 年 58 巻 4 号 p. 235-244
    発行日: 2021/02/28
    公開日: 2021/08/31
    ジャーナル フリー

    特別支援学校(知的障害)では、1つの学級を複数の教員で担任する複数担任制がとられていることが多い。本研究は、複数担任制のもとでの担任集団のチームワークを測定する尺度を開発するとともに、チームワークの構成概念の検討を目的とした。教員を対象に、郵送調査法による質問紙調査を行った。646名のデータを分析対象として、探索的カテゴリカル因子分析を実施した。その結果、「チーム指導促進因子」「チーム運営因子」「チーム学習因子」の3因子が抽出された。それぞれの下位尺度得点の信頼性係数を算出すると、α=.93、α=.90、α=.73 であった。先行研究との比較により、特別支援学校(知的障害)の教員のチームワークの構成概念は、場面よりもその目的に応じて構成されていることが示唆された。

  • 加藤 美朗, 嶋﨑 まゆみ, 蓑﨑 浩史
    原稿種別: 資料
    2021 年 58 巻 4 号 p. 245-255
    発行日: 2021/02/28
    公開日: 2021/08/31
    ジャーナル フリー

    本研究は、わが国の視覚障害と聴覚障害単独校を除く特別支援学校に在籍する、知的障害との関連性の高い遺伝性疾患のある児童生徒の在籍状況を明らかにすることを目的として行った。結果は412校から回答が得られ、総児童生徒数53,688名のうちの13.3%が知的障害との関連性の高い遺伝性疾患の診断を併せもち、知的障害校ではその割合は14.3%であった。疾患別人数ではダウン症候群が最も多く、次いでアンジェルマン症候群、プラダー・ウィリー症候群、ウィリアムズ症候群の順であった。今後は、本研究の結果を参考に遺伝性疾患の教育的支援に関するより効果的な情報提供に努めるとともに、これらの症候群の行動特性に関する教員の知識やニーズについて明らかにしていく必要がある。

  • 荻野 昌秀
    原稿種別: 資料
    2021 年 58 巻 4 号 p. 257-267
    発行日: 2021/02/28
    公開日: 2021/08/31
    ジャーナル フリー

    発達支援のニーズのある児の早期発見、早期支援のために各自治体で5歳児健診が行われているが、5歳児で発達障害やその疑いが確認された場合には就学までに支援を受けられる期間が短い。そこで本研究では、保育所における4歳児時点での早期発見の仕組みに活用できる保育士記入式の発達チェックリストの開発を行った。因子分析の結果、4因子15項目が抽出され、再検査信頼性の検討や、関連が想定される尺度との相関分析などから、妥当性および信頼性が確認された。また、本尺度は他の同様の尺度と比較して短時間で回答できることが確認された。さらに、因子ごとのカットオフポイントについては感度と特異度の優れたものを設定した。今後はこのチェックリストの活用や、専門家巡回と組み合わせた際の効果の検証が望まれる。

実践研究
  • 山本 多佳実, 井澤 信三
    原稿種別: 実践研究
    2021 年 58 巻 4 号 p. 269-282
    発行日: 2021/02/28
    公開日: 2021/08/31
    ジャーナル フリー

    本研究は、自閉スペクトラム症のある青年3名に対して「悪質商法の勧誘を断る行動」の指導を行い、①悪質商法の勧誘を断る行動の獲得、②直接指導をしていない悪質商法への般化、③悪質商法と悪質商法ではないものの適切な弁別、の3つを検討することを目的とした。指導は①ルールの提示、②シミュレーション訓練、③トレーナーからのフィードバックの順に行った。ルールの提示には、悪質商法の勧誘の断り方が収められたビデオとルールシートを用いた。シミュレーション訓練は、外出条件と在宅条件の訓練を行った。各条件には悪質商法課題と非悪質商法課題を用意し、訓練を行った。訓練後にトレーナーからフィードバックが行われた。結果は3名全員が指導した行動を獲得し、悪質商法と非悪質商法課題の弁別ができた。3名中2名は対人般化、1名は条件般化にも成功し、1名に関しては実際場面での般化のエピソードも確認された。

  • 髙津 梓, 奥田 健次, 田上 幸太, 田中 翔大, 生田 茂
    原稿種別: 実践研究
    2021 年 58 巻 4 号 p. 283-292
    発行日: 2021/02/28
    公開日: 2021/08/31
    ジャーナル フリー

    本研究では、知的障害特別支援学校において音声による言語表出に困難がある知的障害児に対し、AACツールを導入し、対象児のコミュニケーション行動の変化、および、導入したツールの次年度以降への継続について検討した。サインや具体物での要求や他者への不適切な関わりがある対象児へ、日常的に活用しやすい語彙を選定し、音声ペン、シンボルカード、小型タブレットの3種のAACツールを段階的に導入した。他者への呼名および要求・報告に加え、相手を指定した関わりについての頻度に増加がみられたことから、対象児が他者と関わり自らの意思を表明する方法のひとつとしてAACツールの効果が示唆された。また、導入したツールの活用について、合理的配慮として個別の教育支援計画に記し、個別の指導計画とカスタマイズされた機器を通した引き継ぎを行った結果、2年後の継続した使用につながり、家庭での活用へと広がった。

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