デュシェンヌ型筋ジストロフィー(Duchenne muscular dystrophy; DMD)の生命予後の改善と機能予後への期待に伴い、学校卒業後を含む長期的予後を見据えた学校教育のあり方に関する検討が求められている。本研究では、DMD児の長期的予後を見据えた教育課題について検討するために、DMD成人に対して包括的かつ多次元的なQOL尺度(WHOQOL26)を適用し、主観的QOL の傾向を分析した。その結果、DMD成人のQOL平均値は一般人口と同等であること、疾患の進行に伴う医療介護度の増大は身体的領域のQOLを低下させる一方で他の領域のQOLは維持される可能性があること、全体的なQOLに寄与する領域は唯一心理的領域であることが示唆された。検討結果より、DMD児の長期的予後を見据えた教育課題として、個に応じた環境の模索と構築および肯定的な自己概念の育成の重要性を指摘した。
本研究の目的は、通常の学級に在籍する小学1年生に対して特殊音節の習得と読みの流暢性に関する多層指導モデルMIMを用いた指導を行い、各ステージ指導が読みの流暢性の異なる児童にどのように有効であるのか、また各ステージ指導を明確に実施したほうが各ステージ指導を混在して実施するよりも有効であるか検討することであった。対象は公立小学校4校10学級計284名の通常の学級に在籍する小学1年生とした。4月から1stステージ指導を行い、2ndステージ指導は9月から12月、3rdステージ指導は12月から翌年2月まで行った。結果、各ステージ指導を各時期に明確に行うことで、読みの流暢性の異なる児童に対して有効であることが示された。これより、各ステージ指導を実施するたびに、特殊音節のルールを確認することで児童における特殊音節の理解を促し、かつ読みの流暢性を改善する一助になったと考えられる。
特別の支援を必要とする児童が在籍する小学校1年の通常の学級に対して、朝の用意と給食の準備の改善を目指して集団随伴性(GC)を用いた介入を行った。その結果から、非依存型よりも相互依存型のほうがより効果があるか、GCが好みのタイプの場合とそうでない場合では児童の標的行動の達成率に差異がみられるか、GCを適用して促進された児童の行動が介入終了2か月後も維持されるかを検討することを目的とした。その結果、非依存型と相互依存型では見かけ上は効果に差異がみられなかったが、非依存型の持ち越し効果が相互依存型の結果に影響を及ぼした可能性が考えられた。非依存型を好む児童は朝の用意において非依存型を適用した際に標的行動の達成率が上昇したが、相互依存型を好む児童には両者間に差異がみられなかった。さらに促進された児童の行動が介入終了2か月後も維持されていた。GCを適用した実践を行う上での課題などについて検討がなされた。
本研究の目的は、ビデオプロンプト(標的行動を促す本人視点で撮影された映像)を用いて、社会的スキル「大丈夫?」の獲得に加え、指導していない場面や日常生活への般化が生じるか否かを明らかにすることであった。他者を気遣う社会的スキル「大丈夫?」の生起がみられなかった2名の中度知的障害を伴う自閉スペクトラム症(ASD)児を対象に、他者が足をぶつけて痛がる場面に対して標的行動を促すビデオプロンプトを実施した。併せて、他者がお腹を痛がる、他者が物を落として驚くなどの計4つの未指導場面および家庭場面への般化を測定した。指導の結果、2名とも標的行動が獲得され、未指導場面および家庭場面における般化が生じた。これらの結果から、ビデオプロンプトを用いた指導を行うことで、社会スキルの獲得や日常生活への般化が促される可能性があることが示された。最後に行動の獲得や般化への効果について考察した。
本研究は、英語学習に特異的な困難を示す中高生2名(生徒A、生徒B)を対象とし、認知特性に応じ、かつ英語の言語体系を考慮した英語学習法の指導効果について検討した。両名とも全般的知的機能は平均の下から平均の領域であったが、細部の視覚分析やプランニング能力が認知的な弱さとして考えられた。一方、認知的な強さとしては、ワーキングメモリーや言語概念、言語表現といった能力が考えられた。英語学習は英単語の読みと意味を習得するための英単語指導を行った。指導は刺激等価性を基盤とした見本合わせ法を実施し、音韻的側面を習得するためのフラッシュカード課題や、意味的側面を習得するためのマッチング課題などを行った。結果から、指導開始前のプレテストに比して指導終了後のポストテストにて大幅な成績の向上が認められた。ここから、認知特性に応じ、かつ言語体系の違いに考慮した指導法の指導効果が示唆された。
肢体不自由特別支援学校での特設自立活動の実践から、肢体不自由と視覚障害を合わせ有する重症心身障害児に対して5年間にわたって寝返り運動の指導を行い、その指導記録をもとに対象児の寝返り運動の変化と指導内容について分析を行った。指導開始時には対象児は反り返りの緊張を利用した寝返り運動を行っていたが、指導の結果として腹斜筋の随意的制御を行った寝返り運動へと変化することができた。自力で姿勢を変えることができない重症児が寝返り運動を獲得した過程では、介助者からの介助を受けて自己の筋運動感覚を感じとり、さらに、介助を受けて感じとった筋運動感覚を再現するという過程があった。この過程を4つのフェイズに分け、各フェイズにおける対象児の寝返り運動の状態とそのときの指導(介助)内容の要点を示した。重症児が新たな運動を学ぶ運動学習では介助者の身体介助の方法が学習を進めるキーであることが示唆された。